A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

倉地久美夫/マヘル・シャラル・ハシュ・バズ@東京キネマ倶楽部 2013.10.4(fri)

2013年10月06日 00時16分26秒 | 素晴らしき変態音楽


遠藤賢司


開演まで間があったので時間つぶしに立ち寄ったCDショップで偶然にエンケンのインストアイベントに遭遇。初期ライヴ集『遠藤賢司実況録音大全第一巻 / 完売記念 濃縮盤』の発売記念でトークに続いて2曲演奏。アコギ一本でバンドを蹴散らす強烈な演奏を聴かせた。三上寛、友川カズキと同じ一生現役フォーキーの真骨頂に痺れた。大森靖子との共演キボンヌ。






サウンド・ライブ・トーキョー
倉地久美夫+マヘル・シャラル・ハシュ・バズ




曲ごとにギターのチューニングをカスタマイズし特異な世界観を込める異能のシンガーソングライター・倉地久美夫、「弾き間違い」をも豊かで複雑な集団演奏に昇華する不定形にして神出鬼没のマヘル・シャラル・ハシュ・バズによる一夜限りのコンサート。
ゲスト出演:triola(波多野敦子vn、手島絵里子vla)+ 千葉広樹cb。

倉地久美夫


最近誰かに倉地久美夫をススメられた覚えがある。その時は角谷美知夫(腐っていくテレパシーズ)や渡邉浩一郎(まとめてアバヨを云わせてもらうぜ)のような夭折したアングラ音楽家だと思い込んだ。先日の「東京都初耳区」を企画したサウンド・ライヴ・トーキョーのチラシで倉地の名前を見て、存命どころかバリ現役のシンガーソングライターだと知った次第。福岡出身の倉地は、80年代半ば東京地下シーンや忘却のDDレコードや第五列で活動し、90年代には京浜兄弟社やOZディスク、高円寺円盤と連動した。菊池成孔・外山明とトリオも組んだというが、何故か今まで私の領海には侵犯しなかった。

初めて観る演奏は一見極めて正統派という印象。ギターのチューニングを曲ごとに変えるのは不可解だが、朗々とした真っ直ぐなヴォーカルや、細かい装飾音を交えたギタープレイに躊躇いは無い。歌い方はヒカシューの巻上公一とくじらの杉林恭雄の系譜に繋がる。しかし、波多野敦子vn、手島絵里子vla、千葉広樹cbの弦楽三重奏を加えた中盤から倉地の特異さが発揮される。エレガントなストリングスに包まれて場違いな程明朗で堂々とした歌声がくっきりと「浮いて」いるのである。近づいてステージ脇から観ると、遠目に楽々と歌っているように見えたのが、実は裸足の足を絶え間なく上下して全身でパフォーマンスしていることが判る。その迫力には鬼気迫るものがある。普段歌っている小規模のライヴハスだと倉地の身体から発するオーラがひしひしと空間を侵犯し、聴き手を圧倒するに違いない。特に小田和正の「ラブ・ストーリーは突然に」のカヴァーに篭められた空前絶無の情念に、80年代アングラ精神が脈々と息づいていることを実感した。




●マヘル・シャラル・ハシュ・バズ


倉地は80年代半ばに上京したばかりの頃、参加した即興イベントで工藤冬里にドヤされてトラウマになったという。工藤が80年代末に近所の若者を集めて結成したマヘル・シャラル・ハシュ・バズは、四半世紀の活動歴にも関わらず、まったく定義しようがない不思議なユニットである。よく言われる「究極のアマチュアリズム」「間違いから始まった音楽」という形容詞は当たらずとも遠からずという程度で、誰もマヘルとは何かを説明できないに違いない。そもそも工藤冬里自体が70年代半ばから地下音楽の中心で活動を続ける割に、今もって謎だらけの存在であり、本人も理解されたいと思っていない様子。たまに雑誌に掲載される工藤のインタビューは悪ふざけとはぐらかしと肩透かしの重ね塗りで、インタビュアーも解明する努力を放棄せざるを得ない。

90年代末から00年代半ばにかけて「歌もの」のオリジネーターとして国内外で高い評価を得たが、それもどこ吹く風で不確定スタイルで飄々と流転する。3.11大震災後は言葉への執心を全面に打ち出し、津波のような言葉の奔流がトレードマークになった。一方で工藤はマヘルを「劇団としての音楽」と位置づけ、気分次第でパフォーマンスを予想不可能なカオスに陥れる。実際に演奏が始まるまで誰にも何が起るか判らない。その不確定さが工藤とマヘルの魅力だと、ライヴに通い続けるファンも少なくない。

この日の演奏は、スクリーンに投射した詩を工藤が読み上げ、倉地を含む総勢12人のメンバーが即興演奏を繰り広げる、というスタイル。自由連想法や自由筆記に近いが、心理学のように隠された心の内面を暴き出す訳ではなく、ひとつの学問・学術・講義・教典には収まらない。書かれた文字をひたすら読み上げ、勝手に楽器を鳴らすだけの単純作業。唯一メロディのある「休日出勤」とスチャダラパーの「今夜はブギーバック」のカヴァーを除けば、どの場面も金太郎飴のように等価だった。砂を噛むような特異な空間が増幅中。笑みのひとつも浮かべずステージを凝視する400人の観客も異形である。マヘルとは異常発生病原体の感染源なのかもしれない。



★マヘル・シャラル・ハシュ・バズに関する証言:その1その2その3

不定形
隣は何を
定形外

発想を変えるしか無いね。
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