JOJO広重「ノイズ大学」Vol.7(ゲスト:コサカイフミオ)
ノイズバンド非常階段のリーダー、JOJO広重が「ノイズ」という音楽表現についてゲストとのトークや実演を通して詳らかにし、その魅力を紹介するシリーズ講義「ノイズ大学 /渋谷分校」(本校は大阪なんばベアーズ!)。今回は非常階段のメンバーであり、インキャパシタンツのメンバーでもあるコサカイフミオさんが遂に登場。このレアなトーク&演奏にどうぞご期待ください!(UPLINK FACTORY HPより)
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前回の坂田明さんに続く「ノイズ大学 渋谷分校」のゲストは「非常階段で一番謎の多い男」(by 広重さん)コサカイフミオ氏(非常階段/インキャパシタンツ/宇宙エンジン)。知る限りではコサカイ氏は1980年代から後タコに参加、1989年にはASTRO=長谷川洋氏が結成したノイズ・バンドC.C.C.C.に参加し、日野繭子さん、長久保隆氏と共に活動。C.C.C.C.は非常階段やメルツバウやNORDが切り開いた日本のノイズを"ジャパノイズ"として世界に知らしめた重要バンドだった。同時期にT.美川さんのソロ・プロジェクト、インキャパシタンツに参加、そのまま非常階段のメンバーになる。「ノイズ界の格闘技王」の異名通りに巨体で激しいアクションで演奏し最後は機材をひっくり返し客席へダイブする、というのが非常階段/インキャパシタンツでのパブリック・イメージだろう。
以前も書いたと思うが、私が吉祥寺ぎゃてい中心に活動していたOTHER ROOMというユニットで一度だけコサカイ氏と共演したことがある。もちろんコサカイ氏は覚えていないと思うが、相方の高島君が知り合い一緒にやることになったと記憶する。コチラはギターとサックス、コサカイ氏は主にベースを弾いたが、ツボを突くような的確な演奏に「この人は本物だ」と舌を巻いた覚えがある。その演奏を録音していなかったが悔やまれる。
コサカイ氏は小堺雄三の名(恐らく本名)でミュージックマガジンにパンク、オルタナティヴからプログレ、ハードロックまで幅広い知識を活かした記事を書いていた。印象に残っているのは"ノイズ・アーティストが聴くJ-Rock"として書いたミシェルガン・エレファントの記事である。ノイズやアヴァンギャルドを愛聴しつつミッシェルガンやハイロウズなどロケンローも好きだったので目から鱗の記事でとても嬉しかった。
Twitterでのツイートが面白く、たまにこのブログにもコメントをいただく。特に80年代アングラ音楽界への造形が深く、ぼんやりした記憶を頼りに書いた記事に補足追加を下さる。先日アースダムでのイベントで園田佐登志さんと80年代吉祥寺マイナー周辺の音源や映像を解説したのも面白かった。
コサカイ氏は高校の頃に吉祥寺マイナーに出入りしていた。門限があったために十時劇場は観れず、昼間のイベントを観ていたそうだ。初めて行った時にイベントが終わっても誰もドリンクの注文どころか入場料も取りにこないので店番をしていたオーナーの佐藤隆史さんの奥さんに「チケット代払いたいんですけど」と言ったら「えっ払うの?払いたければどうぞ」と言われ驚いたとのこと。その後山崎春美さんと知り合い、楽器が出来なくてもいいと言われタコに参加。それからライヴ活動を始めた。非常階段との接点は1981年6月慶應大学・日吉校舎でタコで対バンした時。そのライヴでは広重氏が消化器を巻き散らし観客は窒息寸前、PAはお釈迦になり、非常階段の次の出演だったスターリンはPAを使えず遠藤ミチロウ氏が拡声器で歌ったという。灰野さんが非常階段のメンバーに対して「コレが君たちの表現行為か!」激怒したのもこの日だった。コサカイ氏は会場から避難したそうだが、それに懲りず同年8月新宿ロフトの「Flight 7 Days」でも非常階段を観に行ったそうだ。彼らが極悪非道なパフォーマンスで悪名高かった頃に観ていた訳だ。コサカイ氏はタコ消滅後は荻窪グッドマンを中心に演奏していたそうだが、その頃に様々なミュージシャンを知り合い人脈を広げて行ったのだろう。その後、美川さんと知り合いインキャパシタンツとしてライヴ出演依頼が来たため誘われて一緒にやるようになったとのこと。
中学の時NHKラジオで黛敏郎の電子音楽を聴き「楽器が出来なくてもコレなら自分でも出来る」と思い親にねだって英会話用にLL テープレコーダー(今でいえば2チャンネルMTR)を買ってもらい多重録音で作品作りを始めたこと、金持ちの友人が買ったプログレやハードロックのレコードを聴いて音楽の幅を広げたこと、パンクに衝撃を受け人前で演奏したいと思ったこと、など音楽への関わり方が私と良く似ている。コサカイ氏の方が少し年上だと思うが境遇が似ていてとても親近感が沸く。
ただの音楽好きというよりジャケットや解説など音楽に関わるもの全般が好きだという広重とのトークだから色んなバンドやミュージシャンの逸話や動向が披露されるが、私がペンギン・カフェのことを書いた時に思い出し色々調べても正体どころか存在自体確認できなかった「ペンギンカメオーケストラ」にコサカイ氏が言及したので驚いた。陰猟腐厭の増田直行さんや元不失者の臼井さんなどがやっていた冗談バンドでライヴでは「もしもしカメよ」を延々と歌うだけだったという。長年の疑問が解けて個人的にはこの話がこの日のハイライトだった。
その後コサカイ氏の使用機材の紹介。機材を自作するのが好きだがステージで倒したり投げたりするのでしょっちゅう壊れてしまうので出来るだけ安上がりにしているとのこと。今メインで使っているギターのピックアップに缶を貼付けた楽器?が面白い。最近は自作しなくても安くて欲しい音が出る機材で売っているのでそれで充分だという。その拘りの無さが美川さんとの違いかもしれない。
[10/22追記:補足すると決して拘りが「無い」という訳ではなく、拘りの「ポイント」が美川さんと違うということです]
「ずっと訊きたいと思ってたんだけど、何で壊すの?」と広重さん。「どこかで(演奏に)ケリをつけないと思って」とコサカイ氏。丁度リリースされる「蔵六の奇病」30周年記念盤に触れて、「殺気が凄過ぎて普通じゃない」と言うと「何であんなことやってたのかねぇ。邪悪な妖気が漂っている」と広重さん。時代と若さのせいじゃないでしょうかね~。
その後二人のセッション。非常階段では自分の音がどれか判らなくなることもある、と言うがこの日はコサカイ氏のチープな機材から溢れ出す電子雑音に広重さんのノイズ・ギターが重なってお互いの音を確認しあっている様子が伝わって来た。この二人だけのセッションは史上初だろう。
[10/22追記:コサカイ氏直々のご指摘によると二人だけのセッションは4回目だが、今まではギターでの共演だったので、ギター+エレクトロのセッションは初めてとのこと]
音楽が
好きで溜まらぬ
この二人
10/23(火)コサカイ氏が六本木スーパーデラックスのRubber-O-Cement 来日公演のサポートでソロ演奏を行う。何でもハーシュノイズを封印したエレクトロアコースティック・パフォーマンスだというから興味深い。
もうひとつビッグ・ニュース。11/18(日)第1部がノイズ大学・四谷分校の四谷アウトブレイクでのイベント「自家発電」の第2部に人気アイドル・グループBiSの出演が決定!非常階段との合体ユニット"BiS階段"もやるという。最近もっぱらアイドルづいてる当ブログだが、広重さんも同じことを考えていたとは流石!変態音楽好きの皆様もアイドル・ライヴの凄まじさを是非体験していただきたい。
▼このアイドル、タダ者ではない!
>この二人だけのセッションは史上初だろう。
すんませんが、97年、メイソン・ジョーンズ来日時の前座で初めてデュオをやり、その後ギター十番勝負、先日リリースの「メイド・イン・スタジオ」でのセッション(特典CDRに入ってます)と、実は4回目です。でも、今まで3回がギターデュオだったので、今回の形でやるのは初めてですね。一番楽しめる演奏だった気がします。
直々のご指摘ありがとうございます!
いつも私の見識不足を正していただき感謝しております。
今後ともよろしくお願いします。