A Challenge To Fate

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【Disc Review】地の塩を舐め回す大地の舌のアンコンシャス音響〜『アース・タンズ/オハイオ』

2016年12月13日 00時15分26秒 | 素晴らしき変態音楽


『Earth Tongues / Ohio』

Neither/Nor Records N/N 006

ジョー・モフェットJoe Moffett (tp, cassette player )
ダン・ペック Dan Peck ( tuba, cassette player)
カルロ・コスタ Carlo Costa (perc)

A1 Ohio Pt. 1 40:55
B1 Ohio Pt. 2 52:45

Recorded by Nathaniel Morgan at 8550 Ohio, Chesterhill, OH on July 18, 2015.
Mixed by Nathaniel Morgan. Mastered by Jim Clouse.
All music by Earth Tongues.
Artwork by Brooke Herr.
Design by Carlo Costa.
Earth Tongues Official Site http://www.carlocostamusic.com/carlocostamusic/Earth_Tongues.html

胞子を耳殻から挿入し、菌糸を脳裏に張り巡らせるオブスキュア菌類の歌

エリック・サティが1920年に作曲し、家具のようにそこにあっても日常生活を妨げない音楽、意識的に聴かれることのない音楽を提示した『家具の音楽』に端を発する「アンビエント・ミュージック」の概念は実験音楽の世界では常套的な手法であったが、そんな「存在の希薄な」音響がエンターテインメントとして成立することを立証したのが、70年代半ばにブライアン・イーノが設立した「オブスキュア・レーベル」だった。ジョン・ケージ、ギャビン・ブライヤーズ、デヴィッド・トゥープ、ハロルド・バッド、サイモン・ジェフス(ペンギン・カフェ・オーケストラ)など、現代音楽畑の音楽家をポップ・フィールドに紹介するきっかけとなった全10枚のレコードは、シリーズ感のあるミニマルなジャケットに包まれて、既存の押しつけがましいポップミュージックに疲れた聴衆に、新たな癒しと娯楽のときを与えた。

もう一つのルーツは60年代に生まれた「ミニマル・ミュージック」であった。音の動きを最小限に抑え、パターン化された音型を反復する音楽は、アンディ・ウォーホールやリキテンシュタイン等ポップアートに同調するように登場し、現代音楽の大きな潮流となった。創始者のひとりのラ・モンテ・ヤングが主宰した「永遠音楽劇場(The Theater of Eternal Music)」に参加したジョン・ケイルとトニー・コンラッドは、後にそれぞれポップ・ミュージック(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)と実験映画(『フリッカー』)へと活動の場を移したが、一般的に知られるミニマル・ミュージック以上に変化の少ない「ドローン・ミュージック」を創造した。

「アンビエント・ミュージック」と「ドローン・ミュージック」の間に明確な違いがあるわけではないが、『環境』との同化を意図する前者と、単音で変化の無い長い音を指す後者の意識の違いは見逃せない。無意識状態を目指す音楽の「意識」を論じること自体矛盾しているが、一緒くたに「Ambient/Drone」と分類されがちな傾向に異を唱えることで、オブスキュア・ミュージックの歴史にほんの少しのさざ波を起こそうとする気持ちは、変化のない日常に混濁した時間感覚を刺激して、時代の改革を促す政治的な試みといえるだろう。

「タマテングノメシガイ属のこん棒のような形の菌類」であるEarth Tongue(地の舌)は、地の塩(Salt of the Earth)を舐める赤茶けた大地の口唇からニョキっと立ち上がる。総称してタマテングノメシガイ Geoglossum glabrumと呼ばれる彼奴らは、どう見ても食用に適したものとは思えないし、そのボヨンとした体躯に意志があったとしても、自分の存在理由に思いを馳せるほどの聡明さの欠片も見当たらない。尤も、辛い現世からやっとおさらばして生まれ変わってみたら、黒い陰気な唇状の菌として苔の間から顔を出して「俺は何のために生まれてきたのか?」と苦悩するしかない来世があると想像しただけで、逃れられない残酷な輪廻転生の罠からドロップアウトする方法を見つける為に生涯を捧げようという決意を固めるに違いない。



そんな悲しい背景を知ってか知らずかアース・タンズを名乗る3人の音楽家が奏でるのは、歓喜も苦悩も悲哀もすべて含有する大気もしくは大洋のような豊穣な物音ノイズの潮流であった。例えばブライアン・イーノの『Discreet Music(慎み深い音楽)』と、トニー・コンラッドの『Outside the Dream Syndicate(夢組織外)』のどちらに近いか、と問われれば『慎み深い夢の外の音楽組織』と答える。乃ち外からは自己主張が希薄に見えてもは、内側に入り込んだ途端に窒息しそうなほど濃厚な自我の絡み合いに仰天すること請け合いである。CD2枚組で各1トラック、つまり一度プレイボタンを押すたが最後、聴き通すことでしか完結しない音楽劇なのである。前後左右から聴こえる楽器の判別がつかない奇怪な音響に惑わされることなく、アンサンブル(そんな概念がこの文脈で意味があるかどうかは別として)の妙に酩酊しつつ無意識の旅路をしっかり意識して反芻するのが正しい聴き方であり、無意識の底から生れる奈落の獣の胎児と直接対峙せずに退治する対人的退陣策の裏ワザである。無意識を意識する体験したことない経験への敬虔な招待状がここにある。

Earth Tongues at the Carriage House, Baltimore


●演奏者について(公式プレスリリースより)
ダン・ペック Dan Peck ( tuba, cassette player)
ダン・ペックは現在ニュヨーク在住の実験音楽家/チューバ奏者。彼はピーター・エヴァンス Peter Evans、トニー・マラビー Malaby、アンソニー・ブラクストン Anthony Braxton、イングリッド・ラブロックIngrid Laubrok、ネイト・ウーリー Nate Wooleyなどのグループのメンバーとしてレギュラーで活動している。また現代音楽のICE (International Contemporary Ensemble)のメンバーであり、ドゥーム・ジャズ・トリオのザ・ゲイト The Gate (w/ bassist トム・ブランカート Tom Blancarte (b)、ブライアン・オズボーン Brian Osborne(ds)のリーダーであり、チューバのソロ演奏も行う。2012年にレコード・レーベルTubapedeを設立し、ソロ・デビューLPをリリースした。
danpeckmusic.com

ジョー・モフェット Joe Moffett (tp, cassette player )
ニューヨークのトランペット奏者/即興演奏家/作曲家のジョー・モフェットは、型にはまらないサウンドと形式、集団作曲、言葉と音楽の交差に強い興味を持った作品を作る。ブルックリンの即興音楽シーンの常連であり、アース・タンズや、2014年にUnderwolf Records からデビュー作『Crows and Motives 』をリリースしたカプラン/メレガ/モフェット・トリオKaplan/Merega/Moffett Trioなどいくつかのグループの設立者である。モフェットのテキストと音楽の探求は、ヴォーカリストのクリスティン・スリップ Kristin Slippとの実験歌曲デュオ、トゥインズ・オブ・エル・ドラド Twins of El Doradoの作品に現れている。デュオとしてはProm Night Recordsから2枚のアルバムをリリースしている。トランペット・ソロ・プロジェクトでニューヨークでの2015年 Festival of New Trumpet Music (Font)に参加した。
soundcloud.com/moffjazz

カルロ・コスタ Carlo Costa (perc)
パーカッション奏者で作曲家のカルロ・コスタは、イタリアのローマで育った。2005年からニューヨークに住み、主に実験即興音楽界で活動する。最近ではナチュラ・モルタ Natura Morta (ショーン・アリSean Ali (b)、フランツ・ロリオットFrantz Loriot(vln), カルロ・コスタ・カルテットthe Carlo Costa Quartet (ジョナサン・モーリッツJonathan Moritz(sax), trombonist スティーヴ・スウェルSteve Swell (tb)、 and bassist ショーン・アリSean Ali (b), アース・タンズEarth Tonguesといったグループのリーダー/コ・リーダーの他、ギタリストライアン・フェレイラ Ryan Ferreiraとのデュオ、エインシエント・エネミーズ Ancient Enemies (ナサニエル・モーガンNathaniel Morgan (sax)、 ジョアンナ・マッテリーJoanna Mattrey (vln)、 大編成アンサンブルの アクースティカAcusticaそしてパーカッション・ソロ。プロジェクトで活動する。2014年に実験/即興音楽専門のNeither/Nor Recordsを設立した。

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1 コメント

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オフィス家具買取リサイクルプロショップ (リサイクルプロショップ)
2016-12-17 21:09:37
新しい生き方を伝えるブログ。
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