筆者がジャズに興味を持ちジャズ雑誌を読むようになった80年代初頭、大型新人として売り出されていたのがアーサー・ブライスだった。毎号メジャーのCBSソニーが広告を打っていたと記憶する。ジャケットの雰囲気からフュージョンの一種だと思い聴かず嫌いしていたら、行きつけの吉祥寺のジャズ喫茶A&Fで『イリュージョン』のLPを聴いて、想像と全く異なるハードコアジャズに驚いた。ラフトレードのアルバムでニューウェイヴ界隈で人気を博したギタリスト、ジェームズ・ブラッド・ウルマーのギターも凄いが、何よりもチューバの導入に驚いた。ブラスバンドの最後列右端で不器用にルート音を繰り返すチューバが、ブラック・アーサーのブライトなサックスをドライヴさせる動力源として行進する。チューバにこれほどスピード感があるとは思わなかった。メジャー・デビュー前はNYロフトジャズの注目株だった事実にも親しみを覚え、お気に入りになり、ジャズ喫茶でリクエストすることも増えた。しかし90年代以降後徐々にニュースが減り「あの人は今」的な存在になった。ここ数年筆者自身のジャズ回帰に伴ってレコードを買い集め聴き直していたのだが、つい先日の3月27日カリフォルニア州ランカスターの自宅で死去したことが発表された。10年以上前からパーキンソン病を患い、4年ほど前から症状が悪化していたとのこと。享年76歳。第一線を退いていたので、大々的な追悼が成される様子はないが、筆者にとってはアイドルの一人。謹んで追悼の意を表したい。
●Arthur Blythe – The Grip (1977 India Navigation – IN-1029)
Arthur Blythe (as)
Abdul Wadud (cello)
Steve Reid (trap-ds)
Muhammad Abdullah (perc)
Ahmed Abdullah (tp)
Bob Stewart (tuba)
ブラック・アーサーの初リーダー作。ロフトジャズ系カタログの宝庫インディア・ナヴィゲーション・レーベルからのリリース。当時既に37歳の遅咲きの花だが、チューバ、ベースを含みトラップドラムとパーカッションで通常のドラムの居ないセクステット編成は異彩を放つ。ブラックパワーの復権の意味合いのあるロフト・ムーヴメントの中では思索性が最も高い部類に入る。室内楽を思わせるアンサンブル重視の演奏の中、自在に歌うアルトサックスはフリージャズと言うよりも仕掛けられた構造主義者の悪巧みの罠。
●Arthur Blythe – Illusions (1980 Columbia – JC 36583)
Arthur Blythe (as)
Abdul Wadud (cello)
Fred Hopkins (b)
Bobby Battle (ds)
Steve McCall (ds)
James Blood Ulmer (g)
John Hicks (p)
メジャー第3弾。洗練されたジャケットはフュージョンと間違えても仕方が無い。J.B.ウルマーのギター入りは半分だけだが、特にA1「ブッシュ・ベイビー」はウルマーの生涯ベストプレイのひとつに数えられる。ウルマーが不参加のB1「マイ・サン・ラ」のスピリチュアルな響きは昇天もの。本作、『Blythe Spirit』(82)、『Elaborations』(83)で最初の活動のピークを迎えた。
Arthur Blythe: Montreux 1981
結局1980年代前半の人気に匹敵する絶頂は訪れないままアーサーは逝ってしまったが、どの作品にも明るく大らかなサックスの黒い稲妻の蠢く気配と傷が刻み込まれている。
逝く先は
天国地獄
それ以外
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