A Challenge To Fate

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【入門ガイド】現代ニューヨーク・ハードコア・ジャズ・シーンを知る為の4枚のアルバム

2014年11月23日 04時39分50秒 | 素晴らしき変態音楽

Basement Free Jazz with Chris Pitsiokis, Ron Anderson and that Weasel guy 2013 / Photo by Justina Villanueva (used by permission)

以前紹介したように、ニューヨーク即興シーンの新星クリス・ピッツイオコスはNYダウンタウンのDowntwon Music Galleryというレコードショップで働いている。それは好都合と、現在のNYシーンを理解する為に適していると思うアルバムを送料込80ドル以内で選んで送ってくれと注文した。そして届いたのが以下の4枚のCDだった。音楽シーンを本当に理解したいなら現場に乗り込み自分自身で体験するしかないが、それが適わぬなら、シーンの担い手のアドバイスを求めるのが次善の策だろう。クリス・ピッツイオコスのセレクションを俯瞰することで、ニューヨークで今何が起っているのか、多少なりとも伝わるのではなかろうか。
【素性判明】NY HARDCORE JAZZ流星群の大彗星 "Chris Pitsiokos" クリス・ピッツイオコス
【DiscReview】Chris Pitsiokos, Weasel Walter, Ron Anderson/MAXIMALISM ★★★★☆

●"CRYPTOCRYSTALLINE" - CHARITY CHAN/PETER EVANS/TOM BLANCARTE/WEASEL WALTER (2013 ugEXPLODE ug64)


ピッツイオコスが2012年にデビュー作『Unplanned Obsolescence』をリリースしたレーベルugEXPLODEの作品が2作。どちらもドラムにレーベルオーナーのウィーゼル・ウォルターが参加している。本作は2013年1月カナダ・モントリオールでのライヴ録音。モントリオールをベースに活動する中国系女性ピアニストのチャリティ・チャンを中心に、エヴェン・パーカーのpsiレーベルから作品をリリースするNYのトランぺッター、ピーター・エヴァンス、ペーター・エヴァンス・カルテットのメンバーであり、ペーター・ブロッツマンやハン・ベニンク、ジョン・ブッチャーなどと共演するテキサス出身のベーシスト、トム・ブランカート、そして1972年イリノイ州生まれのウィーゼル・ウォルター(ds)による、丁々発止のインプロヴィゼーション。4人が真っ向から絡み合うスリルとパワーは「興奮性戦闘的即興」の鑑と呼べる硬派(ハードコア)作。



●SANDY EWEN/DAMON SMITH/WEASEL WATLER (2012 ugEXPLODE ug53)


1985年カナダのトロント生まれで、テキサス大学で建築学を修めた女性ギタリスト、サンディ・イーウェンと、1972年ワシントン州生まれのベーシスト、デーモン・スミス、そしてウォルターのドラムによる2011年コロンビア大学でのライヴ録音。たぶん同大学の学生だったクリス・ピッツイオコスも観ただろうと想像する。完全即興だが、ギターもベースも一切フレーズを弾かず、ひたすら物音ノイズに徹した演奏は、ジャズ的なインプロヴィゼーションとは一線を画す、ノイズや現代音楽に接近したスタイル。ウォルターのドラムも打撃音に特化した非リズム演奏だが、ハイハットやシンバルの音が識別可能な分、三者のうちでは最も保守的に聞こえる。ジャケット・アートはサンディの手になる奇怪なオイルペイティング作品。



●"SIFTER" - Mary Halvorson/Kirk Knuffke/Matt Wilson (2013 Relative Pitch Records RPR10) 


現代変態即興ギターを代表するメガネ女子、メアリー・ハルヴァーソンをフィーチャーし、1980年コロラド州デンヴァー生まれのコルネット奏者カーク・ナッフク、『ダウンビート誌』で年間最優秀ドラマー部門5年連続No.1受賞の実力派ドラマー、マット・ウィルソンによるトリオ「シフター」の2013年のデビュー作。即興パートは最小限にして、完全に作曲された楽曲を室内楽的なエレガントな演奏で聴かせる。ハルヴァーソンのピッチベンダー奏法が随所で聴かれるが、あくまで装飾に留まり、驚く程聴き易いプレイはまさに究極のハイクオリティーポップと呼べる。



●"Mise en Abime" - Steve Lehman Octet (2014 PI RECORDINGS PI54)


1978年ニューヨーク生まれ。「21世紀ジャズの変革者」(英ガーディアン誌)「眩惑的なサクソフォニスト」(ニューヨークタイムズ)と評されるアルトサックス奏者スティーヴ・レーマン率いる八重奏団よる2014年のアルバム。即興音楽家であると同時に作曲家としてオーケストラや室内楽作品を数多く発表するレーマンのジャズイディオムを駆使したスコアを、ニューヨーク屈指の実力派ミュージシャンが秀逸に演奏する。タイショーン・ソーレイはNYジャズ界を代表するドラマーであり、ピッツイオコスとも何度も共演する。即興的要素と作曲された楽曲が見事に溶け合ったスタイルは、サン・ラのアーケストラや、グローブ・ユニティ・オーケストラ、ICPオーケストラなどを継承する。渋さ知らズオーケストラとの共通項も指摘されよう。



以上、即興と作曲が半々のセレクションは、ピッツイオコスのバイオ通り。実際ニューヨークの音楽家にとって「即興」と「作曲」の壁は存在せず、両方を備えるのは当然だと言う。重要なのはマインドであり、それはスタイルによって左右されるものではない。音楽家にとって理想的といえる環境が現在のニューヨークには存在するようだ。ただし、ピッツイオコスが語るように、生活費、特に住宅費の高騰が音楽を志す者にとっては厳しい現実となる。そんな状況でも毎夜のように実験的な交感が繰り広げられるニューヨーク・ハードコア・ジャズ・シーンに大きな興味が惹かれるのである。

ニューヨーク
ハードコア
エクスタシー

《クリス・ピッツイオコス・トリオ》クリス・ピッツイオコス(sax)、マックス・ジョンソン(b)、ケヴィン・シェア(ds)のデビュー作はピッツイオコス作曲の作品。2015年春にリリース予定とのこと。

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