マーベラスS

King Of Western-Swing!!
歌と食と酒、それに声のページ。

400年の茶店

2007-10-30 23:53:07 | 


掛茶屋の侘びた佇まいを残す「瓢亭」。これがメインのエントランス。
床几には煙草盆、水甕、笠や草鞋が掛けられている。
国定忠治が一休みし、真ん中から団子持ったお女中が出て来たっておかしくない。でも作りもんではこうはしっくり行かない。
その昔、ここは茶屋と共に南禅寺の門番の役目もはたしていた。


亭内に踏み入れるのは15年ぶり。打ち水がされ、ひんやりとする。
すべて離れになっている茶室が5棟のみ。さほど敷地は広くはないのだろうが、庭木、植え込みや琵琶湖疏水からの水が巧みにまわされ、深い森の中にいるような錯覚に陥る。高歌放吟する料亭に非ず、静けさが心地よい。


中でも「くずや」という400年前と同じ佇まいという茶室へ通される。


小さいが深い床の間。「茸山の浅き明るさ踏み入りて 竹喬」とある。
色付き始めた紅葉が二葉。そこに平八郎の名が。
衣笠辺りに住んだ日本画家たち、小野竹喬が句をひねり、福田平八郎が絵を描いた合作だと思われる。もちろん、こんなこと空ですらすら言えるほどの博識ではない。帰ってから調べたに決まってる。浅学菲才にはそういう楽しみもあらぁ。


花生けには桔梗 山野草は十四代目主人、高橋英一さんが丹精こめて育てたもの。


くずやは夜なのでよく分からないも、萱葺き屋根。四畳半と二畳ほどの次の間からなる。頭もぶつけそうな、茶室の狭さ。密談にはピッタリである。「ふふふ…おぬしもワルよのぉ…」
適当に座り、「この場合、どこが上座ですか」と聞くと、あらら、ボクの席がそうだった。接待ならばチョンボや。軸も見えない場所なのだが、正面の窓から景色が見えるからだという。もちろん夜なので漆黒の闇しか見えぬ。
同行の若い衆が出された湯呑を見て、「酒ですか」と言った。何でやねん。


長男義弘さんが結婚されたばかりで、そんな話題を接待に来てくだすった女将さんとする。ほどなく膳が運ばれてくる。今夜は蒸す。女将が窓を開けると涼しい外気がすーっと入ってきた。ビールが美味い。


向付 鯛の片木造り 山葵 黒皮茸 菊花
器  交趾菊形向付 丹山作
淡路であがるとびきりの明石鯛がかつぎの水口さんによってここへ運ばれる。ぽったりとした厚み、見た目にも美しい半透明の身。
瓢亭ではお向うに年柄年中鯛を使う。以前来た時は細作りが中高に盛られ、加減醤油がかかっていた。今回の食感の方がはるかに贅沢。


先付 松茸と水菜のお浸し もって菊
庄内で栽培されるもってのほかという菊。正式名称は延命楽という。
何がしかの薬効成分あったのだろう。
冷酒は月桂冠の生貯蔵酒かな。余りのナショナルブランドにアレレ…と思ったが、酒をたしなまぬ一家ゆえ、研究してと言ってもしょうがないか。あ、言えた間柄でもなし。
  

汁 白味噌仕立  蓮根豆腐 花びら茸 おとし辛子
器 瓢箪南瓜蒔絵吸物椀
白味噌には二番だしを使うそう。一番だしだと強すぎて白味噌の風味を損なうのだそう。隠し味に赤味噌を少量溶き入れる。


口取り 瓢亭玉子、小海老といくらの香酒漬、雲丹松風、かます鮓、
栗、松葉銀杏、はじかみ
器  蒔絵菓子盆
瓢亭が掛茶屋の時分から出していたという茹で玉子。ほんの一滴、指先に醤油をつけて糸のように黄身に垂らすんだそうだ。
「玉子もっと欲しいと言われませんか」とH氏が聞くと、「お持ちしましょうか」ときた。玉子好きには朗報。瓢亭玉子は何個でもお代わりできるぞ。キオスクの煮ぬきみたいにキヤスク言うない。
 

雰囲気のある蓋物の赤絵のなんとか・・・


蕪と穴子の炊きあわせ さや隠元の千切り ふり柚子
箸がすっと入る蕪、口の中でほろほろと解けて行く。


焼物  杉板焼 花水木、柿の葉、かぼす、菊花蕪
仕上げに杉板で挟んで、ほのかな香りをつける。


中は幽庵地に漬けた鰆、椎茸
この素っ気のなさ、ある意味やぼったさを残しているのが茶の料理ということなのだろうか。オレならもうちょい変な色味を考えてしまうかも。このおかめそばみたいな配置なかなかできそでできない。


いよいよ最後。秋深し、土瓶蒸し。またこれで飲めてしまうので、冷酒またも追加。


吸物  土瓶蒸し 松茸、鱧、鶯菜 酢橘
松茸はシャキシャキ、鱧もどちらももう名残りだなぁ・・・

ご飯は松茸ごはん! 少量油あげが入る
やめときゃいいのに、オレだけおかわりしたッ。

水菓子 代白柿(だいしろ)
紀州の大ぶりな種なし柿。信じられない美味さ!とろりとした上品な甘味。柿の世界を逸脱する美味さ、こりゃたまらん!渋柿で入手し自家で甘くするという。焼酎をへたの部分に擦り込むんだったっけ。ああ、ちゃんと聴いておきゃよかった。


シメはお茶事で。北区の嘯月(しょうげつ)謹製、栗きんとん。品のある甘さ。和菓子の基本となるきんとん、裏ごしした餡を長い箸でくっつけて行くのだが、簡単そうに見えて奥が深そう。瓢亭はずっとここの生菓子を使う。

そして抹茶をいただく。かくして充実の時間が流れていく・・・


一歩外は幽玄の世界。玄関先の行灯に蝋燭が揺らめく。


京都の街中にいることや、今という時間をも忘れさせてしまう。
太陽の下にさらすと、なんと箱庭の世界にいるのか…ということに気付くのだろうが、闇を味方につけた見事な道具立てに感心しきり。
美味い料理だけだと社会の趨勢によって右往左往することもあろう、だが瓢亭には常に立ち返るべき茶懐石という太い柱がある。それが何百年も生き残って来れた強みなのだろう。ブレない。その代わり華美なことはしない、あくまでも、さりげなく自然体で。つまり利休言うところの、花は野にあるように…。

同じ京料理とはいえど、吉兆の料亭料理とは大きくちがう瓢亭の懐石料理。その違いを一回や二回食べただけでツラツラと論評などできるものか。まだ腑に落ちたというところまで食ってないもの。まだ歴史の深淵を覗き込んだ、とぐらいしか言えないのが悔しいったらありゃしねぇ。



     瓢亭   京都・南禅寺草川町  http://hyotei.co.jp/

コメント
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