自然保護からの脱原発宣言 02
「地球温暖化」「持続可能性」を改めて考えてみる
それでも、「原子力発電によるエネルギー利用は、
地球温暖化の切り札でなかったのか」
「原発を止めていいのか。火力発電を稼働させることで、地球温暖化が進行し、
生物多様性がより多く失われるのではないか」、そのような意見が多く聞かれる。
しかし、この考えは二重の意味で間違っている。
原発は実際の発電の過程では二酸化炭素を出さないが、
発電の過程に至るまでのウラン原石採鉱や濃縮などの核燃料生産や、
使用済み核燃料の再処理、
さらに、それらの過程で出た高レベル、
低レベルの放射性廃棄物の処理過程で多くのエネルギーを消費し、
二酸化炭素を出すだけでなくその過程にかかわる地域で自然に大きな悪影響を与える。
また、地球温暖化の問題は、
そもそもわたしたちが化石燃料や核燃料など、
地中に埋蔵している自然資源を野放図に使用して現在の生活を
築いてきたことを根本的に見直さなければならないという問題であり、
二酸化炭素さえ減らせば解決するということではない。
わたしたちが現在のエネルギーの大量生産、大量消費に
依存した社会からの大きな転換を進めなければならないし、
そのことこそが「自然保護」ということで
今まで私たちが主張してきたことであったはずである。
最低限「節電」という形で私たち自身の生活形態を見直し、
エネルギーの集中生産、都市での集中消費から抜け出し、
分散型エネルギー生産、消費社会を築き上げることこそが、
地球温暖化を防止していくためのもっとも本質的で重要な方策なのである。
野放図な開発が中心的に行われそれに抵抗する形で存在していたときには、
「自然保護」は、特定の生物種や生態系の保護を中心に訴えざるを得なかった。
しかし、今や、「自然保護」は、そのような段階から、
精神的な意味においても真の豊かさを実現するために、
自然と良好な関係を持ちつつ、
それぞれの地域で持続可能な社会を築き上げていくことを実現するための活動に、
中心的な主眼が移ってきた。
その意味においては、
エネルギーの地産地消につながるような分散型社会の中で、
地域のエネルギー資源を再生可能な形で利用していくあり方こそが、
「自然保護」の究極の目標となる。
原発は、21世紀においては時代遅れの技術でしかない。
そのような時代遅れの技術に、
膨大な予算をかけて進めてきた「エネルギー政策」のあり方、
「温暖化対策」のあり方こそ、今こそ見直されなければならない。
エネルギー利用と自然保護ーーー人間の未来にむけて
現在、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が施行され、
その制度の問題もあって、自然エネルギーなどの再生可能エネルギーは、
一見バブルな時代に突入し、
そのことが「自然保護」とさまざまな衝突を起こし始めている。
自然エネルギーは、
原発と比べると圧倒的にリスクは低いものの、さまざまなリスクが存在し、
それらは人々の生活に悪い影響を及ぼす可能性や、
生態系保全にもさまざまな問題をはらむ。
自然エネルギーだからと無条件に進めるべきものではない。
そして、私たちのエネルギー利用のあり方を再考すること、
利用の量を減らすことも重要だが、
地域社会のさまざまななりわいや生活などとの関係の中で、
エネルギー利用を特化して、
そのリスクが特定の人たちに不公正に分配されることは防がなければならない。
リスクを可能な限り小さくしていき、
小さくなったリスクを地域社会のさまざまな活動の中で分散し、
それをうまく分かち合える可能性を模索せねばならない。
一方、原発の再稼働をはじめ、
3・11に際した多くの人たちの反省を無にするような形で、
逆行したエネルギー政策が進められている。
電力が足らないのではなく、
電力会社の経営上の問題から再稼働が語られる異常な状況が続いている。
現在、ただでさえ使用済核燃料が多く蓄積し、
大量の高レベル、低レベル放射性廃棄物の処分に関して何も決まっていない中で、
運転が続けばその廃棄物の量は増えるばかりである。
福島原発事故から広範に拡散された放射性物質の「除染」や、
また、今後の廃炉も含め、放射性廃棄物の処分は未来世代に大きな負担を残し、
今なお解決の見通しはない。
再稼働によりさらなる廃棄物の蓄積を行っていくことは、
さまざまな意味で、犯罪的でさえある。
持続可能な社会を構築し、持続可能なエネルギー利用をどのように可能にしていくのか。
その中でしか問題を解決していくことはできない。
「自然保護」は原子力発電などの原子力利用とは根本的に相いれることはない。
直ちに「脱原発」を実施していくことしか、日本の未来は語れない。
自然保護からの脱原発宣言である。
会報『自然保護』2012年9・10月号「この問題私はこう見る」より転載
著者:鬼頭秀一 東京大学大学院教授。専門は環境倫理学。NACS-J参与。
(写真:2011年5月21日、川俣町。)