自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★テレ朝への抗議の行方

2005年06月19日 | ⇒メディア時評

   自民党の岡田直樹参院議員(石川県選挙区)がテレビ朝日の番組「報道ステーション」で事実に反する内容が取り上げられたとして、17日、同党の武部勤幹事長と連名で、放送法に基づく訂正放送と謝罪を求める通知書をテレビ朝日あてに送った。この通知書はおそら内容証明郵便で出しているはずで、裁判になることを想定した「宣戦布告」とも解釈できる。

    岡田氏の公式ホームページによると、さる10日、北朝鮮への経済制裁を検討する参院拉致問題特別委員会で、参考人として呼んだ拉致被害者の家族代表の横田滋さん夫妻に岡田氏はこう質問した。

(岡田)「経済制裁を検討しながら一つ気掛かりなことは、今も北朝鮮に生存をしていると信じる拉致被害者の方々、めぐみさんを始め拉致被害者の方々が、この経済制裁によって状況が好転すればいいですけれども、裏目に出て万が一、不測の事態が生じはしないかということが我々も心配でならないわけであります。前のが偽の遺骨であったならば今度は本物を出そうと、こういうことを考えかねない国だと思うんです。御両親に対して本当に言うに忍びないことを言い、聞くに忍びないことをお聞きしますけれども、そうしたおそれを抱きながらもなお今、経済制裁をとお求めになるのか。その辺りの御心境を御両親からお伺いしたいと思います」

   以下は横田滋氏の答えである。

(横田)「そういった懸念はゼロではございません。それは、平成9年にめぐみのことが明らかになったときに最初に我々が直面しましたことは、名前を出して、かつ写真を公表するか、それとも匿名にするかというようなことで迷いました。やはり、実名を出して写真を出さなければ証言に信憑性ということが出てきません。しかし、それを明らかにすることによって、そんなことはなかったということで殺されてしまうというような心配もございました。ですから、最初から、スタートの段階ではやはりそういったリスクというものがもうゼロというのではないわけですが、しかし、それを恐れていれば結局そのままの状況がずっと続いて、一生もう北朝鮮で何もなかったような形で終わってしまうというようなことになりますので、やはり救出ということになりますとそうせざるを得ないと思います」

   つまり、岡田氏の質問は、「聞くに忍びないことをお聞きしますけれども」と夫妻の心境を気遣いながらも、北朝鮮に経済制裁をすれば、めぐみさんが本当に殺されるかもしれない、その覚悟のほどはどうですか、とたずねた。それに対し、横田氏は「それを恐れていれば結局そのままの状況がずっと続いて・・・」と経済制裁を強く求めたのだ。岡田氏とすれば、「家族はリスクを覚悟して経済制裁を求めている。だから、政府もやるべきだ」というセオリーを慎重な言い回しで組み立てた。この特別委員会が終了した後、「岡田先生が自分たちの考えを分かっていた上で、あえて国会の場でそのことを家族の口から話すことが大切と判断してあの質問をしてくださったことと思っています。岡田先生には委員会の後に、参考人として発言の機会が与えられたことに対してお礼しました」と横田氏は述べている(6月16日付「救う会全国協議会ニュース」)。特別委員会の終了時点では、岡田氏は確かな手ごたえをつかみ、横田さん夫妻は国会の特別委員会で経済制裁を訴えることができて、双方に充実した時間だったのである。

   ところが事態は一転する。横田さん夫妻が参考人として出席した特別委員会の様子をニュースとして取り上げた10日夜の「報道ステーション」で、古舘伊知郎キャスターが、岡田氏の質問に対し、「想像ですけれども、北をとっちめたいと思うあまり、まるで非常に苦しい立場にいるご夫妻に、この覚悟はありやなしやと聞いているふうに聞こえちゃうんですよね。本人に確認したわけじゃないですけれども」とコメントし、「無神経な質問」と決めつけてしてしまったのである。

   岡田氏とすれば、「無神経」どころか横田さん夫妻から「お礼」までされているのに、「想像」でベラベラとしゃべられて、「まったく事実に反する報道」で名誉を著しく毀損したというわけだ。岡田氏は東京大学法学部出身、新聞記者を経て、国会入りした。闘争本能をむき出しにするタイプではなく、むしろ温厚な性格。その岡田氏が相当な怒りを持って「宣戦布告」したのである。一方、テレビ朝日広報部は「詳細が確認できていない」とコメントしてはいるものの、どこまで準備を進めているのか。

   テレビの報道番組では、想像でものを言うこと自体、信憑性が失われ負けである。ましてや「北をとっちめ」云々のもの言いは古舘キャスター自身に抑制が効いていない証拠と見るべきだろう。事実関係はすでに明らかで争う余地はない。番組の中できちんと釈明し、「言葉が滑って申し訳ありませんでした」と謝罪すべきだ。先が見えた話は先延ばしすべきではない。

⇒19日(日)午前・金沢の天気  晴れ

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☆腰の引けたフジテレビ

2005年06月18日 | ⇒メディア時評

   これでは、ライブドアの「完勝」と言っていい。6月14日付の「自在コラム」でライブドアとフジテレビジョンの業務提携の第一号とも言える公衆無線LAN(構内情報通信網)を紹介した。今回の注目点は、フジテレビがどのように無線LANとかかわるか、であった。結果的に、フジテレビは災害や事故の映像の送受信で無線LANを活用するというだけの話なのだ。単なるユーザーでしかない。フジテレビは15日の記者会見にわざわざ取締役を同席させ、「友好ムード」を演出したにすぎないのだ。

   記者会見によると、今回の無線LANの仕組みは東京・港区と新宿区の一部で来月から試験サービスを開始する。独自の無線LAN基地局を都内2200カ所の電柱に設置し山手線内側の80%の地域をカバー。屋外の半径100㍍でインターネットが利用できるようにする。月525円の定額制で、1つの基地局で30人程度までならば2メガか3メガの速度で使用できるという。長期的には100万人の利用者獲得を目指す。堀江貴文社長はこの記者会見で「インターネットを始めたころに夢見た、どこででも接続できるという状況を作りたい」と語った。 

   対等な業務提携を目指すというのならば、フジテレビはライブドアの無線LANを駆使したポータルの構築と放送の連動を目指すのが本筋だろう。14日の「自在コラム」でも述べたように、フジテレビとライブドアがたとえば「東京ハザード」と銘打った、一般からの動画の投稿サイトを共同運営し、東京で起きた災害・事故の映像をアーカイブすれば非常に価値がある。災害映像をフジテレビが一網打尽にでき、スクープ映像を集めて、地上波の番組にもできるからだ。

   フジテレビがなぜ無線LANを使って受発信する映像を災害や事故に限定したかというと、おそらく表向きには「事故や災害の映像をリアルタイムに受発信することにメリットがある」と交渉のテーブルでやり取りしたのであろう。しかし、本音は「こんなひ弱な回線で送れるのは画質を問わない災害・事故の映像ぐらいだろう。今回はお付き合い程度に」だったと推測する。テレビ品質の画像を受発信する際は回線容量で16メガは最低必要、というのがテレビ業界の大方の見方だ。ところが、今回の無線LANでは2メガか3メガしかないのである。だから、フジテレビはライブドアの無線LANを利用を持ちかけられたものの、最初から腰が引けていたのかもしれない。あるいは醒めていた。

   上記の分析は元「業界人」のうがった見方である。ひょっとして、放送と通信のあり方を大きく変える目の覚めるようなプランが進行中なのかもしれない。テレビ業界は曲がり角に立っている。早晩、インターネットに広告市場を奪われる。放送と通信の融合の夢を語っているのは堀江氏だけではないか。テレビ業界からは聞こえてこない。

⇒18日(土)午後・金沢の天気 晴れ 

 

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★「小泉語」で大いに語る

2005年06月17日 | ⇒トピック往来

   予め断っておきますが、きょうの「自在コラム」は小ネタです。6月4日付は、政府がキャンペーンをはっている夏の軽装「クールビズ」について書きました。ネクタイの男性社員に気兼ねして、冷房が効きすぎるオフィスで我慢している女性社員からもノーネクタイ運動は支持される、との内容でした。

   きのう届いた「小泉内閣メールマガジン」(第192号)は、小泉さんへのインタビュー企画。「おやっ」と思ったのが、「クールビズ」についての小泉さんの感想の下りです。「…オフィスに来ても、皆さんきっちりとネクタイと背広だから、女性はスカートで膝かけをしなければならない。それもしなくていいと。女性はもともとノーネクタイなんですが、男性より薄着だから、何か寒さを防ぐような服装を考えて、電車なり会社に行っていたという人も多かった。ですから、あまり冷房をきかせないということは体にもいいから助かるという声が多いです」。表現は異なるものの、内容としては「自在コラム」と偶然にも同じです。

    私がこのインタビューで注目するのは、小泉さんが目線を低くして、オフィスや電車での光景をイメージして答えていることです。実は、小泉さんの言動は庶民の目線で語るパターンが多く、分かりやすいのです。中曽根さんのように、天下国家を論ずることは稀です。

    そこで、「小泉語」で諸問題を解説してみます。

靖国参拝問題は…
 「坂本竜馬も靖国に祀られているんですよ。A級戦犯を崇めにいくのではありません。だいいち、A級戦犯は死をもって罪をあがなったではないですか」

日中問題は…
 「映画『亡国のイージス』に自衛隊が撮影協力しただけで軍国主義の復活と騒ぎ立てる方が異常ですよ。世界の常識というものを中国人は知らなさ過ぎる。だいたい、副首相が会談をいきなりキャンセルするからな。あの国はえらいよ」

郵政民営化は…
 「民でやれることは民で、と昔から言っているではないですか。反対だったら、何でオレを自民党総裁選で落とさなかったのか、と言いたい」

北朝鮮による拉致問題…
 「2回握手して5人帰して、おまけまでつけた。いまアメリカに行っているけどね。91歳の母親は今ごろ涙ぐんでいるんじゃないかな…」  

   どうです、分かりやすいと思いませんか。以上、小ネタでした。

⇒17日(金)午後・金沢の天気 くもり

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☆虫愛でる少年たち

2005年06月16日 | ⇒キャンパス見聞
   子供たちは随分ひ弱になったと言われる。たとえば、ここ金沢大学角間キャンパスの「里山自然学校」に遊びにやってくる子供たちの中には、虫を見ただけでフリーズしてしまう子もいる。4月の終わりごろ、附属幼稚園の子供たちが遠足の休憩に立ち寄った。トイレに入った男の子が便器に向かった途端にズルズルと後ずさりし、「なんで虫がいるのだ」と悲鳴を似た声を上げた。便器の中にカメムシが一匹歩いていた。男の子はこのカメムシに仰天し、オシッコもせずにその場を立ち去った。

    家の中に虫がいてはいけない、というのが最近の家庭の風潮だ。だから、ゴキブリを捕獲するのにあちこちに「粘着性のある虫取り箱」を仕掛け、ダニを駆除するために浴びるほどの殺虫剤をまいている。虫さえいなければ清潔だと思っている。その結果、ヒステリックなまでに「虫嫌い」の子供たちが家庭内で培養されている。
  
   逆に「虫を愛でる」子供たちを紹介する。里山自然学校で活動する子供たちの中で、金沢市子ども科学財団の面々はひと味違う。先日、昆虫採取の会が開かれ、小学生を中心に30人が集まった。虫取り網を持たせても右に斜めに構えてウオーミングアップするその姿は実に頼もしい。採取にいざ向かおうという時、雨が降り出した。指導者が「カッパを着よう」と言うと、「カッパなんか着たら動きが鈍くなって虫が捕れないよ」と言い出す子供がいた。確かにそうだ。いざ、虫取りが始まると、まるでハンターだ。ほれぼれするくらいに身のこなしが速い。男の子も女の子もである。 
 
   「成果物」を持ち寄っての標本づくりも慣れた手つきだ。一方で、昆虫採取に飽き足らず、近くのビオトープにジャブジャブと入っていき、クロサンショウを見つけて歓声を上げる子もいる。この子たちがこのまま大きくなれば生物学者や生態学者に成長するのではないか、と予感させた。

   きのうNHK金沢放送局の夕方のワイド番組で里山自然学校から生中継があり、子ども科学財団の子供たちを紹介した。上の写真は、本番前にもかかわらず、ビオトープに集まり観察する子供たちの姿である。もう一枚は中継のために持ち寄った自慢の昆虫標本(ミヤマカラスアゲハほか)だ。

   虫アレルギーの子供もいれば、昆虫学者の卵のような子供もいる。私は2つのタイプの子供たちを見てきた。もし大人が、前者のような子供たちしか見ていないとすれば、日本の将来を不安に思う違いない。

⇒16日(木)午前・金沢の天気 曇り 
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★里山に夏が来た

2005年06月15日 | ⇒キャンパス見聞
   金沢大学角間キャンパスにも本格的な夏が来たようです。下の写真をご覧ください。5月14日に植えた雑穀がこんなに青々と茂っています。これは大学周辺の市民ボランティアが耕作してくれている畑なのです。アワのほかにトウモロコシ、キビ、サツマイモなどがあります。バックに見える大学創立五十周年記念館「角間の里」の横にはビオトープがあり、そろそろホタルの季節です。 
アワ茂る  

   先にご紹介しましたが、「角間の里」は築280年の古民家です。白山麓の旧・白峰村から譲っていただき、ことし4月に金沢大学にやってきました。今月10日に保育園の子供たち50人がここを訪れ、駆けっこをしたりと大はしゃぎでした。子供たちが脱いだ靴が土間いっぱいになるくらいでした。あなたは、こんなに大勢の子供たちの姿を最近見たことがありますか。この子供たちがおそらく70歳、80歳になっても「角間の里」は健在でしょう。何しろ280年も生き延びてきたのですから・・・。
土間に幼い息吹  

   きょう15日夕方、NHK金沢放送局の番組「いしかわワイド」で、「角間の里」から生中継があります。ご覧いただければ幸いです。

⇒15日(水)午前・金沢の天気 晴れ 
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☆放送と通信、ライトな融合

2005年06月14日 | ⇒メディア時評
   ニッポン放送の経営権をめぐって争ったライブドアとフジテレビが業務提携を模索しているが、12日付の朝日新聞によると、具体案が出たらしい。それによると、フジが撮影した事故や災害現場の映像素材を、ライブドアが来月から東京都内で始める無線LANのインターネットを利用して送受信する。フジは社内通信用だけでなく、視聴者からの映像提供も受け付ける。ライブドアがあす15日に開くこの無線LANの記者会見にフジの役員も出席するという。

   放送と通信が提携することで日本のメディアの有り様が大きく変わる。今回、映像素材の送受信だけの業務提携ならインパトに欠ける。ただし、ライブドアがたとえば「東京ハザード」と銘打った、一般からの動画の投稿サイトをつくり、東京で起きた事件・事故の映像をフジと連携してアーカイブしていくというのであれば価値がある。災害映像をフジが一網打尽にでき、地上波で番組化もできる。果たして業務提携の第1号はどのような内容になるのか。
                 
   フジテレビ系列の福井テレビジョン放送(FTB)はITを使った画期的な番組を制作している=写真=。夕方の情報ワイド「おかえりなさ~い」は、ケータイ・インターネットなどで視聴者にクイズに応募してもらい、その正解者の中から当選者を選び、賞品をプレゼントする。スタジオを見学させてもらったきのう13日は、賞品の目玉が韓国焼酎30本とショットグラス10個だった。韓国焼酎がブームとあって、視聴者から1036件ものアクセスがあった。アクセスの8割は携帯電話から。同じクイズの募集でも従来の「はがき」だったら、人口87万人の福井県だと多くて300枚だろう。ケータイで、視聴者の番組への参加意欲を最大限に取り込んでいるのだ。

   画期的なのは、毎週月曜から木曜までのレギュラー企画であること。視聴率にもよいで影響が出て、「視聴率が底堅くなって、夏場も数字が落ちていない」(杉山一幸制作部長)という。このクイズ参加のシステムは、金沢市のソフト開発会社「FIXインターメディア」との提携で構築。インターネットを介して送られた視聴者からのデータをリアルタイムでグラフ化(円、棒など)に処理し、放送画面に送出する仕組みだ。

   ケータイはテレビを見ながら操作できるので相性がいい。ブロードバンドを使った放送と通信の「ヘビーな融合」が放送コンテンツのビデオ・オン・デマンドだとすると、ケータイとテレビを使った番組参加の放送モデルは放送と通信の「ライトな融合」と言えそうだ。FTBがその最先端を走っているのは間違いない。

⇒14日(火)午前・金沢の天気  晴れ    
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★「雲を測る男」がまとう布

2005年06月13日 | ⇒トレンド探査
   去年10月にオープンした「金沢21世紀美術館」の入館者数が、きのう12日で100万人を突破しました。開館1周年で入館者100万人を見込んでいましたが、予想より4ヵ月も早く達成したので、関係はホッと胸をなでおろしているに違いありません。しかも、金沢の市祭「百万石まつり」の期間中に100万人ですから、ゴロ合わせもよくできています。
福を呼ぶ男      きょうは秘蔵の一枚をお見せします。秘蔵と言っても絵画ではありません。上記の写真です。美術館の屋上に据え付けられているヤン・ファーブル(ベルギー)のブロンズ作品「雲を測る男」です。美術館の作品目録によると、作者のファーブルはあの有名な昆虫学者ファン・アンリ・ファーブルのひ孫ということです。作品は映画「アルカトラズの鳥男」(1961年・アメリカ)から着想を得たそうです。サンフランシスコ沖のアルカトラズ島にある監獄に収監された主人公が独房で小鳥を飼ううちに、鳥の難病の薬を開発し鳥の権威となったという実話に基づく話。映画の終わりの場面で「研究の自由を剥奪された時は何をするか」と問いに主人公が答えたセリフが「雲でも測って過ごす」だったことからこの作品名がついたとか。昆虫学者の末裔らしい、知的なタイトルです。

   でも、この作品を実際に見た人なら「ちょっと違う」と気づくでしょう。そう、男が胴から腰にかけて白い布をまとっているのです。普段は身に付けていません。この写真を撮影した去年9月に、台風16号と18号が立て続けにやってきました。何しろ屋上に設置されているので台風で倒れるかもしれないと、まず布を胴体に巻いて、その上にワイヤーを巻いて左右で固定したのです。

   美術館はオープン前の一番あわただしいとき。その姿を、蓑豊(みの・ゆたか)館長が「金太郎さんの腹巻のようでしょう」とユーモアを交えて説明してくれたのが印象的でした。あれから8ヵ月、開館当初は「目標30万人」でした。それがすでに3倍以上にもなり大ブレイク。福を呼んでいるのは案外、屋上に立つ「この男」かもしれません。

⇒13日(月)午前・金沢の天気 晴れ
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☆続・マエストロ岩城の視線

2005年06月12日 | ⇒ランダム書評
   名人芸というのものがある。物をつくらせたら、話をさせたら、アイデアを出させたら「天下一品」という境地である。指揮者の岩城宏之さんもある名人芸をもっている。テレビで放送する毎年4本の「オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)アワー」の番組プロデューサーなどを通算10年間させてもらった私の感想である。「岩城さんの名人芸」というのは指揮ではない、岩城さんの指揮を論評するなんて私にできるはずもない。岩城さんの名人芸というのは「にらみ」である。

   2003年9月、石川県立音楽堂で開催されたOEK&仙台フィルのコンサートでのこと。「外山雄三 管弦楽のためのディベルティメント」をテレビ番組用に収録した。その時、ステージ上のイントレ台のカメラマンを、指揮をしていた岩城さんが一瞬にらんだ。タクトを振り上げるようにして顔を上げ、斜め後ろを向きながら0.1秒くらいの早業でにらみつけたのである。ステージの袖にいた私にははっきり見えた。

   コンサートが終了し、楽団員の何人かが言葉を交わしていた。「演奏中にノイズがした」と。コンサート終了後に、そのカメラマンが「カメラのネジが一本取れて落ちました」と1㌢ほどの小さなネジを拾ってきた。試しにネジをステージ上で落としてみると確かにボトッという音がする。ノイズはネジが落ちた音だったのである。岩城さんはそのノイズに気がつき、ノイズがした方向を一瞬にらんだ。その目線の先がカメラマンだったというわけである。

   翌日、岩城さんに謝りに行った。「今後は気をつけてほしい」と一言だけだった。実はカメラマンも岩城さんの「にらみ」をとっさに感じた。でも、なぜにらまれたのかその時は理解できなかった。「刺すような怖い目で身震いした」とカメラマン。テレビ局の番組スタッフはそれ以降、ノイズに敏感となり、楽譜のコピーも普通紙だとめくる音がするというので、音が少ない和紙を使うようになった。マエストロの「天下一品のにらみ」が、番組制作の改善運動へとつながっていったのである。

⇒12日(日)午前・金沢の天気 曇り
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★ラスベガス残像と金沢大学

2005年06月11日 | ⇒キャンパス見聞
  4年前の夏、家族旅行でアメリカのラスベガスを訪れた。灼熱の砂漠に「エンターテイメントの泉」が出現している。樹木より人の数が多い。その当時を思い出しながら、勤め先の金沢大学角間キャンパスはその対極にあるのではないかと想像をめぐらせたりしている。深緑の山里に「知の泉」である。

   ラスベガスにはギャンブルという仕掛けがある。人の欲望を最大限に引き出す装置である。同じように金沢大学には、教育・研究という仕掛けがある。人の知的欲求を最大限に引き出す装置だ。162万冊の蔵書がある図書館。1万8百人の学生が1日1冊読んだとしても半年はかかる膨大なライブラリーである。
                    ◇
   きのう(10日)金沢市内の保育園児50人が角間キャンパスに「散歩」にやってきた。迎えたのは保健学科の学生80人。キャンパスの中にある広葉樹の森を学生と保育園児が手をつないで散歩するのである。当初お互いドキドキしながら手をつないでいたが、山を下りるころには心が砕けた感じに、お弁当を広げるころ=写真=には随分と子供たちが懐いた感じになった。園児にとっては山を散歩するという経験、学生には園児をケアするという保育実習になった。

    お弁当を食べた築280年の再生古民家「角間の里」は130人もの園児と学生であふれた。1980年、白山麓の手取ダムで水没の運命にあったこの古民家は住民の手で救われた。そしてことし4月に金沢大学のキャンパスで再生された。その家の中を駆けっこする園児たちの歓声が響いた。何もないネバダ州の砂漠に出現した巨大ホテルで、ギャンブルに一喜一憂する観光客の喧騒と子供たちの歓声がダブった。

ラスベガスと日本の時差は夏場で16時間だ。当時、ちょっとした事情でラスベガスからアリゾナ州のグランドキャニオンへ足を伸ばすことができずに、そのままシアトル経由で関空に帰ってきた。もしグランドキャニオンに足を運んでいればまた別の感想になったかもしれない。テーマ設定の弱い、取り留めのないコラムになってしまった。

⇒11日(土)午前・金沢の天気 曇り
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☆マエストロ岩城の視線

2005年06月10日 | ⇒ランダム書評
  バス通勤の行き帰りに、文庫本「オーケストラの職人たち」(文春文庫・ことし2月第1刷)を読んでいる。実はこの本、著者の岩城宏之さんからいただいたものだ。ことし1月に会社を辞した際、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の事務局の方が、「岩城さんからのプレゼントです」とわざわざ届けたくれた。「暇になるだろうから本でも読んで」という岩城さんの心遣いはありがたかったが、その後の身内の不幸や再就職でそれどころではなかった。最近部屋の整理をしていて、思い出して読み始めたのだ。退社から5ヵ月余り、心のゆとりが少し出来たということかもしれない。

  文庫本はことし2月だが、内容自体は98年から01年にかけて「週刊金曜日」に掲載されたものだ。オーケストラというプロ集団の群像を描いた本ではない。オーケストラを支える「裏方」を描いている。私自身も裏方だった。テレビで放送する毎年4本の「OEKアワー」の番組プロデューサーなどを通算10年間させてもらった。モーツアルト全集・25回シリーズ(東京・朝日新聞浜離宮ホール)、中村紘子・ルービンシュタイン・コンサート(東京・サントリーホール)などざっと40本に上る。このほとんどが岩城さんの指揮だった。「岩城さん」と書くのも、実は岩城さんからしかられたからである。初めてお会いしたとき、「岩城先生、よろしくお願いします」とあいさつすると、ムッとした表情で「ボクはセンセイではありません。指揮者です」と。そう言えば周囲は「先生」とは呼んでいない、「岩城さん」か「マエストロ」と。初対面で一発かまされたのである。

  岩城さんが「裏方」に注ぐ目線は温かい。岩城さんはハープの運送会社「田中陸運」(東京)のアルバイトを自ら経験し、裏方の職人技はこうだと描いている。威張ったり、権威ぶったりしない人なのだ。先の「岩城さん」のエピソードも実はそんな人柄がにじ出た話であって、これを「気難しい」と誤解する人も多い。本では能登出身の元N響ステージマネージャー延命千之助さんや、演奏旅行のドクターである川北篤さん(金沢市)、写譜名人の賀川純基さんらオーケストラとかかわる多彩な顔ぶれを紹介している。

   岩城さん自身が書いているように、小さいとき音感教育を受けなかったので「耳にまったく自身がなかった」「多くの指揮者たちに、すごく劣等感を持っていた」。その分、徹底した現場主義を通した。その岩城さんが昨年の大晦日にベートーベンの交響曲1番から9番を一晩で振り、クラシック界の話題をさらった。私は、262本のヒットを放ち84年ぶりにアメリカ大リーグの年間最多安打記録を更新したイチロー選手に匹敵する「偉業」ではないかと思っている。その時、イチロー選手を「野球小僧」と称した人がいた。それに倣えば、岩城さんは「音楽小僧」だ。72歳の今でも挑戦を続けて止むことがない。

⇒10日(金)午前・金沢の天気 晴れ
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