自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「花燃ゆ」スペクタクル

2015年06月28日 | ⇒メディア時評
  NHK大河ドラマ「花燃ゆ」をほぼ毎回見ている。司馬遼太郎の小説「世に棲む日日」(文春文庫)をかつて読んだことがあり、吉田松陰の生涯、そしてその弟子たちの躍動を当時のイメージと重ね合わせて楽しんでいる。視聴率は12%前後とそれほど勢いはないようだが、毎回視聴するたびに、幕末の志士たちの、人々の生きざまが胸を打つ。実際もおそらくこうだったのだろう、と。

  6月28日の第26話は緊張感があった。近藤勇ら新選組が襲撃した池田屋事件で、吉田稔麿ら多くの長州藩の志士が逝った。それを受けて、戦後武将のような勢いのある来島又兵衛、久坂玄瑞らが1500人の兵をともなって京に登る。久坂玄瑞は、兵を連れて天王山に陣取るが、戦は避けて、孝明天皇への嘆願が叶うよう動く。長崎に左遷されていた小田村伊之助は、グラバーから西洋式の兵器の調達をする。長州藩の命運をかけた軍議が石清水八幡宮で開かれた。来島又兵衛は御所に進軍、また、久坂玄瑞は戦を避けたいと、意見が真っ向対立するが、結局、京にいる1500人の長州藩兵だけで、御所へ進軍することに決した。一方、西郷吉之助(隆盛)が薩摩藩兵を京に送り、幕府側は諸藩の兵あわせて2万人の大軍で御所の守り固める。

  そんな中、英国、アメリカ、フランス、オランダの軍艦20隻が、下関に向かっているとの情報がもたらされ、長州藩は大混乱に陥る。このようなことになったのは、久坂玄瑞のせいだと藩内で怨嗟の声が起きる。まるで、歴史のスペクタルをタイムトンネルでスリップして、現場でその動きを見ているようで、実にダイナミックなのだ。

  そこで、ふと、この歴史スペクタクルを4Kテレビで見たいとの衝動にかられている。4Kテレビはすでに出荷台数が50万台を超えたようだ。先日も、近所の家電量販店を訪ねると、店のフロントは50型以上の4Kテレビが占拠している。50型だと、25万円程度。店員は、「ボーナス商戦の後だともう少し安くなりますよ」と薦めてくれたが、逆になんと商売っ気のないこと。

    ところで次回27話は内戦に突入する、いわゆる「禁門の変」が描かれる。1864年7月19日、長州藩は会津藩などと京都の蛤門付近=写真=で激突する。長州藩が門を突破し京都御所に入るものの、西郷吉之助の率いる薩摩藩がこの戦いに介入して、長州藩の形勢は逆転する。この禁門の変で長州勢が火を放ち京の街は大火事、さらに御所に向け発砲したことから「朝敵」となる。その後、長州藩は長州征伐や外国船20隻の砲撃の報復で打ちのめされる。が、長州藩の藩論が倒幕に傾き、敵対していた薩摩藩との薩長同盟が実現し、倒幕の道を歩んでいくのだ。紆余曲折油を経て、新たな歴史が拓かれ、日本が動くシーンである。

⇒28日(日)夜・金沢の天気    はれ
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★「奇跡のイラスト」

2015年06月24日 | ⇒トピック往来
  今年度から小学校で使われている1年生の国語の教科書に、制作上のミスから腕が3本あるように見える女の子が描かれたイラストが掲載されていたとして、発行元の三省堂が自主回収と交換を始めたとニュースになっている。「まさか」と一瞬思った。文字一句でも厳しい、あの教科書検定のチェックをスルリとかいくぐって、である。※掲載画像と本文はリンクしていません。

  ニュースを総合すると、女の子が花輪を両手で持っているにもかかわらず、もう1本の手が背後の机にあり、腕が3本あるように見えるという不思議な状態になっていた。教科書は、東京都世田谷区などの小学校で使用されていて、世田谷区の教育委員会から5月に、「イラストの子供の腕が3本あるように見える」と三省堂に連絡が入り、イラストを調べたところ、下書きを消し忘れたままの状態で印刷されたことが分かった、という。

  三省堂では、文部科学省への訂正の申請を行い、誤りを正した教科書1万冊を、教科書を使用している地区・学校に連絡し、順次、新しい教科書への差し替えを行っていく予定だという。三省堂のホームページを調べると、真摯なお詫びのコメントを掲載されていた。以下。

      『しょうがくせいのこくご 一年上』イラストの誤りについてのお詫び

 このたび、弊社の国語教科書『しょうがくせいのこくご 一年上』5ページの絵に誤った箇所が見つかりました。教科書において、このような誤りを起こしてしまいましたことを衷心よりお詫びいたします。誠に申し訳ございませんでした。つきましては、文部科学省に訂正の申請を行い、誤りを正した新しい教科書をご用意いたしました。弊社の教科書をお使いいただいている地区・学校にご連絡して、順次、新しい教科書に差し替えさせていただく所存です。児童の皆さま、そして保護者の皆さまには多大なご迷惑をおかけすることになりますが、どうかお許しください。

 今後はこのようなことを起こさぬよう、全社をあげて慎重に編集作業に取り組んでまいりますので、何卒ご容赦のほどお願い申し上げます。

  以上がコメントである。とくに「どうかお許しください」「何卒ご容赦のほどお願い申し上げます」と丁寧に謝っているのが印象的だ。出版社は文字表現で生業(なりわい)を立てている。言葉でその真摯な気持ちが伝われなければ企業としての価値はないと思い、あえて謝罪のコメントをチェックした次第である。

  ところで、教科書は文部科学省の管理下にある。学校教育法により、小・中・高等学校の教科書については教科書検定制度が採用されている。教科書の検定は、民間で著作・編集された図書について、文部科学大臣が教科書として適切か否かを審査し、これに合格したものを教科書として使用することを認める制度だ。今回の教科書にしても、何人もの検定員の目で確認されているはずだ。その目をかいくぐって、世に出たイラストとなる。もう少しうがった見方をすると、文章表現は一字一句を細かくチェックするが、イラストなど図や写真に対してはそんなに厳しくないということか。

  それにしても、このイラスト、教科書検定制度下にあって、ある意味で奇跡のデビューを果たしたと言えなくもない。

⇒24日(水)朝・金沢の天気    はれ
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