自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★女子プロレスラー自死問題、TVメディアの禍根は残る

2021年03月31日 | ⇒メディア時評

   日本人には禍根を新年度に持ち越さないという暗黙の共通認識のようなものがある。その意味で3月は出来事の決着を促す「判断月」と言ってよいかもしれない。一つの判断が示された。このブログでテレビメディアの演出問題として取り上げてきた、女子プロレスラーの自死とリアリティ番組『テラスハウス』(フジテレビ制作、2020年5月19日放送)について、BPO(放送倫理・番組向上機構)放送人権委員会は30日付で見解をまとめ、公式ホームページで公表した。

   問題となったシーンは、シェアハウスの同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れて縮ませたとして怒鳴り、「ふざけた帽子かぶってんじゃねえよ」と男性の帽子をとって投げ捨てる場面だ。放送より先に3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNS上で批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとってケアを行っていた。ところが、フジテレビは5月19日の地上波の本放送で、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流した。女子プロレスラーは5月23日に自ら命を絶った。 女性の母親は娘の死は番組内の「過剰な演出」による人権侵害としてBPOに申し立てていた。

   放送人権委員会は9月15日に審理入りを決定、6回の審理を重ね今月30日付で委員会決定の通知と見解の公表を行った。審理の論点は7点。「本件放送に過剰な演出はあったか」「予告編や未公開映像、副音声が視聴者に対する過剰な煽りとなっていなかったか」「帽子のシーンを台本によらない自然な行動として放送したことに、人権侵害や放送倫理上の問題はあるか」「出演にあたって締結した同意書兼誓約書が、女性の自由な意思表明や行動を過度に抑制する要因となったか」「Netflix 配信後の経緯において、本件放送を行ったこと自体に人権侵害や放送倫理上の問題はあるか」「Netflix 配信後の、フジテレビの女性への対応に問題はなかったか」「女性が亡くなった後のフジテレビの対応に問題はあるか」

   自身が注目していたのは、上記の「Netflix 配信後の経緯において、本件放送を行ったこと自体に人権侵害や放送倫理上の問題はあるか」の点だ。5月19日の地上波の放送でもSNS炎上が予想されたにもかかわらず、なぜ動画修正の措置などを講じなかったのか。追い詰められた出演者とテレビ局がどう向き合ったのか、だ。

   この点についての委員会の見解はこうだ。「出演者の身体的・精神的な健康状態に放送局が配慮すべきことは社会通念上当然のことであり、場合によっては契約の付随義務等として法的な義務ともなるのであって、出演者へのこうした配慮は放送倫理の当然の内容」と、放送倫理上の問題と判断した。その上で、「女性の精神状態を適切に理解するために専門家に相談をするなどのより慎重な対応が求められたのではないか」「制作責任者(チーフプロデューサー)、あるいはその他、社内の然るべき立場にある者の間ではこのことが深刻に受け止められていなかったのではないか」と指摘している。

   女性の自傷行為のケアをしていたのはフジテレビの局員ではなく、番組制作会社の制作スタッフだった。番組の制作現場は、局の制作プロデューサーやディレクター、制作会社ディレクター、孫請け会社の制作スタッフなど二重、三重の構造になっている。そのため、局の制作責任者は現場に目が行き届かず、ある意味で現場任せになりがちな構図がある。

   もう一つの問題が数字だ。地上波放送の場合、視聴率の評価基準である全日時間帯は6時から24時であり、この番組は深夜0時以降の放送で視聴率の対象外だった。リアリティ番組は出演者のありのままの言動や感情を表現し、共感や反感を呼ぶことで視聴者の関心をひきつけ、SNSコメントとしてそのまま現れる。共感であれ反感であれ、コメント数の多さが番組の視聴率に代わる評価指標のバロメーターとなる。そこで、テレビ的な発想で、SNSコメントの数を稼ぎたかったのではないか。結果的に、5月19日の地上波放送はそのまま流された。

   女性は享年22歳、プロレスラーとして知名度を得て、プロ意識も身につけただろう。縮んだコスチュームに怒りを感じて自身が演じたシーンであるがゆえに、テレビ局側に映像の修正を求めることはおそらくしなかった、できなかった。しかし、女性には「テラハから出てけ」「反吐が出そう」「ゴミ女」「出ていけクソブス女」「てか死ねやくそが」「花死ね」といった容赦ない誹謗中傷(BPO見解)が降り注がれた。耐えきれなかったのだろう。プロの自覚と誹謗中傷、このジレンマは相当なものであったことは想像に難くない。しかし、このジレンマの辛さは、現場任せの制作責任者とは共有されることはなかった。

   女子プロレスラーをツイッターで中傷したとして東京区検は30日、大阪府の20代の男を侮辱罪で略式起訴した。東京簡裁は同日、男に科料9000円の略式命令を出し、即日納付された(3月31日付・朝日新聞)。女性の自死問題の件はこれで決着したのだろうか。3月を期して収束したのだろうか。テレビ局の禍根は残したままではないだろうかか。(※写真は2020年5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事から)

⇒31日(水)午後・金沢の天気     はれ

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☆黄砂がもたらすもの

2021年03月30日 | ⇒ドキュメント回廊

   きのう野外の駐車場に停めておいた自家用車のフロントガラスが一夜で白くなった。きょう日中も金沢を囲む山々がかすんで見えた=写真=。黄砂だ。ソメイヨシノは満開なのだが、空がこのようにかすんでいては見栄えがしない。

   日本から4000㌔も離れた中国大陸のタクラマカン砂漠やゴビ砂漠から偏西風に乗って黄砂はやってくる。最近では、黄砂の飛散と同時にPM2.5(微小粒子状物質)の日本での濃度が高くなったりと環境問題としてもクローズアップされている。外出してしばらくすると目がかゆくなってきた。黄砂そのものはアレルギー物質になりにくいとされているが、黄砂に付着した微生物や大気汚染物質がアレルギーの原因となり、鼻炎など引き起こすようだ。さらに、黄砂の粒子が鼻や口から体の奥の方まで入り、気管支喘息を起こす人もいる。

   黄砂は「厄介者」とのイメージがあるが、意外な側面もある。黄砂といっしょにやってくる微生物を「黄砂バイオエアロゾル」と呼ぶ。金沢大学のある研究者は、食品発酵に関連する微生物が多いこと気づき、大気中で採取したバチルス菌で実際に納豆を商品化した。その納豆の試食会に参加したことがある。日本の納豆文化はひょっとして黄砂が運んできたのではないかとのその研究者の解説に妙に納得したものだ。

   生態系の中ではたとえば、魚のエサを増やす役割もある。黄砂にはミネラル成分が含まれ、それが海に落ちて植物性プランクトンの発生を促し、それを動物性プランクトンが食べ、さらに魚が食べるという食物連鎖があるとの研究もある。地球規模から見れば、「小さな生け簀(す)」のような日本海になぜブリやサバ、フグ、イカ、カニなど魚介類が豊富に獲れるのか、黄砂のおかげかもしれない。

⇒30日(火)夜・金沢の天気        くもり

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★満開の桜 兼六園に何思う

2021年03月28日 | ⇒トピック往来

   金沢の兼六園は日本三名園の一つと言われ、国の特別名勝に指定されている。毎年この桜の時期に入園料を無料にしていて、今年もきのう27日から無料開放(4月2日まで)が始まった。きょう正午ごろ、兼六園へ満開のソメイヨシノを見学に行ってきた。時折小雨が降る、どんよりとした天気だったが、金沢城をバックに満開の桜は光彩を放っていた=写真・上=。

   兼六園の桜はソメイヨシノだけではない。桜だけでも20種410本に及ぶ。一重桜、八重桜、菊桜と花弁の数によって分けられている桜だ。中でも「国宝級」は曲水の千歳橋近くにある兼六園菊桜(けんろくえんきくざくら)だ=写真・下=。学名にもなっている。兼六園菊桜の見事さは、花弁が300枚にもなる生命力、咲き始めから散るまでに3度色を変える華やかさ、そして花が柄ごと散る潔さである。兼六園の桜の季節を200本のソメイヨシノが一気に盛り上げ、兼六園菊桜が晩春を締めくくる。桜にも役どころというものがある。

   上記で述べた「国宝級」というのも、兼六園菊桜はかつて国の天然記念物に指定されていた。その初代の兼六園菊桜(樹齢250年)は1970年に枯れ、現在あるのは接ぎ木によって生まれた二代目だ。実は兼六園では「名木を守る」ため、台風で名木が折れた場合に備え、次世代の子孫がスタンバイしている。

   これは兼六園管理事務所の関係者から聞いた話だが、子孫とは、たとえば種子からとることもあるが、名木のもともとの産地から姿の似た名木をもってくる場合もある。たとえば、兼六園きっての名木である唐崎松。これは、滋賀県大津市の「唐崎の松」から由来する。歌川広重(安藤広重)が浮世絵『近江八景之内 唐崎夜雨』に描いた名木である。近江の唐崎松は2代目だが、第13代加賀藩主・前田斉泰(在位1822-1866)が近江から種子を取り寄せて植えたのが現在の兼六園の唐崎松だ。

   二代目の兼六園菊桜は桜の園を守る主役ではある。あと100年もすれば国の天然記念物に指定されるだろう。兼六園で桜を眺めながら四季の移ろいを感じ、曲水の流れや、玉砂利の感触を楽しんだ。人が変り、時代が変わっても、兼六園は変わらない。五感を満たす時空と空間、壮大な芸術作品、それが兼六園だ。

⇒28日(日)午後・金沢の天気     くもり時々あめ

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☆「地震、カミナリ、火事」金沢の災害

2021年03月27日 | ⇒ニュース走査

    世の中で怖いものの例えとして、「地震、雷、火事、親父」がある。最近は「親父」は怖くなくなり、代わって台風が入る。「地震、雷、火事、台風」だ。一番怖いのは筆頭の「地震」だ。いつ、どこで強い揺れに襲ってくるか分からない。政府の地震調査委員会は、全国の活断層や海溝型の地震に関する最新の研究成果などに基づき、今後30年以内に震度6弱以上の激しい揺れに襲われる確率などを推計した「全国地震動予測地図」の2020年版を公表した(3月26日)。防災科学技術研究所の公式ホームページ「地震ハザードステーション」に掲載されている。以下引用する。

   地震は世界中どこでも起こっているわけではなく、地震が多発する地域とそうでない地域がある。1977年1月から2012年12月までに世界で発生したマグニチュード5以上の地震統計によると、日本の面積は世界の1%未満であるにもかかわらず、世界の地震の約1割は日本の周辺で起きている。つまり、日本は地球規模で見ても地震による危険度が非常に高い。

   2020年版=写真=を見ると、今後、南海トラフや千島海溝沿いでの巨大地震の発生が懸念されている。また、房総沖の巨大地震や、首都直下地震など確率が高い地域が赤紫色で塗られている。自身が住む金沢市も「森本・富樫断層帯」があり、今後30年以内に震度6弱以上の激しい揺れの確率は2%から8%と高レベルだ。長さ26㌔のこの断層帯は市内の中心地を走っている。中心地を走っているというのは、1799年(寛政11)6月29日の金沢地震が起き、断層で崩れたくぼ地などを道路として金沢の街が形成された。再度地震が起きれば市街地を揺れが直撃することになる。

   金沢は「加賀百万石」の優雅な伝統と文化の雰囲気が漂う街と思われている。一方で、江戸時代からの防災の街でもある。加賀鳶(とび)に代表される、伝統的な自主防災組織が金沢にある。また、市内には「広見(ひろみ)」と呼ばれる街中の空間が何ヵ所かある。ここは、江戸時代から火災の延焼を防ぐため火除け地としての役割があったとされる。また、城下町独特の細い路地がある町内会では、「火災のときは家財道具を持ち出すな」というルールが伝えられている。

   なぜそこまで、と考える向きもあるだろう。気象庁の雷日数(雷を観測した日の合計)の平年値(1981~2010年)によると、全国で年間の雷日数がもっとも多いは金沢の42.4日だ。雷がとどろけば、落雷も発生する。1602年(慶長7)に金沢城の天守閣が落雷による火災で焼失している。石川県の消防防災年報によると、県内の落雷による火災発生件数は年4、5件だが、多い年(2002年)で12件も発生している。1月や2月の冬場に集中する。雷が人々の恐怖心を煽るのはその音だけではなく、落雷はどこに落ちるか予想がつかないという点だ。

   寛政の金沢地震から220年余り、震災はいつ起きるか分からない。雷鳴も激しくとどろく。自身のパソコンは常に雷サージ(電気の津波)を防ぐコンセントを使用している。実は怖い街なのだ。


⇒27日(土)夜・金沢の天気        くもり

 

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★ミサイルゲームはいつまで続く

2021年03月25日 | ⇒ニュース走査

   弾道ミサイルを1発打ち上げると、そのコストはいくらなのだろうか。共同通信Web版(3月25日付)によると、北朝鮮はきょう25日、弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射したと日本政府が発表した。北朝鮮東部の宣徳付近から午前7時4分と同23分に発射し、いずれも約450㌔飛行。日本領域には到達せず、日本の排他的経済水域(EEZ)の外に落下した。北朝鮮の弾道ミサイル発射は昨年3月29日以来で、1月のアメリカのバイデン政権発足後で初めて。

   この弾道ミサイル発射の意図は何なのか。以下憶測である。北朝鮮の金正恩総書記が一番恐れていることはアメリカによるピンポイント攻撃、いわゆる「斬首作戦」だろう。実際、アメリカは2011年5月2日のバキスタン攻撃でオサマ・ビン・ラディンに対する斬首作戦を実行した。命令を下したのはオバマ氏、民主党政権下で実施された、

   この斬首作戦を避けるため、金氏はまず弾道ミサイルを打ち上げ、アメリカとの対話の機会を狙う。以下事例だ。2017年7月28日、北朝鮮が打ち上げた大陸間弾道ミサイル(ICBM)はアメリカ西海岸のロサンゼルスなどが射程に入るものだった。北は同年9月3日に6回目の核実験を実施し、同15日には弾道ミサイルを日本上空に飛ばした。それをトランプ大統領が国連総会の演説(同19日)で「ロケットマンが自殺行為の任務を進めている」と演説した。その後、金氏はトランプ氏との米朝首脳会談を2018年6月12日(シンガポール)、2019年2月28日(ハノイ)、同年6月30日(板門店)で3回行った。首脳会談を実施している間はアメリカによる斬首作戦はないと踏んでいるのだろう。

   この経験則をベースに、今度はバイデン氏との対話を求めて挑発を行っているのではないか。金氏が1月5-7日に開催した党大会で、アメリカを「最大の主敵」「戦争モンスター」と呼び、より高度な核技術の追求などを通じて、アメリカの脅威に対する防衛力を絶えず強化する必要があると述べた。核兵器の小型・軽量化と大型核弾頭の製造推進、1万5000㌔射程内の戦略的目標に命中させ破壊する能力の向上を目指す方針も表明。固体燃料を用いるICBMと原子力潜水艦の開発、衛星による情報収集能力強化にも言及した(2021年1月9日付・BloombergニュースWeb版日本語)。

   そして、きょう弾道ミサイルを打ち上げを実行した。ただ、2017年7月28日のICBMに比べると地味なイメージだ。おそらくコストの問題だろうか。国連安保理が履行を求める国際社会による経済制裁、それに昨年の台風と洪水など自然災害の食糧危機、そして新型コロナウイルス対策などが重なって経済情勢がかなりひっ迫していることは想像に難くない。それにしても、金氏はいつまでこのミサイルゲームを続けるのか。

(※写真は朝鮮中央通信HPに掲載されている2017年3月6日の弾道ミサイルの発射の模様。「スカッドER」と推定される弾道ミサイルを4発発射、このうち1発が能登半島沖200㌔に着弾した)

⇒25日(木)夜・金沢の天気     はれ

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☆ぱっと咲いて見事に散る桜の美意識

2021年03月24日 | ⇒トピック往来

    金沢地方気象台による「桜の開花宣言」がきのう23日発表された。同気象台の敷地にあるソメイヨシノが5、6輪以上の花をつけるのが開花宣言の基準になっている。リリース文によると、平年(4月4日)よりも12日早く、統計を開始した昭和28年(1953)以来、最も早い開花という。でも、なぜこんなに早咲きになるのか。地球温暖化が加速しているのだろうか。むしろ不気味に感じる。

   地球温暖化が桜の開花にどのような影響を与えるのか、ネットでチェックすると、ウエザーニューズ公式ホームページに興味深い記事(2020年4月12日付)があった。桜の花芽の成長には気温3-10度前後の低温による「休眠打破」(※園芸用語:寒気などの刺激により植物が活動に入ること)が必要となるが、暖冬だと休眠打破が行われず、成長が遅れる場合がある。開花しても満開にならない場合がある。

   上記のことから考えると、ことしの早咲きの原因には確かに理由がありそうだ。昨年12月と今年1月に強烈な寒波が北陸を襲った。とくに1月9、10日の寒波では自宅周辺でも70㌢ほど雪が積もって、市街地全体も「ホワイトロックダウン」状態だった。その後、2月に入ってからは雪もそれほど降らず、3月早々から春めいた天気が続いた。この寒暖の差が、金沢のソメイヨシノを刺激して早く咲かせたのだろうか。

   逆に言えば、このまま地球温暖化が進めば、冬場にシベリアから寒気団が来ない限り桜の開花は楽しめないということにある。仮に咲いたとしても、だらだらと咲くと満開にならない。楽しみにしているのは、桜の花のうつくしさだけではない。満開の桜だ。「ぱっと咲いて、見事に散る」、我々の心の中には桜に見る美意識というものがある。これが、人々に春の季節感や人生のモチベーションを高めてくれる。

   例年だと開花宣言後の週末、兼六園周辺の平地ではブルーシートを広げて宴会を楽しむ花見客の姿があちこちに見受けられ、季節の風物詩ともなっていたが、昨年はコロナ禍で閑散としていた。おそらく今年も感染防止で自粛だろう。金沢の満開は27、28日の週末だ。自粛ムードが漂う時代ではあるが、せめて桜の咲き乱れる兼六園の散策を楽しみたい。

⇒24日(水)午後・金沢の天気     はれ

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★コロナ禍で地価下落、バブル後の悪夢再びか

2021年03月23日 | ⇒トレンド探査

   コロナ禍では「はやりこうなる」のか。国土交通省がきょう23日、1月1日時点の公示地価を発表した。金沢市の繁華街では軒並み下落している。とくに、中心分である片町2丁目のスクランブ交差点付近では1平方㍍41万5000円、前年が46万円だったので、マイナス9.8%だ。片町付近は最近では人の流れはそこそこ回復しているようにも見えるが、それまでは土日曜日でもゴーストタウンかと思うほど静かな風景を感じたものだ。北陸新幹線開業(2015年3月)の効果もあって、金沢は順調に地価が上昇していたので5年ぶりの下落だろう。コロナ禍が地価という数字となって表れた。

   観光地も直撃している。石川県には5つの温泉地(和倉、粟津、片山津、山代、山中)があるが、片山津で3.5%、粟津で3%、和倉で2.4%などとそれぞれ下落している。それまではインバウンド観光客などのニーズもあって、「温泉観光」はにぎわいを見せていた。それが、観光客の激減で5つの温泉地ともに厳しい状況にさらされている。すでに、休業や廃業に追い込まれたホテルや旅館もある。

   もちろん、首都圏4都県で続いていた緊急事態宣言は今月21日に解除され、観光需要が高まるのではないかと思わないでもない。ただ、観光地や温泉地などは、むしろ「インバウンド頼み」となっているの現状だ。日本政府観光局(JNTO)公式ホームページによると、訪日観光客数は2019年で3188万人だったが、コロナ禍で2020年は411万人と激減している。ちなみに、兼六園を訪れた観光客は2019年は275万人で、うち47万人はインバウンド観光客だった(「金沢市観光調査結果報告書2019年」など)。率にして17%だ。

   景気に連動するとされる地価。観光が地域経済の主力の一つとされる金沢では、ホテルや飲食店などによる土地需要が落ち込めば地価も下がる。地価が下がれば、投資をしようにも金融機関からの融資も回らなくなる。バブル崩壊後に寂れた金沢の光景とダブってしまう。コロナ禍の収束と経済回復を期待するしかない。(※写真は2020年4月25日、金沢市片町の大通りの風景。大型連休初日だったが閑散としていた)

⇒23日(火)夜・金沢の天気       はれ

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☆4選の壁と匿名ポスターの威力

2021年03月22日 | ⇒トピック往来

   きのう21日、石川県では4つの市町選挙があった。小松市長選と中能登、宝達志水、能登の各町長選だ。ある意味で驚いたのは小松市長選だった。失政もなく、69歳という年齢は「まだいける」、そして内閣府の「SDGs未来都市」に選定され、3年後に控えた北陸新幹線小松駅の開業など、ある意味で順風満帆の現職市長が新人の41歳、元市会議員に敗れた。この選挙結果から読み取れるトレンドは何か。

  小松市は建設機械の最大手「小松製作所」の発祥の地でもあり、主力工場などが同市にある。和田慎司氏は大学卒業後に同製作所に入社し、産業機械事業本部副部長をつとめ、2009年に初当選した。今回は4期目を賭けた挑戦だった。一方、初当選を果たした新人の宮橋勝栄氏は大学卒業後に大手ドラッグストア「クスリのアオキ」など経て、2011年4月に小松市議選に初当選。2期目の2017年に市長選に立候補して敗れ、再挑戦だった。

  選挙戦では、和田氏は3期12年での財政健全化の実績を強調し、北陸新幹線小松駅の開業を見据えた駅周辺へのホテル誘致を訴えていた。逆に宮橋氏は緊縮財政で小松市の活気が失われたと批判し、市長退職金(2000万円)の全額カットを公約、さらに小中学校の給食無償化や音楽ホールやカフェを備えた複合型図書館の建設なども公約に掲げた。

   選挙戦では和田氏が自民、公明、立憲民主の推薦を得て、宮橋氏には市議の自民党第二会派などの支援を得ていた。また、小松出身の2人の自民党県議がそれぞれに支援に回るという「保守分裂」の状態だった。ローカル紙の情勢分析をチェックすると、3月14日告示の選挙序盤では、「和田氏を宮橋氏が追う」という論調だったが、中盤17日ごろからは、「和田氏を宮橋氏が激しく追い上げ」「激戦」などとの論調に変わってきた。

   選挙戦の激しさを象徴するかのように、市内265ヵ所の選挙ポアスター掲示板のほかに、匿名ポスターがあちらこちらに貼られた。この匿名ポスターというのは候補者を支援する団体として選管に届けて認められた確認団体が出すもの。ただし、候補者の名前と写真が掲載しないという条件がつく。公選法では市長選の場合、候補者1人つき1000枚のポスターを作成できる。そこで、両陣営は「現職小松市長 再び。今が働き盛り」や「41歳に一票を 若さ 情熱 政策。」など工夫を凝らした匿名ポスター=写真=を貼った。さらにそれを有権者がSNSなどで拡散することで、選挙戦が盛り上がった。ちなみに、右側の歌舞伎の隈(くま)取りは毎年5月に開催される「お旅まつり」で屋台で子ども歌舞伎が上演されることから、祭りのシンボルとして使われる。

   今回選挙(投票率60%)の開票結果は宮橋氏2万8676、和田氏2万3731で、4945票差だった。前回(投票率59%)は和田氏2万7735、宮橋氏2万2678で5057票差だった。まさに5000票差の逆転現象が起きた。

   同市内で住む何人かの知人にメールで選挙結果について尋ねた。すると、宮橋氏の勝因については、「市長になったら退職金を全額カットすると公示の日にアピールしていた。これはけっこうSNSでも話題になった。小中学生の学校給食の無料化もママ友の間では評判がよかった」と。和田氏の敗因については、「四選は長すぎると言う人(有権者)はもともと多くいた。周囲を固めている人もシニアな人が多く、守りの選挙だったのでは」と。

   四選の壁。和田氏の祖父・伝四郎氏は戦後の小松市長を4期(1947-63)つとめた。それ以来、小松市には四選の市長は出ていない。

⇒22日(月)夜・金沢の天気     はれ

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★「外来種」ヒメリュウキンカを生ける

2021年03月21日 | ⇒ドキュメント回廊
   春分のこの時節、金沢でもウグイスの鳴き声を聞く。庭にはウメやツバキが、地面にはヒメリュウキンカの黄色い花が咲いている。床の間に季節の花を活けてみる=写真=。ヒメリュウキンカの花は小ぶりなので主役ではないが、愛くるし眼差しのようで目を引く。

   これまで意識はしていなかったが、ヒメリュウキンカはヨーロッパが原産のいわゆる外来種のようだ(3月21日付・北陸中日新聞)。日本の固有種を駆逐するような特定外来生物などには指定されていない。1950年代ごろに園芸用として国内に入り、金沢市内でも一時、流行したという。葉の形が似たリュウキンカから名前が取られたが、属は異なる。英語名のセランダインとも呼ばれる(同)。
 
   外来種といえば、このブログでも何度か取り上げたタカサゴユリもそうだ。旧盆が過ぎるころ、花の少ない季節に咲く。「高砂百合」の名前の通り、日本による台湾の統治時代の1924年ごろに園芸用として待ちこまれたようだ(ウィキペディア)。当時は外来種という概念もなく、花の少ない季節に咲くユリの花ということで日本で受け入れられたのではないだろうか。匂いもなく、同じころに咲くアカジクミズヒキやキンミズヒキといった花と色合いもよく、床の間に飾られてきたのだろう。
 
   ヒメリュウキンカにしても、タカサゴユリにしても外来種だからといって、自身はほかの在来種と分け隔てしているわけではない。ただ、両方とも繁殖が旺盛なため、増えすぎると根ごと除去することにしている。そして、庭を眺めて植物の生存戦略というものに感じ入ったりする。タカサゴユリは同じ場所に何年も生育すると、土壌に球根を弱める特定のバクテリア(病原菌)が繁殖して枯死してしまう。連作障害だ。そのため、タカサゴユリは種子を風に乗せて周辺の土地にばらまいて新たな生育地に移動する。「旅するユリ」とも称される。

   ブログでこのようなことを書くと、知り合いの植物学者からは、「外来種を床の間に生けるなんて、そんなのんきなことをやっているから在来種が駆逐されるんだ」と言われそうだが。

⇒21日(日)夜・金沢の天気      くもり
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☆海外観客を断念、メディアも規制対象か

2021年03月20日 | ⇒メディア時評

            報道によると、東京オリンピック・パラリンピックの大会組織委員会と政府や東京都、それにIOCなど5者による会談が開かれ、現在のコロナ禍の状況では海外から日本への自由な入国を保証することは困難だとして、海外からの観客の受け入れを断念することが決めた。一方で、東京大会の観客の上限については来月改めて方向性を確認し、その後も柔軟に対応していく(3月20日付・NHKニュースWeb版)。会談はオンライン形式で橋本大会組織委員会会長、丸川五輪担当大臣、小池都知事、IOCのバッハ会長らが参加した。

  組織委の発表文によると、世界の新型コロナウイルスの感染状況は変異株の出現を含めて厳しい状況が続いており、世界各国で国境をまたぐ往来が厳しく制限されている状況下では、今年の夏に海外から日本への自由な入国を保証することは困難だと説明。「すべての参加者及び日本の国⺠にとって、⼀層確実に、安全で安心な大会を実現するための結論」だとした(同)。

   大会組織委員会によると、すでに海外で販売されたチケットの枚数はオリンピックが60万枚、パラリンピックが3万枚に上り、これらのチケットは今後、払い戻しされる。ちなみに、国内で販売されたチケットはオリンピックが448万枚、パラリンピック97万枚となっていて、大会の観客の上限については来月改めて方向性を確認し、その後も柔軟に対応していくとしている。

   橋本氏は会見で、「東京大会はこれまでとは全く異なる大会となるが、アスリートが卓越したパフォーマンスを持って、人々の心を動かす本質は変わらない。今の時代にふさわしい方法で人々をつなぐことができるよう、具体的な仕掛けの検討も進める」と述べた。また、丸川氏は記者団に対し、「IOC、IPCの方からは全面的に日本側の判断を支持するというコメントがあった」と発言。国内の観客については新型コロナの変異株の状況がどうなるか分からないとした上で、「4月に判断することになる」と述べた。

   海外からの観客を断念したとなれば、テレビ中継や新聞などメディアによる五輪報道が欠かせない。来月になれば、東京ビックサイトに設営されたIBC(国際放送センター)にIOCから放送権を得たRHBs(Rights Holding Broadcasters)と呼ばれる放送メディアが続々と準備のために東京にやって来る予定だ。

   気になるのは、海外メディアの取材陣も規制対象とするのだろうか。仮にそうなると、IOCに放映権料を払っているテレビメディアは降りるだろう。困るのはIOCだ。そして、国際世論がまた大騒ぎとなる。

⇒20日(土)夜・金沢の天気       あめ

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