加賀友禅は金沢で染められる友禅で、京都の京友禅や東京の江戸友禅と合わせて「三友禅」と称される。加賀友禅のコレクション展がきょうから開催されていると知人から案内があり、会館「加賀友禅ミュージアムそめりあ」(金沢市)へ見学に行ってきた。加賀友禅は、「加賀五彩」とよばれる臙脂 (えんじ) ・藍・黄土・草・古代紫の5色を使い、花や鳥など自然をモチーフにしたデザインが描かれる。1975年に国の伝統的工芸品に指定され、いまもその技術は脈々と受け継がれている。
今回ミュージアムを訪れたのは、「加賀友禅らしからぬ面白い作品がある」と聞いて、ぜひ見てみたいと思ったからだ。その作品は1階・特別展示室の「おもてなし加賀友禅着物発表会」で飾られていた。加賀友禅作家の河守彩香氏が制作した作品『菊炭』=写真・上=。デザインは花や蝶ではなく、木炭がモチーフなのだ。菊炭は茶道で使われる炭だ。茶道用の炭は切り口がキクの花模様に似ていることから「菊炭」と呼ばれ、炉や風炉で釜の湯を沸かすのに使う=写真・下=。クヌギの木を材料としていて、菊炭はススが出ず、長く燃え、燃え姿がいいとされる。
河守氏は茶道を習っていて、菊炭に美を見出したようだ(知人の話)。この菊炭を生産している石川県で唯一の人が能登にいる。能登半島の尖端、珠洲市の製炭業者、大野長一郎氏だ。大野氏はカーボンニュートラルの実践者としても知られる。樹木の成長過程で光合成による二酸化炭素の吸収量と、炭の製造工程での燃料材の焼却による二酸化炭素の排出量が相殺され、炭焼きは大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない。ただ、実際にはチェーンソーで伐採し、運ぶトラックのガソリン燃焼から出る二酸化炭素が回収されない。そこで、ライフサイクルアセスメント(LCA=環境影響評価)の手法を用いて計算し、生産する木炭の2割以上を不燃焼利用の製品(床下の吸湿材や土壌改良材)とすることで、カーボンニュートラルを達成している。
菊炭の文様と同時に、炭づくりと環境問題に取り組む生産者の熱い想いが友禅作家の創作のモチベーションをかき立てたのではないだろうかと作品を鑑賞しながら思った。
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