先日、金沢大学「角間の里山自然学校」で昆虫採集の集いがあった。いま人気のゲーム「ムシキング」の影響もあってか、あるいは夏休みの宿題の便乗か、このところ子どもたちの参加が多い。ある子どもが「これキラキラムシだね」と捕ってきたムシを見せてくれた。それは、和名・ヤマトタマムシだった。
タマムシと聞いて、6年前の番組のことを思い出した。当時、輪島塗の産地・石川県輪島市でタマムシを使った壮大な作品づくりが行われた。東南アジアのジャングルからタマムシの羽を拾い集め加工し屏風や茶釜など30点にも上る輪島塗に仕上げるとうもの。タマムシを使った工芸品と言えば、法隆寺の国宝「玉虫の厨子」が有名だ。実に1300年の時を経ているが、それ以降、タマムシを使った作品が鎌倉や江戸時代にも見当らない。乱暴な言い方かもしれないが、「玉虫の厨子」から1300年ぶりの作品ではないか、と思ったりもした。
タマムシの羽は硬い。鳥に食べられたタマムシは羽だけが残り、地上に落ちる。東南アジアのジャングルで現地の人を雇い、拾い集める。それを輪島に持ち込んで、レーザー光線のカッターで2㍉四方に切る。それを黄系、緑系、茶系などに分けて、一枚一枚漆器に貼っていく。江戸期の巨匠、尾形光琳がカキツバタを描いた「八橋の図」をモチーフにした六双屏風の大作もつくられた。これには延べ2万人にも上る職人の手が入った。
この作品を発注した岐阜県高山市の美術館「茶の湯の森」のオーナー、中田金太氏から依頼を受けて私は番組をプロデュースした。タマムシで輪島塗を作る、タマムシの羽を拾い集めるという着想は中田氏のオリジナルである。すべての工程をお金で換算すれば数億にも上る「玉虫工芸復活プロジェクト」であった。完成したこれらの作品はすべて茶の湯の森に納められた。輪島塗業界に新たな新風を吹き込んだ中田氏のアイデアの面白さを番組に盛り込んだ。
見る角度によって異なる輝きを放つ。「玉虫色の決着」などと政治の世界ではいまでもよく耳にする。俗な言い方は別として、輪島塗の高度な技と生物の輝き、それを考え出す人の着想の面白さは一見の価値がある。タマムシの四文字から連想ゲームのようにして千文字ほどの文章を書いてしまった。
⇒30日(火)朝・金沢の天気 晴れ