自在コラム

⇒ 日常で観察したことや環境問題、金沢大学での見聞、マスメディアとインターネットについての考察を紹介する宇野文夫のコラム

☆過疎化する世界の農村と向き合う‐下

2014年07月18日 | ⇒トピック往来
 そんな能登だけでなく、05年に世界農業遺産に登録されたフィリピン北部、イフガオ州の里山でも、同様の問題が起きていることがわかった。中村教授とフィリピン大学の研究者が旧知の仲だったこともあり、現地でワークショップを開催しイフガオの現状を話し合った。すると地元の町長が「過疎化が進み、耕作放棄された棚田が増えたため、美しい景観が失われつつあります」と。それは能登が直面してきた課題そのものだった。能登里山マイスター養成プログラムで培った知見を、なんとかイフガオで生かせないだろうか―。JICA草の根協力事業を通じて、金沢大学の挑戦が始まった。

                  イフガオ棚田、手さぐりながら人材育成が始まった

 中村教授らが着手したのは、「イフガオ里山マイスター」養成プログラムの設立だ。金沢大学のパートナーは、イフガオ州大学、フィリピン大学、地元自治体で構成する「イフガオGIHAS持続発展協議会」だ。まずは、学習カリキュラムの作成から。座学と実習の組み立て、農業や養殖、政策などの専門家による講義の手配、卒業課題の進め方などをアドバイスした。「プログラムを実施する地元の教員などの意見を聞き、現地に即した体制づくりを目指しています」と中村教授は話す。2ヶ月かけて、現地の大学、行政、住民代表らとの人材養成ニーズやカリキュラム概要をめぐる討論会をおこなってから、2014年2月には受講生の募集を開始した。約60人の応募者の中から、第1期生20人を迎えた。月2回、1泊2日の日程で1年間学ぶプログラムだ。年代は20~40代、職種も農家、大学教員、行政マン、主婦など、さまざまな経歴を持つ人が集まった。地元の農家、ジェニファ・ランナオさんは、「どうしたら村のみんなが豊かになれるのか学びたい」と参加した理由を話す。

 このプログラムでは、とにかく“考える時間”を受講生に与えるのが特徴だ。「棚田を荒らす外来種のミミズをどう駆除するか」「観光客を呼び込むにはどうすればいいか」「棚田でドジョウの養殖はできるか」…。どの講義日にも、受講生自身が挑戦したい取り組みを決めて、どうすれば実現できるのか、全員で話し合うようにしている。こういった学びを繰り返すことで、自らの課題を見つけ、解決する力が身に付く。

 「いつも受講生の熱意には感心します。伝統的な農業を守りながら、集落を発展させたいと、8時間かけて通っている人もいるんですよ」と、中村教授は、彼らの成長の可能性を感じているよう。受講生の一人、環境保全のボランティアに取り組んできたインフマン・レイノス・ジョショスさんは、「このプログラムでの学びを棚田の保全に生かし、地域の人たちにも伝えていきたい」と目を輝かせる。

 今年9月にはプログラムの一環として能登で研修を行う予定。イフガオと能登の若者たちが交流し、里山と農業の未来を語り合えば、新たな発見が生まれてくるはず―。世界農業遺産を守るため、国境を超えた連携が生まれている。

⇒7月18日(金)午後・金沢の天気    はれ
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★過疎化する世界の農村と向き合う‐上

2014年07月17日 | ⇒トピック往来
大学の同僚からその話を聞いたとき一瞬耳を疑った。ブータンの農村では若者の農業離れが目立ち過疎化が進んでいるというのだ。首都ティンプに出稼ぎにいったまま帰ってこない。道路網が整備され、観光など労働の在り様が多様化している。都市化したティンプへの一極集中らしい。GNH(国民総幸福)という言葉は、ブータンの代名詞となっている感があるのだが、どうやら現実は複雑なようだ。

 過疎化の話はむしろ日本で大問題となっている。衝撃的な試算が出された。このまま日本の人口が減ると2040年には896市町村が消滅し、全国の全国の1800市区町村の半分の存続が難しくなるとの予測をまとめた。人口推計は大学教授や企業経営者からなる民間組織「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会が発表した(5月8日付の新聞各紙)。

 そして先日、総務省が発表した住民基本台帳に基づく人口動態調査(今年1月1日現在)によると、全国の人口は前年同期より24万3684人少ない1億2643万4964人(0.19%減)で、5年連続で減少した。少子高齢化の進行で、死者数(126万7838人)から出生数(103万388人)を引いた「自然減」は7年連続で増加し、過去最多の23万7450人だった。つまり、山形市(25万)、宝塚市(22万)、佐賀市(24万)、呉市(同)クラスの都市が一つ消えたくらいの人口減だ。こうした過疎化する農山漁村とどう向き合えばよいのか。能登とフィリピンのイフガオの棚田での取り組みを紹介する。JICA広報誌「mundi」7月号に紹介された金沢大学の記事を紹介する。

                  加速する能登の過疎化と人材養成プログラム 

 能登半島山の斜面に積み重なる緑の幾何学模様。その先に広がる青い海。石川県能登半島にある棚田、白米千枚田はまさに絶景だ。この棚田のように、山や森林などに人が手を加えながら自然と共生してきた地域を“里山”と呼ぶ。能登の人々は、近代化が進む中でも地域ぐるみで里山を守り続け、2011年には、国連食糧農業機関(FAO)から伝統的な農業の保全・継承を目指す世界農業遺産(GIAHS)に認定された。

 しかし、新たな課題に直面してきた。「若者が職を求めて都市部に移住し、過疎化が急速に進んでいます。集落の維持が難しい地域すらあります」。そう話すのは、金沢大学里山里海プロジェクトの研究代表、中村浩二特任教授。このままでは人口は減る一方、能登の里山を守る人もいなくなってしまう―。この危機を打開しようと07年に金沢大学が立ち上げたのが、能登里山マイスター養成プログラム(12年から「能登里山里海マイスター育成プログラム」)だ。

 目的は、森林の管理方法や環境配慮型農法、農産品の販売促進などを伝え、里山を守る人材を育てること。プログラムは1年間で、隔週土曜日。参加者は「能登の美しい里山を守りたい」と、能登だけでなく、意外にも全国各地から集まった。これまでに農業者をはじめ、会社員や行政マン、デザイナー、主婦など84人が修了。能登の荒廃地にクヌギの植林をして付加価値の高い炭を生産したり、地元の食材を使ったお菓子販売を始めたりと、里山を維持する新たな担い手が育ちつつある。

⇒7月17日(木)朝・金沢の天気  くもり
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