自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆ガソリン1㍑177円から学ぶ デフレ不況後の経済新局面

2023年07月31日 | ⇒メディア時評

   ことし6月22日付のブログで自宅近くのガソリンスタンドの価格が会員価格で1㍑170円(一般価格172円)にアップした、と書いた。きょう給油に行くと、会員価格で1㍑177円(同179円)になっていた=写真=。以前聞いたスタンド店員の話だと、政府が石油の元売り会社に支給している補助金が徐々にカットされていて、補助金がなくなればあと10円ほど高くなるとのことだった。ガソリンだけでなく、物価が全体的に上がり出している。

   そこで気になるのが、日銀が先週28日の金融政策決定会合で10年来続けてきた「異次元緩和」を柔軟にすると決めたことだ。長短金利の操作(イールドカーブ・コントロール)で長期金利を「0.5%程度」としてきたが、1.0%へと事実上、引き上げることに修正した。この日銀の判断をどう評価すればよいのだろうか。高まるインフレ圧力に抗しきれないとの判断なのだろうか。あるいは、デフレ脱却と経済が好循環に向うチャンスと読んでの判断なのだろうか。素人感覚では評価が難しい。

   そこで、日経新聞(31日付)をチェックすると、なるほどと納得する記事があった。「オピニオン」のページに「600兆円経済がやってくる」の見出しで、特任編集員の滝田洋一氏が書いている。以下、記事の引用。「日本経済は長期にわたるデフレ不況を克服し、インフレの下で新たな成長に向いつつある」「601.3兆円。内閣府は7月20日、2024年度の名目国内総生産(GDP)の見通しを発表した。600兆円といえば、15年に当時の安倍晋三首相が打ち出した新3本の矢の第1目標である」「物価が上がり出したことで、名目GDPが押し上げられるのだ。GDPばかりでない。企業の売上、利益、働く人の給与明細、株価、政府の税収。目に見える経済活動を含む『名目』だ」

「1990年度から2021年度にかけて、大企業は売上高が5%増にとどまるなか、経常利益を164%伸ばした。リストラで利益を捻出したのである。企業による設備と人件費の抑制は、経済のエンジンである投資と消費を失速させてきた。インフレの到来でその舞台は一変した」「23年度の設備投資は名目ベースで100兆円台に乗せ、過去最高となる勢いだ」

   最後にこう締めている。「バブル崩壊後の日本は経済が軌道に乗りかけると、財政政策か金融政策かでブレーキを踏み、経済を失速させてきた。その轍(てつ)を踏まぬよう細心の注意が必要だ」

   この締めの言葉は実に経済ジャーナリストらしいひと言である。防衛費や少子化対策予算として増税が議論されているが、経済が拡大すれば税収が増えるのだ。増税しか頭にない政治家や官僚にぜひ目を通してもらいたい記事である。

   1㍑177円のガソリン価格からふと思ったことが、日本の新たな経済局面を学ぶチャンスにもなった。これがブログの醍醐味かもしれない。

⇒31日(月)午後・金沢の天気     くもり

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★「地球沸騰化」をもたらす化石燃料は段階的廃止なのか 

2023年07月30日 | ⇒メディア時評

   前回ブログの続き。国連のグレーテス事務総長が「地球は沸騰化の時代に入った」と述べたように、地球温暖化対策は待ったなしとなり、ことし11月から開催される国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、二酸化炭素を排出するすべての化石燃料の段階的廃止の具体化が決議されるのではないか、と自身は注目している。

   そして、このCOP28の決議が日本の政策にどのような変革を迫るのかも注目である。岸田政権は、2030年に温室効果ガスの46%削減、2050年までに大気中に排出される二酸化炭素を実質ゼロとするカーボンニュートラルの実現を掲げている。カーボンニュートラルの実現に向けて岸田政権が打ち出しているのは原発の活用だ。きのう29日付の朝刊各紙によると、関西電力は28日に営業運転開始から48年が経過した高浜原発1号機(福井県高浜町、82.6万㌗)の原子炉を再稼働させた。この原発は国内で最も古いとされ、2011年1月に定期検査に入り、以降停止していた。9月には高浜原発2号機の再稼働も予定している。

   ことし5月には60年を超える原発の運転を可能とする法律「GX(グリーン・トランスフォーメーション)脱炭素電源法」を成立させている。簡単に言えば、車検に合格すればクラシックカーも道路を走行できるのと同じ扱いになった。

   COP28での会議で議論になるのは石炭火力発電の扱いではないだろうか。COP27では、化石燃料の段階的廃止と再生可能エネルギーの拡大をうたってはいるが具体策は明示されていない。そして、日本では、ことし6月、大手電力2社が新たなタイプの石炭火力発電所を稼働させている。四国電力の西条発電所1号機、そして、JERAの横須賀火力発電所1号機だ。横須賀火力発電所1号機は、高効率な発電設備であり、水素やアンモニアを混焼するため、建て替え前の発電所に比べて二酸化炭素の排出が3割減少すると見込まれている。さらに、二酸化炭素を大気に放出せずに回収して地下などに溜める、いわゆる「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage」の実現を目指している。

   日本の売りは二酸化炭素を排出を低減する新たな技術を備えた石炭火力発電なのだが、世界でどこまで受け入れられるだろうか。たとえれば、次に乗用車を買う場合はEV車にするかハイブリッド車にするか、という選択肢ではないだろうか。EUはことし3月、2035年にガソリンなどで走るエンジン車の新車販売をすべて禁止するとしてきた方針を変更し、温暖化ガスを排出しない合成燃料を使うエンジン車は認めると表明している(3月25日付・朝日新聞Web版)。

   化石燃料をめぐる論議が今後、COP28だけでなくあらゆる国際会議でなされるだろう。そこに日本の技術が評価されるのか、どうか。

⇒30日(日)夜・金沢の天気    はれ

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☆この暑さ「地球は未知の領域」に 難題かぶさるCOP28

2023年07月29日 | ⇒メディア時評

   異常気象は世界を覆っている。28日付のBBCニュースは、7月の暑さが記録的なことから、「Climate change: July set to be world's warmest month on record」の見出しで、グレーテス国連事務総長のこのようなコメントを掲載している。「the planet is entering an "era of global boiling"」。「地球は沸騰化の時代に入った」と。グレーテス氏は単に暑いと言っているのはなく、異常な暑さの背景として化石燃料の使用による二酸化炭素の排出があると言っていることは間違いない。

   また、BBCは別の記事(24日付)で、ロンドンの気象学者のコメントとして、現在の状況は温室効果ガスの増加によって気温が上昇した世界で起こると予測されていた、まさにその通りのことが起きていて、「気温上昇の傾向は100%、人類が引き起こしたことだ」と述べている。多くの人々はエルーニーニョ現象のせいだと思っているが、温暖化の記録はすでに6月で破られている。エルニーニョ現象は通常、発生から5、6ヵ月たたないと世界的な影響を及ぼさない、説明している。

   気象庁は、今月20日にことしの夏は広い範囲で「10年に一度」クラスの暑さになる可能性があると発表していたが、BBCの記事を読むとそんな生易しい状況ではないようだ。むしろ、24日付の記事「Earth in uncharted waters as climate records tumble」にあるように、「地球は未知の領域」に入ってしまったのか。

    ことし11月から国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)がアラブ首長国連邦で開催される。これまでの議論で国際社会は「世界平均気温の上昇を産業革命前に比べ1.5度以内に抑える」との目標を共有している。ところが、世界気象機関(WMO)の年次報告書によると、今後5年間のうち、少なくと1年間で1.5度を超える年が66%の確率である、としている。その66%の確率の年は今年になる可能性もある。

   そうなるとCOP28は混乱に陥るだろう。環境団体からは石炭、石油、ガスなどすべての化石燃料の段階的廃止を強烈に求められる。COP28の議長はUAEのスルターン・アル・ジャーベル氏。アブダビ国営石油会社のCEOであり、UAEにおける気候変動対策やクリーンエネルギーへの取り組みに実績のある人物とされる。気候変動と化石燃料という地球課題を人類が納得するようにどう導いていくのか。

⇒29日(土)午後・金沢の天気    くもり

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★「禁酒の村」の物語

2023年07月27日 | ⇒ドキュメント回廊

   「質素倹約」という少々古くさいイメージの言葉がある。ムダな消費を控えてコツコツと金をため込むと解釈しがちなのだが、これを単にため込むのではなく投資に回すというふうに考えれば、実に合理的で先駆的な言葉のようにも思える。この質素倹約を村を挙げて実践したムラが石川県にある。いまでも「禁酒の村」として伝えられる。

   津幡町河合谷(かわいだに)地区は石川県と富山県の県境沿いの山間地にある。「禁酒の村」はこれまで話には何度も聞いていたが、先日、初めて現地を訪れた。かつては河合谷村として独立村だった。その村長から村ぐるみの禁酒の提唱があったのは大正15年(1926)1月28日のことだった。以下、説明書き「河合谷村【禁酒】の碑 由来」から。

   当時、明治8年(1875)に開校した村の小学校は老朽化していた。そこで、全面的な建て替え費用として当時の金で4万5215円の資金が必要となり、村長は「自治改良委員会」に諮った。自治改良委員会は公選の委員と有識者らで構成する合議制の執行機関のこと。積立金2000円と基本財産3000円の計5000円を差し引いて、不足分の4万円余りをどう工面するか。村長が提案したのは禁酒による資金の捻出だった。

   議論は白熱した。「酒を薬として愛飲している者もいる」「祭礼や地鎮祭、婚礼のなどの儀式で酒を禁止にするのは不可能だ」などの反対意見が上がった。最終的には「学校の建て替えは急がねばならない。こうした非常時にこそ禁酒は村民の同意を得られる」と全会一致で決議した。

   当時の4万円余りとは現在に換算するとどのくらいか。大正末期の大卒サラリーマンの初任給(月給)は50-60円というデータがある。現在だと22万円5千円。単純に当時を55円と計算すると、現在はざっと4090倍に相当する。雑ぱくな計算だが、当時の4万円は現在の1億6360万円相当となる。これを298戸・住民1576人の村で賄うのである。

   5年間は禁酒して倹約、ためたお金を小学校の建て替え費に充当するという村挙げての取り組みだった。子どもたちの教育という投資のために、禁酒運動はその年の4月1日から始まった。「全村民は酒を飲んだつもりで毎日最低5銭以上を貯金する」という「つもり貯金」を実施した。家々に禁酒規約が配られ、村内では酒を飲まない、客にも出さない、酒類の販売も禁止、と徹底した。説明書きに記述はないが、おそらく経費の分担は、資産状況によって分担金がランク付けされる「万雑割(まんぞうわり)」だったのだろう。そして、村の入り口の川の橋のたもとには「禁酒」の石碑=写真=が設置された。

   その年の7月に小学校の建て替え工事は完了したが、ちょっとした異変が起きた。新聞社がこの「禁酒の村」を報じると、全国で初めての禁酒の村として注目されるようになった。村には全国から激励文や視察の訪問が相次ぐようになった。すると、禁酒はムラの誇りにもなり、5年の償還を終えても、そのまま継続して、昭和20年8月の敗戦まで続いた。その後、河合谷村は昭和29年(1954)5月に津幡町に編入される。

          禁酒はその後、伝説となった。もし、現在でも河合谷地区で続けられていれば、「禁酒のムラ」として世界から注目されていたかもしれない。小学校はその後、昭和46年(1971)に移転し、過疎化による児童数の減少で平成20年(2008)に閉校となった。学校創立から133年の歴史に幕を閉じた。

⇒27日(木)夜・金沢の天気     はれ

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☆いよいよヤル気か 北朝鮮がまた日本海に弾道ミサイル

2023年07月25日 | ⇒メディア時評

   また北朝鮮が弾道ミサイルを発射した。今月に入り弾道ミサイルや巡航ミサイルの発射の頻度高めている。防衛省公式サイトによると、北朝鮮は深夜の24日午後11時54分と59分に北朝鮮内陸部から、計2発の弾道ミサイルを東方向の日本海に向けて発射した。日本のEEZ外に落下した。1発目は最高高度100㌔で、350㌔飛翔、2発目は最高高度100㌔で、400㌔飛翔したと推定される=図、防衛省公式サイトより=。

   今月だけでも4回目だ。今月22日午前4時ごろに朝鮮半島西側の黄海に向けて数発の巡航ミサイルを発射している。19日午前3時台には日本海に向けて短距離弾道ミサイル2発を発射、EEZ外に落下。12日にはICBM(大陸間弾道ミサイル)1発を発射している。弾道ミサイルは74分間飛翔し、北海道の奥尻島の西方250㌔の日本海のEEZ外に落下。飛翔距離は1000㌔、最高高度は6000㌔を超えると推定されている。弾道ミサイルや、弾道ミサイル技術を用いたものの発射はことし14回目だ。

   なぜこれほどまで頻繁に北朝鮮はミサイルを発射するのか。メディア各社の報道から読み解くと、一つには戦意高揚があるのかもしれない。北朝鮮は、朝鮮戦争の休戦協定(1953年7月27日)の日を「戦勝節」と位置付けていて、ことしは70年の節目に当たる。二つめは、アメリカ軍の動きに過敏になっていることがある。きのう24日、アメリカの原子力潜水艦「アナポリス」が済州島に入港している。また、今月18日から21日まで、核兵器を搭載可能なアメリカの戦略原子力潜水艦「ケンタッキー」が南東部の釜山に寄港していた。北朝鮮とすれば、こうした米韓の軍事的な連携に神経を尖らせているだろう。

   三つめは自身の憶測だが、ロシアとの連携であえて軍事行動に出て、アメリカの意識をウクライナから朝鮮半島へとそらすことを想定しているのではないだろうか。ロシアとすれば、クラスター爆弾を供与するなどウクライナへのアメリカの肩入れがハードルになっている。そこで、朝鮮半島での紛争を北朝鮮に仕掛けさせてアメリカをここに注目させる。さらに、中国による台湾への軍事侵攻を仕掛けさせて、アメリカを巻き込む。そのようなシナリオではないだろうか。まったくの憶測である。

   このところ、ロシアの安全保障担当と中国外交担当トップが南アフリカで会議を行ったり、中国共産党幹部が北朝鮮を訪問するなど、ロシア・中国・北朝鮮の外交が妙に活発化しているような印象から、上記のシナリオを勝手に詮索してみた。

⇒25日(火)夜・金沢の天気   はれ

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★身を切らずして支持はなし 内閣支持率が「危険水域」に

2023年07月24日 | ⇒メディア時評

    岸田内閣の支持率がいよいよ「危険水域」に落ち込んだ。毎日新聞の世論調査(今月22、23日)によると、内閣支持率は28%と、前回調査(6月17、18日)33%から5ポイント下落した。不支持率は65%で、前回調査58%から7ポイント上昇した。さらに注目するのは読売新聞の世論調査(今21-23日)だ。内閣支持率は35%と、前回調査(6月23-25日)41%から6ポイント落ちた。不支持率は52%で前回調査44%から8ポイントも上昇した。読売新聞では支持率が35%だが、この分だどいよいよ次回は20%台ではないか。

   読売新聞の調査で内閣支持率の20%台は政権の「危険水域」、20%以下は「デッドゾーン」だ。第一次安倍改造内閣の退陣(2007年9月)の直前の読売の内閣支持率は29%(2007年9月調査)、その後の福田内閣は28%(2008年9月退陣)、麻生内閣は18%(2009年9月退陣)。民主党政権が安倍内閣にバトンタッチした2012年12月の野田内閣の支持率は19%だった。つまり、岸田内閣もあと6ポイント下げれば、「危険水域」に突入する。毎日新聞の今回の28%は、その狼煙(のろし)のようなものだ。

   なぜ岸田内閣の支持率が下げ止まらないのか。読売、毎日両紙の解説は、第一にマイナンバーカードをめぐる問題が収束していないことが要因としている。このトラブルへの対応で、岸田総理が指導力を発揮していると「思わない」が80%に上り、「思う」12%を大きく上回っている(読売新聞調査)。さらに、トラブルが解決すると「思わない」が78%、来年秋に健康保険証を原則廃止としてマイナンバーカードに一本化することに「反対」は58%と、この問題の根深さが数値で浮き出ている(同)。

   マイナスイメージはこのほかにもある。直近で言えば、国家公務員の夏のボーナス(期末手当)が大幅に増額されたことだ。去年に比べて5万2500円、率にして9%増加だった。「増税、増税」と言いながら、一方で国家公務員のボーナスを9%アップした。とくに、700人余りいる衆参院の国会議員のボーナスアップは、有権者の理解を得られただろうか。岸田総理と閣僚は行財政改革の一環として3割カットして返納しているものの、本来、行財政改革を言うのであれば、まず国会議員の定数削減を大胆に行わない限り、有権者の支持は得られないだろう。岸田内閣には身を切る覚悟が求められている。

⇒24日(月)夜・金沢の天気    はれ

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☆俳句の世界を感性で駆け抜けた千代女の人生

2023年07月23日 | ⇒ドキュメント回廊

   夏休みに入って、登校時に響く小学生たちのにぎやかな声が聞こえなくなった。むしろ、子どもたちは夏休みの学習帳と奮闘しているのだろう。その中で、17音の文字数で自らの思いや感動を表現する俳句を学習するのも夏休みではないだろうか。自身もこの時節にふと「朝顔やつるべとられてもらい水」の一句を思い浮かべることがある。

   先日、石川県白山市にある「千代女の里俳句館」を見学した。2年前にも訪れたが、このときは臨時休業となっていて今回が初めての見学。館内には千代女の人生と折々の俳句が紹介されている。千代女は元禄16年(1703)に現在の白山市松任(まっとう)で表具師の娘として生まれ、73歳で没するまで生涯で1900余の句を残したといわれている。

   同館のパンフによると、12歳で俳句の手ほどきを受け、その才能が認められたのは17歳のとき。松尾芭蕉の門人であった美濃の各務支考(かがみ・しこう)が松任を訪れた折に千代女と面会した。そのときに千代女が詠んだ句の一つが「稲妻のすそをぬらすや水の上」。夜に稲妻が走り水面を一瞬照らした。まるで稲妻が裾をぬらしたようにも見えた。このダイナミックな情景描写に、支考は「あたまから不思議の名人」と称賛した。

   18歳で加賀藩の足軽の家に嫁ぐも、20歳のときに夫と死別したことから松任の実家に帰る。このころから、金沢や小松、名古屋、美濃、伊勢の俳人らと交流を深める。52歳で剃髪して尼僧となる。(※写真は「千代女の里俳句館」の千代尼象)

   大きな転機となったのが宝暦13年(1763)。朝鮮通信使という外交団が訪日した。徳川家治の将軍職の襲名を祝うためだった。幕府は国賓を迎えるため、その接待役を加賀藩主の前田重教に命じた。そこで重教は千代尼の俳句を使節団の土産に持たせることを発案して、幕府の了解も取り付けた。千代尼は当時61歳、これまで詠んできた俳句の中から21句を選んで、掛け物6本と扇子15本に句をしたためた。千代尼とすれば、幕府からお墨付きをもらって朝鮮使節団への贈答品として自らの句を納めた。大変名誉なことだったろう。この時に詠んだ句。「仰向いて梅をながめる蛙かな」。梅は前田家の家紋であり、チャンスを与えてくれた藩主に感謝を込めた。

   その後、『千代尼句集』(上下2冊)が出版されて、俳人であり文人画家でもあった与謝蕪村らとの交流も深めていく。辞世の句は「月も見て我はこの世をかしく哉」。「かしく」は当時女性が手紙の結びに用いたあいさつ語で、「さようなら」の意味。名月や満月を見ることができ、この世に未練もなく、心安らかにこの世を去ることができます。みなさん、さようなら。俳句の世界を女性の感性で駆け抜けた人生だった。

⇒23日(日)夜・金沢の天気   はれ

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★ハス田の中に、その蕎麦屋はあった

2023年07月22日 | ⇒トレンド探査

   金沢の北部にある小坂地区はレンコンの産地で知られる。先日行くと、一面にハス田が広がり、白く大きなハスの花が咲き誇っていた。花を眺めていると心が洗われるというか、霊験あらたかな想いに浸るから不思議だ。

   友人たちと入った蕎麦屋は周囲をハス田に囲まれた、趣きのあるたたずまいだった。家屋は旧加賀藩の農家の特徴といわれた「東造り(あずまづくり)」の建築様式だ。切妻型の瓦屋根は、建物の上に大きな本を開いて覆いかぶせたようなカタチをしている。黒瓦と白壁のコントラスを見上げながら、玄関を入る。店内には簾戸(すど)が並んでいて、これもどこか懐かしい雰囲気が漂う。

   案内された席に座り、せいろ、天ぷら、さば寿司を注文する。待つ間に、中庭を眺める。枯山水の庭だが、じつによく手入れされていると感心した。なにしろ、雑草一つ生えていない。店員に尋ねると、毎朝、庭の清掃から一日の作業が始まるのだとか。そんな話を聴くと、妙に禅寺の雰囲気が漂う。

       蕎麦が出てきた。福井県今庄町のソバ生産農家から仕入れている。この店のを蕎麦はソバ粉を9割の配合で打つ、いわゆる「九割そば」。風味と香りが楽しめる。つゆも醤油味が濃いめで独特の甘みがある。(※写真2枚は「穂乃香」公式ホームページより)

   話は冒頭のハス田に戻る。「蓮(はす)は泥より出でて泥に染まらず」という教訓めいた言葉がある。水面下はドロ沼ではあるが、清らかで美しく咲く姿に、いにしえより人々は自らの人生を想いながら、苦境であっても人生の花を咲かせたいと願ってきたのだろう。

   「黎明の雨はらはらと蓮の花」(高浜虚子)。明け方に雨が降り、蓮の池からパラパラと葉を打つ音がした。蓮を見ると花が咲いていた。花を見に来いと蓮が伝えてくれたのだろう。泥中の蓮の奥深い魅力ではある。

⇒22日(土)夕・金沢の天気   はれ

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☆加害者が生きながら罪を償うということ

2023年07月21日 | ⇒ランダム書評

   「井上嘉浩」という人名で、とっさに浮かぶのはオウム真理教というカルト教団だ。1995年3月20日に東京で起きた地下鉄サリン事件は死亡者14人ほか負傷者数を多数出したオウム真理教による同時多発、そして無差別テロだった。神経ガスのサリンを散布を麻原彰晃(松本智津夫)教祖に提案し、実行役らとの総合調整という役割を果たしたのが井上嘉浩。死刑が執行されたのは2018年7月6日だった。

   5年が経って、一冊の本が出版された。高橋徹著「『オウム死刑囚 父の手記』と国家権力」(現代書館)=写真=。井上元死刑囚の自戒や、加害者の家族の葛藤がリアルに伝わって来る。以下、著書から。井上は高校2年(1986年)の時に、麻原教祖の姿に感銘を覚えて入信した。「白でも、尊師が赤と言ったら赤なんだ」と言いうまでに麻原教祖を絶対視するようになった。そして、「麻原の側近中の側近」「諜報省のトップ」「修行の天才」と言われるまでに。親から見れば、「率直で、まじめで、非の打ち所のない」自慢の息子が、いまで言うマインドコントロール下に置かれたのだった。

   家族の葛藤というのも、麻原のマインドコントロール下に追い込んだのは、まさに家族ではなかったのかとの状況もあった。井上は獄中で綴った手記に両親についてこう書いている。「たまに日曜日に一緒に食事をすると、突然大声を上げて卓袱台をひっくり返しました。母は金切り声を上げて、父とケンカし、二階の部屋へ引っ込みました。父は一階の応接間にこもりました。誰も掃除をせず、いつもの私が片付け、無性に悲しく一人で泣きました」。父母のケンカの原因は井上家が抱え込んだ債務だった。少年のころの井上にとって、家庭は心安らぐ場所ではなかった。中学2年のころから、古書店をめぐり、宗教の書物に救いを求めるようになった。

   特別指名手配されていた井上は地下鉄サリン事件の56日後に逮捕される。ここから、井上と両親の間で、面会や手紙をじて井上の自戒と両親の葛藤が綴られていく。逮捕から7ヵ月経った12月26日、父の諭しに応じた井上はオウム真理教に脱会届を出す。手紙でのやり取りでも、これまでの「尊師」が「松本氏」に変化した。一審は無期懲役の判決が出たが、二審では地下鉄サリン事件で総合調整役を務めたなどとして死刑に。判決の訂正を求めた被告側の申し立てを最高裁が棄却し、2010年1月に死刑が確定する。

   著者は、井上死刑囚から支援者に届いた188通の手紙や、父親が地下鉄サリン事件が起きてから死刑が執行されるまで24年間にわたり書き綴った手記(400字詰め原稿用紙でほぼ千枚)を読み解きながら、加害者の家族は加害者なのか、われわれは死刑制度をどこまで理解しているのか、加害者と被害者が向き合い、生きながら罪を償うというあり方は議論できないだろうか、と問いかけている。

⇒21日(金)午後・金沢の天気   はれ

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★クマなど野生動物が出没 懸念される人への感染問題

2023年07月20日 | ⇒ニュース走査

   最近、クマが街に出没したとのニュースが多い。きょう20日の朝刊によると、19日午前8時半ごろ、石川県加賀市の国道305号沿いにある観光施設「月うさぎの里」に体長が1.6㍍ほどのクマが厨房裏口から侵入した。開店前で客はおらず、従業員らは事務室に避難した。その後、警察や地元の猟友会などが来て館内や周囲を捜索したがすでにクマは屋外に逃げていた。館内ではテーブルが倒され、イスにはひっかき傷があった。ふんも散らばっていた。同市内ではことし4月からこれまでに37件のクマの目撃情報が寄せられていて、例年の倍近い。   

   クマは場所を選ばない。これまで金沢市内でもいろいろなところに出没している。金沢の野田山は加賀藩の歴代藩主、前田家の墓がある由緒ある墓苑だ。市街地とも近い。7月の新盆や8月の旧盆のころ、クマはお供え物の果物を狙って出没する。なので、「お供え物は持ち帰ってください」との看板が随所に立てられている=写真=。

   クマは街の中心街にも出る。兼六園近くの金沢城公園で、たびたび出没していたことから、捕獲用のおりを仕掛けたところ体長1㍍のオスがかかったことがある(2014年9月)。周辺にはオフィスビルなどが立ち並ぶ。

   山から人里に下りてきているのはクマだけではない。金沢の住宅街にサル、イノシシ、シカが頻繁に出没するようになった。こうした野生動物は本来、奥山と呼ばれる山の高地で生息している。ところが、エサ不足に加え、中山間地(里山)が荒れ放題になって、野生動物が奥山と里山の領域の見分けがつかずに人里や住宅街に迷い込んでくる、とも言われている。あるいは、野生動物が人を恐れなくなっている、との見方もある。

   こうなると、懸念されるのは人身事故だけでない。UNEP(国連環境計画)がまとめた報告書に「ズーノーシス(zoonosis)」という言葉が出てくる。新型コロナウイルスの発生源として論議を呼んだコウモリなど動物由来で人にも伝染する感染病を総称してズーノーシス(人畜共通伝染病)と呼ぶ。野生動物との接触度が増えると感染リスクが高まる、という内容だ。欧米を中心に感染が広がった天然痘に似た感染症「サル痘」、エボラ出血熱や中東呼吸器症候群(MERS)、HIVなどがズーノーシスに含まれる。

   クマやサル、イノシシなどの野生生物が住宅街にこれだけ頻繁に入って来るようになると、日本でもズーノーシスが発生するのではないか。けさのニュースを読んで、そんなことを懸念した。

⇒20日(木)午前・金沢の天気    くもり時々はれ

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