自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆広告市場にネットの大波

2005年06月20日 | ⇒メディア時評
    先日、ある民放キー局から株主総会(6月29日)の招集通知書が届いた。株式を購入したのは、営業報告書や貸借対照表を通してテレビ業界をウオッチするためである。今回届いたキー局の営業概況を説明しよう。平成16年度の連結売上高は2420億円で前年度比11%増である。アテネオリンピックの効果だ。営業利益は136億円(前年度比108%増)。経常利益は135億円(同130%増)となり、利益率5.5%である。テレビ局をコンテンツ流通業と見なせば、ヤマト運輸の利益率3.9%であり、利益率は悪くない。1株当たりの純利益は7198円、前の年度の4.6倍にも膨らんだ。ちなみに1株当たりの年間配当金は1300円である。

    この内容を見る限り、テレビ業界はいいことずくめのようだが、これから起こるテレビ業界のことをちょっと考えてみる。アメリカではすでにメディア(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・インターネット)の視聴・購読時間の15%がインターネットの閲覧に費やされており、急速にインターネットの広告市場が拡大している。日本の広告市場はどうなっているのか。日本のメディアに投下された2004年の広告費はテレビ・ラジオ・新聞・雑誌・インターネットで合計3兆8574億円である(電通調べ)。そのうちネットは1814億円、ラジオの1795億円で、シェアはともに4.7%だが、金額ではネットがラジオを抜いたのある。近い将来、アメリカ並みにネットが日本の広告市場で伸びるとすると、シェア15%、金額にして5800億円ほどに膨らむと推測できる。

    しかし、全体の広告市場はすでに頭打ちである。金額ベースで1985年を100とした場合、2000年の174をピークに減少しているのだ。つまり、ネット収入が膨らんでいる分、どこかがへこんでいる計算になる。そのへこみはメディアではこれまで新聞とラジオだったが、すでに底打ち傾向である。今後、ネット市場が伸びた場合、どのメディアが割りを食うのかというとテレビ、中でも可能性がもっとも高いのがローカル局なのだ。大手スポンサーは手持ちの広告費を配分する際、東京、大阪、名古屋のテレビ局は外さない。大都市圏での販売シェアを確保したいからだ。ネットに広告費を回す場合、削ることになるのはローカル局への配分だ。事実、99年にネットバブルがはじけてネット関連の広告(PCなど)需要が落ち込んだ時、やはり削られたのはローカルのCM出稿だったのである。

     今後、2006年のローカル地上波のデジタル化が一気に進む。どんな小さなローカル局でも40億円ぐらいの投資が必要となってくる。その投資の波と、ネット広告の拡大の波と重なるのが来年だ。内部留保を吐き出し、デジタル化の投資がひと段落したころに「15%」のネット市場が迫ってくる。系列のローカル局の面倒を見るのは最終的にキー局だ。さらに、アメリカでも起きている現象だが、ヤフーとグーグルの売上高は今年、ABC,NBC,CBSのアメリカ3大ネットのプライムタイム広告収入に並ぶ可能性も指摘されている。キー局と言えども安泰ではないのだ。

     この広告市場にくるネットの大波は日本にも必ずやってくる。テレビメディアのマネジメントが、変化のスピードについていけるかどうか。放送と通信の融合に果敢に挑む姿勢が示せるのかどうか。イノベーションを起こせなければ凋落する。これは自明の理である。自宅に届いた一通の株主総会召集通知書からいろいろなことを考えてしまった。

⇒20日(月)午後・金沢の天気  晴れ
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