自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★モリアオガエルの卵と心臓

2005年06月09日 | ⇒キャンパス見聞
  金沢大学角間キャンパスの創立五十周年館「角間の里」横に湧き水があり、池になっています。モリアオガエルがゲロゲロと勢いよく鳴いていると思ったら、産卵の季節なんですね。けさ(9日)大きな卵を木の枝にぶら提げるようにして産み付けてありました。直径20㌢以上はあるでしょうか。じっとみつめていると、人の心臓にも見え、気のせいか生命の鼓動がかすかに聞こえたようにも感じられました。

  昨夜(8日)、金沢大学教授(自然計測応用センター)の中村浩二教授が朝日新聞金沢総局で「里山に学ぶ~金沢大学の実践から~」というテーマで講演しました。以下は要約です。「里山(さとやま)」という言葉は割りと新しく、岩波書店の「広辞苑」で登場したのは1998年の第5版でした。むしろ、「奥山(おくやま)」という言葉の方が古いようです。これは、ひとえに注目度の違いです。奥山は原生的な森であるのに対し、里山はどこにでもある農山村です。ようするに有難味のない風景なのです。その里山が俄然注目を集めたのは、去年、西日本を中心に起きた「クマ騒動」でした。新聞紙面に「里山にクマ出没」「里山になぜクマが」などと見出しが躍りました。里山と奥山の区別がつかないほど里山が荒れ、クマ自身がその領域の見分けがつかず、里山に迷い込んでくるのです。これを人災と見るか、害獣の侵入と理解するかは人間の感性の問題なのかもしれません。
                   
  里山がなぜ荒れるのかー。講演会が終了して、講師と聞き手を交えた意見交換がありました。林業として農業として成り立たない、つまり里山に住むことの経済効果が得られない、だから過疎化する、というのは誰もが理解することだと思います。ところが、ヨーロッパ、特にドイツでは「自然療法士」というセラピストがいて、里山をフィールドとした山野草の摘み取りから摂取、森林浴の効果的なノウハウを指導しています。医療分野での里山の利用価値は十分にあるのです。また、子供たちへの教育の場としての里山活用法も紹介されました。
                   
  昨夜はサッカー・ワールドカップ・ドイツ大会アジア最終予選「日本VS北朝鮮戦」がバンコクであり、講演と同じ時間帯にテレビ中継(関東地区の視聴率43.4%・ビデオリサーチ調べ)されました。日本がバーレーン戦(6月3日)に勝って、W杯出場の可能性が出た段階で、講演に人は集まるのだろうかと心配していました。ところが、定員50人のセミナールームは満杯でした。こんなに里山に対する関心度が高いのか、と驚いたくらいです。これもクマ騒動が一石を投じてくれたお蔭でしょうか。

⇒9日(木)午後・金沢の天気 晴れ
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☆数字で読み解く金沢大学③

2005年06月08日 | ⇒キャンパス見聞
  金沢大学に学生(大学院生含む)が10800人が在籍することは前に述べた。それでは、どんなところに住んでいるのだろうか。学生のうち、自宅から通っているのは19.8%、5人に1人である。アパートやマンションに住んでいる学生は71.8%、次いで学生寮が4.4%となる。この学生寮は3つあり、定員が754人、入居率は76%だ。(出典は金沢大学広報室発行のパンフレット「データで見る金沢大学」)


  学生寮をちょっと覗いてみる。大学周辺のアパートでは家賃のみで3万円から5万円が相場。これに比べ寮費は断然安い。寮の寄宿料、つまりアパートの家賃に当たるものが1ヵ月700円で3寮とも一律である。3寮のうち、もっとも大きい金沢市弥生にある北溟(ほくめい)寮(定員396人)のケースで見てみる。昭和43年建設ですでに築37年。電気代や水道代など様々な諸費用(基本料金)は全員で等分し、月当たり4000円ー8800円になる。倍近くの値段変動があるのは、人数で頭割りのため、寮から卒業生が抜け、新1年生が入る前の4月ごろが一番高くなる。寮の食事は平日の夕食のみで、給食センターから届く。北瞑寮の場合は1食は370円で、フルでとったとしても月6000円-7000円となる。合計して一番高いときでも1万6000円くらいである。

  いまの学生に欠かせないインターネットの環境も工夫している。北溟寮にはHNS(ほくめいネットワークサービス)という会があり、独自のサーバーと光ファイバーによる快適なインターネット環境を構築している。しかも月額300円で使い放題だ。

  こんなにリーズナブルでも寮の入居率が70%台に留まっているのは、それなりの理由がありそうだ。3寮とも金沢大学が金沢城の中にあった時代に建設されたもので、移転した現在では大学から遠くなった。大学と比較的近い女子寮の白梅寮でもバス通学で30分ほどかかり、バス賃は片道350円である。ひと部屋は8畳ほどのスペースだが、2人で共用することになる。

  問題は3寮の共同浴場。利用できるのは一日おきだ。しかも、白梅寮では入浴可能時間は15時ー23時だが、22時になると湯沸しのためのボイラーが停止し、23時以降は水しか出ないこともあるとか。夏場は毎日入浴したい。しかし、銭湯は遠くて面倒、さらに300円-350円と高い。現代っ子は汗を嫌う。案外、入浴問題がいまいち学生寮に人気がでない原因かもしれない、と私は睨んでいる。

⇒8日(水)午前・金沢の天気 くもり
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★財布が小銭で膨らむ理由

2005年06月07日 | ⇒トレンド探査
  ひとつの不満を除けば、後は合格点だと思う。北陸鉄道バス(金沢市)のICカード「アイカ」=写真=のことである。当初、戸惑いもあった。昨年の12月、北鉄片町サービスセンターのシャッターが上がる午前9時にさっそく買いに行った。アイカを首かけのヒモつきカードに入れて、バスに乗車。ちょっとドキドキしながら「乗車タッチ」。ところが、数回タッチしても、ピッという受け付け音が出ない。後続の女性から「場所が違いますよ」と指摘され、ハッと気がついた。タッチしていたのは残金表示の黒部分で、オレンジ色のタッチ部分ではなかったのだ。「われながらちょっと緊張したかな」と。これがアイカ初体験だった。
  
  アイカに魅力に感じているのは、整理券を取る必要がなく小銭の準備、両替が不要なこと。これまで、整理券の番号と運賃表示を照らし合わせて小銭を用意しなければならなかった。これが意外と面倒なのだ。でも、アイカでは自動計算されるので、1回の「降車タッチ」でOK。勤め先の金沢大学の生協では、予め現金をカードに入れる「積み増し」もできる。金沢大学は6系統160本(往復)のバスが往来する大きなバスターミナルでもあり、とても便利に感じている。晴れの日は、ウオークとバスを組み合わせれば、とても体にいい。なるべく歩いて、バスに乗る。私の場合、片道「バス25分、歩き15分」の健康法にもなっている。

  冒頭の「ひとつの不満」は、アイカを使い出してから小銭が財布に滞留し始めたことである。小銭を取りすにはある程度、時間的なゆとりがないとできない。これまで、バスの回数券の番号で料金を予測しながら、たとえばバス代が200円なら1円玉を20枚、5円玉を6枚、10円玉15枚という、せせこましいこともやってきた。だから、小銭がはけた。コンビニで使おうと思っても、後ろに人がついたりすると「大の大人が・・・」と言われそうで、なんとなく小銭は数えにくい。いまでは財布が小銭でパンパンに膨らんで、貯金箱になっている。

  「小銭が財布に溜まるのはアイカのせいではない」、北鉄バスの関係者はそう言うだろう。そこはサービスの原点に立ち返って、小銭でもOKのアイカの「積み増し機」を設置してほしい。これは小銭がいらないというアイカの便利さの裏返しのサービスでもある。個人の要望というより利用者のニーズとして理解していただきたい。

⇒7日(火)午前・金沢の天気 晴れ
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☆数字で読み解く金沢大学②

2005年06月06日 | ⇒キャンパス見聞
  金沢大学の「情報の防衛」最前線と言えるのが総合メディア基盤センターだ。2001年にギガネットワークが構築され、およそ1万台のパソコンがネットワークに接続されている。ちなみにギガネットワークは岩波書店の「広辞苑」が1秒で送れる伝送帯域に相当する。情報ハイウエイの防人(さきもり)と言ってよい。この総合メディア基盤センターがこのほど金沢大学のサイバー白書とも言える「COM.CLUB」=写真=を発行した。これを呼んで自分の目を疑った、「いち日ではなくひと月ではないか」と。なにしろ金沢大学のネットワークへ入ろうとする不正アクセスは「1日平均200万件に及ぶ」という驚くべき統計が掲載されていたからだ。

  白書を詳しく読んでみよう。この平均値は2004年1月から12月までのまとめで、1日当たり200万から300万件のアクセスがある。そのアクセスのうち、正常なものはわずか10-20%なのだ。不正アクセスの代表格がポートスキャン。任意のコンピューターのサービスポートに総なめでアクセスを試み、もしファイアウォールで接続拒否をしていないものがあれば入り込み、そこを足がかりにコンピューターの乗っ取り、情報の漏洩などをやらかす。この場合、そのコンピューターの持ち主は被害者ではなく、加害者になる。

  白書をさらに読む。金沢大学では、学外から配信されてくる電子メールのすべてにウィルスチェックを行っている。駆除件数は1日当たり千通以上にも及ぶ。2004年4月には1日7千通に及んだことがある。宣伝目的のスパムメールは全メールのうちの3分の2以上にもなる。面白いのは、このスパムメールは4月と9月のある日にいきなりドカンと来る。おそらく新学期や夏休み明けを狙った学生向けの勧誘のメールだ。ウィスルメールも2月、4月、6月、8月にヤマが来る。メール系のウィルスは新種・亜種の発生頻度が高いので波状的に来ているのかもしれない。

 この4月、個人情報保護法が施行された。上記のようなサイバー上のセキュリティー攻防戦がある一方、大学ならではのたとえば成績判定保留の学生呼び出しの張り紙を今後どう扱うか、また、大学病院で患者を診察室に呼び込む際に行っている実名のアナウンスをどうするかといったことも議論の対象として浮かび上がってきた。「古くて新しい問題」ではある。

⇒6日(月)午前・金沢の天気 晴れ
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★数字で読み解く金沢大学①

2005年06月05日 | ⇒キャンパス見聞
  金沢大学で「地域連携コーディネーター」という仕事をしている関係で、大学の概要を説明する際に数字を駆使する。きょうはその一例を。(※数字は流動するので四捨五入する。出典は金沢大学広報室発行のパンフレット「データで見る金沢大学」)

  学生(大学院生含む)は意外と多く10800人。一番多いのが工学部の2100人。そのうちの女子生徒は3分の1に当たる3700人である。これはまったくの主観だが、採用に7年間携わってきた元テレビ局プロデューサーの目で、「この子はアナウンサーに向いているかもしれない」と思わせる女性もいる。私がこだわる条件は①会話などに論理性がありブレない②トレーニングをすれば発音がよくなる可能性があること③ルックスに華(目元や顔の輪郭など)がある④態度に前向きさと謙虚さがある-の4点である。学生がよく集まる2つの学食で、「この子なら最終面接まで行きそう」と思った女性がこれまで3人いた。もちろん、「発掘」の余地はまだまだあり、半年後に同じテーマで書けばその数字は増えているだろう。私は学食でも目と耳をフル回転させている。

  一方の教授、助教授ら教育研究職員は1200人いる。「教える側」と「学ぶ側」の比率で言えば、1200:10800である。1人が9人を教えている計算だ。

  ちょっと驚く数字が収支だ。収入、支出とも概ね491億円(平成16年度)である。収入の45%は附属病院の収入と学費で賄われる。他のほとんどが運営費交付金などの税金である。金沢大学を学生と教職・事務職合わせて1万3000人の自治体だと仮定しよう。人口46万人の金沢市の今年度の一般会計予算が1550億円、人口11万人の小松市の一般会計予算が373億円である。金沢大学の予算は人口が8.5倍もある小松市より予算がひと回りも大きいのである。金沢大学は面積的に金沢市角間町という谷あいの山里に集中している。そういう風に見ると、とてもリッチな山里の町のようにも思える。

⇒5日(日)午前・金沢の天気 くもり 
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☆続・ノーネクタイは楽じゃない

2005年06月04日 | ⇒トピック往来
  マスメディアはもうこの手のニュースは止めたらどうだろう。中央官庁で6月から始まった夏の軽装化の経済効果は1000億円に上るとの試算を生保系の経済研究所がまとめたとの記事がきょう4日付の各紙に掲載された。軽装化に伴う一連の出費は普通に夏物スーツを買うより3万円多いとし、国家公務員の男性25万人分なので75億円、さらに地方自治体や民間企業の12%が「今後、軽装を奨励する」という想定で、国内の男性ホワイトカラー計1500万人にこの数字を当てはめた経済効果が619億円、これに衣料関連の小売業などへの間接的な恩恵も含めた全体の波及効果は1008億円に上るというのだ。

  メディアに対し「止めたらどうだろう」と言ったのは、ノーネクタイの提唱は経済効果より本来もっと崇高な目的があったはずだ。夏のオフィス冷房温度を28度に上げて消費電力を抑制、二酸化炭素の排出量を減らし地球温暖化防止に役立てることだ。働く女性にも支持されるだろう。職場はネクタイに上着の男性優先で冷房がきつい。半袖やノースリーブの女性はカーディガンやひざ掛けで必死に冷房病から自衛している。ノーネクタイがあの悪しきオフィスの光景を変えることになるはずだ。

  机上で描いた経済効果の数字が独り歩きするほど怖いものはない。小中学校でのパソコン教育は当初、アメリカやシンガポールの学校を見て国際的な競争力に遅れるとの危機感から出発した。ところが、いつの間にか「IT革命で経済大国の夢よもう一度」と国の「E-ジャパン構想」の柱になってしまった。また、地上波テレビのデジタル化も、「1台30万円のデジタル対応テレビが国内の3000万世帯で普及したとして経済効果は9兆円」などと家電メーカーを勇気づける産業実験(6月1日付の「自在コラム」参照)になっているのである。国の教育や電波行政が、国民の金融資産1200兆円をいかに消費に回すか、そんなレベルの景気浮揚策の話に成り下がっているのだ。

  「獲らぬタヌキの皮算用」なのか「風が吹けば桶屋が儲かる」なのか、どちらでも構わないが、経済原則を当てはめると物事の本質論が歪められてしまう、と言いたかったのである。

⇒4日(土)午後・金沢の天気 晴れ 
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★ノーネクタイは楽じゃない

2005年06月03日 | ⇒トピック往来
  6月の衣替えで、政府がノーネクタイを奨励している。政府が夏の服装でキャンペーンをはるのは、羽田孜元首相の例の「半そでジャケット」以来のことかもしれない。当時、スーツの袖をちょん切って半袖にしただけのファッションにも見え、不評を買ったものだ。本人はいまでも夏はあのルックで通してているが、あれ以来表立って政府が夏の服装でキャンペーンをはることがなかった。でも、今回のノーネクタイはある種の思い入れが自分なりにある。

  私は1991年1月以来、冠婚葬祭を別にして、職場ではずっとノーネクタイを通してきた。当時、ある事情で会社(マスコミ)を辞めたのがきっかけ。その時、会社に残った同僚らが「社蓄」にも思え、ネクタイはその象徴のように感じ嫌悪感を持った。それ以来、ネクタイをすると首が絞まるように感じ、ある種の「絞首恐怖症」になったのである。「なぜネクタイをしないのですか」と問われると、「首に不快感を感じるもので・・・」とだけ説明してきた。その説明が手っ取り早かった。

  しかし、儀礼を重んじる日本の社会でノーネクタイで通すのは至難の業である。目上の人との応対、会議などでジロリと睨まれたこともたびたび。その後に転職した会社(テレビ局)の初めての辞令交付式で、社長から「君はネクタイをしないのかね」と問われ、「ノーネクタイの宇野で通します」と答えると、社長は「そうか、ノーネクタイが君の売りならば、それで通せ」と理解のある言葉をいただいた。それ以来、半ば会社で公認となった。大臣や知事の取材、スタジオ出演、シンポジウムの司会など公の場もこれで通したのである。ただ、先に述べたように、葬式か結婚式か判然としないので礼服は一応、白黒をつけた。

  ところが、金沢大学に再就職したことし4月19日、私はネクタイを締めた。この日、打ち合わせがあり、かつてお世話になった会社をネクタイ姿のまま訪れた。専務に「初めて見た、おーいみんな・・・」と随分と冷やかされた。突然の心変わりのように思えるが、実は大学では周囲のほとんどがノーネクタイなので、「売り」が薄れたのである。自分なりの意地の張り合いがなくなったとも言っていい。むろん、毎日ネクタイで通勤しているわけではない。気分に応じて、である。

  今回の話はこれでお終い。最後にひと言、会社勤めでノーネクタイというのは、性格的にも相当変わった人物が多い。ひねくれているか、アウトローか、腹に一物持っているか、自由人と称すキザ男か、まともな人はいないと思ったほうがいい。これは同じ姿の人物を長らく観察したことから得た経験則である。自分はどのタイプかは分からないが・・・。

⇒3日(金)午後・金沢の天気 晴れ
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☆危うさはらむテレビCM

2005年06月02日 | ⇒メディア時評
  きのうに引き続き、新聞で掲載された民放テレビ局の3月期決算を読み解く。ローカル紙で、ある県の民放の決算内容が出ていた。地方局もスポンサーである企業の業績回復の追い風を受け好業績であるものの、気になった点がある。

  その記事には、営業の収入の伸びを牽引している業種について書かれていて、「交通・レジャー、流通・小売り、自動車関連の広告収入が10%以上伸び」となっていた。その県の視聴者ならおそらく想像がついたはずだ、「交通・レジャー」が具体的に何を指すのかを。パチンコのCMである。ローカル民放で目立つのは、朝の消費者金融、夜のパチンコのCMである。とくに、パチンコは「出玉、炸裂!」などと絶叫型のCMが多いので、見ている方が圧倒される。パチンコはマーケットが狭い分だけ、CMは過激なのである。

  実は、このパチンコ業界は「自主規制」という装置を持っている。これまでも、警察から「無用に射幸心をあおる」と自粛を求められると、自主規制に動いてきた。テレビCMがストップしてしまうのである。記事が掲載された同じ日、金沢市内のパチンコ店経営の会社が事業を停止し、自己破産を準備中との記事が出ていた。負債は7億円。かつて、この店の過激なテレビCMを見たことがある。企業業績が回復し経済の循環がよくなると、人の足は「身近なレジャー」であるパチンコに向かわなくなる。自己破産のニュースは小さい扱いながらも、パチンコ業界に衝撃が走ったはずだ。ローカルのテレビCMを牽引してきたパチンコ業界も曲がり角にある。

  「売上アップのためには、背に腹は代えられぬ」とパチンコのCMを無制限に受け入れてきたローカル民放もそろそろ方針転換を図るべきだ。総量規制や時間規制を設けてソフトランディングすべきだろう。いや、その前にパチンコ業界が自主規制の先手を打ってくるかもしれない。この場合、ローカル民放に激震が走る。

⇒2日(木)午前・金沢の天気 くもり
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★デジタル・ブラックホール

2005年06月01日 | ⇒メディア時評
  テレビ業界の3月期決算が出そろった。新聞などで見る限り、スポンサーである企業の業績回復を受けて広告収入が伸び、多くが経常増益となっている。営業収入は各社でバラツキはあるものの4%から8%の伸び、民放テレビ局の経営陣はホッと胸をなで下ろしているだろう。しかし、新聞記事から読めるいくつかの問題もある。

  5月31日付の朝日新聞経済面では、関西の主な民放テレビ5社の3月期決算が紹介されていた。おおむね好決算の内容の記事の末尾は「だが、地上デジタル放送に対応した放送機材の高度化費用が負担となっており、06年3月期はほぼ全社で経常減益を見込む」と締めくくられていた。簡単に言えば、今年度はデジタル放送関連の設備投資が膨らみ、経常利益は減るというのだ。この記事の意味するところは何か。

  東京、大阪、名古屋のいわゆる東名阪地区はローカル局より早く地上波のデジタル化を終えている(2003年12月)。記事にある「放送機材の高度化費用」とは、データ放送の充実や、携帯向けの「1セグ放送」などの次なるデジタル化への設備投資なのだ。放送機材はそれぞれの局に応じたオーダーメイドで生産されるため高コストが常だ。問題は、データ放送や1セグ放送の設備投資をしたからと言って、十分なペイがあるかという一点に尽きるが、これはない。企業の広告宣伝費がデータ放送、つまりテキストコンテンツにまで回るだろうか。さらに、地上放送とは別の番組を流すことになっている1セグ放送も余程魅力あるコンテンツでないと課金などのビジネスモデルの構築は難しいだろう。

  民放は利益率が高い。国はそこをよく見ていて、地上波のデジタル化によるさまざまな可能性を試すことによって、家電の売れ行きなど経済への波及効果を期待している。これは、とりもなおさず「大いなる産業実験」なのだ。いくら利益を出しても、国の産業実験に次から次へと付き合わされ利益を吐き出していく。際限なきデジタル化投資、まるで、ブラックホールかアリ地獄に落ちた徒労感を感じている経営者も少なくないはずだ。民放が国のライセンス事業である限りつきまとわれる。

  そうこうしているうちにインターネットの広告市場がテレビCM市場を追い上げてくる。ブロードバンド放送(ビデオ・オン・デマンド)が爆発的に普及し始めるのも時間の問題だ。そうなればテレビメディアのそのものの存在感が薄れ、広告シェアが落ちる。テレビ業界は今後どう新たなビジネスモデルを開発していくのか。

→1日(水)午前・金沢の天気 晴れ
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