関西テレビの「発掘!あるある大事典」のデータ捏造問題で、関テレが委嘱した外部調査委員会は3月23日、調査報告書を公表した。報告書は150ページ余り。小委員会で元検事の弁護士18人を配置し、事件捜査の手法で、かつての番組関係者、広告代理店担当など70人から「事情聴取」を行った。延べ5000時間、2ヵ月かけて520回の番組すべてをチェックし報告書をまとめた。内容は相当に厳しい。報告書要旨に関しては24日付の朝日新聞が詳しい。
浮かび上がった「捏造現場の闇」
問題があった番組は「納豆ダイエット」(07年1月7日放送)を含め16番組。その内訳は、日本語のボイスオーバー(吹き替え)による捏造4件、データ改ざん4件、そのほか実験方法が不適切であったり、研究者の確認を取ってないものが8件となっている。「調査委員の指摘」の欄では委員の憤りを感じることができる。「足裏刺激でヤセる」(06年10月8日放送)では「中性脂肪などの数値で実際には増加している被験者もいるのに減少者のみ(のデータ)を採用している」と指摘し、「狡猾(こうかつ)に番組テーマに沿って視聴者の心理を操作する演出をしている」とコメントをつけている。これが刑事事件だったら、詐欺罪が成立しそうな「論告文」の書き方ではある。
報告書では関テレの責任についてこう記述している。番組を捏造した責任は再委託(孫請け)先の制作会社(「アジト」など)にあるものの、委託した日本テレワークとのその制作担当者、さらにその管理・監督する立場にある関テレのプロデューサーら番組制作担当者はその不正をチェックし、防止することができなった。また、これまで健康情報を扱った番組の不祥事が相次いだが、放送責任を負う関テレの経営幹部には危機意識が薄く、再発防止のための内部統制の仕組みを構築するなどしてこなかった。これは「(関テレの)構造的な要因」とし、「関テレの取締役と番組の制作担当者らの社会的責任は極めて大きい」と指摘している。
問題は、これら一連の不正が放送法3条の2第1項3号にある「報道は事実をまげないですること」に抵触しているかの解釈についてだ。新聞掲載の報告書要旨によると、「『発掘!あるある大事典』は報道そのものには当たらないとし、さらに関テレ側は捏造を見過ごし、結果として事実に反する内容を放送したものの、「この規定に違反したとまではいえないと考える」としている。つまり、関テレが意図的に事実を曲げたわけではない、との解釈である。
放送法との照らし合わせによる指導や処分は、関テレが総務省に3月27日に提出する最終報告書を見ての総務省判断となるが、行政指導ならば「厳重注意」「警告」、あるいはもっと重く行政処分ならば「電波停止」「免許取り消し」となる。ただし、日本のテレビ放送の歴史53年間で行政処分が発動されたことはない。
今回の報告書で注目したいのは再発防止への提言。ポイントは2点である。一つは経営側のコンプライアンス(法令遵守)。取締役会決議による番組制作ガイドラインや倫理行動憲章の制定と情報開示、社外取締役の選任など。二つ目は番組制作現場のコンプライアンス。番組を制作する過程での注意事項をまとめたチェックフローを作成し、捏造や人権侵害を内部的に監視する考査部門を増強することなど。中でも、制作現場における制作者の良心を養護する役割を担う「放送活性化委員会(仮称)」の設置提案は目を引く。
この意味は、逆に言えば、これまでの制作現場は自由闊達な論議の上で成り立っていたのではなく、制作ノルマに縛られ、一部のディレクターが有無を言わさぬ雰囲気をつくり、硬直化した制作現場だったことを伺わせる。業種は違っても、「不正の現場」の雰囲気はおおむね共通している。番組の問題点を洗い出した「ヤメ検」たちはこの「捏造現場の闇」を鋭く見抜いたのである。
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