自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★華厳の滝で尋ねたこと

2018年09月28日 | ⇒ドキュメント回廊

    日光では華厳の滝も見学した。鬼怒川支流の大谷(だいや)川を渡って、「第二いろは坂」(国道120号)の上り坂を走行する。ヘアピンカーブの連続はスリルと同時に妙なふらつき感も伴う。

    そうこうしながら華厳の滝に。「華厳滝エレベーター」で100㍍下の展望台まで行くことにした。エレベーターの料金は1人550円。受付入口でこの値段を聞いて引き返すインバウンド観光のカップルもいた。パンフによると、エレベーターは岩盤をくりぬき1930年に造られたとある。2基のエレベーターには改札口があり、車掌の姿をした係員もいる。民間会社が経営しているが、おそらく上下を移動する交通機関という位置づけなのだろう。30人乗りで60秒の移動だ。

    エレベーターを降り、スロープと階段を下り展望台に行く。少々霧がかかっていたが、高さ97㍍を一気に落下する壮大な景観は、まさに自然の造形美だ。爆音とともに水しぶきが弾ける豪快な姿。滝のことを「瀑布(ばくふ)」と称することもある。高所から白い布を垂らしたような。まさにその景観=写真=には圧倒された。展望台は小学生の修学旅行と思われる児童たちが滝をバックに記念撮影をしていた。腕章に「富」と書かれてあったので、「どこの小学校なの」と男子児童に尋ねると、「神奈川県の・・市立富士見小学校です」と即答があった。さらに「富士山を毎日のように見ることができて、そしてきょうは華厳の滝、いい修学旅行だね」とさらに言葉をかけると、「富士山はきれいで眺めるだけですが、ここは音に迫力があって、とても心に残ると思います」と。理解しやすく無駄のない言葉使いだった。

   30分ほど滝の迫力を楽しんで、エレベーターに戻った。車掌に尋ねた。「展望台まではスロープと階段がありますが、車椅子の障害者が展望台に行きたいと希望した場合、介助や支援はされているのですか」と。すると「そこまでやっていません」と。「介助なしですか」と確認すると、「そうなんです。民間ですから」と。エレベーターの案内入口では車椅子の見学者には地下ではなく地上の展望台を案内しているようだ。私見だが、上から眺める滝より、下から見上げる滝の方が、先の小学生の言葉通り、音響が得られる分、臨場感がまるで違う。

   会社が人手不足などで車椅子の障害者を介助する常駐スタッフまでは確保できないとすれば、「550円のエレベーター料金は無料にしますので、お客さんの中で車椅子の介助を手伝っていただける方を募集します」と場内アナウンスで呼びかけてもよいのではないか。先に引き返したインバウンドのカップルは手を挙げるかもしれない。そんなことを思いながら華厳の滝を後にした。戦場ヶ原(標高1400㍍)はうっすらと草紅葉(くさもみじ)が色づいていた。

⇒28日(金)夜・金沢の天気   くもり

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☆日光東照宮で見たこと

2018年09月27日 | ⇒ドキュメント回廊

     東京へ行くついでに足を延ばして、日光を訪れた。北陸新幹線の大宮駅で下りて、東武線に乗り換えて日光駅へ。駅前でレンターカーを借りて日光東照宮と華厳の滝などをめぐった。実は日光は初めて。「三猿」や「眠り猫」はよく知られているが、ぜひこの目で見てみたいと思い立った。

   駅から参道の坂道を走行すると、「ゆば料理」の店が看板があちらこちらに見えてくる。日光東照宮の表門に到着し、外に出ると小雨ということもあって少々肌寒い。小さな案内板があった。「ここは標高634㍍ 東京スカイツリーと同じ高さです」と。平地に比べ寒いわけだ。30㍍はあるだろう杉の大木に圧倒されながら、表門に行く。

   表門の入口に拝観受付所(料金所)があった。霊験あらたかな気持ちで受付所に行くと、待っていたのは「Suica(スイカ)」の自動拝観券売機だった。交通系電子マネー決済システムでありがたく拝観券をいただく。そう言えば、レンタカーの窓口の従業員が言っていた。昨年、日光東照宮の国宝「陽明門」の4年の大修理が完了したので、参拝客やインバウンド観光の客で随分増えた、と。確かに、Suica販売機は現金を入れない分、人のさばきが速い。また、英語や中国語、韓国語にも対応している。「さすが、ユスネスコの世界遺産」と感心しながら表門をくぐった。

    「神厩舎(しんきゅう)」と呼ばれる神馬の厩(うまや)が左側に見えてきた。「見ざる・言わざる・聞かざる」三猿の木彫がある建物だ。正面と側面合わせて8面の彫刻があり、男性ガイド氏の「悪いことは見ない、言わない、聞かないという、親から子どもへの躾(しつけ)教育を表しているといわれています」との説明に聴き入る。

    厳かできらびやかな「陽明門」をくぐる。極彩色で精緻な彫刻の数々。門の内側の天井には狩野探幽が描いた「昇り龍」と「降龍」が。徳川三代将軍・家光が家康を神格化するために大改造を行ったとされる。高さ11m、幅約mの門にどれだけの江戸の建築の技、工芸、そして美術の粋が凝縮されていることか、圧倒的な存在感がある。

    唐門から本社を仰ぎ、右に回って「眠り猫」=写真・上=がいる坂下門へ。家康公の眠る墓所に通じる門に刻まれている、あの有名な体を丸めて寝ている猫。門をぐぐって振り向くと、眠り猫の裏側に当たる木彫は二羽の雀(すずめ)が躍っている姿だ。作者は左甚五郎。この二つの作品から読み取れる意図は「共存共栄の世界」かと想像した。戦乱の世をかいくぐって天下を治めた初代の威厳を借りて、三代目は泰平の世の願いを東照宮の大改造に込めた。もし、三代目の発想が眠り猫の作成に反映されているとすれば、武家諸法度や参勤交代などもろもろの制度による泰平の世を構築することが、まさに眠り猫と雀の共存共栄ではなかったか。

    墓所がある奥宮までの階段207段を上った。石坂と石段、石垣=写真・下=が続く。日光の山奥までこれら石をどのように運んだのか。普請した大名たちの嘆き節が聞こえてきそうだ。

⇒27日(木)夜・金沢の天気     くもり

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★世論調査の「重ね聞き」

2018年09月23日 | ⇒ニュース走査

    きょう(23日)日本経済新聞社とテレビ東京による世論調査(今月21-23日実施)の結果がWeb版で掲載された。安倍内閣の支持率は55%となり、前回の8月調査の48%から7ポイント上昇し、不支持率は42%から39%に下がった。支持率が55%以上になるのは、財務省の決裁文書改ざんが発覚する前の2月調査の56%以来と報じている。読売新聞社も世論調査(今月21-23日実施)を掲載していて、安倍内閣の支持率は50%、前回8月調査でも50%なので横ばい。不支持率は41%(前回40%)と1ポイント上昇した。

    NHKも今月の世論調査(今月15-17日)を発表していて、安倍内閣を「支持する」は先月の調査より1ポイント上がって42%だった。「支持しない」は39%で、先月より2ポイント下がっている。朝日新聞の世論調査(今月8-9日実施)では安倍内閣を「支持する」が41%で前月比で3ポイント上昇、「支持しない」は38%で前月比3ポイント下がった。

    マスメディアによる世論調査の方法の主流は「RDD(Random Digit Dialing)」と呼ばれ、全国の18歳以上の男女を対象にコンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかける世論調査。NHKの場合、今回調査の対象となったのは2128人のうち57%に相当する1215人から回答を得たと説明している。日経の今回の回答率は46.4%だった。

    それにしても、数字だけ眺めて不思議に思うのは、日経と読売が内閣支持率が50%を超えているのに、NHKと朝日は40%台だ。世論調査とは言え、調査に答える人はそれぞれのメディアのシンパなのだろう。だから日経と読売の支持率は高く、NHKと朝日は低い、と思いがちだ。実は、設問方法が違うのだ。

    最初に「内閣支持」か「不支持か」を尋ねるが、答えなかった人は「言えない・分からない」に分類される。朝日の場合はこれでこの設問は終わりだ。ところが、日経は「重ね聞き」をする。「言えない・分からない」と答えた人に再度、「お気持ちに近いのはどちらですか」と尋ねるのだ。Web版から引用して数字で示す。最初「支持する」51%、「支持しない」36%、「言えない・分からない」12%だった。「言えない・分からない」と回答した人に再度「お気持ちに近いのはどちらですか」と尋ね、「支持する」32%、「支持しない」25%、「言えない・分からない」43%の数字を得た。これを算定して「支持する」55%、「支持しない」39%としている。重ね聞きの場合は、「言えない・分からない」の割合が減る分、結果的に「支持する」と「支持しない」の割合が増えるのだ。

    結論、NHKと朝日は重ね聞きをしないので内閣支持率も不支持率も低い。ところで、私自身もこれまで何度かRDDに答えたことがあるが、ロボット的な自動音声に設問されると「早く終われよ」との感情が先立つ。世論調査は有権者の気持ちを引き出すものだ。ロボット調査は勘弁だ。ちなみに、朝日の調査は自動音声ではなく、調査員の肉声だった。肉声だから素直に答えるという訳でもないのだが。

⇒23日(日)夜・金沢の天気    くもり

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☆「Noto」フォントを縁に

2018年09月22日 | ⇒キャンパス見聞

   能登半島で初めて国の「SDGs未来都市」に選ばれた珠洲市では、「能登SDGsラボ」の開所式が10月1日に迫っている。オープニングセレモニーでは看板の除幕式があり、その看板のデザインをめぐって行政の担当者や協力する大学関係者で知恵出しをしながら進めている。まず、看板の文字をどうするか、難問が立ちはだかった。すると、関係者の一人がフォントで「Noto」があることが話題になった。以下メールでの情報共有。「グーグルが開発した多言語の『Noto』フォントというのがあり、名前もフォントも大変かっこいいので、サンプルも含め、情報共有いたします」と。

   すると同僚がさっそく調べた。以下メールを引用する。Notoというフォントの由来は「能登」とは無関係で、もともとはNo more tofu(豆腐はもうたくさん!)の略でNotoだそうだ。文字化けしたときに「□□□」のような長方形の図形がたくさん表示されることがある。この「□」がITプログラマーの間ではTofuと呼ばれている。図形から思いついた人の発想の豊かさが感じられる。

   文字化けを許さないグーグルの理念がNo more tofuで、その理念からNotoと名付けられたのが、このフォントというわけだ。さいはての能登半島から「誰一人取り残さない」世界共通の開発目標の達成の一翼を担う能登SDGsラボ。その看板に、このユニバーサルなフォントを用いることはとても意味があるのではないだろうか。実際、とても美しいフォント=写真・上=だと思う。能登=Notoという偶然の一致以外にもう一つエピソードが添えられたかっこうだ。

   このNotoフォントを歓迎しているであろう地域が世界でもう一つある。イタリアのシチリア島南部の町、Notoだ。ワインの産地で知られ、街には美しい装飾を施したバロック様式の建物が多く残る=写真・下=。ユネスコ世界遺産にも登録されている。ぜひ訪れてみたい。Notoフォントを縁に能登半島とシチリア・ノートで姉妹提携を結んではどうか、などと妄想している。(※写真・下はイタリア政府観光局公式サイトより)

⇒22日(土)午後・金沢の天気     くもり時々はれ

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★ギョウカイの裏読み

2018年09月21日 | ⇒メディア時評

   テレビメディアの「劣化」を指摘する声をよく聞く。放送内容もさることながら、最近目立つのがテレビ業界(ギョウカイ)の不祥事だ。きょうもネットニュース(読売新聞Web版)で毎日放送(MBS、大阪市)の男性社員が同僚の女性社員を盗撮したとして、警察が迷惑防止条例違反の疑いで捜査していると報じられている。盗撮に気がついた女性が警察に被害届を提出し発覚した。MBSではことし4月にも男性の局長がセクハラで懲戒処分を受けている。山梨、山形で20代の3人の女性に性的暴行を加えたとして強姦致傷などの罪に問われ逮捕されたたNHKの記者がいた。ことし4月の判決で懲役21年の刑が言い渡されている。   

   折しも、報道関係者が集まってきのう(20日)ときょう札幌市で「マスコミ倫理懇談会」全国大会が開催されている。マスコミ倫理懇談会全国協議会のホームページをチェックすると分科会は7つあり、「岐路に立つ実名報道」、「極端化する災害と取材・報道」、「ネット時代を、マスメディアはどう生き抜くか」、「公文書管理と情報公開」、「働き方改革」、「国民投票法を考える」、「地方活性化と広告の可能性」とある。それぞれ重いテーマなのだが、「報道機関でパワハラ、セクハラ、性犯罪がなぜ起きるのか」を緊急案件として入れるべきではなかったのか。

    それにしてもタイミングが悪い。日本民間放送連盟(民放連)の大久保好男会長(日本テレビ社長)がきのう午後2時からの定例の記者会見で、憲法改正の際に賛否などを呼びかけるCMについて、放送時間の長さなどの量的な規制はしないことを決めたと述べ、物議をかもしている。民放連のホームページに会見の内容が記されている。以下引用。記者は「憲法改正の国民投票をめぐり、テレビCM規制のあり方が議論されているが、どのようにお考えか。また、自主規制について、民放連で検討が進んでいるのか」と質問した。

   これに対し、大久保会長は「憲法改正をめぐる国民投票運動のテレビCMのあり方について、私たちに検討が投げかけられており、国会の検討の場に招かれて説明も行った。本日開催した理事会で、この問題を担当する放送基準審議会から検討状況の報告があった。その中で、民放連として一律にCMの量的規制はしない方向で検討を進めていくとの説明があり、これを了承した。民放連がCM量についてどのような自主規制を行うのか、との問いに対して、現時点の考えを確認したものだ。今後、この基本的な考え方に沿って番組・CM全般の論点を検討していく」と述べた。文面そのままでは分かりにくいので以下考察する。 

   3選を果たした安倍総理は、憲法第9条の第1項と第2項を維持したまま、自衛隊の存在を規定する第3項を加える方向で憲法を改正を任期中に行う考えを示している。憲法改正には衆参両院の3分の2の賛成を得た上で国民投票で過半数の承認を得る必要がある。憲法改正の発議が本格化すれば、当然賛否の論が沸き、テレビを使ったキャンペーン(CM)が激しさを増すことは想像に難くない。

   というのも、国民投票法にもとづく国民投票運動は選挙運動と違ってかなり自由度が高い。例えば、選挙運動では街頭演説は午前8時から午後8時に限定されているが、国民投票運動には制限はない。選挙運動では禁止されている戸別訪問や自分で自由にビラやポスターを作って配布することもできる。インターネットや電子メールも制限なく使用できる。ただし、国民投票法では投票日14日前からのメディア(新聞、テレビなど)を使ったCMを禁止している。が、14日前までならばCMを大量に流してもよいのだ。記者会見で民放連会長はそのCMに関して国民投票運動は原則自由であり自主規制はしないと述べたのだ。ただ、CM内容で誹謗中傷がないかを放送前にチェックする考査について今後検討していくと述べた。

   資金力がある側(自民)が大量にCMを流すと公平性が保てない恐れがあると野党側はテレビ局側に量的な自主規制を求める声を上げていたが、民放連はそこには踏み込まなかった。自衛隊をめぐる憲法改正は安倍政権の総仕上げだ。昨年の自民党の政党助成金173億7400万円はダントツに多い。一方、2017年の日本の広告費(電通調べ)ではインターネット広告費は4年連続二ケタ成長であるのに対し、テレビは前年比99%と減少傾向にある。数年後にはテレビを抜く勢いだ。喉から手が出るほどCMがほしいギョウカイの下心が見えたか。
 
⇒21日(金)夜・金沢の天気   はれ

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☆留学生が見たNoto

2018年09月17日 | ⇒キャンパス見聞

   先週13日から2泊3日で「能登の世界農業遺産を学ぶスタディ・ツアー」(単位科目)を実施した。履修学生14人のほかに留学生6人も参加して日本と海外(ドイツ、中国、インドネシア、ベトナム)の目線で能登を語り合いながらツアーを楽しんだ。

   私自身も能登のことを「日本の中のアジア」と説明したりする。文化や風土で独特のアジアっぽいカラーがある。留学生が「アジアですよ」と思わず感想を漏らしたのが祭りだった。14日に能登半島の尖端、珠洲市を訪れ、地域の伝統的な祭礼「正院(しょういん)キリコ祭り」を見学した。能登半島では夏から秋にかけて祭礼のシーズン。キリコは収穫を神様に感謝する祭礼用の奉灯を巨大化したもので、大きなものは高さ16㍍にもなる。この日、輪島塗に蒔(まき)絵で装飾された何基ものキリコが地区の神社に集い、鉦(かね)と太鼓のリズムが祭りムードが盛り上がっていた。

   中国ウイグルからの留学生が「アジア」と指摘したのは、そのキリコを担ぐ青年たちがまとっている、地元ではドテラと呼ばれる衣装だった。「これアジアの少数民族が祭礼のときに着る衣装とそっくり」と。自らも少数民族であり、装束に関心を持っていた。地元に人に聞くと、もともと女性の和服用の襦袢(じゅばん)を祭りのときに粋に羽織ったのがルーツと言われていて、同じ能登のキリコ祭りでもこのドテラを着るのは珠洲の特徴という。色は青のほかに、赤、紫、黄など色とりどりで、それに花鳥風月の柄が入る。一人で数着持っている人もいるとか。

   そして、相撲の力士が身に着ける化粧回しのようなものが「前掛け」。これにも趣味があって、龍や獅子、波などの刺繍を施して、一着何十万円の特別注文のものもあるそうだ。派手な刺繍だけではない、この前掛けにはいくつもの鈴が装着されていて、歩くとシャンシャンと音がする。着ている物も派手なら、担ぐキリコもとてもきらびやか。確かにどこかアジアっぽい雰囲気が漂う秋祭りだ。留学生の要望でキリコの前で写真を撮らせてもらった=写真・上=。

    今回のスタディ・ツアーの感想でドイツからの留学生の言葉が印象的だった。「能登の探検には何度か来たことがあるが、今回は謎を解き明かしてくれる人々と出会い、デープな能登を知ることができた。アメリカの大都会から能登の里山に移住したキャロラインさんの生き方は印象的だった。里山を愛するその生き方にはとても勇気づけられた」

    キャロライン渡辺さんは能登の里山で珠洲焼に取り組むアメリカ出身の女性。窯を訪ね、話を聞いた=写真・下=。ニューヨークで陶芸を志す日本人男性と知り合い、1987年に能登にやってきた。コロンビア大学で日本文化を学び、日本文化研究で知られるドナルド・キーン氏との親交もある。移住10年後に夫は他界したものの、自身は里山生活とアート活動が気に入り31年目になる。「里山での生活は私の人生そのもの。焼き物の窯は作品をつくるというより、炎を楽しむ祭りの様なものね」と。里山を歩き、田畑を耕し、土をこねて、窯の燃料となる薪は自身でつくる。冬場の除雪も自分でする。「自給自足の生活は自分に向いている。子育てするには最高の環境だったし、夫とともに夢中になってつくった窯で焼き物をつくり続けたい」

    豊かな里山の自然、そして里山に人生あり。日本人が忘れかけていたことを、キャロラインさんの言葉で留学生たちが気付いてくれた。

⇒17日(祝)午後・金沢の天気    はれ

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★「ふるさと納税」への動機付け

2018年09月12日 | ⇒ニュース走査

   ふるさと納税が面白い。自身もことし7月に能登半島のある自治体に「能登牛(のとうし)」と「地酒」をセットで申し込み、届いた肉と日本酒で友人らを招いてすき焼きパーティーを楽しんだ。もう4回目ですっかり恒例行事となった。申し込みの際に届いたガイドブックに目を通すと、新しい「返礼品」が記載されていた。「お墓のお掃除代行」「雪かき代行」「草刈り代行」だった。

   墓掃除代行の項目。「お墓の一角分の清掃をシルバー人材センター1名の会員が2時間の範囲で行います。後日、清掃前後の写真をお送りします」と。さらに清掃の内容は「墓石等洗浄、草取り」とある。注意事項として、「墓石は水洗いのため、汚れが落ちない場合もあります」と。確かにそうだ。ひと昔前の安山岩系の墓石だとコケがこびりついて水洗いでは落ちにくい。

   雪かき代行の詳細。「家の周り、玄関周辺の雪かきをシルバー人材センター2名の会員が4時間の範囲内で行います。後日、雪かき前後の写真をお送りいたします」と。これも注意事項があって、「家の周り、玄関周辺の雪かきに限ります。屋根の雪下ろしはいたしません」と。草刈り代行はシルバー人材センター2名が8時間で住宅や土地の除草を刈り払い機を使って行う。竹林などの伐採は行わない。墓掃除は1万円、雪かきは5万円、草刈りは10万円の寄付金でやってもらえる。

   墓掃除や雪かき、草刈りはその地域の出身者にターゲットを絞った、本来の「ふるさと納税」だろう。盆に故郷に墓参りに行きたいが所用でどうしても行けない、あるいは故郷に一人暮らしの高齢の親がいる場合には冬場の雪かきを頼みたいなど、遠方に住む出身者のニーズはある。生まれ育った故郷の振興に役立てばとの想いも重ね合わせると、ふるさと納税へのストーリー性のある動機づけになる。 

   一方、このところニュースでふるさと納税が「悪役」になっている。ふるさと納税の返礼品の調達価格を寄付額の3割以下にするよう求める通知を守っていない自治体が全国自治体の14%にあたる246に上り、総務省はこうした自治体をふるさと納税の対象から外す方向で制度を見直すという。昨年度に135億円を超える寄付額を集めた大阪府泉佐野市の場合、返礼品として地場産品ではない全国各地の肉や果物、ビールなどを取りそろえていて、返礼品の調達価格が寄付額の5割に達するものもあったと総務省から指摘を受けた。

   ふるさと納税は個人が自治体に寄付するとその金額の一部が所得税と住民税から控除される仕組みなので、元が取れて返礼品を楽しむことができれば、投資感覚で寄付を楽しむ人もいるだろう。かつて財政健全化団体に陥ったこともある泉佐野市は寄付金集めに苦心したのだろう。同市の返礼品はそんな人たちのターゲットになったようだ。ただそこには「ふるさと」という発想はない。「ふるさと納税」の存続が問われている。(※写真は「珠洲市ふるさと納税ガイドブック」から)

⇒12日(水)朝・金沢の天気    くもり

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☆災害列島に「想定外」はない

2018年09月10日 | ⇒ニュース走査

        自然の猛威が止まらない。きょう10日も本州付近にどっかり停滞した前線の影響で能登半島ではまた大雨に見舞われ、1万5千人余りに対し一時的に避難勧告が出された。輪島市では道路ののり面が崩壊して集落が孤立、JR七尾線では運休が相次いだ。先月末に豪雨による河川の氾濫で住宅が冠水していて、泥掃除が終わったころに今回の大雨だ。「もう堪忍してや」と地域の人々の悲鳴が聞こえる。

   札幌市に住む友人とメールのやり取りをしている。かつて民放テレビ局にいて番組づくりを通じて知り合った。今はリタイアしている。メールで「悠々自適だったのに今回の震災で憂鬱な毎日です」と。さらに不安心理を煽っているのは「もう一つのドでかい地震」。昨年12月に政府の地震調査委員会が公表した、北海道の沖合にある千島海溝で起きるとされる「マグニチュード8.8程度以上」の巨大地震なのだという。

   千島海溝では、1973年6月の根室半島沖地震や2003年9月の十勝沖地震など繰り返し地震が起きている。地震調査委員会が公表した地震は350年ごとに繰り返している巨大地震で30年以内の発生確率は7%から40%と想定されてている。「今回の地震で誘発されるのはないか」と、友人は不安を隠さない。地震調査委員会がホームページ上で公表している「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)」を読んでみた。確かに数字が具体的ですさまじい。

   根室沖では、過去およそ170年間にマグニチュード7.4以上の地震が3回起きていて、今回公表では8.5程度のものが今後30年以内の発生確率で60%程度から70%程度となっている。また、北方四島がある色丹島沖および択捉島沖でも巨大地震が発生する可能性があると指摘している。友人は「もう『想定外』という言葉は死語になった」と。

   地震調査委員会は2013年にも南海トラフについて公表し、マグニチュード8から9の巨大地震が今後30年以内に60%から70%の確率で発生すると指摘、世間を震撼させた。災害列島は次なるステージに入ったと言える。同時に日本人の価値観も今後大きく変動していくのではないだろうか。どのように変わっていくのか探ってみたい。(※写真は「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)」より)

⇒10日(月)夜・金沢の天気     くもり

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★震災あれど、花火を上げる心意気

2018年09月07日 | ⇒ニュース走査

    日本は災害列島だ。ここ数ヵ月でも大阪北部地震(6月)、西日本豪雨(7月)、最大級の台風21号(9月)、そして今回の北海道地震。まさに非常事態だ。日本は自然災害と戦っている「紛争国」ではないだろうか。

    自然災害がもたらすこんな数字を思い起こす。今後30年以内に70-80%の確率で発生するとされる「南海トラフ地震」がM9クラスの巨大地震と想定すると、経済被害額は最悪の場合、20年間で1410兆円(推計)に達する(ことし6月7日・土木学会)。倒壊などによる直接被害は169兆5千億円、それに加え、交通インフラが寸断されて工場などが長期間止まり、国民所得が減少する20年間の損害額1240兆円を盛り込んだ数字だ。そして、奪われるであろう命は最悪30万人余り。

    自然災害に怯えてばかりはいられない。災害と共生するたくましい人々が北海道にいる。きょうのネットニュース(BuzzFeed Japan)にもなっていた。洞爺湖町で開催されている「洞爺湖ロングラン花火大会」(4月28日-10月31日)は、地震があったきのう6日夜も450発が打ち上げれたようだ。「震災で亡くなった人々がいるので不謹慎」と思う人もいるだろう。洞爺湖周辺の人々には自然災害と付き合ってきた長い歴史がある。

           昨年9月16-18日の休日を利用して北海道の洞爺湖を旅した。目的は「洞爺湖有珠山ジオパーク」だ。2009年、ユネスコ世界ジオパーク認定地として糸魚川、島原半島とともに日本で初めて登録された。ジオパークは大地の景観や奇観を単に観光として活用するというより、地域独特の地学的な変動を理解して、その大地で展開する自然のシステムや生物の営み、人々の生業(なりわい)、歴史、技術などを総合的に評価するものだ。

    洞爺湖有珠山ジオパークの価値を理解するため、ロープウエイに乗って、有珠山の噴火口に行き、あるいは洞爺湖を望んだりした。理解を深めるとっかかりはガイドの男性の意外なひと言だった。「有珠山はやさしい山なんです」。火山科学館で 有珠山のビデオ上映があった。1663年の噴火以来、これまで9度の噴火を繰り返してきた日本で最も活動的な火山の一つだ。映像は18年前の2000年の噴火を中心に生々しい被害を映し出した。この映像から有珠山の「やさしさ」の理由が解きほぐされる。

    2000年の噴火では、事前の予知と住民の適切な行動で、犠牲者がゼロだった。犠牲者ゼロが成し遂げられたのは、有珠山は噴火の前には必ず前兆現象を起こすことだった。その「山の声」を聞く耳を持った住民や気象庁や大学の専門家が観測をすることで適切な行動を起こすことができたからだ。この犠牲者ゼロの貴重な体験から「火山防災」あるいは「火山減災」という考えが地域に広まり、学校教育や社会教育を通じて共有の認識となる。さらに気象庁は火山の監視と診断(緊急火山情報、臨時火山情報、火山観測情報)の精度を高め、大学などの研究機関は予測手法の確立(マグマの生成、噴火に伴う諸現象など)をすることで「火山学」の理論構築を展開させた。

   定期的に噴火を繰り返す有珠山と共生するという周辺地域の人々の価値感は、噴火の事前現象を必ず知らせてくれる「やさしい山」なのだ。それだけではない、1910年噴火では温泉が沸き出し、カルデラ湖や火砕流台の自然景観は観光資源となり、年間301万人(平成27年度・洞爺湖町調べ)の観光客が訪れ、宿泊客は64万人。有珠山観光は地域経済を支える基幹産業である。火山を恵みとしてとらえ、犠牲者を出さずに火山と共生する人々の営みを創り上げた。

   防災、減災、リスクヘッジをひたむきに追求し、危機対応や被災に対する心構えがこの地には根付いているからこそ、被災地域を超えて「大地の公園」、ジオパークという発想に立つことができる。「花火は人が打ち上げるものだ。停電の闇夜(ブラックアウト)に明かりを」と言わんばかりに震災の日に花火を打ち上げた、洞爺湖観光協会の人々の心意気は十分に理解できる。(※写真は洞爺湖観光協会ホームページから)

⇒7日(金)夜・金沢の天気   あめ

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☆災害列島の正念場

2018年09月06日 | ⇒ニュース走査

  「震度7」、痛ましい。先日の台風21号に続いて、まさに「災害列島」。気象庁は地震の名称を「北海道胆振東部地震」に決定したと発表した。胆振(いぶり)という地名を入れる必要があるのだろうか。おそらくテレビ各局のアナウンサーも困っているだろう。「いぶりとうぶ」という読みは舌を噛みそうだ。「北海道地震」でよいのではないだろうか。何しろ東北の一部を含め北海道全体が揺れている=写真・上、気象庁ホームページより抜粋=。

   早朝にNHKニュースを視聴して「震度7」の状況を見たのは、厚真町(あつまちょう)の山々の土砂崩れだ。頂上の樹木を残して赤土の山肌がいたるところで露出している。震度7の揺さぶりの激しさを見た思いだ。土砂災害がこれほど大きくなると自衛隊の災害派遣が要請される。防衛庁のホームページによると。現在4900人が派遣され、今後2万5000人規模まで増派予定と。艦船は4隻、航空機は20機。陸上自衛隊は給水支援や人命救助活動を行っている=写真・下、防衛庁ホームページより抜粋=。海上自衛隊は救援物資の輸送を行っている。航空自衛隊は救助犬の派遣など行っている。自衛隊では海上と航空が「警備犬」を養成していて、爆発物の検索や不審者の追求、災害時における被災者の捜索を行う。犬種はドイツ・シェパードが多いようだ。

   大規模な震災では二次災害が起きる。とくに火災だ。電気機器やコードが損傷している場合は火災が起きる。消防庁の呼びかけで意外だったのは太陽光発電パネルの危険性だ。損傷した太陽電池パネルに日が当たると発電し、感電や火災につながる可能性があり、可能ならばパネルの表面に遮光を施す、たとえばブルーシートや段ボールで覆う、裏返しにするなどの対策をとってほしいと呼びかけている。文明の利器も災害時には凶器となるのだ。

    総理官邸ではどんなことがなされているのか。ホームページをチェックすると、関係閣僚会議で安倍総理が次のように指示している。北海道全域で発生していた停電は水力・火力発電所の再稼働を進めた結果、札幌市の一部など30万戸への送電を再開した。あす朝までに全体の3分の1に当たる100万世帯への供給再開を目指す。病院や上下水道、通信基地局などの重要施設向けては300台以上のタンクローリーを派遣して自家発電(非常用電源)に必要な燃料供給を行う。全国の電力会社から150台の電源車を確保し、今夜中に35台が現地に入り、重要施設への電力供給を行う。

    内閣も必死なのだろう。災害列島は正念場だが、ただ、これで終わることはない。「災害は忘れたころにやってくる」(寺田寅彦)は教訓だが、すでに現実味を失った。「天災は忘れないうちにやってくる」と心得た方がよい。

⇒6日(木)夜・金沢の天気     はれ 

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