総理官邸と内閣記者会がもめている。その発端は、世耕弘成首相補佐官(広報担当)が9月27日、安倍総理の「ぶら下がり」会見を1日1回とするよう、内閣記者会に申し入れたことに始まる。
「ぶら下がり」会見問題の実相
この「ぶら下がり」会見とは、総理が立ちながら記者の質問に答えるもの。小泉総理のときは、政権発足当初は1日2回行っていたが、ことし7月から1回に半減した。安倍内閣では1回を踏襲したいとしたが、記者会側は「本来2回、一方的な通告は認められない」と申し入れを拒んでいる。
広報担当の世耕補佐官の説明では、ぶら下がりは夕方1回のみだが、夜のテレビニュースに間に合う時間帯に実施。1回とする代わりに取材時間には配慮するとし、「より密度を濃くしたメッセージを国民に発信したい」「1日1回でも国際的には非常に多い回数」とした。つまり、今回の内閣では広報担当の総理補佐官が新設されたこともあり、総理の負担を減らしたいとの意向だろう。
では実際、どのようなかたちで「ぶら下がり」会見が行われているのだろうか。その27日の当日は、午後8時50分から総理執務室での安倍-ブッシュの電話会談があり、午後9時15分ごろから、安倍総理の「ぶら下がり」会見があった。翌日の28日は午後7時過ぎから総理の「ぶら下がり」会見があった。が、この日は午後から総理と新聞各社論説委員との懇談、続いて総理とテレビ解説委員との懇談、さらに総理と内閣記者会各社キャップとの懇談があった。つまり、「ぶら下がり」会見は1回だったが、マスメディアとの対話には官邸サイドは応じているのである。
記者会側は「ぶら下がり」会見は政府と報道各社の合意に基づいて実施しており、一方的な通告による変更は認められない」と主張し、29日には要請文を広報担当補佐官の世耕氏に提出した。あくまでも小泉政権で合意した1日2回を継続するよう求めたほか▽内閣記者会が緊急取材を求めた場合は応じる▽ぶら下がり取材はインターネットテレビで収録しない▽官邸や国会内で総理が歩行中の取材に応じる▽現在制限されている総理執務室周辺の取材を認める-など合計5項目を要請した。
この「インターネットテレビで収録しない」との下りは、官邸ホームページの掲載のため政府のカメラも「ぶら下がり」会見の様子を撮影したいと世耕氏が提案したものだ。これに対して、記者会側は、政府のテレビ撮影は「取材の場であり広報ではない」と拒否したわけである。
記者会側が要請文を提出した29日の安倍総理は所信表明演説の中でこう述べた。「私は、国民との対話を何よりも重視します。メールマガジンやタウンミーティングの充実に加え、国民に対する説明責任を十分に果たすため、新たに政府インターネットテレビを通じて、自らの考えを直接語りかけるライブ・トーク官邸を始めます」と。 この日の夜の会見で、記者が安倍総理に質問した。「国民の知る権利にこたえるためにも2回に応じるべきではないのか」と。これに対し、総理は「必ず1日1回、こうしたかたちで国民の皆様に私の言葉で語りかけて参ります」と述べた。
27日から始まったもめ事が真相が29日になってようやくはっきりしてきた。つまり、官邸サイドはマスメディアのほかにインターネットテレビやメールマガジン、タウンミーティングなどを通じて国民に直接語りかけたいとの意向。これに対し記者会側は「国民の知る権利」はマスメディアを通じてのみ成立するのであって、官邸が直接インターネットなどで流す情報は「広報」であり、「国民の知る権利」に応えたことにはならない、としているのである。
突き詰めれば、おそらく官邸サイドは記者のフィルターを通した会見内容より、会見の全容をインターネットで流し、国民が直接内容を判断してくれた方がよいとの考えなのだろう。ところが、記者会側は「広報と取材をいっしょにするな」と会見の政府のカメラ収録を拒否している。マスメディアはどう頑張っても字数や時間枠の制限のためにカットや編集が多くなるのだ。
本来の「国民の知る権利」とは何かを考えれば、マスメディアによる情報の独占より、会見内容の全容を直接知ることができるインターネットがあった方がよいに決まっている。新聞やテレビを通してでしか一国の総理の言葉が伝わらないというのは合理性を欠く。今回のもめ事の本質は「ぶら下がり」会見の回数の問題ではなく、会見の政府のカメラ収録を記者会側が拒否していることこそ、国民にとっては問題なのではないだろうか。(※総理官邸のシンボルは竹と石)
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