自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆重信房子と「あさま山荘事件」現場

2022年05月31日 | ⇒ニュース走査

   国際テロ事件を数々起こした日本赤軍の重信房子元最高幹部が20年の刑期を終えて28日、東京・昭島市の医療刑務所を出所した。「見ず知らずの人たちに被害を与えたことをおわびします」などと述べた。日本赤軍については2013年に解散を宣言しているが、現在もメンバー7人が逃亡している(28日付・NHKニュースWeb版)。

   日本赤軍の卑劣な手口は、ハイジャックや在外公館を武装占拠して人質を取り、日本国内で勾留中の日本赤軍の関係者を奪還する手法を取ったことだ。1975年にマレーシアのアメリカ大使館を襲撃し、あさま山荘事件(1972年)で逮捕された容疑者ら5人を超法規的措置で釈放させた(クアラルンプール事件)。77年には日航機をハイジャックし、連続企業爆破事件の容疑者ら6人を釈放させた(ダッカ事件)。その主犯が重信元最高幹部だった。

   ことし1月に南軽井沢の「あさま山荘事件」の現場を見に行った。1972年2月28日、連合赤軍が人質をとって立てこもっていた現場に警察機動隊が救出のために強行突入した。酷寒の山地での機動隊と犯人との銃撃の攻防、血まみれで搬送される隊員、クレーン車に吊った鉄球で山荘を破壊するなど衝撃的なシーンがテレビで生中継された。当時、自身は高校生でテレビにくぎ付けになって視聴していた。

   あさま山荘の現場が見える地に、犯人の凶弾に倒れ殉職した2人の警察官の顕彰碑「治安の礎」がある=写真=。「見ず知らずの人たちに被害を与えたことをおわびします」というのであれば、あさま山荘事件の現場に来て、この碑に手を合わせるべきではないだろうか。ただ、遺族の心情とすれば来てほしくはないだろう。

⇒31日(火)夜・金沢の天気     くもり

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★マスメディアは数字にこだわる

2022年05月30日 | ⇒メディア時評

   記事やニュースの見出しで数字を見ない日はない。きょうの新聞紙面をチェックすると、一面で「海外協力隊 高まる関心 北陸の説明会応募2.3倍」(北陸中日新聞)と報じている。JICA調べで、北陸3県の説明会の応募累計は68人に上り、2019年春より2.3倍の多さだという記事だ。さらに同じ一面で「災害時トイレ『不足』39% 県庁所在地など 自治体備蓄に限界」(同)は大規模災害に使えるトイレが、金沢市など県庁所在地と政令指定都市の51市のうち39%にあたる20市が「不足する恐れがある」と調査で分かったという内容だ。

   他紙でも、「著作権料 過去2番目の徴収額 昨年度1167億円 JASRAC 配信・サブスク伸びる」(朝日新聞)など。NHKニュースWeb版も「“1.5度”の気温上昇『今後5年間に起きる可能性 50%近く』」「『集中豪雨』の頻度 45年間で2倍余増」と見出しで数字が踊っている。

   では、なぜ記事では数字を多用するのか。ジャーナリズムの鉄則は「形容詞は使わない」ことにある。形容詞は主観的な表現であり、言葉に客観性を持たせるには、数字を用いて言葉に説得性を持たせる。たとえば「高いビル」とはせず、「20階建てのビル」と数字で表現する。上記の「可能性50%近く」は「可能性大いにあり」などと表現はしない。

   先に金沢大学の在任中は特任教授として「メディア論」を講義したが、数字を使っての客観的な表現方法は学生たちにとっては新鮮だったらしく、「小さいころからうまい形容詞を使うとほめられたが、確かに新聞では形容詞を見たことがない。でも、形容詞を使わない文章って難しそうだ。大学の論文でも形容詞は使わないですよね、目が覚めました」などと感想があった。​

   ただ、メディアは数字にこだわりすぎではないかと最近思うことがある。連日紙面で掲載されている「新型コロナウイルス感染者数」だ。都道府県別に累計の感染者数、増えた数、死者数の累計を掲載。地方紙はさらに各市町ごとの総数と増えた数、治療の患者数などを別表で掲載している。NHKも東京の感染者数を連日速報で伝え、それぞれのローカル局も地元の感染者情報を伝えている。

   メディアが発する数字は気になるものだ。しかし、政府はウイルス対策の「まん延防止等重点措置」に関し、東京や大阪、石川など18都道府県への適用を3月21日をもって全面解除している。が、新聞メディアは以降もずっと毎日だ。そこまで数字の掲載にこだわる意義はどこにあるのだろうか。1週間ごとの累計でもよいのではないか。ひょっとして、メディア各社も仕舞いのタイミングを見計らっているのかもしれない、が。

⇒30日(月)夜・金沢の天気   くもり

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☆カーボンニュートラルな能登の光景

2022年05月29日 | ⇒トレンド探査

   能登半島で見る印象的な風景は、山の峰に並ぶ風力発電、山裾や田んぼ、畑の一角に広がる太陽光発電ではないだろうか。脱炭素の世界的な潮流を受け、日本も2030年に温室効果ガスの46%削減、2050年までのカーボンニュートラルの実現を表明している(2021年4月・気候サミット)。日本が排出する二酸化炭素の4割が電力関連で、再生可能エネルギーに置き換える動きが全国的に活発だ。

   能登半島全体では74基、うち半島尖端の珠洲市には30基の大型風車がある。経営主体は日本風力開発株式会社(東京)、2007年から順次稼働している。発電規模が45MW(㍋㍗)にもなる国内でも有数の風力発電地域だ。発電所を管理する会社のスタッフの案内で現地を訪れたことがある。ブレイド(羽根)の長さは34㍍で、1500KW(㌔㍗)の発電ができる。風速3㍍でブレイドが回りはじめ、風速13㍍/秒で最高出力1500KWが出る。風速が25㍍/秒を超えると自動停止する仕組みなっている。羽根が風に向かうのをアップウインドー、その反対をダウンウインドーと呼ぶ。1500KWの風車1基の発電量は年間300万KW。これは一般家庭の1千世帯で使用する電力使用量に相当という。(※写真・上は能登半島の先端・珠洲市の山地にある風力発電)

   なぜ能登半島に立地したのか。「風力発電で重要なのは風況」と現地のスタッフが説明してくれた。中でも一番の要素は平均風速が大きいことで、6㍍/秒を超えることがの目安になる。能登半島の沿岸部、特に北側と西側は年間の平均風速が6㍍/秒を超え、一部には平均8㍍/秒の強風が吹く場所もあり、風力発電には最適の立地条件なのだ。いいことづくめではない。能登で怖いのは冬の雷。「ギリシアなどと並んで能登の雷は手ごわいと国際的にも有名ですよ」と。そのため、ブレイドの材質は鉄製ではなく、FRP(繊維強化プラスチック)にしているが、それでも落雷のリスクはあるという。

   バイオマス発電所もある。珠洲市に隣接する輪島市の山中にある。発電所を運営するのは株式会社「輪島バイオマス発電所」。スギやアテ(能登ヒバ)が植林された里山に囲まれている。木質バイオマス発電は、間伐材などの木材を熱分解してできる水素などのガスでタービンエンジンを駆動させる。石炭など化石燃料を使った火力発電より二酸化炭素の排出量が少ない。もともと二酸化炭素を吸湿して樹木は成長するのでカーボンニュートラルだ。発電量は2000KWで24時間稼働するので年間発電量は1万6000MW、これは一般家庭の2500世帯分に相当する。エンジンを駆動させるために必要な木材は一日66㌧、年間2万4千㌧の間伐材が必要となる。(※写真・中は輪島市三井町にある輪島バイオマス発電所の施設)

   創業者から会社設立に至った経緯をうかがったことがある。「能登の里山を再生するために、間伐材をどうしたら有効利用できるかを考えていたら、バイオマス発電が浮かんだ。そこから夢も膨らみ、地産地消のエネルギーで地域の活性化に貢献したいと思い、会社をつくったのです」。森林維持には欠かせない間材で生じた木材のうち丸太材やパルブ材などに利用されるのは70%程度に過ぎない。残りの端材や曲がり杉は、利用されずに林地残材という形で山の中にそのまま残されているのが現状。これではもったいない。カスケード利用(多段的利用)しない手はない(同社公式サイト)。里山のもったいない精神から発想された再エネなのだ。

   能登半島では農地のほかに山間部でも大規模なメガソーラー(1000kW)が相次いで稼働している。耕作放棄地など活用したのだろう。気になることもある。川沿いの平野部に設置されている太陽光パネルだ。これが、集中豪雨による冠水や水没で損壊したり、設備が流されるということにはならないだろうか。太陽光パネルは実は危険だ。損傷し放置された太陽光パネルに日が当たると発電し、感電や火災につながる可能性がある。(※写真・下は珠洲市にあるソーラー発電施設)

   きょうの新聞各紙は、環境省は使用済みの太陽光パネルのリサイクルを義務化する検討に入ったと伝えている。太陽光パネルの寿命は長くて30年だ。普及が進んでいる能登地区の近未来の課題でもある。

⇒29日(日)夜・金沢の天気    はれ

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★ICBMが命中したカムチャッカ半島で今度は大噴火

2022年05月28日 | ⇒ニュース走査

   気象庁公式サイトによると、きょう28日午後5時10分ごろ、ロシア・カムチャッカ半島のベズィミアニィ火山(標高2882㍍)で大規模な噴火が発生した。ウエザ-ニューズWebによると、噴煙は高度1万5000mに到達しているものとみられる。ベズィミアニィ火山は1955年以降たびたび規模の大きな噴火を起こしていて、近年も活発な火山活動を続けています。噴煙の高さのみで噴火の規模は比較できないものの、2019年3月にも今回と同程度まで噴煙を上げる噴火を起こしている。

   ウエザ-ニューズのツイッターはその噴火の様子の写真を掲載している=写真・上=。噴火もさることながら、写真の手前に富士山のような見事な山が見える。これはクリュチェフスカヤ山(標高4750㍍)。その後ろに隠れている山がベズィミアニィ火山のようだ。

   この噴火のニュースでふと連想したのは、4月20日にロシアがカムチャッカ半島にICBMを撃ち込んでいることだ。NHKやCNNニュースWeb版(4月21日付)によると、ロシア国防省は日本時間の20日午後9時すぎ、北部アルハンゲリスク州にあるプレセツク宇宙基地の発射場から新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」を発射し、およそ5700㌔東のカムチャツカ半島にあるクーラ試験場に向けて目標に命中したと発表した。BBCニュースWeb版は「Russia releases video of intercontinental ballistic missile launch」と題して、ロシア国防省が撮影した「サルマト」の発射映像(43秒)を公開している=写真・下=。

   読売新聞Web版(4月21日付)によると、このICBMは射程1万1000㌔以上、重量200㌧を超える重量があり、10以上の核弾頭の搭載が可能とされる。弾頭部分をマッハ20(時速約2万4500㌔)で滑空飛行させ、既存のアメリカのミサイル防衛網での迎撃は困難とも指摘される。ロシア大統領府の発表として、プーチン大統領は「ロシアの安全を確保し、攻撃的な言動でロシアを脅かす人々に再考を迫るだろう」と述べ、ウクライナ侵攻を受けて対露制裁を科している米欧をけん制した。

   新型ICBMが命中し、そして大噴火。噴火は近年活発化していたようなので関連性はないようだ。それにしても極東のカムチャッカ半島がこれほど注目されるとは。

⇒28日(土)夜・金沢の天気    くもり  

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☆衆院議長「セクハラ疑惑」むしろ女性記者はどう動くのか

2022年05月27日 | ⇒メディア時評

   この記事の落としどころはいったいどうなるのか、先が読めない。『週刊文春』が報じている衆院議長の細田博之氏による国会担当の女性記者への「セクハラ疑惑」についてだ。今週号(6月2日号)を読んだが、「さもありなん」という印象ではある。ただ、「#Me Too」運動は盛り上がっていて共感を呼ぶものの、「事実無根、訴訟も」と主張する細田氏への決定打が見えない。

   政府中枢のセクハラ問題で思い出すのは、4年前の2018年4月に辞任した、当時の財務省事務次官・福田淳一氏の一件。『週刊新潮』の掲載で、このときも女性記者へのセクハラ問題だった。福田氏は「週刊誌に掲載された記事は事実と異なり、裁判で争う」とセクハラ発言は否定していたものの、音声データがネットで公開され、これが動かぬ証拠となり、本人は辞職した。女性記者はテレビ朝日の記者で、上司に自身のセクハラ体験を記事にすることを進言したが反対され、この案件を音声データとともに週刊新潮に持ち込んだことが同局から説明された。

   冒頭で「先が読めない」と述べたのも、実名による告発、あるいは音声データなど確たる証拠が記事からは読めないからだ。1989年8月に日本で初めてセクハラ被害を問う裁判を起こした福岡県の出版に勤務していた女性は上司の編集長を実名で提訴した。そして、「#Me Too」運動として日本の先端を切ったジャーナリストの伊藤詩織氏も実名を公表して元TBS記者を訴えて勝訴した。

   今回の細田氏のセクハラ疑惑についても、それが必要だろう。ところが、文春の記事を読んで、女性記者たちの「#Me Too」意識がいまいち伝わってこない。財務省事務次官を辞任に追い込んだ、あのテレビ朝日の女性記者の告発へのモチベーションが見えない。

   記者という立場にはジレンマンもある。記者は「虎穴に入らずんば虎児を得ず」という言葉を先輩たちから聞かされる。権力の内部を知るには、権力内部の人間と意思疎通できる関係性つくらならなければならない。そこには取材する側とされる側のプロフェッショナルな仕事の論理が成り立っている。その気構えがなければ記者はつとまらない、という意味だと解釈している。

   その過程でセクハラのような言葉が先方からあったとしても、女性記者たちには国政に関する重要な情報を得ることが最優先となる。女性記者たちにとって、細田氏は単なる「スケベじじい」なのだが、情報は取りやすい人物なのだろう。女性記者たち自身が告発しなければ文春の記事の結末が見えない。女性記者を議員取材に出しているメディアの対応も問われている。

⇒27日(金)夜・金沢の天気    はれ

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★日本の「ゆでガエル」化を狙う隣国の軍事行動

2022年05月26日 | ⇒ニュース走査

   現代の世界の国家観を表現する絶妙な言葉ではある。「ならず者」と「ゆでガエル」。この2つの言葉を用いたのは、自民党の外交部会長、佐藤正久氏だ。元陸上自衛官で参院議員、テレビメディアの政治討論会でもよく見かける。FNNプライムオンライン(25日付)によると、きのうの自民党外交部会で、佐藤氏は24日の日米豪印によるクアッド首脳会合の最中に、中国軍とロシア軍の爆撃機が日本周辺の日本海や東シナ海、それに太平洋上空で長距離にわたって共同飛行したことについて、「ならず者国家」「常軌を逸した示威行動」と批判した。

   中露の軍事演習は当日午前から午後にかけて、中国の爆撃機「H-6」2機が、日本海でロシアの爆撃機「TU-95」2機と合流して行われた。また、ロシアの情報収集機「IL-20」1機が北海道礼文島沖から能登半島沖までの公海上空を飛行していることが確認された。これに対して、航空自衛隊は戦闘機をスクランブル発進させて監視を行った。中露による長距離の軍事演習は2021年11月以降で4度目となる(24日付・防衛省公式サイト「大臣記者会見」)。

   この中国とロシアの示威行動に対して、佐藤氏は「これはクアッド開催国の日本に対する当て付け・当て擦り以外の何ものでもなく、中国自らが力の信奉者、『ならず者国家』であることを示したようなものだ」と批判。そして、ウクライナ侵略の教訓として、「遺憾の意を示すだけでは国を守れない」との認識を示した(25日付・FNNプライムオンライン)。

   「ゆでガエル」発言が飛び出したのはこのタイミングだった。「日本はこうした常軌を逸した行動に対して単なる抗議だけではなく、国際法に基づいて毅然とした行動を示すべき段階に来ている。日本が『ゆでガエル』になっては絶対にいけない」。そして、「単なる抗議だけではなく毅然とした行動を示すべき段階に来ている」と述べ、自衛隊によるオホーツク海での訓練や台湾海峡の通過を実施すべきだと主張した(同)。

   「ゆでガエル」は、徐々に進む危機に気づかずに対処が遅れて命取りになる例えだ。確かにいまの日本をあり様を見渡すと、まさに「ゆでガエル」だ。尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域に中国海警局の艦船が連日来ているにもかかわらず、日本は「遺憾」を繰り返すだけだ。上記の中露の共同飛行でも両国に対し外交ルートで懸念を伝達しているが、佐藤氏が述べているような「毅然とした行動」は取らなかった。

   中国とロシアが日本周辺で軍事演習を繰り返す狙いの一つは、日本の「ゆでガエル」化なのだろう。日本の安全保障環境にあえて接近を繰り返すことで、緊張感を慣れへと持って行き、ウクライナ侵攻のように「偽旗作戦」を駆使して一気に領土に踏み込む。そのような思惑なのだろう。

   一方、23日の日米首脳会談で岸田総理は防衛費の増額を表明した。そして25日午後、航空自衛隊千歳基地のF15戦闘機4機とアメリカ軍三沢基地のF16戦闘機4機が日本海の上空で共同飛行を行っている。日本とアメリカが連携して対抗措置、すなわち隣国との「にらみ合い」を演じるステージに入った。ウクライナ侵攻から学んだ教訓でもある。

⇒26日(木)午後・金沢の天気      くもり

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☆クアッド後に北の弾道ミサイル、なぜこのタイミングか

2022年05月25日 | ⇒ニュース走査

   あさ目覚めベッドで横になって、スマホでニュースをチェックすると、NHKの速報「北朝鮮から弾道ミサイルの可能性あるものが発射 EEZ外に落下か 政府関係者」(06:35)と流れていた。「このタイミングで、か」と思いながらベッドから身を起こした。

   関係省庁の公式サイトをチェックする。防衛省は弾道ミサイル発射の速報を「午前6時4分」に、そして、総理官邸では総理指示の内容を「午前6時5分」に発している。早朝にもかかわらず、このリスク管理の対応は見事だ。政府は北朝鮮はいつ発射するのかとじっと身構えていたのだろうか。

   冒頭の「このタイミングで、か」と思ったのも、アメリカのバイデン大統領が20日から24日にかけて日本と韓国の歴訪を終え、帰国したタイミングだったからだ。北朝鮮にとっては敵国であるアメリカに威力を誇示する狙いがあれば、なぜバイデン氏の滞在中に発射しなかったのか。きのうの日米豪印による「クアッド首脳会合」では、共同声明で北朝鮮による大陸間弾道ミサイル級を含めたたび重なるミサイル発射は地域の不安定化をもたらすと非難したうえで、国連安保理決議の義務に従って実質な対話に取り組むよう求めている(総理官邸公式サイト「クワッド共同首脳声明」)。

   北朝鮮とするとおそらくタイミングが悪かった。以下憶測だ。弾道ミサイルのもともとの発射予定日はバイデン氏と尹錫悦大統領による米韓首脳会談が行われる21日ではなかったか。ところが、今月19日に金正恩総書記のかつての「後継者教育担当」とされた軍の元帥が死去。22日に国葬が営まれ、金氏本人もが参列した。このタイミングでは発射の指示は出せなかったのだろう。23日と24日を喪服の期間として設定し、喪が明けたきょう発射したが、すでにバイデン氏は24日午後6時過ぎに帰国の途に就いている。北朝鮮の長距離弾道ミサイルの発射は金氏の立ち会いのもとで行われていたので現場への移動が間に合わなかったのかもしれない。

   防衛省は続報をサイトで掲載している。それによると、北朝鮮はきょう5時59分ごろ、北朝鮮西岸付近から1発の弾道ミサイルを東方向に向けて発射した。最高高度は約550kmで、約300km程度を飛翔し、東岸の日本海に落下。日本のEEZ外と推定される。さらに、6時42分ごろ、同じく北朝鮮西岸付近から、1発の弾道ミサイルを発射。最高高度は約50kmで、約750km程度を変則軌道で飛翔し、北朝鮮東側の日本海に落下。EEZ外と推定される。弾道ミサイル2発以外に、ミサイルを発射した可能性があり、情報の収集と分析を急いでいる。

   今回の弾道ミサイルの発射は、「クアッド首脳会合」の参加国にあらためて北朝鮮の無法ぶりを印象付けたに違いない。

(※写真は、24日の日米豪印による「クアッド首脳会合」=総理官邸公式サイト動画より)

⇒25日(水)夜・金沢の天気     はれ

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★G7「広島サミット」来年開催にアメリカ世論はどう動く

2022年05月24日 | ⇒ニュース走査

   これは今回の日米首脳会談の最大の成果ではないだろうか。岸田総理はアメリカのバイデン大統領との会談後の共同記者会見(23日)で、来年日本で開催されるG7サミットを広島市で開催することの同意をバイデン氏から取り付けたと語った。そして、会見でのコメントは同選挙区の政治家らしい言葉だった。

   「唯一の戦争被爆国である日本の総理大臣として、私は広島ほど平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所はないと考えている。核兵器の惨禍を人類が二度と起こさないとの誓いを世界に示し、バイデン大統領をはじめG7の首脳とともに平和のモニュメントの前で平和と世界秩序と価値観を守るために結束していくことを確認したい」(23日付・NHKニュースWeb版「共同記者会見・詳細」)

   当地の広島県庁の公式サイトをチェックすると、湯崎知事=写真・上、左=も広島市で開催する意義について述べている。「ウクライナ侵略で損なわれた対話やルールに基づく国際協調を再び取り戻し、将来、ウクライナの人々が復興に向けて前進する際の『希望の象徴』にもなるものと考えています。核兵器廃絶に向けて、かつてないほど厳しい状況におかれている今だからこそ、広島で開催する意義が高まっていると考えます」

   被爆地でG7サミットが開催されるのは初めてのことだ。2016年の「伊勢志摩サミット」終了後の5月27日、アメリカの現職大統領として初めてオバマ氏が広島を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花した当時外務大臣だった岸田氏は原爆ドームなどについて通訳を介さずに英語でオバマ氏に説明を行ったことは知られている。史上初の原爆投下(1945年8月6日)で広島市では少なくとも14万人が死亡。3日後に長崎市でも原爆が落とされ、さらに7万4000人が死亡した。ただ、オバマ氏は献花の際、原爆投下について謝罪はしなかった。

   オバマ氏が「ヒロシマへの道」をつけてくれたので、バイデン氏も「広島サミット」の開催には同意しやすかったのだろう。では、オバマ氏と同様に「献花はすれど、謝罪はせず」なのだろうか。オバマ氏が謝罪をしなかったのは、世論が背景があったからだ。アメリカでは原爆投下が甚大な惨禍をもたらしたものの、戦争を終結させたのだから正当性はあるとの声がいまだ根強くあり、オバマ氏は世論に配慮した。その世論をもう少し詳しく見てみる。

   オバマ氏訪日のおよそ1年前の世論調査だ。アメリカの調査会社「ピュー・リサーチ・センター」は2015年4月に原爆投下に関する日米での世論調査の報告書「Americans, Japanese: Mutual Respect 70 Years After the End of WWII」をまとめている。アメリカ人の56%は「核兵器の使用は正当だった」と答え、34%が「そう思わない」と答えている=写真・下=。世代間格差もある。65歳以上のアメリカ人の70%が「正当だった」と答えているが、18歳から29歳の若い世代では47%と過半数を割る。また、共和党員の74%が、民主党員の52%が「正当だった」と答えている。調査から7年経つが、いまでも「正当だった」が根強いのかどうか、ピュー・リサーチ・センターのその後の調査は行われていない。

   バイデン氏は「核なき世界」を理想に掲げている。今後、どのようなヒロシマ発言をするのか注目したい。そして、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は「電光石火」という表現で核攻撃をちらつかせている。こうした動きにアメリカ世論はどう反応していくのか。

⇒24日(火)夜・金沢の天気   はれ

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☆「バイデン訪日」めがけた弾道ミサイルと核実験の可能性 

2022年05月23日 | ⇒メディア時評

   アメリカのバイデン大統領が20日からの韓国と日本の訪問中に、北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射、あるいは核実験に踏み切る可能性があるとアメリカのサリバン大統領補佐官は記者会見で述べたと報道された(5月19日付・NHKニュースWeb版)。アメリカによる衛星観測の結果、過去のICBM発射時に現れたのと同じ兆候(平壌近くの発射場所、発射装備、燃料供給、車両と人員配置など)が確認されたからだ(18日付・CNNニュースWeb版日本語)。

   ところが、訪韓中に発射はなかった。憶測だが、19日に金正恩総書記のかつての「後継者教育担当」とされた軍の元帥が死去。22日午前4時25分から国葬が営まれた。労働党機関紙「労働新聞」Web版(23日付)には、金総書記が棺を持ち先頭を歩く姿が掲載されている=写真=。国葬が営まれ本人が参列する状況下で、弾道ミサイル発射の指示は出せなかったのだろう。これまで、長距離弾道ミサイルの発射は本人の立ち会いのもとで行われていたからだ。

   では、きょう23日の日米首脳会談、あるいは、24日の東京での日米豪印(クアッド)首脳会合に向けて、弾道ミサイルの発射、あるいは核実験は可能性があるのか。北朝鮮では、新型コロナウイルスとみられる発熱症の感染拡大が止まない。金総書記は「建国以来の大動乱」と位置づけ、今月12日にロックダウンの徹底を指示した。国民にはワクチン接種が施されず、医薬品も不足し、医療制度そのものも貧弱とされる。国内の食糧は限られていて多くの人々は栄養失調の状態にあり、ロックダウンが徹底されれば、国民が瀕死の状態に追い込まれることは想像に難くない。常識で考えれば、この状態下で弾道ミサイルの発射、あるいは核実験はないだろう。

   しかし、WHOは北朝鮮にデータや情報の共有を求め、検査キットや医薬品、ワクチンなどを供給することを伝えたが、北朝鮮は「政府による決定」としてワクチン接種などを拒んでいる(19日付・ニューズウイークWeb版日本語)。国際社会の支援を受け入れれば、道義上からも弾道ミサイル発射や核実験はできないだろうが、薬草による治療などで自力更生の立場を貫いている以上はありうる。ここが北朝鮮の怖いところかもしれない。

   新潟日報Web版(22日付)によると、林外務大臣は新潟市内で講演し、北朝鮮への支援を検討する必要があるとの認識を示し、「あそこの国とは国交もない。だから放っておけばいいとはなかなかならない」と述べた。北朝鮮による拉致被害の原点でもある場所であり、支援を表明することで解決の糸口をつかみたいとのメッセージを込めたのだろう。気持ちは理解できるが、果たしてこのメッセージは伝わるのだろうか。

⇒23日(月)午後・金沢の天気     はれ

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★能登半島・輪島から「SDGs観光」の発信を

2022年05月22日 | ⇒トレンド探査

   内閣府は国連のSDGs(持続可能な開発目標)に沿ったまちづくりに取り組む自治体を「SDGs未来都市」として選定している。ことし新たに能登半島の輪島市や新潟県佐渡市など30自治体が選ばれた。選定は2018年に始まり、今回含め154の自治体が選ばれている(内閣府地方創生推進事務局公式サイト「2022年度SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業の選定について」)。

   輪島市のテーマは「“あい”の風が育む『能登の里山里海』・『観光』・『輪島塗』 ~三位一体の持続可能な発展を目指して~ 」。「“あい”の風」とは日本海沿岸で冬の季節風が終わり、沖から吹いてくる夏のそよ風を言う。ところによっては「あえの風」とも言う。キーワードに世界農業遺産「能登の里山里海」、観光、輪島塗の3つを入れている。ちなみに佐渡市のテーマは「人が豊かにトキと暮らす黄金の里山・里海文化、佐渡 ~ローカルSDGs佐渡島、自立・分散型社会のモデル地域を目指して~」。トキと佐渡金山がキーワードになっている。

   輪島市の提案書を読もうと思い、市役所公式サイトにアクセスしたがまだアップはされていなかった。後日、内閣府の公式サイトで一括して掲載されるようだ。多様な地域の特性をSDGsの視点で見直し、「誰一人取り残さない」「持続可能な社会づくり」に活かしていこうというまさに地方創生の実現に向けた取り組みだ。

   輪島の朝市や千枚田、海女漁を見ればSDGsが体現された地域であることが理解できる。朝市はもともと農村や漁村のおばさんたちが農作物や魚介類を持ち寄って物々交換したことがルーツとされる。作り、採ったものが余った場合、廃棄するのではなく、物々交換という取引で豊かさを共有する場だった。「もったいない精神」と言えるかもしれない。同時に、SDGs目標12「つくる責任つかう責任」である。

   そして、海女漁はまさにSDGs目標14「海の豊かさを守ろう」だ。現在200人いる海女さんたちのルーツは1569年、福岡県玄海町鐘崎から船で渡って来た13人の男女だったと伝えられている(1649年「海士又兵衛文書」)。24種もの魚介類を採ることで生業(なりわい)を立てているだけに資源管理には厳しいルールがある。アワビ漁については、貝殻10㌢以下の小さなものは採らない、漁期は7月から9月の3ヵ月、時間は午前9時から午後1時、酸素ボンベは使わず素潜り。こうした厳格な自主規制で450年余り経ったいまでもアワビを採り続けている。

   千枚田では自然災害と向き合ってき人々のSDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」の精神が見えてくる。1684年、この地区では大きな地滑りがあり、棚田があった山が崩れた。「大ぬけ」といまでも地元では伝えられる。いまで言う深層崩壊だ。その崩れた跡を200年かけて棚田として再生した。まさにレジリエンスだ。それだけでない、いまも地滑りを警戒して、千枚田の真ん中を走る国道249号の土台に発砲スチロールを使用するなど傾斜地に圧力をかけないようにと工夫をしている。

   持続可能な人々の営みというのは、その歴史を検証すことで見えて来る。輪島市には今回のSDGs未来都市の認定で、「SDGs観光」という新たな情報発信をしてほしいものだ。

⇒22日(日)午前・金沢の天気    はれ

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