自在コラム

⇒ 日常で観察したことや環境問題、金沢大学での見聞、マスメディアとインターネットについての考察を紹介する宇野文夫のコラム

★所信表明を読み解く

2010年06月13日 | ⇒トピック往来
 6月11日の菅総理の所信表明演説が翌日、新聞各紙に掲載された。つぶさに読むと、「生物多様性」という言葉が2度、ほかに「グリーン・イノベーション」や「ライフ・イノベーション」「少子高齢社会を克服する日本モデル」「一人ひとりを包摂する社会」とい新たな言葉がちりばめられた演説文となっている。菅氏と言えば、市民運動家というイメージが浮かぶ。有名な話は、市民からの寄付の領収書代わりに「菅直人株」を発行し、配当する利益は「良い社会」というアイデアを打ち出し、ボランティアによる「市民選挙」を進めたことだろう。母親から「子ども手当て」をもらってぬくぬくと育った前総理とは違って、目線が広く鋭い。そんなことを思いつつ、所信表明演説を読み解いてみる。

 面白いと思ったのは、「少子高齢社会を克服する日本モデル」だった。少子高齢化は日本だけでなく、ヨーロッパを含めて問題だ。ただ問題とするのではなく、積極的に打って出て、「克服する日本モデル」をつくろうと提唱している点だ。これは年金、介護、子育て支援を含めた社会保障をトータルでハンドリングできる仕組みづくりを進めるという意味合いだと読める。そのために、過去さまざまに論議をされてきた「社会保障や税の番号制度」などに踏み込んで基盤整備を進めるとしている。確かに、「崩壊」が危惧され、若者が見限りつつある年金制度にしても、問題が個別化してしまって見えにくくなっている。この際、「揺りかごから墓場まで」の強い社会保障の再構築が必要であり、それを国際モデル化するという発想なのだろう。さらにその信念のほどについて、演説では「企業は従業員をリストラできても、国は国民をリストラすることができない」と述べている。市民目線の貫きを感じる。

 市民派宰相の地域への目配りはどうだろうか。農山漁村を有り様を意識して、「農山漁村が生産、加工、流通までを一体的に狙い、付加価値を創造することができれば、そこに雇用が生まれ、子どもを産み育てる健全な地域社会が育まれます」と述べ、さらに、林業は「低炭素社会で新たな役割が期待される」としている。残念ながら、地域の有り様は総論なのである。

 ここで提起したいのは、先に菅氏が強調した「少子高齢社会を克服する日本モデル」は何も都市現象ではない。農山漁村の方がテンポが速い。さらにこれは国内問題ではなく、国際的な問題でもある。そこで、たとえば、海外の類似の人口形態系の国、イタリア、イギリス、フランスなどヨーロッパ諸国と連携して、日本が先端を切って少子高齢化と農山漁村の問題に立ち向かうアピールした方が説得力がある。 

 演説文で違和感があったのは外交問題だ。北朝鮮に関して、「不幸な過去を清算し、国交正常化を追及します」とまず述べ、その後に「拉致問題については、国に責任において、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国・・・」と綴っている。これは逆だろうと誰もが思うだろう。現在進行形の問題(拉致問題)が優先である。6月8日付のアサヒ・コムによると、自民党の安倍晋三氏は、北朝鮮による拉致事件の実行犯とされる辛光洙(シン・グァンス)容疑者の釈放運動に菅氏が土井たか子氏(元社民党首)と関わった事実を挙げて批判していると報じている。今後の国会で、この釈放運動に関する過去問題と今回の演説の絡みが追及されそうだ。

 「自在コラム」でも述べてきた普天間基地の移設問題については、『平和の代償』を著した国際政治学者、永井陽之助氏を引き合いに出して、「現実主義を基調とした外交を推進する」と前置きして、「日米合意を踏まえつつ、同時に閣議決定でも強調されたように、沖縄の負担軽減に尽力する覚悟」と述べるに止まった。ただ、「今月23日、沖縄全戦没者追悼式が行われます。この式典に参加し、沖縄を襲った悲惨な過去に思いを致すとともに、長年の過重な負担に対する感謝の念を深めることから始めたい」と沖縄行きを明かした。これが菅氏が沖縄問題に踏み込む第一歩となるのだろう。

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☆ただ風が吹いている

2010年06月07日 | ⇒メディア時評

 5月3日に沖縄のアメリカ軍海兵隊基地「キャンプ・シュワブ」、そして辺野古の基地反対の座り込みテントを訪れてから1ヵ月余り、日本の政治が凝縮されたようなさまざまな政治局面が展開された。その結果、ついに鳩山総理は退陣して、あす8日には菅直人氏が総理の座に就くことになるのだが、沖縄の問題は何一つ変わってはいないのだ。

  この1ヵ月余りの間、鳩山氏は5月4日と23日2度沖縄を訪れ、仲井真弘多知事らに対し、アメリカ軍普天間基地飛行場を、キャンプ・シュワブ沿岸部のある辺野古崎に移設する方針を表明した。「県外移設」を明言していた鳩山氏が、自ら「公約違反」のデモンストレーションを行ったわけで、訪問先の沖縄県庁や名護市の万国津梁館では、「怒」と書いた紙を持った県民が集まり「裏切りだ」と声を上げる様子がテレビで繰り返し伝えられた。「友愛」を口にする鳩山氏ならば、ここで車を降りて、もみくちゃにされるのを覚悟で県民に直接詫びるべきではなかったか。ところが、鳩山氏が乗った車の列は、その声を無視するように猛スピードで通過したのだった。友愛を行動で示す度胸がなかったのだろう。

  そして、政治局面は急展開する。5月28日。日米外務・防衛閣僚(2プラス2)共同声明に続き、閣議決定でも米軍普天間基地の移設先として「辺野古」を明記した鳩山氏は、閣議決定への署名を拒んだ福島みずほ消費者・少子化担当大臣(社民党党首)を罷免。これを受け、社民党は30日に全国幹事長会議を開き、鳩山連立政権からの離脱を決定した。福島党首は会議のあいさつで「平和と基地の問題は党の1丁目1番地」と述べた。この政権離脱が決議された当たりで、マスメディア各社は一斉に世論調査を実施した。30日付の朝日新聞で内閣支持率は17%、31日付の読売新聞では内閣支持率は19%と伝えた。内閣支持率は20%がデッドラインとされ、それを割り込んだ。

  6月2日、鳩山氏は決断する。民主党の衆参両院議員総会で「社民党を政権離脱という厳しい道に追い込んだ責任を取らねばならない」と退陣を表明。同時に小沢氏も幹事長辞任で話のケリがついたことが明かされた。4日の閣議で総辞職した鳩山内閣、その日の午後に衆参両院本会議で菅氏が新しい首相に指名された。ところが、このブログを書いているこの日、つまり7日はまだ鳩山内閣のままである。あす8日の皇居での任命式を終えるまで、憲法71条に基づき鳩山内閣は職務を執行することになる。心はすっかり一議員に戻った鳩山氏なのだが、この「政権空白」のときに、大陸からミサイルが撃ち込まれたら誰が責任ある行動を取るのだろうかと危惧するのは私だけだろうか。この危機意識のなさが、これまでの鳩山内閣のすべてを物語っているような気がする。ちなみに、鳩山氏の総理としての在職日数は、菅内閣が4日に発足していれば262日で、自らが官房副長官として仕えた細川護煕氏に1日及ばずだったが、組閣が8日にずれ込んだことで、細川氏を上回る266日(2009年9月16日‐2010年6月8日)になった。現行憲法下では6番目の「短命政権」となる。

  さて、菅内閣があす8日発足する。朝日新聞が6日付で報じた緊急世論調査(電話)では、菅新首相に「期待する」とした人が59%で、「期待しない」33%を大きく上回った。共同通信社の世論調査でも期待が57%を占め、「総理交代効果」あるいは「ご祝儀相場」は高い。民主党は鳩山内閣から菅内閣へと衣替えをすることで、イメージダウンを一気に盛り返した観がある。おそらくこのまま7月に予定される参院選挙になだれ込んで、過半数を制したいところだろう。

  ここで振り返ってみたい。民主党はこれで万々歳なのかもしれないが、あの沖縄の「怒」は収まってはいない。むしろ辺野古への移設を閣議決定で固定化したために、この「怒」はさらに大きくうねっているだろう。日本の政治の現状は何も変わってはいない。ただ風が吹いているだけである。

 ⇒7日(月)朝・金沢の天気   はれ

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