面白いと思ったのは、「少子高齢社会を克服する日本モデル」だった。少子高齢化は日本だけでなく、ヨーロッパを含めて問題だ。ただ問題とするのではなく、積極的に打って出て、「克服する日本モデル」をつくろうと提唱している点だ。これは年金、介護、子育て支援を含めた社会保障をトータルでハンドリングできる仕組みづくりを進めるという意味合いだと読める。そのために、過去さまざまに論議をされてきた「社会保障や税の番号制度」などに踏み込んで基盤整備を進めるとしている。確かに、「崩壊」が危惧され、若者が見限りつつある年金制度にしても、問題が個別化してしまって見えにくくなっている。この際、「揺りかごから墓場まで」の強い社会保障の再構築が必要であり、それを国際モデル化するという発想なのだろう。さらにその信念のほどについて、演説では「企業は従業員をリストラできても、国は国民をリストラすることができない」と述べている。市民目線の貫きを感じる。
市民派宰相の地域への目配りはどうだろうか。農山漁村を有り様を意識して、「農山漁村が生産、加工、流通までを一体的に狙い、付加価値を創造することができれば、そこに雇用が生まれ、子どもを産み育てる健全な地域社会が育まれます」と述べ、さらに、林業は「低炭素社会で新たな役割が期待される」としている。残念ながら、地域の有り様は総論なのである。
ここで提起したいのは、先に菅氏が強調した「少子高齢社会を克服する日本モデル」は何も都市現象ではない。農山漁村の方がテンポが速い。さらにこれは国内問題ではなく、国際的な問題でもある。そこで、たとえば、海外の類似の人口形態系の国、イタリア、イギリス、フランスなどヨーロッパ諸国と連携して、日本が先端を切って少子高齢化と農山漁村の問題に立ち向かうアピールした方が説得力がある。
演説文で違和感があったのは外交問題だ。北朝鮮に関して、「不幸な過去を清算し、国交正常化を追及します」とまず述べ、その後に「拉致問題については、国に責任において、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国・・・」と綴っている。これは逆だろうと誰もが思うだろう。現在進行形の問題(拉致問題)が優先である。6月8日付のアサヒ・コムによると、自民党の安倍晋三氏は、北朝鮮による拉致事件の実行犯とされる辛光洙(シン・グァンス)容疑者の釈放運動に菅氏が土井たか子氏(元社民党首)と関わった事実を挙げて批判していると報じている。今後の国会で、この釈放運動に関する過去問題と今回の演説の絡みが追及されそうだ。
「自在コラム」でも述べてきた普天間基地の移設問題については、『平和の代償』を著した国際政治学者、永井陽之助氏を引き合いに出して、「現実主義を基調とした外交を推進する」と前置きして、「日米合意を踏まえつつ、同時に閣議決定でも強調されたように、沖縄の負担軽減に尽力する覚悟」と述べるに止まった。ただ、「今月23日、沖縄全戦没者追悼式が行われます。この式典に参加し、沖縄を襲った悲惨な過去に思いを致すとともに、長年の過重な負担に対する感謝の念を深めることから始めたい」と沖縄行きを明かした。これが菅氏が沖縄問題に踏み込む第一歩となるのだろう。
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