CO2排出の収支計算をして変わった炭焼き人生
自分の職業が環境にどのような影響を与えているだろうか。たとえば二酸化炭素。これを空中や社会にまき散らし、「儲かった、儲かった」と喜んでいる人たちは多い。環境に謙虚な気持ちを持つ人々ならこれを疑問に考えるだろう。それに真剣に取り組んでいる人の話だ。
能登半島の先端・珠洲市に在住するAさん(34)。日本でも数少ない炭焼きの専業者だ。「自分の仕事は、巷間で言われているように本当にカーボンオフセットなのか。違うのではないか」。木炭は、二酸化炭素を吸収した樹木を焼くので本来ならば二酸化炭素の排出はゼロである。ところが、炭焼きという仕事となると、木の切り出しにガソリン使用のをチェーンソーを使い、運搬や出荷にトラックを使用するのでトータルでは二酸化炭素を排出していることになる。Aさんは悩んだ。そして大学の門をたたいた。
大学の教員とともに、ライフサイクルアセスメント(LCA=環境影響評価)の手法を用い、自らの2004-2009年にかけての製造、輸送、販売、使用、廃棄、再利用までの各段階における環境負荷をコツコツと帳簿をひっくり返しながら計算することになる。さらに、自らの炭焼きよるCO2の排出量と、植林や木炭の不燃焼利用によるCO2固定量を比較することで、炭焼きによるCO2削減効果の検証を行った。また環境ラベリング制度であるカーボンフットプリントを用いたCO2排出・固定量の可視化による、木炭の環境的な付加価値化の可能性をとことん探った。仕事の合間で2年かけ、2010年2月に二酸化炭素の排出量の収支計算をはじき出すことができた。
その結論。彼の炭焼き工場の場合、不燃焼利用の製品割合が約2割を超えていれば、木炭の生産時に排出されるCO2量を相殺できるということを計算上で明らかにした。不燃焼利用とは、木炭を土壌改良剤や建築材として製品出荷すること。つまり、燃やさず固定するのである。彼はさらにカーボンマイナスへの可能性を探る。つまり、植林によって新たなCO2吸収源を拡大し、CO2 固定量を増やすのだ。このあたりから、Aさんの目は輝き始めた。自らの業(なりわい)に確信が生まれたのだ。
彼は今、6000本を目標にクヌギの木の植林運動を進めている=写真=。クヌギの木は茶道用に使う「お茶炭」の材料となる。次なる目標は環境と経済の両立だ。付加価値の高い木炭を生産することで目標突破を目指す。彼の考えに賛同し、支援する人も増えてきた。来る11月6日(日)のクヌギの木の植林活動には手弁当で150人もの人たちが珠洲の山中に集まる。金沢や東京からも。
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