里山里海国際交流フォーラム開催事務局の若いスタッフは、能登エコ・スタジアム2008のことを略称して「能登エコ」あるいは「エコスタ」と呼んでいる。エコスタの方がテンポがよいので、個人的には「エコスタはね…」と言ったりしている。前回も述べたが、パンフレットの前文に開催趣旨を書いた。
「里山知事」の意気込み
~里山里海(さとやまさとうみ)という言葉が最近よく使われるようになってきました。日本ではちょっと郊外に足を運べば里山があり里海が広がります。実はそこは多様な生物を育む生態系(エコシステム)であるとことを、私たち日本人は忘れてしまっていたようです。二酸化炭素の吸収、生物多様性、持続可能な社会など、環境を考えるさまざまなキーワードが里山里海に潜んでいます。「能登エコ・スタジアム2008」ではこれらのキーワードを探す旅をします。それを発見したとき、あなたが見える里山里海の風景は一変するはずです。~
この文を書いていたとき、実は念頭に石川県の谷本正憲知事のことがあった。失礼な言い方になるかもしれないが、谷本氏はことし春ごろまで、それほど里山や里海といった言葉に深い造詣を抱いてはおられなかったと思う。ところが、この4月に金沢で設置された国連大学の研究所(いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット)が里山里海を研究テーマにしていること、さらにドイツでの環境視察(5月22日-29日)、その視察の最中で生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)の関連会議でスピーチをきっかけとして猛勉強され、いまではおそらく「里山知事」を自認するまでになった。そして、環境への取り組みとして、里山里海をテーマに行政施策に反映させてもいる。谷本知事には里山里海の風景がこれまでとまったく違って見えているのだ。
たとえば、谷本知事は国連大学高等研究所のG.Hザクリ所長やユニットのあん・まくどなるど所長(カナダ人)と何度か意見を交わしている。この中で国連大学高等研究所側が地域密着型研究所を金沢に設置した理由について、以下のような主旨を繰り返し述べている(4月18日・ユニット開所式ならびにその後の知事を囲む昼食会と講演会の話を要訳)。
能登半島には自然と人々が共生する知恵がある。たとえば、雨を山中に溜めて稲作に使う「ため池農業」は水資源を有効に活用するウォーターハーベスティングの技術である。定置網のブリ漁法は網を海に固定し、大きくした網目で小さい魚を逃し、成長したブリを捕る。その意味で収奪型ではない「持続可能な漁業」。揚げ浜塩田の塩づくりは地域の木質バイオマスを使った高度な技術。化石燃料に頼らず、環境に負荷をかけない生業(なりわい)が能登半島にはまるで見本市にように存在する。国連大学が能登、北陸に目線を向けて研究所を設置したのは、こうした自然と共存する「持続可能な生業」を科学的に評価し、能登モデルとして世界に発信していくことだ。人類が後世に生命を繋いでいく一つの英知になるかもしれない。そんなミッション(使命)がある、と。そんな使命感に燃えた国連大学高等研究所側の説明は谷本知事の心を揺さぶったに違いない。
能登エコ・スタジアム2008は主に金沢大学と石川県などが主催して開く。先月の7月7日、谷本知事を県庁に訪ね、能登エコ・スタジアムの概要を説明した。固まっていない企画があり、さらりと進捗(しんちょく)状況だけを報告して辞するつもりだった。ところが、知事は企画書をじっと見つめていた。そしてひと言。「キックオフシンポジウムだけど、県民・市民に里山里海の重要性をアピールするために、人がもっと集りやすい金沢市内で開催したらどうかね。これだと学内の催しにすぎない」。当時の企画書では、9月13日のキックオフシンポジウムは金沢大学の講義室で開催する予定だった。ふいを衝かれた。というより、こちらが意気込みに圧倒されたといった方が正確かもしれない。その後、スタッフで論議を重ねキックオフシンポジウムは大幅に企画変更。知事のひと言は「鶴の一声」になった。
※写真は、生物多様性国際条約のジョグラフ事務局長(左から2人目)を訪ね、2010年のCOP10での関連会議について要請する谷本石川県知事(左から3人目)と中村浩二金沢大学教授(左)、あん・まくどなるど国連大学高等研究所ユニット所長=5月24日、ドイツ・ボンのCOP9会場で
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