「盆や正月に帰らんでいい、祭りの日には帰って来いよ」。能登の集落を回っていてよく聞く言葉だ。能登の祭りは集落や、町内会での単位が多い。それだけ祭りに関わる密度が濃い。子どもたちが太鼓をたたき、鉦(かね)を鳴らす。大人やお年寄りが神輿やキリコ=写真=と呼ばれる大きな奉灯を担ぐ。まさに集落挙げて、町内会を挙げての祭りだ。
2011年8月、輪島市のある集落から、金沢大学地域連携推進センターに所属する私にSOSが入った。「このままだと祭りの存続が危うくなる。学生さんたちのチカラを貸してほしい」と。当時地域連携コ-ディネーターをしていた私は事情を聴きに現地に足を運んだ。黒島地区という集落。ここで営まれる天領祭は江戸時代からの歴史がある。かつて、北前船で栄えた町で、幕府の天領地でもあったことから曳山は輪島塗に金箔銀箔を貼りつけた豪華さ、奴振り道中など、他の能登の祭りとは異なる都(みやこ)風な趣の祭りだ。
SOSの電話をいただいた祭礼実行委員会の方と会って、話を聞くと行列の先導の旗を持つ「旗持ち」に女子学生10人、曳山の運行で方向転換など担う「舵棒取り」に男子学生10人のサポートが欲しいとの要望だった。他の大学の学生も含め20人余りが、8月17、18日の両日に営まれた天領祭に参加した。今年は40人余りの学生を連れて参加した。もともと、地元の高校生や帰省した若者らがその役回りを担っていたが、少子高齢化で担う人数そのものが減少しているのだ。
ほぼ毎年参加しているが、頼まれ仕方なくではなく、学生たちには地域の伝統文化を実際に体験する、フィールドの学びとして貴重な教育プログラムにもなっている。こうした地域の祭り体験ができるプログラムは日本人学生だけではなく、海外からの留学生にとっても貴重な「日本体験」になっている。今年の天領祭で、インドネシアから修士課程で来ている女性は、見事な太鼓のバチさばきで地元のベテランから一目置かれる存在になった。
能登だけではなく、多くの過疎地で祭礼の人手不足現象が起きていることは想像に難くない。それは危機的だ。一方で祭りが大好きな都会人や、日本で文化体験をしたいインバウンドは大勢いるはずだ。人手不足の祭礼と、参加したい人たちとのマッティングをどうビジネス化していくか、まさに課題解決型のビジネスだ。
そうそう、私は能登半島の先端・珠洲市の方から、「ことしもお願いします」と依頼され学生たち6人を連れて、10月13日にキリコ祭りに行く。秋の夜長、どっぷりと祭りに浸る。
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