自在コラム

⇒ 日常で観察したことや環境問題、金沢大学での見聞、マスメディアとインターネットについての考察を紹介する宇野文夫のコラム

★これは首実験か…

2009年11月27日 | ⇒トピック往来
 7年前に他界した父親から聞かされた話である。父は仏印(フランス領インドシナ=現在のベトナムやラオス、カンボジアを合わせた領域)で終戦を迎えた。軍曹だった。引き揚げ船に乗り込むときに「首実験」があった。波止場で地元の兵士や住民が、船に乗り込む日本兵の一人一人を検分するのである。「あいつは俺を殴った」とか「畑の作物を盗んだ」などさまざまに罵倒された兵士がタラップから引きづり降ろされ暴行を加えられ、そして撲殺された。父が残念でならないと漏らしていたのは、「あいつは俺たちに木の根っこを食わせやがった」とののしられ撲殺された炊事兵のことだった。炊事兵は食糧難から現地で野生のゴボウを掘らせ、料理していた。軍属で働いていた現地の若者への給食もゴボウだった。日本人にとってゴボウは食材であるが、現地の住民には「木の根」だ。誤解が生んだ悲劇だった。

 政府の行政刷新会議が2010年度予算概算要求の無駄を洗い出す「事業仕分け」の作業風景を見ていて、上記の話を思い出した。ここ数日間で「廃止」と判定された事業の関係者の中には、「首実検」の無念さを噛み締めた人も多かったのではないだろうか。「歴史の法廷に立つ覚悟があって言っているのか」と事業仕分けを批判したノーベル化学賞受賞者の野依良治氏(理化学研究所理事長)。科学技術予算を効率性の議論で仕分けしてよいのか、と。

 事業仕分けそのものに疑問の余地はない。無駄は省くべきである。ただ、野依氏が怒ったのはその一律的なやり方ではないのか。科学技術には専門家に対する事前のヒアリングがあってしかるべきだろう。また、「科学技術は生命線。コストと将来への投資をごっちゃにするのは見識に欠ける」と野依氏が述べたように、科学技術も教育も将来投資である。仕分けは、小学生や中学生に向かって「この生徒は伸びない」と評価しているようなものだ。

 2001年4月の第一次小泉内閣発足の時、小泉首相は「米百俵」の歴史エピソ-ドを披露した。戊辰戦争で敗れた長岡藩は石高6割を失って財政が窮乏した。支藩の三根山藩から百俵の米が贈られることとなり、藩士たちは喜んだが、長岡藩の大参事だった小林虎三郎は贈られた米を藩士に分け与えず、売却の上で学校設立の費用に充てることにした。藩士たちはこの通達に抗議するが、それに対し虎三郎は「百俵の米も食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万、百万俵となる」と諭し、学校の設立を押しきった。米百俵は、教育と研究は将来投資であると分かりやすく紹介したものだ。この将来投資を現在の効率で判断できるのかどうか。

 もう一歩踏み込んで考えてみると、一つ一つの細かい事象を取り上げては「賛成だ」あるいは「反対だ」と言い合っているだけのように思える。タテ割り行政の弊害で生じた無駄が問題なのだから、その検証を行うべきだろう。道路の問題について「農水省予算の道路と国交省予算の道路を全部をどう見直して、どれだけ削る」といった議論をしなければ「木を見て森を見ず」の論議になってしまう。有権者が今回の事業仕分けでいぶかっているのはその点ではないだろうか。

⇒27日(金)朝・金沢の天気 はれ
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☆アリ地獄のような街

2009年11月02日 | ⇒キャンパス見聞
 気温がまるでジェットコースターのようだ。昨日(1日)は金沢市などで最高気温が25度を超え夏日を記録したかと思えば、きょうは一転して冬型となり、日中の最高気温は金沢で14度。そして夜に入って、23時半ごろに霰(あられ)が落ちてきた。シベリアから強い寒気が流れ込んでいる。あすの朝までに山沿いや山間部で10㌢ほどの積雪との予報だ。荒天の中、金沢大学では恒例の学園祭が開かれた。そして、身震いするような自主上映の映画を観た。「アリ地獄のような街」。バングラデシュのストリートチルドレンをテーマにした映画だ。

 82分の映画のあらすじを紹介する。農村から夢を抱いて首都ダッカにやってきた少年ラジュ。お金を落としてしまい、途方にくれているところをストリートチルドレンと知り合う。そのストリートチルドレンたちを使って薬物売買などを行っているイアシンはいわば「貧民屈の元締め」だ。ラジュは薬物の運び屋として使われる。イアシンは、配下の女を「足抜け」をさせようとする男を手下を使って殺害する。バラバラにされ袋詰めされた死体が入っているとも知らずに、その運び屋をさせられたラジュ。血が滴り落ちる袋を不審に思った群集がラジュから袋を取り上げ、ラジュを取り押さえる。その大騒ぎを察知したイアシンの手下が騒ぎのどさくさにまぎれてラジュの首を絞めて殺害する。一度取り込まれたら抜けることができない、まるで「アリ地獄」のような暗黒のネットワーク。少年や少女たちが抑圧され、搾取される最貧国バングラデシュの現実が生々しく描かれている。

 この映画の制作は、現地でストリートチルドレンに対する教育支援やシェルターホーム(保護施設)を運営する民間活動団体「エクマットラ」。エクマットラとはベンガル語で「みんなが共有できる一本の線」という意味だそうだ。このエクマットラの創設(2004年)にかかわった日本人が渡辺大樹氏。横浜市生まれで、金沢大学のOBでもある。学生時代はヨット部に所属して、タイ・プーケットで行われたヨットの国際大会に参加した。その時、スラムの少年少女たちの姿を目の当たりにして衝撃を受ける。2002年に卒業後、バイトで貯めたお金を持ってバングラデシュに渡り、NGO活動を始める。現在は、ストリートチルドレンの自立支援センター「エクマットラアカデミー」の設立に向けて奔走している。映画の収益はこの設立費として活用される。

 今回の上映会で、渡辺氏の姿はなかったが、サイクロンなど自然に見舞われ、アジアの最貧国といわれるバングラデシュで、志を高く持って活動する青年に心から声援を送りたい。

⇒2日(月)夜・金沢の天気  あられ
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