自在コラム

⇒ 日常で観察したことや環境問題、金沢大学での見聞、マスメディアとインターネットについての考察を紹介する宇野文夫のコラム

★「カストロの死」一面のなぜ

2016年11月27日 | ⇒メディア時評
  キューバの革命家、フィデル・カストロが11月26日死去した。享年90歳。彼の功績は1959年のキューバ革命でアメリカ合衆国の事実上の傀儡政権であったフルヘンシオ・バティスタ政権を武力で倒し、キューバを社会主義国家に変えたという点だろう。その死は、当日のテレビのトップニュース、翌日27日の新聞一面を飾った。ただ、メディア各社のその扱いに少々違和感を感じた。「なぜ一面なのか」と。

  革命によってキューバの最高指導者となり首相に就任。1965年から2011年までキューバ共産党中央委員会第一書記を務めた。現役を引退した革命家の死が、新聞一面である理由が分からない。日本の総理経験者の死で、これほどの扱いをするだろうか。カストロの死を一面扱いする論拠は一体何なのか。

  確かに理由はいくつかあるだろう。たとえば、キューバ革命を成功させて反アメリカの政権を打ち立て、これを指導した。革命の嵐だった1960年代をリードしてきた人物は、その後、アメリカとの国交を54年ぶりに回復した。社会主義国家キューバを創成し、そして社会主義国家キューバにピリオドを打たせた人物なのだ。名実ともに「一つの時代が終わった」ということなのだろう。でも、それが一面なのだろうか。カストロの理念を共有した時代の人間、あるいは国の人間ならば、その歴史的な価値観を共有できるかもしれないが、それでも、日本でそれを共有できる人は果たしてどれだけいるだろうか。

  ある新聞は見出しで「キューバ革命主導 反米のカリスマ」と打っている。キューバ革命というのは現代の日本人にどれほど訴えるものがあるのだろうか。ましてや、「反米のカリスマ」とはどんな意味なのか。誰に訴えた見出しなのだろうか。確かに、カストロは2003年に広島を訪れ、原爆慰霊碑に献花している。そのことと、反米はイコールなのだろうか。「反米のカリスマ」とはいったどのような意味がある見出しなのだろうか。

  亡命キューバ人がアメリカで100万人とも言われる。キューバでの革命が進行する中で、急速な社会改革に反対する富裕層が出国した。アメリカは「キューバ地位特別法」で不法入国するキューバ人を1966年から政治亡命者として扱い、アメリカの領土に入れば滞在を許可し、永住ビザを取得できるようにした。これが大量出国を煽ったとも言われている。アメリカとすれば、亡命を受け入れる方が正義であり、亡命者を大量に出した国が悪という構図をつくりたかったのだろう。その後、アメリカへの大量キューバ人の移住は重荷になる。

  言いたいことは、カストロの死を「反米のカリスマ」として扱い、一面に持ってくることに、むしろ反感を抱く読者がいるのではないだろうか。キューバが日本にとってそれほど身近ではない国だけに、素朴な疑問がわいただけの話である。

⇒27日(日)夜・金沢の天気  あめ
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☆2つのデモを読む

2016年11月14日 | ⇒トピック往来
   トランプ大統領の誕生をどう見るか。現地アメリカのテレビをはじめ、日本のメディアでもその分析で忙しい。14日の時事通信WEB版では、1100万人超と言われる不法移民について、トランプ氏が犯罪歴のある200-300万人を強制送還する考えを明らかにした、と伝えている。選挙期間中、トランプ氏は不法移民全員を強制送還すると公約していたが、選挙戦の途中から犯罪歴のない不法移民の扱いをあいまいにしていた。また、焦点となっていたアメリカにおけるTPP(環太平洋経済連携協定)の議会承認手続きについて、オバマ大統領は任期中の実現を事実上断念したと13日付の朝日新聞などが伝えた。こんなたぐいのニュースがここしばらくは続くだろう。

   当のアメリカでは、トランプの大統領に反対するデモが各地で盛り上がっている。11日午後、ニューヨーク中心部の公園で開かれたデモ集会には数千人(主催者発表)が集まり、高校生や大学生らが「トランプは出ていけ」「Love trumps hate」(愛は憎しみに勝る)と叫び、抗議した。ロサンゼルスではデモが暴徒化して、逮捕者が180人にのぼったという。この日、アメリカ各地17ヵ所でデモが行われた。

   こうした一連のデモで分析できる特徴的なことは、民族対立の様相を帯びてきていることだ。ロサンゼルスでは反トランプデモが連日行われ、ヒスパニック系や黒人の若者層が「KKKもトランプも出て行け」と叫んでいる。KKKは白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン」のこと。KKKは来月3日に拠点であるノースカロライナ州で、当選祝賀パレードをすると発表していて、民族対立のヤマ場になる可能性がある。今回の大統領選によって、アメリカ社会に修復できない亀裂ができてしまったようだ。それにしても、仮にクリントンだったら、反クリントンデモが各地で起きていただろうか。その違いを分析する必要がありそうだ。


   お隣、韓国では朴大統領の政治の私物化を糾弾する大規模なデモが12日、ソウルや釜山で市内であった。参加者は「下野しろ」などと迫るスローガンを掲げ、退陣要求を叫んでいることだ。面白いのは、現地のマスコミの報道ぶりだ。ソウルのデモ参加者数は主催者発表で100万人、警察推計で26万人だが、メディア各社は主催者発表の「100万」を見出しで躍らせている。日本のメディアは記事でも見出しでも「26万人」だ。

   上記の違いをどうとらえるか。韓国のメディアはおそらく「民衆の味方」としての立場で「100万人」をアピール、日本のメディアは客観的な報道としての警察推計の「26万人」を取る。見方によっては韓国のメディアは民衆を扇動しているとも受け取れる。この2国で同時多発で起きているデモ。デモを読めばその国のリアルな姿が見えてくる。

⇒14日(月)朝・金沢の天気    くもり
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★千載一遇のチャンス

2016年11月09日 | ⇒トピック往来
   アメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利した=写真=。「番狂わせ」「予想外」の展開だった。そもそもアメリカの世論調査ではクリントン氏の優勢と伝えていた。たとえばCNNの「政治予測市場」は、クリントン氏が勝利する確率は先週いったん下がったものの、7日には91%に回復したと伝えていた。アメリカの政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス(RCP)」も7日時点の全米世論調査の平均支持率で、クリントン氏44.8%、トランプ氏42.1%だった。ではなぜ、予想はひっくり返されたのか。

   面白いことに、アメリカのメディアは、その理由を「隠れトランプ票」があったためと伝えている。問題発言を繰り返すトランプ氏への支持を公言しにくいことや、メディアへの不信感から、世論調査に回答しない人たちの存在がこの「番狂わせ」「予想外」を招いたというのだ。言い訳としか聞こえない理由だが、世論調査の結果をひっくり返すほど、「隠れトランプ票」が多かったことは間違いない。

前回のブログ「トランプ現象と白人層の閉塞感」で、「ポリティカル・コレクトネス(political correctness)」について述べた。もともとは政治的、社会的に公正・公平・中立的という概念だが、広意義に職業、性別、文化、宗教、人種、民族、障がい、年齢、婚姻をなどさまざまな言葉の表現から差別をなくすこととしてアメリカでは認識されている。しかし、ポリティカル・コレクトネスは、本音が言えない、言葉の閉塞感として白人層を中心に受け止められている。心の根っこのところでそう思っていても、表だってはそうのように言わない人たちでもある。「隠れトランプ票」とはこうした人たちを指すのではないか。

    それにしても、9日の東京株式市場で、日経平均の下げ幅は一時1000円を超えた。開票作業が続く中で、トランプ氏優勢の報道を伝えられ、投資家にリスクを避けたいとの思いが強まったようだ。終値は前日より919円安い1万6251円だった。さらに、トランプ氏が勝利を決めたことで、日本とアメリカなど12ヵ国が参加するTPP(環太平洋経済連携協定)の発効に暗雲が立ち込めてきた。トランプ氏はTPPについて「大統領の就任初日に離脱する」と反対を表明しているからだ。白人の労働者層の支持を集めるための、プロバガンダだったが、クリントン氏もTPPには反対を表明していたので、ここは有言実行だろう。

    ほかにも、日本とアメリカの安保体制も懸念される。在日米軍の費用負担の全額を日本に負担させるとのトランプ氏の発言である。ある意味、これは「戦後レジーム」を見直す千載一遇のチャンスかもしれない。戦後70年余り経った現在でも「アメリカの核の傘の下」で、外交や防衛問題などアメリカにお伺いをたてているのが現状だ。過日、国連での核兵器禁止条約の制定交渉をめぐる決議案で日本が反対に回ったのは、その最たる事例だろう。この際、対米関係を見直すときが巡って来たと前向きに考えればよいのではないだろうか。もちろん、よきパートナーを目指して、である。

⇒9日(水)夜・金沢の天気    はれ
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☆トランプ現象と白人層の閉塞感

2016年11月08日 | ⇒トレンド探査

   きょう(8日)からアメリカの大統領選挙の投開票が始まる。大統領選をめぐっては、民主党のクリントン氏、。共和党のトランプ氏の両候補の直接討論などを、日本のメディアもこれまでになく熱心に取り上げてきた。テレビでその様子を見ると、「大統領に不適格」「犯罪者」と非難し合う場面が多々あり、嫌悪感を感じた。日本でこんな選挙討論が放映されれば、おそらくテレビ局に視聴者からの苦情が殺到するだろう。「もっとまじめに政策論争をやれ」と。

   それにしても、FBI(連邦捜査局)に高度な政治判断があったのだろうか。6日という間際になって、FBIはクリントン氏の私用メールに再度問題ありとしていたが、一転して訴追しないと表明した。そのとたんに、トランプ氏の選挙勝利の可能性が薄まり、アメリカでも日本でもメール問題で下がり続けていた株式市場が値を戻した。これも不思議な話だ。当選すれば、株式市場を大混乱させるであろう人物を候補者に押し上げたことだ。「偉大なアメリカ」を選挙公約に掲げているのだから、株価が上がるような強い経済政策を打ち出すべきだろう。

   日本のメディアの現地アメリカに乗り込んで、大統領選挙の直前の様子を伝えている。その中でキーワードが一つ浮かんでいる。「ポリティカル・コレクトネス(political correctness)」だ。政治的、社会的に公正・公平・中立的という概念だが、広意義に「差別的な表現をなくそう」という意味合いで使われ、職業、性別、文化、宗教、人種、民族、障がい、年齢、婚姻をなどさまざまな言葉の表現から差別をなくすことがアメリカでは広く認識されている。

   これはアメリカが歴史の中で磨き上げてきた美徳だろう。奴隷の解放戦争(南北戦争、1861-65年)までやった差別との戦いの成果だ。ところが、最近になって、こうした広義のポリティカル・コレクトネスにいささか嫌気や戸惑いを覚えるが人たちが白人層に出てきた。言葉を発するにも周囲に気遣いしながら、さらに差別的な意味の発言が少しでもあると「ポリティカル・コレクトネスに欠いている」と裁判に訴えられる。白人層はある意味でポリティカル・コレクトネスに気遣いし過ぎて、閉塞感を覚えているのかもしれない。これは、トランプ支持層と言われる白人の貧困層だけでなく、「隠れトランプ支持層」と称される一部白人の中間層、富裕層にしてもしかりだ。

   そこで、トランプ氏が「メキシコとの国境に壁を築く」「イスラム教徒は入国させない」などの暴言を吐くと、白人層の一部ではスッキリする、そんな現状がアメリカを覆っている。アメリカの政治状況が衆愚化したとか、知性が劣化したという表面だけで論じることができない。心の深層にあった、ある種の「わだかり」が噴き出してきた、そんな状況ではないか。うまく表現はできない。

   ポリティカル・コレクトネスはさらに広がっている。すべてのマイノリティにだ。マジョリティを自負する白人層の寛容さが限界に来ている。これが「トランプ現象」ではないだろうか。

⇒8日(火)朝・金沢の天気   くもり

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★今そこにある隣国の危機

2016年11月03日 | ⇒ニュース走査
  初めて韓国を訪れたのは2013年8月25日、本土ではなく済州島だった。世界農業遺産(GIAHS)を研究する日本と韓国、中国の研究者らが当地に集まり、「日中韓農業遺産 連携協力のための国際ワークショップ」を開催した。済州国際空港に到着して、ロビーや免税店などがごった返していて、成田や羽田などの日本の空港とは違った勢いを感じた。その年の2月25日に朴槿恵氏が第18代大統領に就任し、「経済復興」「国民幸福」「文化隆盛」を掲げた韓国の新しい時代のスタートを切って間もないころ。まさに上げ潮ムードだった。

  あれから3年を過ぎて、韓国の勢いが突然止まったかのようだ。連日日本のメディアを通じて入ってくる韓国の様子は政治、経済ともにレームダックのようだ。今一番ホットなニュースが、ウォーターゲート(1972年、ワシントンの民主党本部で起きた盗聴侵入事件)になぞらえた「崔順実(チェ・スンシル)ゲート」。朴槿恵大統領は先月24日、国会での施政方針演説で、再選を禁止した憲法を改正することを提案した。その数時間後、朴政権の影の実力者といわれてきた崔氏のタブレットを入手し、分析した結果を韓国のケーブルテレビがスクープした。タブレットには大統領の演説文が44件あり、その演説文を事前に入手し、手直ししていたことだった。韓国には大統領記録物管理法があり、大統領府の文書を流出させた者は7年以下の懲役または罰金刑が課せられる。

  情報漏洩問題がクローズアップされる前は、アメリカの要請に応じて、高高度ミサイル迎撃装置(THAAD)の配備を受け入れを表明して、中国との軋轢を生んだことだ。中国でのG20首脳会議に合わせ、中国の習近平主席は朴大統領と9月5日に会談したが、このとき、習主席は「この問題(THAAD配備)の処理を間違えば、地域の戦略的安定に助けにならず、紛争を激化させる」と憂慮した。すると間もなく海上が騒がしくなった。違法操業の取り締まりをしていた韓国の高速警備艇が、中国漁船と衝突し沈没したのは先月7日のことだった。

  経済もおぼつかない。世界7位の韓進海運が破綻。大騒ぎになったが、サムスン電子の新型スマホ「ギャラクシーノート7」は火を噴き、そして、ロッテのお家騒動は泥沼化した。隣国の騒動を喜ぶつもりはないが、こうも連日のように新たなニュ-スが飛んでくるとつい気になってしまう。今後どうなるのか。友人に国家機密を洩らしたのは大統領自身である。絶体絶命のピンチに立たされていることだけは間違いない。今そこにある危機をどう乗り越えるのか。

⇒3日(祝)夜・金沢の天気    あめ
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☆核廃絶なぜ「反対」なのか

2016年11月01日 | ⇒ニュース走査
   それにしても腑に落ちない。核兵器を法的に禁止しようという核兵器禁止条約の制定交渉を来年2017年3月から開始するという決議案が、軍縮を担当する国連総会第1委員会で123ヵ国の賛成多数で採択された。一方、アメリカ、ロシア、イギリス、フランスなどの核保有国など38ヵ国が反対したが、その中に唯一の被ばく国として核兵器の廃絶を訴えてきた日本が反対にまわったのだ。

   ことし5月28日、アメリカのオバマ大統領と安倍総理は広島市の平和記念公園の原爆死没者慰霊碑を訪れ、オバマ氏は所感で、核廃絶を訴えたではないか。国民はこの様子じっとテレビで見つめ、核なき平和に希望を抱いた。

  Among those nations like my own that hold nuclear stockpiles, we must have the courage to escape the logic of fear and pursue a world without them. We may not realize this goal in my lifetime, but persistent effort can roll back the possibility of catastrophe.(わが国のように核を保有する国々は、恐怖の論理から逃れ、核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない。私たちが生きている間にこの目標は達成できないかもしれないが、たゆまぬ努力が大惨事の可能性を小さくする。)


   反対に投じた日本の主張はこうだ。28日、岸田外務大臣が記者会見で語ったコメントは「決議は具体的、実践的な措置を積み重ね、核兵器のない世界を目指すという我が国の基本的立場に合致しない」との理由だった。これを解釈すると、核軍縮を実効的に進めるには、核保有国と非保有国の協力がなければならない。それは、国際社会の総意で進められるべきだと日本側は強く求めたが、受け入れられなかった、とういことを言いたのだろう。これまで、唯一の被ばく国として核兵器を持つ国と持たない国の「橋渡し」をすると日本は繰り返し国際舞台で述べてきたではないか。今こそ日本がその立場を誇示して、「橋渡し」役を果たすべきだろう。

  今回反対したことで、賛成・反対問わず各国から見れば、日本は完全に軸足を核保有国側に移したということになる。安全保障の観点からみても、国際的な信用度という面でも深刻な問題ではではないだろうか。

   確かに、北朝鮮など日本の近隣諸国では核戦力の開発で騒がしい。これが現実の核の脅威であり、アメリカの「核の傘」の重要性は増しているという判断なのだろうが、アメリカやロシアという核兵器保有国と足並みをそろえて反対したのは納得できないと考えるのは私だけだろうか。百歩譲って、日本には棄権という選択肢はなかったのだろうか。あの中国やインドの保有国は棄権しているのだ。唯一の被ばく国という立場をもとにして、国際的に核廃絶のリーダーシップを取るという日本の本来の役割が失われたような気がしてならない。

⇒1日(火)朝・金沢の天気    あめ
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