自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「令和元年」回顧=いのちの歌

2019年12月31日 | ⇒ドキュメント回廊

       大晦日の『NHK紅白歌合戦』が令和元年のフィレナーレを飾った感じだった。紅白初出場の竹内まりやの「いのちの歌」が胸にしみた。「生きてゆくことの意味 問いかけるそのたびに 胸をよぎる 愛しい人々のあたたかさ この星の片隅で めぐり会えた奇跡は どんな宝石よりも たいせつな宝物・・・」。人と人の出会いの喜び、命をつなぐことの大切さ、平和の切望、実に生命感があふれていた。

    民主主義を死守し、地球環境を叫ぶ、地球の「いのちの歌」

   この1年を振り返ってみて、まさに生命感が躍動した年ではなかっただろうか。香港の民主主義は生きている、そう実感した。逃亡犯条例が中国政府と間で成立すれば、中国に批判的な香港の人物がつくられた容疑で中国側に引き渡される。そう懸念した香港の学生や市民が動いた。10月に改正案は撤回されたものの、香港政府はデモの参加者にマスクの着用を禁止する緊急状況規則条例「覆面禁止法」を制定した。顔を出させることでデモの過激化を抑圧する効果を狙ったものだろう。これがさらに学生たちを抗議活動へと動かした。

   そして、実施さえも危ぶまれていた香港の区議会議員選挙が11月24日に予定通り行われ、452議席のうち政府に批判的な民主派が80%を超える議席を獲得して圧勝した。あの騒乱の中で投票率が70%を超えて過去最高となり、「香港の躍動する民主主義」を世界に知らしめた。

   16歳の環境活動家、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんの活動にも強い生命感を感じる。なんと言ってもパンチの効いたスピーチだ。「You have stolen my dreams and my childhood with your empty words. And yet I’m one of the lucky ones. People are suffering. People are dying. Entire ecosystems are collapsing.」(あなたたちは空虚な言葉で、私の夢を、私の子ども時代を奪った。それでも、私は幸運な者の1人だ。人々は苦しんでいる。人々は死んでいる。生態系全体が崩壊している)=国連気候アクション・サミット2019(9月23日)でのスピーチから引用。

         地球温暖化対策に本気で取り組んでいない大人たちを叱責するメッセージだ。「私たちが地球の未来を生き抜くためには温暖化対策が必要なんです」と必死の叫び声が聞こえる。

    竹内まりやが歌う「生きてゆくことの意味 問いかけるそのたびに・・・」「泣きたい日もある 絶望に嘆く日も」「この星にさよならをする時が来るけれど 命は継がれてゆく・・」の歌詞を聞いていて、香港の民主主義を守り抜く行動、地球環境を復元させる必死の叫びと重なって聞こえる。まさに地球の「いのちの歌」ではないか、と。

⇒31日(火)夜・金沢の天気   

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★ 「令和元年」回顧=実名報道

2019年12月30日 | ⇒ドキュメント回廊

   大学でメディア論の講義をしていて学生たちからよく意見が出されたのは実名報道に関してだった。きっかけはこの事件。ことし7月18日に発生したアニメ制作会社「京都アニメーション」への放火で、社員70人のうち36人が死亡した。京都府警は8月2日に10人の実名による身元を公表し、同月27日に25人、その後10月11日にさらに1人の身元を公表した。警察側の判断では、葬儀の終了が公表の目安だった。    

      京アニメ事件、犠牲者の実名報道が問いかけること

   府警は同時に「犠牲になった35人の遺族のうち21人は実名公表拒否、14人は承諾の意向だった」(9月10日付・朝日新聞Web版)と説明している。その拒否の主な理由は「メディアの取材で暮らしが脅かされるから」だった。遺族側が警戒しているのはメディアという現実が浮かび上がった。

   警察側の身元の公表を受けて、メディア各社は実名を報道した。さらに、現場記者は被害者側のコメントを求め取材に入った。8月3日付の朝刊各紙をチェックすると、「亡くなった方々」として、実名だけでなく、年齢、住所(区、市まで)、そして顔写真もつけている。その写真は、アニメ作品の公式ツイッターやユーチューブからの引用だった。遺族から提供を受けたものもあった。

   マスメディア(新聞・テレビなど)の実名報道と遺族への取材について、学生たちは「被害者遺族にさらなる苦痛を与える取材はやめるべき」や「実名か匿名かは遺族の意向が最優先されるべき」、「いまのマスコミは加害者の名前を報道することには慎重になっているが、被害者の名前は当たり前にように軽く報道している感じがする」と辛口のコメントが多い。さらに、「被害者の実名報道が遺族に対するメディアスクラム(集団的過熱取材)の原因ではないか。被害者遺族への取材や実名報道にこだわる理由がわからない」とさらに手厳しい意見も。

   確かにメディアスクラムは以前からさまざまに批判を浴びている。「報道被害」という言葉も社会的にはある。記者が玄関のドアホンを鳴らしただけで、生活を脅かされたと敏感に感じる遺族もおそらくいる。遺族の心境は「そっとしておいてほしい」のひと言だろう。

   メディア側でもメディアスクラム化を避けるために、代表取材というカタチをとったりする。実際、京都アニメーション事件では、報道各社の代表者が、取材拒否の意向が明確な際はその意向を共有するよう努めることや、新聞・通信社とテレビの各1社を選び、代表社が遺族に取材の意向を尋ねる形式を取った。

   学生たちの意見は批判的なコメントが多かったが、一人の読者・視聴者の立場からすると、やはり実名であることが記事内容の真実性が伝わる。ただ、被害者や遺族へのコメントが必須かどうか。事件の状況が理解できれば、被害者側の心情は察するに余りあるものだ。ケースバイケースだが、被害者側のコメントはなくてもよい。

   もう一つ議論を呼んだのは、加害者の実名報道だ。マスメディアのWeb版で掲載された逮捕記事などはインターネットの掲示板などに転載されている。問題は、その後、証拠不十分で不起訴となったりするケースもままある。その場合でも容疑者のままネットで掲載されている。いったんネットに上がった実名と犯罪を消去することはおそくら不可能だろう。

   加害者の実名は裁判で判決が確定するまで掲載しないという論もある。しかし、逮捕段階からの実名報道は事件の真実性を担保することであり、匿名での記事は誰も注目しないだろう。

⇒30日(月)夜・金沢の天気    くもり

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☆ 「令和元年」回顧=無謀な海

2019年12月29日 | ⇒ドキュメント回廊

   あの北朝鮮からアメリカへの「クリスマスプレゼント」はどうなったのか。このままだと「お年玉」になるのだが。もちろん誰も欲してはいない。また、年末になると日本海は北西の風が吹き、大しけ(荒れ模様)となる。毎年このころ北朝鮮から日本に大量に届くものがある。「お歳暮」ではない、漂着船だ。

   日本海で繰り返される北の理不尽な振る舞い

   報道によると、今月27日に新潟県佐渡市の素浜海岸に打ち上げられた北朝鮮の木造船とみられる漂着船から7遺体が見つかったと第9管区海上保安本部が発表した。同本部によると、北の漂着船から遺体が発見されたのはことし今回が全国で初めてという(29日付・新潟日報Web版)。漂着船はことし1年で150件を超えている。それにしても、素浜海岸は佐渡島の西側、能登半島と向き合った位置関係にあり、能登の海岸に打ち上げられる可能性もあったと考えると他人事ではない。

   北の難破船は構造的な問題でもある。漂着する船のほどんどはイカ網漁船とみられる。北朝鮮の慢性的な食糧不足から国策として漁業を奨励し、「冬季漁獲戦闘」と鼓舞し、大しけでも無理して船を出しているようだ。北朝鮮は沿岸付近の漁業権を中国企業に売却しており、北の漁師たちは外洋に出ざるを得ない状況に置かれているとされる。いくら食糧確保のためとはいえ、古い木造漁船で出漁を煽るとは、難破の悲劇をわざわざつくり出しているようなものだ。ちなみに、日本の沿岸に着いた漂着船から見つかった遺体は2018年が14人、17年は35人、16年は11人(同)。見つかる遺体はごく一部だろう。                    

    問題はまだある。難破した木造漁船の漂着や漂流そのものが問題を引き起こす。転覆した木造船などはレーダーでも目視でも確認しにくいため、日本の漁船との衝突の可能性が出てくる。まさに「漂う危険物」だ。さらに、水難救助法では漂着船の解体処分や遺体の火葬をするのは自治体だ。2018年のまとめで、北朝鮮からとみられる木造船の漂着は201件で前年の2倍だった。そのうち、石川県での漂着船の処分は21件、経費は880万円に上った。最終的に国が全額負担、われわれの税金だ。

    ことし10月7日、北の漁船と衝突事故もあった。能登半島沖350㌔の日本のEEZ(排他的経済水域)で水産庁の漁業取締船と北朝鮮の漁船が衝突した。事故の原因は、取締船が北の漁船に放水して退去するよう警告したところ、漁船が急旋回して取締船の左側から衝突してきた(※写真、10月18日・水産庁が公開した動画映像から)。単なる操縦ミスなのか威嚇による故意の事故なのか、調べの措置がないまま、北の乗組員は救助され僚船に引き取られた。後日、北朝鮮側は「(日本の)意図的な行為」で漁船を沈没させたとして賠償を要求している。

   このような無謀で不合理、理不尽な光景がまた来年も日本海を舞台に繰り返されるのか。 

⇒29日(日)午前・金沢の天気     はれ

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★ 「令和元年」回顧=日韓亀裂

2019年12月28日 | ⇒ドキュメント回廊

   今の日本と韓国の関係性をたとえるなら、「信なくば立たず」という言葉に尽きる。もともと、孔子が、政治を執り行う上で大切なものとして「軍備」「食糧」「民衆の信頼」の三つを挙げ、中でも重要なのが信頼であると説いたことに由来する。相互に信頼があってこそ成り立つ、人と人、人と国、国と国の関係性だが、残念ながら現在の日韓ではこの関係性は成り立たない。

          「信なくば立たず」、亀裂状態が続く日韓関係

   その発端は2018年10月30日、朝鮮半島から内地に動員された元「徴用工」といわれる人たちが、日本企業を相手取って損害賠償を求めていた裁判で、韓国の最高裁は賠償を命じる判決を言い渡した。これに対して、日本政府は1965年の日韓請求権ならびに経済協力協定で、請求権問題の「完全かつ最終的な解決」を定めているので、韓国の最高裁が日本企業に対する個人の請求権行使を可能としたことは、「国際法に照らしてありえない判断」(安倍総理)と強く批判している。「徴用工」は強制的に労働をさせられたいう意味合いでくくられているが、果たして実態はどうだったのか。出稼ぎで日本にやって来た人たちも多くいた。いまのままでは、戦前に日本で働いた朝鮮半島の労働者はすべて「徴用工」であり、受け入れ企業すべてが賠償請求の対象になる。

   2018年12月20日、能登半島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内で、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射した。火器管制レーダーは、ミサイルで対象を攻撃するために距離や高さ、移動速度を計測するためのもので、通常のレーダーとは全く違う。当時の岩屋防衛大臣が翌日21日の緊急記者会見で、このレーダー照射の一件を公表した。火器管制レーダーを照射したのは韓国海軍の駆逐艦「クァンゲト・デワン」。P1は海上自衛隊厚木基地所属。P1は最初の照射を受け、回避のため現場空域を一時離脱した。その後、状況を確認するため旋回して戻ったところ、2度目の照射を受けた。P1は韓国艦に照射の意図を問い合わせたが、応答はなかった。照射は数分間に及んだ。防衛省ホームページには、撮影した動画が掲載されていて、経緯が紹介されている。

   ことしに入ってさらに韓国側の「あおり」外交がエスカレートする。8月23日、韓国側からGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄(延長拒否)を決定したと発表した。その理由が、日本側の不誠実な態度が韓国の国家的自尊心を喪失させ、日韓の信頼関係が失われたとしていた。そして、GSOMIA破棄についてにはアメリカ側からの理解を得らているといると説明した。これは、日本側が8月2日に韓国を「ホワイト国」から除外する決定をしたことへの趣意返しだった。韓国側の輸出管理制度に不備があり、軍事転用される可能性があるフッ化水素、レジスト、フッ化ポリイミドの3品目を個別許可とし、優遇措置(一般包括許可など)を停止するというものだった。 

   ところが、韓国側は11月22日、破棄を決定していたGSOMIA(軍事情報包括保護協定)について失効期限(23日午前0時)の直前に回避を決めた。日米韓の安保協力を重視するアメリカ側の強い圧力で韓国側が土壇場で折れたカタチだが、米韓関係にしこりが残った。その6日後の28日、北朝鮮はEEZに向けて弾道ミサイル2発を打ち上げた。

⇒28日(土)午後・金沢天気    はれ

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☆ 「令和元年」回顧=迫る危機

2019年12月27日 | ⇒ドキュメント回廊

      石川県には「森林環境税」がある。給与所得者の場合、毎年500円が給与から天引きされ、住んでいる市町へ納付される。会社などの法人も負担していて、年間で2億円余りになる。これが、手入れ不足の森林の整備や放置竹林の除去など、クマやイノシシなどの野生獣の出没を抑止するための里山林の整備などに充てられている。

       「中山間地ハザード」は日本の課題モデル

   それにしても、日本の森林は危機的な状況かもしれない。森林の所有者が高齢化し、後継者が都市生活者となる中、森林に整備の手が入らずが荒れ放題になっている。豪雨などによる大量の倒木が自然災害をより深刻なものにしている。さらに、イノシシやクマ、ニホンジカ、サルなどによる農作物などへの被害は年々増え続け、里山だけでなく市街地にまで広範囲化している。 

   きょう出席した会議での話だが、能登半島の先端、珠洲市で2018年度に捕獲・処分されたイノシシは1600頭、隣接する輪島市では2000頭に上る。イノシシの成獣を処分すると1頭当たり3万円が支払われる。処分したイノシシの多くは、捕獲した人が所有する山林に埋める。いま問題となりつつあるのは、埋める場所がもうなくなりつつあることだ。最近海岸に流れ着くイノシシの死がいが報告されるようになっている。担当者は「海岸の崖から転落したというより、埋める場所がなく、不法投棄されたのではないか」と案じていた。

   各自治体では億単位のお金をつぎ込んで捕獲獣の処理施設を造り始めている。ただ、地域の高齢化でイノシシなど野生獣を捕獲する人は年々減少していくだろう。一方で、イノシシのメスは一頭で平均26匹前後の子を産むとされる。

   手が入らなくなった中山間地におけるもう一つの問題は、ため池である。川がない地域などで農業用水を確保するために中山間地にため池が造成された。中には中世の荘園制度で開発された歴史あるため池も各地に存在する。農業の担い手がいる地域では、梅雨入り前にため池の土手を補修するなど共同管理している。問題となっているのは、担い手がいなくなったため池である。大雨によってため池が決壊すれば、山のふもとにある集落は水害と土砂災害が一気に襲ってくることになる。農水省がことし6月発表した、自然災害で人的被害が生じる恐れがある「防災重点ため池」は全国6万3千ヵ所に及ぶ。農業用ため池全体(16万6千ヵ所)の実に4割を占める。

   ため池を放置すれば土砂崩れや水害のリスクが高まる。沼地化して、その後に樹木が生えて原野に戻っていくこともある。一方でため池は生き物の楽園でもある。能登半島はコハクチョウや国指定天然記念物オオヒシクイなどの飛来地としても知られる。これらの水鳥はため池と周辺の水田を餌場としても利用している。また、ため池は絶滅危惧種であるシャープゲンゴロウモドキやトミヨ、固有種ホクリクサンショウウオなど希少な昆虫や魚類の生息地でもある。ため池の管理が大きな曲がり角に来ている。

   森林を放置すれば獣害、ため池を放置すれば自然災害。中山間地におけるハサードであり、日本の課題モデルではないだろうか。

(※写真は、共同管理がなされている、石川県七尾市の漆沢の池。400年以上も前に造られ、農水省の「ため池百選」に選ばれている)

⇒27日(金)未明・金沢の天気    あめ

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★「令和元年」回顧=ONE TEAM

2019年12月26日 | ⇒ドキュメント回廊

    今年話題となった言葉を選ぶ「2019ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞に、ラグビーワールドカップの決勝トーナメントに進出した日本代表のスローガン「ONE TEAM」が選ばれた。予想通りだった。多国籍を超えて、日本チームとして結束しているところが見事だった。国歌斉唱では外国人選手も「君が代」を歌い、むしろグローバルさを感じたものだ。

      「ONE TEAM」が教えてくれた次なる可能性  

    この「ONE TEAM」の在り様は、日本の将来の進路ではないかと考える。急速に進む少子高齢化で働き手や担い手が不足する中、日本の多国籍化を進めていく。国際化と言うと共通の理念が求められるが、目標に向かって結束する場合は多国籍化でよいのではないか。多国籍化が求められるのは、スポーツだけでなく、研究開発やマーケット戦略、生産性や教育分野など幅広い。市民生活でもあえて日本人の社会に溶け込む必要はない。日本の法律の下でお互いに暮らし安さを追求すればそれでよい。そんなことを想起させてくれたのが「ONE TEAM」の戦いぶりだった。

    そこで、「ONE TEAM」を多国籍型の移民政策だと想定してみる。実は「ONE TEAM型移民政策」はすでに動いている。政府は、2020年を目途に留学生受入れ30万人を目指す「留学生30万人計画」を外務省や文部科学省に指示して推進している。たとえば、金沢大学でも2023年までに外国人留学生2200人の受け入れを目指している。法務省は留学生に在留資格を発行していて、留学生がさらに国内の企業へ就職する場合は在留資格の変更許可を出している。2018年の許可数は2万5942人で、前年に比べ3523人、15.7%も増加している。日本の大学で専門性を身につけた留学生が日本の企業で就職するケースは今後増えるだろう。

    事例がある。金沢市にある繊維会社(インテリア、スポーツ衣料)は、社員52人のうち28人が外国人だ。留学生を積極的に採用している。生産管理と品質管理、営業は専門性を持ったベトナムや中国人スタッフが担当。金沢本社とアジアの生産工場を往復するマネジメントのスタッフもいる。こうした海外に生産拠点を置く企業だけでなく、サービス産業やITベンチャー企業も外国人採用枠を増やしているのだ。会社の中で互いに技術やアイデアを競い合う多国籍型の会社組織が当たり前の時代になりつつある。

     もう一つの「ONE TEAM多国籍型移民政策」は、今年4月から施行された改正出入国管理法(入管法)だろう。高度な試験に合格し、熟練した技能を持つ人は長期就労も可能になり、家族の帯同も認める(特定技能2号)。地域の企業がグローバル展開するには、有能な外国人技術者を獲得し、そして地域に定住してもらう政策が必要となる。石川県内にはそれを積極的に進めている自治体がある。

     自治体の首長はこう語った。「有能な外国人技術者を雇用すると妻子を伴ってくるケースが多い。その子どもたちの教育環境を整えることで、企業はそれを誘い文句に、海外からの優秀な技術者をスカウトしやすくなる」と。首長に「では、どのような教育環境が必要なのですか」と突っ込んで尋ねると、「それはインターナショナルスクールのような教育環境だろう」と明快だった。

     地域にインターナショナルスクールの教育環境を整えること、それが海外から技術者を呼び込む「試金石」になる。地域の企業も国際的な大競争の時代にさらされている、そこをどう生き残るかまさに地域の未来課題でもある。「ONE TEAM」が示唆するテーマは実に深い。

⇒26日(木)朝・金沢の天気    はれ

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☆「令和元年」回顧=台風余波

2019年12月25日 | ⇒ドキュメント回廊

    4月30日「平成の大晦日」の夜は金沢のワインバーで過ごした。ワインの話で盛り上がっているうちに、カウントダウンが近づいた。5月1日まであと10秒。カウンターの客が「9、8、7、6、5、4、3、2、1」と声をそろえた。「令和」が始まった。すると、ソムリエがシャンパーニュを振る舞ってくれた。改めて、令和の幕開けに乾杯した。2019年における感動の一場面だった。平成の世と同じく、令和も戦争のない平和な時代であってほしいと願うばかりだ。まずは、「令和元年」を振り返ってみる。

       「台風19号」がさらなる風評被害を呼ぶとしたら・・・

     北陸に住む一人としてショックだったのは、10月の台風19号の大雨で長野県千曲川の堤防が決壊し、長野市にある新幹線車両センターの北陸新幹線の車両が水に浸かった画像だった。豪雪にも強いと頼っていた北陸新幹線だけに、10編成、120車両が並んで水に浸かっている様子は痛々しかった。13日の始発から東京-金沢間すべて運休となった。10月13日から25日までの全面運休。石川県の調べで、県内の主な温泉地と金沢の主要なホテルだけで2万1700人のキャンセルがあったという。中小のホテル・旅館、ゲストハウスなど含めれば、おそらくその2倍の数字になるだろう。

    北陸新幹線の東京-金沢間は同月25日には台風前の9割の本数で運転再開し、11月30日には定期列車の本数が台風前と同等になった。北陸人としてはホッとした。ところが、先日東京に出張があって山手線に乗ると、電光掲示板に「【北陸新幹線 お知らせ】北陸新幹線は、台風19号の影響で、暫定ダイヤで運転しています。時刻等の詳細はJR東日本ホームページをご確認ください。」と表示されている。ホームページをのぞくと、東京-長野間で一部減便となっている。でも東京-金沢は100%なのだ。

    もし、「金沢へカニを食べに行こう」と思い浮かべている人がこの掲示板を見たらどう思うだろうか。「台風19号の影響がまだ続いているのならあきらめよう」となるのではないか。関東にも相当なダメージを与えた台風だけに、「台風19号」そのものが風評被害となるのでは。JR東日本を責める訳ではないが、表現の仕方を工夫してほしいと思ったのは北陸に住む一人としての偽らざる気持ちだ。

⇒25日(水)午後・金沢の天気     はれ

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★北からの「クリスマスプレゼント」

2019年12月24日 | ⇒キャンパス見聞

    北朝鮮がアメリカに対し、「クリスマスプレゼント」を贈るようだ。韓国・朝鮮日報(日本語、24日付)によると、北朝鮮の外務次官(アメリカ担当)は今月3日に出した談話で、「今残っているのはアメリカの選択であり、近づくクリスマスのプレゼントに何を選ぶかは全面的にアメリカの決心にかかっている」と表明し、クリスマス前後に衛星を搭載した長距離ロケットか、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する可能性があるとの見方が出ている、と報じている。これに対し、韓国軍当局者は「韓米の連携の下、北の状況を鋭意注視している」と明らかにした。アメリカ軍と連携し、北朝鮮の主な核・ミサイル施設などを監視しているという。

    北の矛先はアメリカだけではない。北朝鮮の国営メディアは、先月発射した超大型ロケット砲を日本政府が弾道ミサイルの発射だとの見解を示していることについて、「海を越えた島国には脅威にならない。日本はわが国に対する国際的な圧迫を扇動している」と主張した(24日付・NHKニュースWeb版)。河野防衛大臣が今月21日の防衛庁での訓示で、「北朝鮮は相次いで弾道ミサイルなどの発射を行い、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威だ」と述べたことを、「国際的な圧迫を扇動」と誇張したようだ。

           北朝鮮の激しい言葉が交錯すると、つい気になるのが東証一部の石川製作所(石川県白山市)の株価だ。きょうも値上がりして2015円に。1ヵ月前の11月25日は1338円だった。この急騰の背景となっているのが同社が防衛関連株だからだ。同社は段ボール印刷機、繊維機械を生産しているが、追尾型の機雷も製造する防衛産業も担っている。

    同社の株価は長らく1000円を割り込んでいたが、一転注目され始めたのは2017年7月だった。北朝鮮が打ち上げたICBMはアメリカ西海岸のロサンゼルスなどが射程に入るものだった=記事は7月29日付=。これを受けて、トランプ大統領は9月の国連総会の演説で金正恩・朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と呼び、双方の言葉の応酬が過熱した。このころから株価は上昇し、10月16日には4205円の最高値を記録した。が、翌年2018年の韓国・平昌オリンピックへの北朝鮮の参加による平和ムードが広がり、徐々に株価は下がり、3月29日に韓国と北朝鮮による南北首脳会談(4月27日)が決定すると1943円に下がった。その後は、「平和の演出」のにおいが感じられるようになると下落、米朝首脳会談の「中止」「延期」のメッセージが発せられると上向きに転じた。

    ちょうど1年前の2018年12月26日は1010円だった。今年に入り1400円台が続いていたが、このところの北朝鮮のホットな「口撃」で再び上昇が始まり、きょうは2015円になった。投資家にとっては、北からの「クリスマスプレゼント」だろうか。

⇒24日(火)夜・金沢の天気     くもり

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☆ジャーナリストの死から読めること

2019年12月23日 | ⇒ニュース走査

   学生たちに「ジャーナリズム論」を語るとき、「ウォッチドッグジャーナル」というキーワードをよく使う。ウォッチドッグ(watchdog)は直訳で「番犬」のこと。ジャーナリズムや報道の役割は権力のチェックにある、と。民主主義社会は三権分立だが、権力は暴走しやく腐敗しやすい。権力に対するチェック機能が必要である。政府や官公庁の発表に頼らず、独自に掘り起こす調査報道がなければ、報道機関としての存在意義がない。

   一方で、ウォッチドッグジャーナルに対して、権力側も黙ってはいない。AFP通信(日本語版・2018年12月18日付 )によると、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団(RSF)」が発表した、2018年に殺害されたジャーナリストの数は世界全体で80人に上り、348人が収監され、60人が人質として拘束されているという。その80人の中に、サウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏が入っている。カショギ氏はウォッチドッグジャーナルの代表格だった。

   カショギ氏がはワシントン・ポスト紙にコラムを掲載していた。同紙のWeb版(2018年10月17日付)の記事=写真=。見出しは「What the Arab world needs most is free expression」(アラブ世界が最も必要とするものは自由の表現だ)。以下要約。「アラブ世界ではチュニジアなどを除きほとんどの国で言論の自由がない。2011年のアラブの春はすでに形骸化している。アラブの人口の圧倒的大多数が国の虚偽の物語の犠牲者になっている。アラブのジャーナリストはインターネットの普及が印刷媒体の検閲から情報を解放すると信じていた時があったが、現在政府は懸命にインターネットをブロックしている。記者を逮捕し、出版物の収入を阻止するため広告主にも圧力をかけている。アラブの普通の人々の声を伝えるプラットフォームや、人々が発信する国際フォーラムが必要性だ。アラブの人々はこの国際フォーラムの創設を通して、プロパガンダで憎悪を広げる国家主義的な政府の影響から解放され、社会が直面する構造的問題に取り組むことができるだろう」

   こうしたカショギ氏の切々とした訴えはこれまで完全に無視されてきた。そのカショギ氏は2018年10月2日、結婚届けを目的にトルコのサウジアラビア総領事館に入ったまま消息を絶つ。10月20日になって、サウジアラビア政府は総領事館でカショギ氏が殺害されたことを認めた。上記のコラムは 最後の執筆となってしまった。

   きょう23日夜のニュース番組(NHK)で、殺害に関与したとして5人に対し、サウジアラビアの裁判所が死刑判決を言い渡したと報じている。死刑が言い渡された人物の名前や肩書などは明らかにされていない。関与が国連人権委員会でも指摘されていたムハンマド皇太子の側近2人について、サウジアラビアの検察当局は証拠がなかったと説明しいる、という。

   来年2020年11月、ムハンマド皇太子が仕切り役となり、サウジアラビアの首都リヤドで「G20サミット」が開催される。サウジアラビアは議長国だ。G20サミットで取り上げられる議題は、世界経済や貿易・投資のほか、気候・エネルギー、雇用、デジタル、テロ対策、移民・難民問題などだ(外務省HP)。しかし、G20サミットは人権とは正面から向き合っていない。

   国際的に批判を浴びたカショギ氏殺害事件。今回の関係者5人の死刑判決は、サミットを11ヵ月後に控え、サウジアラビア政府が事件の幕引きを図ったのだろう。

⇒23日(月)夜・金沢の天気    あめ

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★人に寄り添うAI

2019年12月20日 | ⇒メディア時評

    社是が「地球上で最もお客様を大切にする企業」である。どのような企業なのか一度覗いてみたかった。きのう(19日)それが実現した。まず、エレベーターが金属っぽくない。ダンボールで貼り紙をしたような柔らかい感じで、つい寄りかかってしまいたくなるデザインなのだ。

    会員が自由に使える「コ・ワーキングスペース」(158席)=写真=に入った。ここを活用するのは主に開発者や起業家の人たちで、何人かでアイデイ出しや突っ込んだ話をしたい場合は、会議室(定員6)を1時間単位で無料で利用ができる。予約の受付はしていないので、当日受付で利用をオファーする。飲み物や弁当も販売しているので、利用者は午前10時から午後6時まで集中できる。

   最大のサービスはこの場で月5,6回開催されるセミナーやハンズオン(体験型学習)といった勉強会だろう。午後6時30から2時間ほど。訪れたこの日は「Deep Learning フレームワークと推論」と題するセミナーだった。Deep Learning (ディープ・ラーニング、深層学習)は能の神経回路まねた機械学習のこと、AI(人工知能)の本命と言える。自動翻訳や画像認識の精度が格段に上がったのも、ディープ・ラーニング技術によるものだ。このセミナーに参加したかったが、時間が許さなかった。

   企業名も示さずに冒頭から長々と述べたが、訪れたのは「アマゾン ウェブ  サービス (aws)ジャパン株式会社」(東京都品川区上大崎)。コ・ワーキングスペースは昨年10月に、aws社が「挑戦をカタチにする場所」として開設した。サンフランシスコ、ニューヨークに続いでの設置という。クラウドコンピューティングという新しいカタチのテクノロジーがこの世に登場してから十数年がたち、アイデイア次第で新たなサービスやビジネスが実現するチャンスが広がった。同社はそれを支援することをミッションと位置付け、「地球上で最もお客様を大切にする企業」の社是を掲げる。

   ところでAIというと、怖いという印象だと話す人も少なからずいる。犯罪に使われたり、今の仕事がAIに取って代わられる、との不安感など。aws社を訪ねたのは、教材ビデオの出演の依頼が目的だった。身近に寄り添うように人間を支えるテクノロジーとしてのAI(人工知能)について語っていただけないかとマネージャーの方にお願いした。たとえば、人に学び、人を理解し、人をサポートするAIロボットだ。情調的動作が人間に与える影響が大きければ、「第3の医療」の道が拓けるかもしれない。強さを追求するゲームAIとは異なる、楽しみを生み出す、人間に合わせた温かみのあるゲームAIの可能性もあるのではないだろうか。次なるAIの有り姿をぜひ語っていただきたいとお願いしてきた。

⇒20日(金)朝・金沢の天気     あめ

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