石川1区の開票所=写真=を見学に行ってきた。金沢市の市民体育館。かつて取材で何度か訪れたことがあるが、一般の「参観人」としては初めて。体育館の3階から1階で行われている開票の様子を眺めることができる。3階にはざっと60人はいる。ただ、参観人は数人、あとは圧倒的にマスメディアの関係者で占める。腕にそれそれのメディアの名前を記した腕章を付けている。
開票所に行く、「静かなる大変革」を実感
公職選挙法第6条2では、選挙の結果を有権者に速やかに知らせるように努めなければならないとしており、開票所は公開されている。ただ、テレビ各局は午後8時から一斉に「選挙特番」を放送するので、不思議な感じがする。携帯電話のワンセグ放送で視聴すると、開票所に到着した午後9時ごろ、全国200人余りにすでに「当確(当選確実)」が出ていた。ところが、この金沢市の開票所は開票のスタートが午後9時30分なのである。都市部の開票はだいたい午後9時ごろからなので、「メディア開票」がずっと先行していた。
新聞とテレビのメディアは実際の開票所での開票データではなく、あくまでも推測で当確を出すわけである。9時20分ごろに開票所3階にやってきた年配のご婦人が「もう開票の半分は終わった頃かと思って見にきたのに、(開票は)今からとは…」といぶかしげに、「広報」の腕章を付けた係員に尋ねていた。当確という文字は、「○○候補の当選はおそらく確実でしょう」という推測の意味を含んでいる。メディアが数字の根拠として持っているデータは、投票所の前で行う出口調査の結果である。各メディアによって数字は異なるが、それぞれの選挙区で数千のサンプルを採取している。その出口調査の結果と、投票前にすでに行っている電話調査の結果を突き合わせ、さらに選挙区を取材する担当記者の感触などを含め総合的な判断で当確を出す。ところが、出口調査でも電話調査でも「互角」「競っている」「その差数%」という微妙な数字がある。その場合は、リアルな数字の読み込みが必要である。開票所では実際、どの候補者がどれだけの数字を取っているのか、である。
実際に開票台で仕分けされる票を目で確認する調査を「開披台(かいひだい)調査」とメディアは称している。バードウォッチングの要領で双眼鏡で、仕分けしている開票係の手元を読んでいく。どの候補者の名前が票に記されているか調査する。メディアは一つの開票所にウオッチャーを10人から15人を貼り付ける。私が金沢市の開票所3階を訪れたのは、そのメディア開披台調査の様子を観察することで、接戦が予想された石川1区の自民・馳浩氏と民主・奥田建氏の勝負を見極めたかったからである。ウオッチャーが候補者名を読み上げる。それを記録係が記入していく。私はそのウオッチャーたちの声を聞きながら当落の目星をつけ、1時間ほどで開票所を出た。
自宅に帰る。深夜、開票終了。奥田氏が125,667票、馳氏は117,168票とその差8499だった。開披台調査とほぼ同じ割合の差だった。そして自民119議席、民主308議席と国会の勢力図がひっくり返った。自民の大敗。おそらく安倍晋三氏、福田康夫氏の「総理の座」の放り投げあたりから自民に対する有権者の幻滅感が漂っていた。不況対策も実感できず、国の借金は800兆円にも膨らんでいる。こうなれば、自民党に降りてもらうしかない、そんな冷静な有権者の判断が下ったのだ。これほどの歴史的な大差がついたのに、選挙期間は有権者の熱狂は感じられなかった。「静かなる大変革」とでも言おうか。これから新たな政治と経済、そして社会のドラマが始まる。
⇒31日(月)朝・金沢の天気 くもり