自在コラム

⇒ 日常で観察したことや環境問題、金沢大学での見聞、マスメディアとインターネットについての考察を紹介する宇野文夫のコラム

★09総選挙の行方~4

2009年08月31日 | ⇒トピック往来

 石川1区の開票所=写真=を見学に行ってきた。金沢市の市民体育館。かつて取材で何度か訪れたことがあるが、一般の「参観人」としては初めて。体育館の3階から1階で行われている開票の様子を眺めることができる。3階にはざっと60人はいる。ただ、参観人は数人、あとは圧倒的にマスメディアの関係者で占める。腕にそれそれのメディアの名前を記した腕章を付けている。

       開票所に行く、「静かなる大変革」を実感

  公職選挙法第6条2では、選挙の結果を有権者に速やかに知らせるように努めなければならないとしており、開票所は公開されている。ただ、テレビ各局は午後8時から一斉に「選挙特番」を放送するので、不思議な感じがする。携帯電話のワンセグ放送で視聴すると、開票所に到着した午後9時ごろ、全国200人余りにすでに「当確(当選確実)」が出ていた。ところが、この金沢市の開票所は開票のスタートが午後9時30分なのである。都市部の開票はだいたい午後9時ごろからなので、「メディア開票」がずっと先行していた。

  新聞とテレビのメディアは実際の開票所での開票データではなく、あくまでも推測で当確を出すわけである。9時20分ごろに開票所3階にやってきた年配のご婦人が「もう開票の半分は終わった頃かと思って見にきたのに、(開票は)今からとは…」といぶかしげに、「広報」の腕章を付けた係員に尋ねていた。当確という文字は、「○○候補の当選はおそらく確実でしょう」という推測の意味を含んでいる。メディアが数字の根拠として持っているデータは、投票所の前で行う出口調査の結果である。各メディアによって数字は異なるが、それぞれの選挙区で数千のサンプルを採取している。その出口調査の結果と、投票前にすでに行っている電話調査の結果を突き合わせ、さらに選挙区を取材する担当記者の感触などを含め総合的な判断で当確を出す。ところが、出口調査でも電話調査でも「互角」「競っている」「その差数%」という微妙な数字がある。その場合は、リアルな数字の読み込みが必要である。開票所では実際、どの候補者がどれだけの数字を取っているのか、である。

  実際に開票台で仕分けされる票を目で確認する調査を「開披台(かいひだい)調査」とメディアは称している。バードウォッチングの要領で双眼鏡で、仕分けしている開票係の手元を読んでいく。どの候補者の名前が票に記されているか調査する。メディアは一つの開票所にウオッチャーを10人から15人を貼り付ける。私が金沢市の開票所3階を訪れたのは、そのメディア開披台調査の様子を観察することで、接戦が予想された石川1区の自民・馳浩氏と民主・奥田建氏の勝負を見極めたかったからである。ウオッチャーが候補者名を読み上げる。それを記録係が記入していく。私はそのウオッチャーたちの声を聞きながら当落の目星をつけ、1時間ほどで開票所を出た。

  自宅に帰る。深夜、開票終了。奥田氏が125,667票、馳氏は117,168票とその差8499だった。開披台調査とほぼ同じ割合の差だった。そして自民119議席、民主308議席と国会の勢力図がひっくり返った。自民の大敗。おそらく安倍晋三氏、福田康夫氏の「総理の座」の放り投げあたりから自民に対する有権者の幻滅感が漂っていた。不況対策も実感できず、国の借金は800兆円にも膨らんでいる。こうなれば、自民党に降りてもらうしかない、そんな冷静な有権者の判断が下ったのだ。これほどの歴史的な大差がついたのに、選挙期間は有権者の熱狂は感じられなかった。「静かなる大変革」とでも言おうか。これから新たな政治と経済、そして社会のドラマが始まる。

⇒31日(月)朝・金沢の天気   くもり

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☆09総選挙の行方~3

2009年08月28日 | ⇒トピック往来

 27日付の朝日新聞は「民主、320議席獲得も、自民100前後、公明20台」と総選挙中盤の情勢調査の結果を伝えた。有権者である我々でもちょっと怖い数字である。なぜなら「熱」がないのである。何人か集まって、世間話をしていても選挙が話題に上らない。政権交代が必要と熱く語る人(有権者)が周囲にいない。なのに05年のあの「小泉劇場」と呼ばれ、有権者が熱かった総選挙より、数字的にダイナミックに政権交代が起きるというのである。これは一体、どんな現象なのか。

          不気味なほど静かなる選挙

  26日付の朝日新聞では、テレビの選挙報道が前回より「半減している」と報じていた。解散した日から1週間の間で、NHKや民放が取り上げた選挙に関する映像を時間で計測したデータの05年と今回の比較である。それを見ると、テレビ朝日の場合、前回がトータルで25時間、今回は16時間ほどなっている。フジテレビなどは3分の1だ。全体でデータを眺めると確かに今回はトーンダウンしている。テレビはある意味で正直だ。視聴率という数字が取れない、あるいは「絵にならない」(映像的に面白くない)と判断すると取り上げないものだ。確かに、前回は「刺客」「小泉敵情」の取り上げが過熱して、「テレポリティクス」と揶揄(やゆ)されたように、テレビが選挙を誘導しているとの批判の声もあった。テレビはその反省に立って、今回自重しているのか。「否」である。テレビはそんな殊勝な業界ではない。数字が取れると思えば、どこまでも食いついて行く。要は、選挙では数字が取れない、「酒井法子で行こう」と視聴者の心を読み取っているのである。

   おそらく選挙期間中(8月18日~30日)なので、多くの選挙分析の専門家はこの「覚めた現象」の分析を避けているのかもしれない。個人的には投票率が気になる。どんな層が動くのか。

  気になるのは、「ネガティブキャンペーン」がインターネットのユーチューブで盛んに流されている点だ。自民党が流している「プロポーズ編」「ブレる男たち編」「ラーメン編」では民主の幹部たちとおぼしき人物がアニメで表現されている。「プロポーズ編」は64万回も再生されている(28日現在)。民主党の鳩山党首とおぼしき人物が、「無料にする」などと女性に約束を乱発するアニメである。最後のナレーションで、「その根拠のない自信に人生を預けられますか?」と強調する。「ブレる男たち編」は「4人ばらばら、ブレ4です」と登場する「黒い影」は意味深だ、ちょっと見ようとクリックしてしまう。相手陣営を皮肉るという手法のテレビCMは、アメリカでは普通だ。先のアメリカの大統領選挙の民主党候補選びではオバマとヒラリー・クリントンの間でもこのネガティブ・キャンペーンが繰り広げられた。日本では表のCMはテレビ・新聞、裏のCMはインターネットと分けられている。

  冒頭で紹介した民主320議席は電話調査、64万回も再生されたCMはインターネットだ。数字だけが積み上がる、不気味な選挙ではある。

 ⇒28日(木)朝・金沢の天気  はれ

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★09総選挙の行方~2

2009年08月19日 | ⇒トピック往来

 総選挙が18日に公示された。と同時に、公職選挙法に基づく縛りもでてきた。この「gooブログ」の作成画面には、「※選挙期間中は公職選挙法にご留意いただきますようお願いいたします。」との赤字の注意書きが掲載されている。私がブログを始めた05年春ごろ、ブログは「個人の日記」程度の認知だった。それがいまでは情報発信力が注目され、広告媒体やパーソナルメディアとしてのチカラを持つようになった。「だから、選挙期間中は候補者への中傷などは避けてください。公平に、公平に。私は注意しましたよ、あとは自己責任でどうぞ」との「gooブログ」運営担当者のつぶやきが聞こえてきそうだ。

         政界へ執念の79歳、立つ

  さて、公示日に候補者が出そろった。中で、興味深い顔ぶれも。比例代表北信越ブロックで、民主党は元自民党参院議員で国家公安委員長や内閣府特命担当大臣(防災担当)を歴任した沓掛(くつかけ)哲男氏(79歳)を、単独で名簿登載した。沓掛氏は金沢市在住で、もともと建設省技監を務めた官僚だ。3年前、議員会館を訪ねたことがある。大学のプロジェクトの立ち上げに際して、協力を求めに訪れたのだが、非常に丁寧な応対で、「お昼でもどうかね」と誘っていただいた。「政治家らしからぬ」柔軟さが好印象だった。

  当時、沓掛氏は去就を巡り揺れていた。07年7月の参院選挙を前に、高齢を理由に自民党石川県連が候補差し替えを決定し、引導を渡された沓掛氏は引退を表明した。その後、党決定に反旗を翻し、県政の民主党勢力である新進石川の支援で、無所属での出馬を検討したが最終的に断念したという経緯があった。沓掛氏自身は年齢でもって、政治への意欲を断ち切られることに納得がいかなかったのだろう。

  そして今回、80歳を目前にして再度国政を目指す。地元メディアの取材にこう答えている。「自民政権がめちゃくちゃにした建設業を立て直し、石川の政治を刷新したい」「再びバッジを着けることができたら公共事業の適切な在り方に取り組む」(北陸中日新聞)。面白いのは民主党幹部の言葉。「公共事業の知識が豊富というメリットは大きい」(同)と。政権交代が起きたら、民主党は沓掛氏を中心に公共事業の仕切りを行うのだろうか、と思ってしまうほど「迫力」のあるフレーズではある。本人の名誉のために付け加えるが、沓掛氏は汚職にまみれたことはなく、いたってクリーンなイメージでこれまで通してきた。

  自民から民主へ鞍替え、高齢引退からの出馬、公共事業、建設業界…。見事当選すれば後期高齢者の「希望の星」となるかもしれない。さて、沓掛氏の政界への執念は成就するのか、どうか。

⇒ 19日(水)朝・金沢の天気  はれ  

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☆09総選挙の行方~1

2009年08月18日 | ⇒トピック往来

 能登半島・輪島市門前の「琴ヶ浜」は鳴き砂の浜で知られる。直径0.5ミリほどの石英粒を多く含む砂が擦れ合ってキュッキュッと音を出す現象である。その琴ヶ浜には地球のダイナミックな地殻変動を目の当たりにできる柱状節理がある。砂岩層からマグマが噴出し、飛び散る寸前にそのまま冷えて固まったもので、下から見上げると800万年前の火山活動がリアルに伝わってくる。18日から始まる総選挙は政権交代がテーマとなる。それは、「日本の地殻変動」か「揺れども大地は割れず」なのか、きょうから「自在コラム」は選挙モードに。

        今回の選挙、誰が動くのか

  問われているのはメディアなのか。新聞各社の世論調査が圧倒的な「民主勝利」を早々と伝えている。ところが、最近出始めているインターネットによるアンケート調査は結果がまったく違う。
 ■「ニコニコ動画」を傘下におく「ドワンゴ」によるネット入口調査(総回答数:850,442人、実施期間:8/7~10)で「今回の衆院選の比例代表選挙において、どの政党に投票しますか」の問い・・・自民40% 民主31% 選挙へ行かない13%
■朝日新聞全国世論調査(電話方式、有効回答1011人、実施期間:8/15~16)で、「いま、総選挙の投票をするとしたら、比例区ではどの政党に投票したいと思いますか」の問い・・・民主41% 自民24% 答えない・分からない27%

  ネットでは自民の優勢、新聞は朝日のほか各紙とも民主が優勢だ。なぜこんな差が出るのか、という質問を新聞社に投げかけると、おそらく「世論調査の専門セクションを持って調査方法が確立している新聞社の調査と、ネットが入り口で簡単にやっている調査といっしょにしないでください」と言われそうだ。が、考えてみる。新聞社の調査は、固定電話に無作為に電話をかけて調査する方式。電話をする時間帯によって固定電話に出る人は決まってくるのが特徴。昼間帯なら主婦、お年寄りが多くなり、固定電話とは遠い存在の若者の意志が反映されない。その意味である種偏った結果になる傾向がある。逆にネットの場合は、若い世代のユーザーが多くなり、これも偏りがある。

  では、実際に選挙となるとどんな層が投票に行くのか。前回2005年9月11日、自民が大勝した総選挙は「小泉劇場」「小泉マジック」と称され、選挙前からテレビメディアが「郵政民営化」「刺客」などをキーワードにニュース番組、ワイドショー番組で盛んに取り上げた。ワイドショーでは、主要民放が1年間放送した2418時間38分のうち、衆院選関連が実に166時間30分と断トツの1位、シェアは6.89%を占めた。2位が北朝鮮関連(80時間51分、シェア3.34%)だった。ちなみにこれまでワイドショーの十八番(おはこ)とされてきた芸能(結婚・離婚)ネタは11位(14時間1分、シェア0.58%)に過ぎない。これは逢坂巌氏(東大大学院法学政治学研究科助手)が膨大なデータをまとめたもので、「日本選挙学会年報『選挙研究』№22-2007」に掲載されている。これからも分かるように、いまやワイドショーでは、政治や選挙ネタは視聴率が取れるテーマなのである。

  05年総選挙の後、朝日新聞が世論調査を記事にした(10月25日付)。自民党の候補者に投票した人の実に56%が「テレビを参考にした」と答え、「新聞を参考にした」は39%を上回った。民主党の候補者に投票した人の48%が「新聞を参考にした」と答え、「テレビを参考にした」は44%だった。さらに、性別で見ると、女性は「テレビを参考」58%、「新聞を参考」34%だった。ちなみに男性は「新聞を参考」46%、「テレビを参考」が44%となる。

  上記から、2005年の総選挙では、テレビのワイドショーを見ることができる、いわば在宅率の高い世代、つまり主婦層が選挙を動かしたと言えなくもない。また、テレビ放送と連動する、こうした選挙結果は「テレポリティクス」とも称される。では、ネットユーザーの主流(20歳・30歳代)の投票行動はどうだろう。いざ投票となると、普段行かない学校や公民館に行くのだろうか。「面倒くさい」「なんでケータイで投票ができないんだ」とボヤキが聞こえてきそうだが、これは偏見だろうか。今回の選挙は誰が動くのか。

 ⇒18日(火)朝・金沢の天気  はれ

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★されど「カム撮り」

2009年08月17日 | ⇒ニュース走査
 17日付の新聞各社のインターネットニュースで、映画の盗撮のことが掲載されている。俗称「カム撮り」。映画館で上映されたスクリーン映像を盗み撮りし、ファイル交換ソフト「Share」を使ってネット上に流したとして、堺市の運送会社社員(37歳)が著作権法違反(公衆送信権の侵害)の疑いで逮捕された。盗撮された映画は邦画「クローズZERO II」で、東宝など8社の著作権を侵害したという。ネットにアップしたのは5月中旬で、大阪府警生活経済課ハイテク犯罪対策室が内偵していたようだ。ただ、ネット上の映像が粗く、雑音も入っていた。粗雑なネット動画なら、商品価値はなく、そう目くじらを立てる必要もないと思えるのだが、権利を侵害された側にとっては一大事である。著作権は被害者が訴える親告罪だ。

 この映画の盗撮は、もともとハリウッドの権利を守るためにアメリカが主張したものだ。「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書」(2006年12月5日)に盛り込まれた事項。日本とアメリカの経済パートナーシップを確立するとの名目で2001年に始まった「規制改革および競争政策イニシアティブ」(規制改革イニシアティブ)である。分野横断的改革を通して、市場経済をより加速させるとの狙い。06年当時は、安倍首相の時代だった。小泉内閣の遺産を引き継ぎ、日米関係はすこぶる順調だった。新しいビジネスチャンスを生み、競争を促し、より健全なビジネス環境をつくり出す改革として、アメリカ側の要望書には多くの案件が盛り込まれた。規制緩和が主流であったが、こと「知的財産権」に関してはアメリカのペースで規制強化が行われた。

 アメリカ側は知的財産権保護を強化するいくつかの案件を提示した。一つに、被害者が訴える親告罪ではなく、警察や検察側が主導して著作権侵害事件を捜査・起訴することが可能となる非親告罪化を要求した。また、著作権の保護期間を日本では死後50年としているが、死後70年に延長するよう迫った。さらに、映画の海賊版DVD製造の温床とされた映画館内における撮影を取り締まる「盗撮禁止法」を制定することを要求したのだった。

 日本国内では、「非親告罪化」と「死後70年」に関しては議論が分かれたため、誰からも文句が出なかった「盗撮禁止」が手っ取りばやく法制化された。翌年成立した「映画の盗撮の防止に関する法律」がそれである。著作権法の特別法として制定され、私的使用を目的とした著作物の複製行為(著作権法30条1項)には当たらず、刑事罰の対象となる。アメリカからの要求以前にも日本映像ソフト協会などから法律化を求める声が上がってはいた。

 たかが「カム撮り」と言うなかれ、通商外交が絡んだ、されど「カム撮り」なのである。

⇒17日(月)夜・金沢の天気  はれ



 
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☆メディアのこと‐下‐

2009年08月12日 | ⇒メディア時評

 そのアナログ中継局群は丘陵地に広がる葉タバコ畑の中に忽然と現れた=写真=。中にはUFOを感じさせる丸型の中継局もあり、壮観だ。石川県能登町明野(あけの)。珠洲市街に向けて建てられた大型の中継局で、能登半島の情報インフラを支えている。ここを訪れたのは、2011年7月24日のアナログ停波のちょうど2年前に当たる7月24日のこと。

       能登半島の先端で「アナログ停波」リハーサル

  この日、珠洲(すず)市では全国に先駆けてアナログ停波のリハーサルが行われた。同市は能登半島の先端にある人口1万7000人の過疎化が進む地域である。戦後間もなく4万もいた人口が高度成長期を境に人口流出が起きた。揚げ浜塩田や珠洲焼、能登杜氏が有名であるほか、農業や漁業、そして街を取り巻く山々には30基の風力発電が建設され、新しいエネルギー発電に取り組んでいる。市内の電力需要を賄うには10基で足り、あと20基分は電力会社に売っている。三方を海に囲まれ、アナログ放送の停波リハーサルが行うのに、他の自治体に迷惑かからないというのが地デジ移行の国のモデル実験地に選ばれた理由だ。

  同日は10時から11時の1時間、くだんの葉タバコ畑に林立する珠洲中継局のアナログ放送電波が停止された。実際にアナログ停波の対象になったのは7500世帯だ。うちデジタル未対応は1300世帯。デジサポ珠洲では5回線10の電話を用意して、問い合わせに対応したが、この間に寄せられた電話は全部で12件だった。「リハーサルの停波は本当に1時間で終わるのか」「どうすれば地デジが見られるのか」など。そのうち1件はなんと沖縄の宮古島からの問い合わせだった。当日、NHKが特別番組を編成し、その画面にデジサポ珠洲の電話番号が大写しなった。その電話の内容は、「テレビをデジタル対応に買い替えたのに、アナログの表示が出るのなぜか」との問い合わせだった。また、「高校野球石川大会の生番組が見られないのは困る、孫が出る試合を見ることができない」と、地域ならではの苦情電話もあった。

  問い合わせ件数12では、アナログ停波と地デジ対応の課題を浮き彫りにする点で、十分に検証できたとは言えないのではなかったか。市民の戸惑いがどこにあり、もっと長い時間の停波リハーサルが必要となる。これは来年1月に数日の長さでアナログ停波が行われる。  ところで、日本より一足お先にことし6月に完全デジタル化に移行したアメリカでは、今なお150万世帯がデジタル未対応という。アメリカの調査会社ニールセンによると、デジタル未対応世帯のうち、60%以上はカナダ、あるいはメキシコからのアナログ放送を視聴していて、テレビがまったく見られないわけではない。アメリカとカナダ、アメリカとメキシコの国境沿いはお互いの放送が見える。メキシコとの国境近くのヒスパニック系移民の場合は、もともと英語放送は見ていなかったのである。

  四方海に囲まれた日本の場合、そのような「クッション」はない。今回の珠洲中継局のアナログ停止1時間で12件の電話をベースに、全国一斉(5000万世帯)として計算すると少なくとも8万件の電話が予想される。現時点で、沖縄、岩手、長崎、秋田、青森の5県はデジタル受信機の世帯普及率が50%に届いていない。2011年7月24日正午にアナログ波は停止し、地デジへ完全移行する。が、このときどれだけの「テレビ難民」が発生するのか、想像はつかない。

 ⇒12日(水)夜・金沢の天気  くもり

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★メディアのこと‐中‐

2009年08月11日 | ⇒ランダム書評

 最近、新聞広告を読んでいると「崩壊」「消滅」という雑誌の見出しや本のタイトルが目につく。「2011年新聞・テレビ消滅」(佐々木俊尚著)という本のタイトが目に止まり、文春新書を購入した。ビジネスモデルとしての新聞やテレビはこれまでは成功したが、ユーザー側にパラダムシフト(発想の転換)が起きていて、それについていけないマスメディアは自ずと滅びる、そして「マス」という概念はもうない…。著者はそんな鋭い切り口で、新聞とテレビの行く末を畳み込んでいく。

      「マス」という概念はもうない…

  著書では、アメリカの事例が豊富だ。メディアの世界では、アメリカで起きている事象が3年後には日本で起きる傾向がある。その事例のいくつかを。アメリカの新聞社は経営危機にあえいでいる。その主な原因はインターネットで記事を読むようになり、新聞を購読しなくなったからだ。さらに、ネットは新聞から広告収入も奪っている。中でも、クラシファイド広告が顕著だ。日本で言えば、「売ります」「買います」「従業員募集」といった三行広告のこと。アメリカでは300億ドル(およそ3兆円)のマーケットになっていて、その半分以上を新聞が占めていた。この三行広告をインターネットで無料化したのが「クレイグズリスト」。サンフランシスコを本拠地にいまでは全米に広がり、職探し、部屋探し、ルームメイトの募集などさまざま日常で必要な情報を網羅している。月80億ページビューもある。

  2004年ごろから、アメリカではクラシファイド広告が急減する。これまで新聞や雑誌の独壇場だったクラシファイド広告が無料で掲載できるようになったのだから、ひとたまりもない。著書では、クレイグズリストが本拠地のサンフランシスコの各新聞社から6500万ドル(およそ65億円)もの求人広告を奪ったとのリサーチ企業のリポートを紹介している。

  もう一つ、著書から事例を引用する。紙が売れなくなったアメリカの各新聞社はインターネットでの有料記事に乗り出すが、同じような内容の記事が他紙のホームページで無料で読めるインターネットの世界ではビジネスにはなりにくい。唯一、有料モデルで成功しているのは高級紙ウォール・ストリ-ト・ジャーナル。それでも会員を獲得するために、コラムなどを無料にしたりしている。そこで登場したのがアマゾンが発売した電子ブック「キンドル」。携帯電話の無線データ通信機能が搭載されていて、文字情報ダイレクトにダウンロードできる。09年夏の新モデル「キンドルDX」は画面サイズが2.5倍と大きくなり、ニューヨーク・タイムズ=写真=やワシントン・ポスト、ボストン・グローブが参入する予定だ。3社は宅配の代替としてDXを活用する戦略で、新規購読の契約者にDXを値引き価格で提供する販促策をとっている。

  著書によると、ニューヨーク・タイムズの月額配信料は14ドルに設定していて、読者104万人全員がDXにシフトしたとして1億7500万ドル(14ドル×104万人×12ヵ月)となる。同紙の編集コスト(取材から印刷、宅配)は年間2億ドルとされているものの、DXでの配信で製造と流通コストを削減できるので採算ベースに乗ることができる。ところが、電子ブックというプラットフォーラムでは、テナントのオーナーはアマゾンである。ニューヨーク・タイムズといえども店子(たなこ)にすぎない。アマゾンはテナント料(マージン)を70%も取る。すると年間売上は5200万ドルとなり、編集コスト2億ドルとはほど遠い。購読者を3・5倍にしないと採算ベースに乗ってこないのである。しかし、これが可能だとニューヨーク・タイムズ経営陣が踏んだからキンドルへとシフトしたのだろうけれども…。

  問題はさらに根深い。紙面という独自のプラットフォームを失った新聞社が世論形成への影響力を保てるかどうか。人々に訴求する新聞のチカラは、紙面から湧き上がってくる見出しや記事、写真なのである。訴求力を失った新聞は単なる記事のプロバイダーにすぎない。※記事引用:佐々木俊尚著「2011年新聞・テレビ消滅」(文春新書)

⇒11日(火)夜・金沢の天気  はれ

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☆メディアのこと‐上‐

2009年08月10日 | ⇒メディア時評

 前回、アメリカのレイチェル・カーソンの名著「サイレント・スプリング(沈黙の春)」(1962年)を取り上げた。「春になっても鳥は鳴かず、生きものが静かにいなくなってしまった」の一文は、環境以外にもいろいろな解釈ができる。たとえば、テレビメディアだ。画面は華やかだけれども、現場のプライドは薄れ、制作者はいなくなった・・・と。07年1月に捏造問題が発覚した番組「発掘!あるある大辞典」の調査報告書を読み返してみて、ふとそんなことを考えた。

      制作の矛盾が番組に曝露するとき

  組織には何がしかの光と影がある。テレビ局の場合、どれだけ視聴率を取って、スポットライトを浴びた番組であっても、影の部分を残したまま増幅させてしまうと、その矛盾がいつかは番組に曝露してしまうものだ。520回余り続き、平均視聴率15%も取った「発掘!あるある大辞典」が問題発覚からわずか6日で番組打ち切りが宣言された。その影とは下請け問題だった。調査報告書によると、関西テレビから元請け会社(テレワーク)に渡った制作費は1本当たり3162万円だったが、孫請け会社(アジトなど9社)へは887万円だった。テレワークの粗利益率は18.6%あったという。しかし、孫請け会社は過酷な条件下に置かれた。

  その第一は、納品された放送制作物の委託料の支払いが、納期日からではなく、放送日の月末締めで翌々月の10日だった。捏造が問題となった納豆ダイエットをテーマにした番組は07年1月7日放送だったので、委託料の支払いは3月10日となり、納期日からなんと75日後ということになる。改正下請代金遅延等防止法では、元請けに対し、納品から60日以内、しかもできるだけ速やかな支払い求めているので、これだけでも違法であり、不当である。財務余力がある大企業ならいざ知らず、番組制作会社には零細企業が多く、資金繰りは相当苦しかったに違いない。

  さらに、孫請け会社が元請け会社に「専従義務」を負い、にもかかわらず、死亡や負傷、疾病には、元請けは一切責任を負わないこことになっていた。ことほどさように、元請けは孫請けに対して優越的地位を濫用したのである。  調査報告書は「下請け条件を課されながら仕事をしなければならないという環境が、末端の制作現場で番組制作に携わる制作者からプライドを失わせ…」「期日どおりにやり抜かなければならないという点にのみ神経が集中してしまう傾向を醸し出した」と断じている。そして、制作責任があるキー局側に番組の内容をしっかりと見回す人がいない状態が生じたとき、捏造が起きた。つまり、矛盾が曝露したのである。別の表現をすれば、番組制作上の膿(うみ)が一気に噴出し、最終的に番組そのものが消えてしまった。

  最近、TBS番組「サンデー・ジャポン」の捏造シーン問題など、放送倫理・番組向上機構(BPO)による勧告が相次いでいる。「発掘!あるある大辞典」と同根の問題がテレビ業界全体に横たわっているのではないかと睨んでいる。

 ⇒10日(月)夜・金沢の天気  くもり 

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★生物多様性のこと

2009年08月09日 | ⇒トピック往来
 盛夏のころだというのに一日中雨か曇り、朝が晴れでも昼には雨だ。太陽が照りつける夏らしい天気は数日あったかどうか。海面水温の高い状態が半年以上続くエルニーニョ現象で、日本の場合、梅雨明けの時期が遅れ、冷夏や暖冬になりやすいとか。そんな空模様を気にしながら、8月頭に、金沢大学が主催して環境イベントを打った。「2デイ・エコツアー」と銘打った「能登エコ・スタジアム2009」のこと。8月1日と2日の両日、「里山里海の生業(なりわい)と生物多様性」をテーマに開催した。

 初日は、金沢からバスで出発し、石川県七尾市の能登演劇堂で開催された「環境国際シンポジウムin能登」に参加した。ノーベル平和賞を受賞した国連組織「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)のラジェンドラ・パチャウリ議長の基調講演を楽しみにしていたが、博士は体調不良を理由に欠席。その代わり、ビデオレターが上映され、その中で「今、何かの手を打たなければ、多くの生態系が危機にさらされる」と訴えていた。翌朝は船に乗り、ぐるりと能登島を回る七尾湾洋上コースと能登島をバスで巡るコースに分かれてのエクスカ-ション。能登島のカタネという入り江にミナミバンドウイルカのファミリーの親子(5頭)がコロニーをつくっていて、船からは、時折背ビレを海面に突き出して回遊する様子を見ることができた。午後からは、奥能登・珠洲で実施されている「生き物田んぼ」を見学し、直播(じかまき)の水田で水生昆虫の調査の説明を聞いた=写真=。両日とも雨にたたられずに済んだ。

 能登の里山と里海を眺めながら、あの名著のことを思い出した。高校生のころ読んだ、アメリカのレイチェル・カーソンの「サイレント・スプリング(沈黙の春)」(1962年)。「春になっても鳥は鳴かず、生きものが静かにいなくなってしまった」の一文は脳裏に焼きついている。農薬や殺虫剤による環境汚染に警鐘を鳴らした原典ともなった。人間は衣、食、住のほか、薬剤などの必需品を何千種もの植物、動物から入手している。にもかかわらず、人は未だに乱開発や多量の農薬散布、海洋汚染や大気汚染など自然環境に過度の負荷をかけている。

 人間と自然との共生という点で、日本の里山はお手本だった。しかし、終戦後から、化石燃料を使った生活が目指すべき文明社会と喧伝され、炭や薪といった木質エネルギーは疎んじられてきた。その結果、森林は荒れ、里山から若者がいなくなった。過疎高齢化で休耕田や放置された森林がさらに増え、生物多様性が減少しているといわれている。レイチェル・カーソンは「私たちはどちらの道をとるのか」と警鐘を鳴らした。40年余りも前にである。そして、この30年で、3万種もの生物が絶滅したともいわれる。今年は、「種の起源」を著したチャールズ・ダーウィンの生誕200年に当たる。

 とはいえ、いまさら昔ながらの里山に戻ることはできない。ノスタルジーでは生きてはいけない。21世紀型の里山の生活スタイル、ないしは価値観、さらに産業イノベーションがどうしても必要なのだ。

⇒9日(日)夜・金沢の天気 あめ  
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