自在コラム

⇒ 日常で観察したことや環境問題、金沢大学での見聞、マスメディアとインターネットについての考察を紹介する宇野文夫のコラム

☆学生たちのメディア接触度

2019年10月09日 | ⇒キャンパス見聞

    金沢大学の共通教育科目「マスメディアと現代を読み解く」「ジャーナリズム論」では履修学生を対象にマスメディアとの接触度についてアンケート調査を行っている。2016年から実施し、今回で4回目となる。インターネットやSNSの普及し、若者の「メディア離れ」が言われて久しいが、その実態を学生の協力で調査している。

    新聞との接触度では「毎日読む」が4年間で4%から10%で推移している。これに対し「読まない」は75%から81%となっている。金沢大学の学生調査(20Ⅰ7年)によると、学生の自宅からの通学は17%で、自宅外のアパートや学生寮からの通学が圧倒的に多いことも新聞に触れる機会が少ない原因とみられる。金沢大学はもともと自宅外通学の学生が多いが、ネットやスマホの普及でこの傾向に拍車がかかったといえる。

    テレビとの接触度では「毎日見る」が2016年は65%だったが以降は漸減し、2018年と2019年は50%を前後している。「見ない」は2016年の12%から、2019年は21%に増えている。テレビには位置の固定と時間の固定があり、帰宅しないと視聴できない。「毎日見る」は50%前後だが、学生からは「帰宅すると一人でさみしいのでテレビは付けているが、見たい番組がない」との意見も聞く。テレビ離れはコンテンツ離れともいえるのではないか。ネットによる動画配信サービスが定着しつつある中、テレビは放送と通信の当時配信を始める。

    アンケート調査結果だが、この科目を履修する学生はもともとメディアに関心を持っている学生がいることも調査には加味しなければならないことは言うまでもない。

⇒9日(水)夜・金沢の天気     くもり

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★スタディ・ツアーNoto(下)

2019年09月18日 | ⇒キャンパス見聞

  能登スタディ・ツアーの2日目(9月14日)、珠洲市の製炭所を訪れた。日本の伝統的な炭焼きを今も生業(なりわい)としている、石川県内で唯一の事業所でもある。代表の大野長一郎さんは43歳、炭焼き業の二代目。パワーポイントを交えながら、事業継承のいきさつや炭焼き業の課題と可能性についてレクチャーをいただいた。

   里山のカーボン・ニュートラル、里海のマイクロプラスティック除去

  その中で印象的な言葉は「里山と生物多様性、そしてカーボン・ニュートラルを炭焼きから起こすと決めたんです」。樹木の成長過程で光合成による二酸化炭素の吸収量と、炭の製造工程での燃料材の焼却による二酸化炭素の排出量が相殺され、炭焼きは大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない、とされる。しかし、実際はチェーンソーで伐採し、運ぶトラックのガソリン燃焼から出るCO²が回収されない。「炭焼きは環境にやさしくないと悩んでいたんです」

   そこで金沢大学の「能登里山マイスター養成プログラム」に参加し、研究者といっしょに6年分の帳簿から年間のガソリン使用量を計算し、どうすれば植林した樹木のCO²吸収量と相殺できるか検証した。結論は製造した炭の3割を燃やさない炭、つまり床下の吸湿材や、土壌改良材として土中に固定すればカーボン・ニュートラルが達成できることが計算上可能であることが分かった。これをきっかけに炭の商品生産の方針も明確になってきた。 

   付加価値の高い茶炭の生産にも力を入れている。茶炭とは茶道で釜で湯を沸かすのに使う燃料用の炭のこと。2008年から茶炭に適しているクヌギの木を休耕地に植林するイベント活動を開始した。すると、大野さんの計画に賛同した植林ボランティアが全国から集まるようになった。能登における、グリーンツーリズムの草分けになった。

   3日目(15日)、同市の塩田村を訪ねた。「揚げ浜式塩田」と呼ばれ、400年の伝統を受け継いでいる。塩をつくる場合、瀬戸内海では潮の干満が大きいので、満潮時に広い塩田に海水を取り込み、引き潮になれば水門を閉める(入り浜式塩田)。ところが、日本海は潮の干満が差がさほどないため、満潮とともに海水が自然に塩田に入ってくることはない。そこで、浜で海水を汲んで塩田まで人力で運ぶ(揚げ浜式塩田)。今では動力ポンプで海水を揚げている製塩業者もいるが、かたくなに伝統の製法を守る浜士(はまじ=塩づくりに携わる人)もいる。ひとにぎりの塩をつくるために、浜士は空を眺め、海水を汲み、知恵を絞り汗して、釜で火を燃やし続ける。機械化のモノづくりに慣れた現代人が忘れた、愚直で無欲でしたたかな労働の姿でもある。

  しかし、能登の海にも環境問題が押し寄せている。マイクロプラスティック問題だ。製塩業者は海水にマイクロプラスティックが含まれていないか定期的に検査している。製塩場を経営する中巳出理(なかみで・り)さんは徹底している。汲み上げた海水を5ミクロンと1ミクロンのフィルターのろ過装置に通し、マイクロプラスティックをはじめとするあらゆる固形物を除去した海水で伝統的な製塩作業を行っているのだ。

  さらに、塩の釜炊きに燃料は、ガソリンや石炭などの化石燃料を使わず、すべて能登の山林から切り出した間伐材を使っている。このことが、里山を保全することにもなる。伝統の塩づくりを守るということは実に奥が深い。(※写真は上から、大野長一郎のクヌギの林、「柞(ははそ)」とブランド名をつけた茶炭、塩の結晶がついた乾いた砂を垂れ船(たれぶね)に集める作業、海水のろ過装置)

⇒18日(水)夜・金沢の天気   くもり

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☆スタディ・ツアーNoto(上)

2019年09月17日 | ⇒キャンパス見聞

   先週13日から2泊3日で「能登の世界農業遺産を学ぶスタディ・ツアー」(単位科目)を実施した。スタディ・ツアーには学生9人のほかに留学生6人(ケニア、中国、インドネシア、ベトナム)が参加した。能登は国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産(GIAHS=Globally Important Agricultural Heritage Systems)に認定されている。その能登の文化や風土には独特のアジアっぽいカラーがある。能登の国際評価は学生・留学生たちにはどう見えたのか。

             留学生たちが見た「能登のアジア」

    最初にの国史跡「雨の宮古墳群 」(中能登町)=写真・上=を訪ね、学芸員から解説を聞いた 。北陸地方最大級の前方後方墳と前方後円墳が隣接する。4 世紀から5世紀(弥生後期)の古墳で山頂にある。邑知(おうち)地溝帯と呼ばれる穀倉地帯を見渡す位置に古墳はある。能登の王は自ら干拓した穀倉地を死後も見守りたいという思いではなかったか。

    この地域は能登における稲作文化の発祥の地でもある。1987年、雨の宮古墳近くにある「杉谷チャノバ タケ遺跡」の竪穴式住居跡から、黒く炭化したおにぎりが発掘された。化石は約2000年前の弥生時代のものと推定され、日本最古のおにぎりと話題になった。また、この地域の神社3社では収穫に感謝する新嘗祭で振る舞う濁り酒「どぶろく」を連綿と造り続けている。延喜式内社でもある天日陰(あめひかげ)比咩神社でどぶろくをいただき、日本酒の成り立ちを学んだ。

   山が海にせり出すリアス式海岸では神々しい光景を見ることができる。13日午後5時35分に輪島市曽々木海岸に到着した。すると、窓岩で知られる海に突き出た岩石の穴に夕日が差し込んできた=写真・中=。岩の穴と夕日がちょうど同じ大きさで、すっぽり収まったときは思わずため息が漏れるの神々しさとなる。同40分ごろから5分間の夕日と奇岩のスペクタルショーを楽しませてもらった。インドネシアの留学生は「バリ島のサンセットと同じだ」と。

   中国の留学生が「能登はアジアですね」と目を輝かせたのは祭りだった。14日に半島の尖端、珠洲市を訪れ、地域の伝統的な祭礼「正院(しょういん)キリコ祭り」を見学した。能登では夏から秋にかけて祭礼のシーズン。キリコは収穫を神様に感謝する祭礼用の奉灯を巨大化したもので、大きなものは高さ16㍍にもなる。この日、輪島塗に蒔(まき)絵で装飾された何基ものキリコが地区の神社に集い、鉦(かね)と太鼓のリズムが祭りムードが盛り上がっていた。

    キリコを担ぎ、太鼓をたたく若者たちがまとっているのは地元でドテラと呼ばれる衣装だ=写真・下=。もともと女性の和服用の襦袢(じゅばん)を祭りのときに粋に羽織ったのがルーツとされる。それに花鳥風月の柄が入る。祭りの心意気を感じる。インドネシアの留学生は「少数民族も祭りのときには多彩でキラキラとした衣装を着ますよ」と。

⇒17日(火)夜・金沢の天気    はれ

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☆能登で里山里海SDGsマイスタープログラム始動

2019年06月22日 | ⇒キャンパス見聞

   このブログで何度か紹介している、能登半島の里山里海マイスター育成プログラムの今年度の入講式がきょう22日、珠洲市にある金沢大学能登学舎において執り行われた。今年度からは名称も「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」となり、2019年度入講生として20名が式に臨んだ。

   地域人材を育成するこのプログラムは、2007年から5年間、科学技術振興機構(JST)の事業として実施。その継続事業を金沢大学が実施主体となり、珠洲市が出資自治体、石川県立大学と石川県、輪島市、穴水町、能登町が協力団体となり運営している。これまで12年間で183名の修了生を輩出している。今年度から里山里海の保全と活用に国連の持続可能な開発目標(SDGs)のコンセプトを組み入れたカリキュラムとしたことから、プログラム名称も新たにした。

   入講式では始めに山崎光悦学長が式辞を述べた。「さまざまな志(こころざし)をもった受講者が互いに学び合い、切磋琢磨することで能登の未来を切り開く地域イノベーションが生まれることを期待しています」と入講生を励ました。入講生を代表して高澤千絵さんが、「能登の自然の元で、多様な分野に精通した人々との出会いと学びを通して生まれる化学変化が楽しみでなりません」と抱負を述べました。この後の記念講演で、国連大学 サステイナビリィ高等研究所OUIKの渡辺綱男所長が「里山里海とSDGsでひらく能登の持続可能な未来」と題して講演した。

   今年の受講生はバリエーションに富んでいる。能登出身者のみならず、他県から能登への移住者や、金沢などの都市部から通う受講生もいる。職業も農業者、林業者など、能登の里山里海の恵みを生かした生業(なりわい)に携わる者、料理人やクリエイター、ドローン技術者など様々な技術や専門職がいる。地域おこし協力隊や行政職員など地域課題解決の現場で日々奮闘している者も。今回初めて高校生、京都大学の大学院生も入講した。実に多様な経歴や目標をもつ顔ぶれが集まった。 

   受講生は令和2年3月まで、月2回のペースで本科コースと、より高レベルの課題にチャレンジする専科コースに分かれ、卒業研究に取り組むことになる。また、地元金融機関と連携した「創業塾」も併せて開講し、起業を目指すことも可能になった。互いに議論を重ね、自己実現に向かって磨きをかけていく。

⇒22日(土)夜・金沢の天気       くもり

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☆「テレビ離れ」の加速

2019年06月12日 | ⇒キャンパス見聞

  金沢大学で担当している共通教育科目 「マスメディアと現代を読み解く」(1単位)の授業がきょう12日始まった。全8回の講義コンセプトは、マスメディアが政治や経済、文化をどう報じるのか、その報道からメディアの価値や在り様を考察する。大学でこの講義を担当してもう12年目になる。2016年度の講義から学生たちにマスメディアとの接触度を尋ねるアンケートを行っている。毎回同じ設問で今回4回目となる。 

  アンケートの設問は「あなたは新聞を読みますか 1・毎日読む 2・週に2、3度 3・まったく読まない」「あなたはテレビを見ますか 1・毎日見る 2・週に2、3度 3・まったく見ない」の単純な設問だ。新聞を「まったく読まない」68%、テレビを「まったく見ない」17%の結果だった。4回同じ設問でのアンケートなので推移がわかる。結論から言うと、「新聞離れ」は下げ止まりから反転へ、「テレビ離れ」は加速している。

  数字を分析してみよう。新聞から。2016年の調査(回答190人)は「まったく読まない」78%、「週に2、3度」16%、「毎日読む」6%だった。2017年調査(回答73人)は「まったく読まない」75%、「週に2、3度」18%、「毎日読む」7%、2018年調査(回答102人)は「まったく読まない」75%、「週に2、3度」18%、「毎日読む」7%。ことし2019年調査(回答69人)は「まったく読まない」68%、「週に2、3度」22%、「毎日読む」10%となった。調査を始めた20016年から「まったく読まない」は漸減し、3年間で10ポイント減ったことになる。逆に「週に2、3度」は16%から22%に推移して、6ポイント増えている。「毎日読む」も6%から10%だ。数字で見る限り、下げ止まりから反転傾向は浮かんでくる。

  アンケートではその理由も尋ねている。多いのは「学生生活では新聞は経済的な負担になる」といった意見だが、中には「大学の授業でプレゼンテーションを作成するためのネタ探しとして新聞を読むようになった」(3年)や「テレビは娯楽の面で見ているが、新聞は世界のおおまかな情勢を知るために読んでいる。個人的な見解としてはテレビよりも新聞の方が情報が整理されていると思う」(1年)など新聞に対し肯定的な意見が散見される。 

  一方、「テレビ離れ」は加速している。2016年調査では「まったく見ない」12%、「週に2、3度」23%、「毎日見る」65%だった。2019年調査は「まったく見ない」17%、「週に2、3度」34%、「毎日見る」49%だった。3年間の比較では「毎日見る」は16ポイントも減り、「まったく見ない」は5ポイント増えている。「毎日見る」は2018年調査でも49%だったので、2年連続で過半数割れとなった。理由でも「夜のニュースは毎回見るようにしており、その日一日の情報を知る便利なツールとして使っている」(1年)といった肯定的な意見の半面で、「テレビはネットニュースの焼き直しや、芸能人のゴシップ、政治的バイアスのかかったものが流れている。長期間どの局も同じような内容を流し続けるという、例えばモリカケとか、ことがあったため見なくなった」(※学年記入なし)といった辛辣なコメントもある。

  毎年のアンケート調査ではこの科目を履修する学生を対象に行っているもので、年によって学生数に増減があり、母数にばらつきが出て調査手法としては精度に欠く。なので、傾向を読むだけの調査ではある。電通が発表した「2018年日本の広告費」(2019年2月)によると、総広告費6兆5300億円のうちテレビが29.3%のシェアを占め、次にインターネットが26.9%で迫り、新聞は7.3%だ。テレビ業界はビジネスモデルが視聴率だけに、「テレビ離れ」が加速すれば、スポンサー離れも進む。広告費でインターネットに逆転される日も近い。そうなると「次なるテレビ離れ」も起きるのではないかなどと憶測した。

⇒12日(水)夜・金沢の天気    はれ

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★続・「廃校」で学ぶ未来可能性

2019年06月10日 | ⇒キャンパス見聞

  能登半島の尖端にあり、小学校の廃校舎を活用している金沢大学能登学舎で、2007年に始めた人材育成プログラムが今月から第4フェーズに入る。プロジェクト名を「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」と改称し、国連のSDGsの考え方をベースに里山里海の持続可能性を学ぶカリキュラムを提供していく。経緯を少し詳しく述べたい。

  能登は自然環境と調和した農林漁業や伝統文化が色濃く残されていて、2011年には国連の食糧農業機関(FAO)から「能登の里山里海」が日本で最初の世界農業遺産(GIAHS)の認定を受けるなど、国際的にも評価されている。一方で、能登の将来推計人口は2045年には現在の半数以下になるとされ、深刻な過疎・高齢化に直面する「課題先進地域」でもある。新しい社会の仕組みをつくり上げる、志(こころざし)をもった人材が互いに学び合い切磋琢磨することで、未来を切り拓く地域イノベーションが生まれることの期待を人材育成プログラムに込めている。   

  マイスタープログラムを始めた当初は、名称が「能登里山マイスター養成プログラム」だった。里山の保全と活用を有機農業や生物多様性といった環境分野で農業に取り組みたいという受講生が多く集まった。2012年から「能登里山里海マイスター育成プログラム」に改称した。2011年3月に東日本大震災に見舞われ、社会の意識が「持続可能な社会」「持続可能な暮らし」へとシフトし始めた。このころから、より多様な分野の社会人が参加するようになった。女性の受講生も増えた。卒業課題研究のテーマも福祉・健康やまちづくり、アートなど多彩なアプローチで能登の里山里海の可能性を追求する内容に広がってきた。

  マイスタープログラムの取り組みは、国連で定めた持続可能な開発目標であるSDGsに資すると評価を受け、昨年6月に珠洲市が申請したマイスタープログラムと連携するコンセプトが内閣府の「SDGs未来都市」に認定された。これを機に、能登半島がSDGsの世界的な先進モデル地となることを目指すコンセプトにしようと、「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」としてリニューアルした。

  学びの内容もこれまでの本科コースとは別に、新たに専科コースを加えた。マイスタープログラムの修了生やキャリアを持った社会人がアントレプレナーとして活動できるよう、事業化や研究を支援する。能登学舎に設置された「能登SDGsラボ」(金沢大学理事と珠洲商工会議所会頭が共同代表)との共創が狙いでもある=写真・2018年10月撮影=。また、地域の金融機関と連携して起業家を育てる教育プログラム「能登里山里海 創業塾」も開講する。

   未来可能性とはアップサイクルのこと。能登暮らしに満足してはいない、かと言って決して先端を走っているわけでない、一周遅れのトップランナーたちが新たな価値と有用性をどんどん産み出す、そのような人材育成プログラムに期待したい。新たなプログラムの入講式は今月22日に能登学舎である。

⇒10日(月)夜・金沢の天気    あめ

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☆「ミドリムシ」ベンチャーの経営理念と企業ビジョン

2019年06月08日 | ⇒キャンパス見聞

   著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』(ダイヤモンド社)があるバイオベンチャー企業ユーグレナの社長CEO、出雲充氏の講演がきのう(7日)金沢大学であり聴講させてもらった。実は、4日前に日本ユニシスの社長、平岡昭良氏の講演が金沢であり、「持続可能なエネルギー社会のため、ミドリムシをジェットエンジンの燃料に応用するプロジェクトに参加している」という話が印象に残っていたからだ。

  講演は単位授業「アントレプレナーシップI 2040年の仕事論」(8回)の最終講義での登壇。履修する学生は200人。出雲氏は黄緑色のネクタイで現れた。以下、講義メモから。サラリーマンである父と専業主婦の母、弟の4人家族で、「多摩ニュータウンに住むという絵にかいたような一般家庭で育った」と自己紹介。1998年、大学1年の夏にバングラデシュにグラミン・バンクのインターンとして訪れた。世界で最も貧しい国といわれていて、銀行は貧困層向けの事業資金として無担保で平均年収に相当する1人3万円ほどの融資を行っていた。銀行の創設者のムハマド・ユヌス氏は2006年にノーベル平和賞を受賞する。

  バングラデシュの子どもたちは腹を空かせてひもじい思いをしていると思い込んでいたが、1日3食カレーが食べられる国で、飢えて苦しんでいる子どもはほとんどいなかった。ただ、カレーには野菜や肉は全くなく、食べているのにやせて、脚が細く、お腹がぽっこりしている。タンパク質不足による栄養失調が問題だと実感した。

  良い栄養素はないのだろうかと探していた大学3年の時に、ミドリムシ(学名「ユーグレナ」)と出会った。ミドリムシはムシと名前がついているが、藻の一種の植物でクロロフィル(葉緑素)を有し光合成を行い、自ら動く動物でもある。0.1㍉以下の単細胞生物。植物と動物の両方の栄養素が採取でき、人に必要な動物性タンパク質やビタミンやミネラル、アミノ酸など59種類もある。「このミドリムシをバングラデシュの子どもたちに食べてもらえば栄養失調が解消できるかもしれないと閃(ひらめ)いた」

  当時はミドリムシを産業として活かすための大量培養の技術はなかった。そこで、2005年8月に会社を設立し、12月に石垣島で屋外での大量培養に成功した。さらに事業を軌道に乗せるためにビジネスパートナーを探して500社に営業をかけたが結局反応はなかった。「ミドリムシは知られていなかった。大学発ベンチャーと説明してもなかなか理解してもらえなかった。もう倒産だと思っていた」。ようやく501社目で伊藤忠商事と取引のチャンスに恵まれた。

  その後サプリメントや食品として販売実績を積み上げ、2012年12月に東証マザーズに上場、14年12月に東証一部に市場変更をした。13年10月には創業のきっかけとなったバングラデシュの首都ダッカに初の海外拠点となるバングラデシュ事務所を設けた。経営理念である「人と地球を健康にする」を実現するための第一歩として、パートナー企業からの協賛金と現地NGOの協力でミドリムシ入りクッキーを現地で生産し、栄養失調の小学生を1千人対象に年間60万食の配布するプロジェクトを立ち上げた。栄養失調を改善した子どもが1千人から1万人に、100万人にと増やすことで経営理念を実現させる。「貧しい国なのに栄養失調の子どもがいなくなれば、ミドリムシとは何だと世界中が驚くに違いない」と。

  企業ビジョンとして掲げているのが「バイオテクノロジーで、昨日の不可能を今日可能にする」だ。エネルギーは石油からバイオ燃料へと移行している。気候変動をもたらすCO2も削減できる。アメリカではバイオ燃料としてトウモロコシが活用され、トウモロコシの価格は5倍に上がった。問題は天候や自然に左右さない安定供給である。ミドリムシと廃食油でバイオ燃料をつくる、国内初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントを2018年11月に横浜市に完成させた。航空機や自動車を動かす計画を進めているが、手始めに、G20サミット関連会合である「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」(今月15、16日・長野県軽井沢町)でバイオ燃料を使ったバスを運行する。

  「環境問題、食糧問題、エネルギー問題、健康問題など、この星の困難を一気に乗り越えてくれるかもしれない生物がミドリムシ。このミドリムシが世界を変え、地球を救う時代が到来する」と講演を締めくくった。学生たちに未来可能性と夢をエールとして贈ってくれた。

⇒8日(土)夜・金沢の天気    くもり

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★「廃校」で学ぶ未来可能性

2019年06月06日 | ⇒キャンパス見聞

  「平成」は人口減少が進んだ時代でもあった。その時代の雰囲気は「少子化」と表現されている。ではどれだけ少子化が進んだかというと、平成元年(1989)の小学生は960万人だったが、29年(2017)には644万人、3分の2に減っている(文科省「平成30年版文部科学統計要覧」)。この少子化で公立の小中学校を抱える自治体は統廃合を進め、学校の廃校が急増した。平成14年(2002)度から29年(2017)度の16年間で小中高の廃校数は7583校に上る(文科省「平成30年度廃校施設等活用状況実態調査」)。年平均で474校だ。

   少子化、学校の廃校化は地方の過疎地にとどまらず、大都市でもいわゆる「ドーナツ化現象」や高齢化したベッドタウンでも進む。先の文科省調査によると、廃校の数が多い都道府県の第1位は北海道(760校)で、第2位は東京都(303)、第3位は熊本県(284)と続く。学校は地域のシンボルであり、それが廃校になると心の灯が消えたように寂しく感じる人も多いだろう。という暗い話をするために今回ブログを書いているのではない。増えた廃校をどう活用するかという前向きな話に切り替える。

   廃校7583校のうち施設が現存するのは6580校で、「活用されているもの」が4905校と74.5%だ。「活用予定が決まっている」204校を入れると77.6%、ほぼ8割が再利用されている(文科省「平成30年度廃校施設等活用状況実態調査」)。多くのケースは地域の体育施設や文化教室など学びの場としての活用だが、研究拠点やビジネスに活かす動きがトレンドにもなっている。国立研究開発法人「科学技術新興機構(JST)」が発行している『産学官連携ジャーナル』(2019年5月号)が「地方の強みで廃校舎再生」をタイトルに特集記事を組んで紹介している。

   宮城県石巻市では大学発のベンチャー企業が廃校となった小学校校舎を改修して、東北大学が開発したマンガン系リチウムイオン電池の製品化に取り組んでいる。この小学校を卒業した社長が学校の表札や職員室の看板など学校の雰囲気を残しながら改修したという。廃校となった海辺の小学校施設や旧役場などを活用して水産研究センターにしているのが愛媛大学だ。マスなどの養殖のほか、ICTやIoT技術を活用した赤潮・魚病対策の研究、水産物の流通に関する研究など多様だ。

   『産学官連携ジャーナル』の特集記事では、金沢大学が能登半島の先端で実施している「能登里山里海マイスター育成プログラム」も紹介された。2004年廃校となった珠洲市の小学校施設で、2007年10月から里山里海にある自然資源、文化資源を活用する人材養成プロジェクトをスタートさせた。半島の先端にこれまで282人が学びにやってきて、これまで183人の修了生を輩出している。東京など関東や関西から学びにきた医者や弁護士もいる。半島での学びを通して自己課題の解決の糸口を見つけ、自らのビジネスに生かす人もいれば、起業する人、さらに自己研さんを深める人とさまざまだ。「イノベーションネットアワード2018(地域産業支援プオログラム表彰)」で文部科学大臣賞という評価も受けた。

   その廃校での人材育成プログラムがさらに学びのすそ野を広げ、今月から第4フェーズに入る。プロジェクト名を「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」と改称し、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の考え方をベースに里山里海の持続可能性を学ぶカリキュラムを提供していく。この大学の取り組みそのものがSDGsではないかと察している。廃校舎をリサイクルして学びの場として活用しているが、その学びの内容に関しては当初の第1フェーズが里山里海の生物多様性、次が里山里海と世界農業遺産、さらに里山里海と持続可能社会、そして第4フェーズが里山里海とSDGsと、たゆまなくアップサイクルなのである。

    SDGsは2030年までに、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会など、持続可能な開発のための目標を達成する。廃校となった校舎を活用してこの未来可能性を学ぶ。校舎は地域のシンボルだけに立地条件がよい。金沢大学が利用させてもらっている学舎は海岸から小高い丘にあり、窓から里山や里海が望むことができる。(写真・上は2004年に廃校となった珠洲市小泊小学校の校舎、写真・下は能登里山里海マイスター育成プログラム講義の様子)

⇒6日(木)午後・金沢の天気     はれ

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★ 魂のジェラート

2019年05月23日 | ⇒キャンパス見聞

          ジェラートの本場、イタリアのパレルモで開催された国内最大のジェーラートコンテスト祭「2017 sherbeth Festival」で初優勝を果たし、一躍「ジェラートの風雲児」と注目される柴野大造氏が金沢大学で講演した(21日)。東京からの出店の誘いに応じず、能登でのジェラートづくりにこだわる。一方で、異業種の企業とのコラボや製品開発も行う。講演のタイトルは「地域素材のジェラートで世界発信 ~ブランド価値の創造で人生を切り拓く~」=写真=。

   能登半島の先端部にあたる石川県能登町で1975生まれ、地元高校を出て、東京農業大学を卒業後にUターン帰郷、家業の酪農に就く。しばらくして借金を抱え苦しい経営に追い込まれ、ジェラートの世界に飛び込んだ。「牧場経営の助けになればという思いで、加工品の製造を考えた。生クリーム、バター、ヨーグルトといろいろ考え、幅広い年齢の方に好まれるということでジェラートにしたんです」

   それまでスイ-ツや料理の経験もなく、イタリアからジェラートに関するレシピを取り寄せ、独学だった。アイスクリームよりも乳脂肪分と空気の含有量を押さえたジェラートは素材の味をダイレクトに伝えることができる。そして、能登へのこだわりは、食材へのこだわりでもある。能登の食材を次々にジェラートのフレーバーとして試した。日本海のワカメ、岩ノリ、カキ、寒ブリなど。能登産の塩を使った「天然塩ジェラート」は最初のヒット作となり、寿司屋やレストラン、居酒屋のデザートとして人気を博すことになる。

   2000年に「マルガージェラート能登本店」を立ち上げる。「食べた瞬間にそこに風景が浮かぶような味わいと情熱を表現することを心がけてつくっている」「どんな人が、いつ、どこで、誰とどんな表情で食べるのかというストーリー性を常に意識しながらつくります」

   イタリアのパレルモで優勝した作品は「パイナップル・セロリ・リンゴのソルベ」と題したジェラートだった。胃の中をリフレッシュしたい、それが自分のテーマだった。しかし当初、イタリアの職人仲間から「セロリはイタリアで最も嫌われる野菜なので、やめてた方がいい」とアドバスを受けた。それを頑として聞き入れず作品づくりに入る。パイナップルは胃もたれ防止、リンゴに含まれるペクチンは腸内環境を整え、そしてセロリは消化のため、と。チャンピオンに輝いたとき、審査員からこう称賛された。「君の作品はパーフェクトだ。イタリア人が寿司コンテストで優勝したようなものだ」と。

   心に刺さる話しぶりは、これまで何度か聴いたITベンチャーの成功者たちとはひと味違った、食を通じた人間愛が込められた言葉だった。「東京で見かける行列ができる店には興味がない。能登にいて、顔の見える生産者のモノを使いたい」「十人十味です。相手を思いやる愛がなければジェラ-トの味は伝わらない。魂の食なんです」

⇒23日(木)夜・金沢の天気      はれ

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☆大学と地域の「社会共創」モデル2題

2019年03月17日 | ⇒キャンパス見聞

  きのう16日は能登で大学のイベントが2つあり、同行した。午前中、珠洲市にある金沢大学能登学舎で人材養成プロジェクト「能登里山里海マイスター育成プログラム」の6期生修了生式=写真・上=、午後に志賀町で大学の研究教育拠点「志賀学舎」の開所式=写真・下=。この2件は大学にとって、地域課題の解決に向けて取り組む「社会共創」のモデルでもある。

  能登里山里海マイスター育成プログラムは2007年に始まった、社会人を対象とした人材養成プロジェクトである。これまで通算10期183人がマイスターの称号を得ている。当初は里山里海の生物多様性を農業・漁業に活用する人づくりを、2012年からはFAO世界農業遺産「能登の里山里海」を継承し発展させる人材養成、さらに地域課題や起業への取り組み、昨年からは国連の持続可能な開発目標(SDGs)の学びをカリキュラムに入れるなど、時代のニーズを取り込んだ人材育成を心がけてきた。

  卒業課題研究を発表し、審査でパスした今期の修了生は18人(男性11、女性7)。修了式で一人ひとりに認定書を手渡した山﨑光悦学長は「課題を多角的にとらえ、独自のアイデアで切り拓いていく。こうした人間力、開拓力が今日、社会のあらゆる分野で求められています。このプログラムで培った見識と経験を活かし、みなさんが今後も各方面で活躍されることを大いに期待します」と式辞で励ました。

  これに対し、修了生を代表しクラフト作家の岩崎京子さんは「講義でSDGsについて学び、誰一人取りこぼさないという基本精神に、現代を生きる人間の一人として使命感を得たような気持ちになりました。平成の時代が終わる今、持続可能な能登の地域づくりの一員となって、新たな時代に向けて今日から第一歩を踏み出していくことを誓います」と述べた。平均年齢34歳、それぞれが専門性や価値観を持って参加し、学び合った1年の締めくくりとして、とても印象に残る言葉だった。

  志賀町では2011年から予防医学による住民の健康の維持と増進に取り組むための調査研究が行われてきた。新年度からは「スーパー予防医学検診」のプロジェクトが始まり、定点観測的にデータを収集し、個人に合わせた保健指導プログラムを開発していく。志賀学舎は対象地区を広げ、検査項目を充実させるための拠点となる。大学と自治体は昨年3月に「ふるさとの資源を次代へと引き継ぐまち・ひとづくり協定」を提携することで、社会共創の約束を結び準備を進めてきた。研究成果を社会実装する、さらなる一歩ではある。

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