自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★AI、ヤポネシア人、新幹線、ミンコフスキ

2018年02月26日 | ⇒ドキュメント回廊

   きょう(26日)一日の行動をキーワードで表現すれば、少々長ったらしいタイトルにあるように「AI、ヤポネシア人、メンデルスゾーン、新幹線」だった。行動範囲も広く金沢と東京の往復だった。

   午前9時46分、JR金沢駅から北陸新幹線「かがやき」に乗った。目指すは東京・品川にある日本マイクロソフト社。午後2時からの勉強会「AIと放送メディアの活用を考える」(主催・月刊ニューメディア)に参加するためだった。金沢大学での講義「マスメディアと現代を読み解く」「ジャーナリズム論」の科目を受け持っていて、AIとメディアのつながりの可能性について関心があり、参加を申し込んでいた。

   北陸新幹線での金沢駅から東京駅への所用時間は2時間28分。この時間を利用して、読みかけの本がカバンにあったので取り出した。『日本人の源流 核DNA解析でたどる』(斎藤成也著、河出書房新社)。著書は10年足らずの間に急速に蓄積してきた膨大な核ゲノム・データの解析結果を分析して、日本人のルーツを論じている。アフリカを出た人類の祖先はいかにして日本列島にたどりついたのか、縄文人や弥生人とは異なる集団が存在したのではないか、日本列島の民を「ヤポネシア人」と定義して、謎解きに挑んでいるのが面白い。

   午後0時20分、ぴったりに東京駅に着いた。品川の日本マイクロソフト社に向かう。品川駅の港南口を出ると同じようなビルが高層ビルが群立していて、とにかく場所が分かりにくい。近くの書店で店員に尋ね、「確か、向こうのビルです」と指刺された方向を歩く。オフィスはテレビや雑誌に取り上げられることも多く、TBSで放映された「安堂ロイド〜A.Ⅰ. Knows Love?〜」や「下町ロケット」で、企業オフィスシーンの撮影に使用されたことでも有名なのだが。

   午後2時00分、東京湾が一望できる31階で勉強会「AI(人工知能)と放送メディアの活用を考える」が始まった。東京大学大学院情報理工学系研究科 の山崎俊彦准教授が「AI研究と放送メディアへの応用」と題して講演が面白かった。番組(TV局、曜日、時間帯)、役者(俳優、女優)、スタッフ(原作、脚本、監督、主題歌など)、役者人気(検索、Twitter)などのデータをAIで解析すれば、放送前でも視聴率が予測できる時代なのだ。また、「AIジャーナリズム」を掲げて、SNSの画像をAIで解析してメディアに提供、さらに「AIアナウンサー」を提供している株式会社「Spectee」代表取締役の村上建治郎氏の話はとてもリアルだった=写真・上=。たき火と火災の写真の違いの判断、偽造写真をAIが分析する時代だ。そこで質問をした。「昨年正月にドイツのドルトムントでイスラム教徒の暴動で、教会に放火とのフェイクニュースが世界的に問題となった。フェイクニュースを摘発するAIを開発してはどうか」と。すると「実は、すでに着手・・」と話が広がった。

   午後5時24分、東京駅から北陸新幹線「かがやき」に乗った。読みかけの本『日本人の源流 核DNA解析でたどる』の続きを。「あとがき」の最後は「本書を、故埴原先生に捧げる」と締めくくられていた。もう40年余りも前の話だが、東京の学生時代に、人類学者の埴原和郎氏の研究室を訪ねたことを思い出した。いきなり「君は北陸の出身だね」と言われ、ドキリとしたものだ。その理由を尋ねると、「君の胴長短足は、体の重心が下に位置し雪上を歩くのに都合がよい。目が細いのはブリザード(地吹雪)から目を守っているのだ。耳が寝ているのもそのため。ちょっと長めの鼻は冷たい外気を暖め、内臓を守っている。君のルーツは典型的な北方系だね。北陸に多いタイプだよ」。ちょっと衝撃的な指摘だったものの、目からウロコが落ちる思いだったことを覚えている。

   午後7時58分、金沢駅に着いた。「あと7分しかない」と年甲斐もなく駅構内を走った。金沢駅前の県立音楽堂で開催されているマルク・ミンコフスキ氏指揮のクラシックコンサートを聴くためだ。ミンコフスキ氏は現在フランス国立ボルドー歌劇場の音楽監督だが、こし9月からオーケストラ・アサンブル金沢(OEK)の芸術監督に就くことなっている。指揮する姿をぜひ一度見たいとS席を購入していた。ただ、東京で勉強会もあるので、3曲目のメンデルスゾーン交響曲第4番「イタリア」が始まる午後8時15分までに音楽堂に入る予定だった。

   ところが番狂わせが起きた。当初は①序曲「フィンガルの洞窟」(11分)、②交響曲「スコットランド」(38分)、③交響曲「イタリア」(27分)だった。休憩は午後7時55分-8時15分だった。前日の25日になって①序曲「フィンガルの洞窟」(11分)、②交響曲「イタリア」(27分)、③交響曲「スコットランド」(38分)に順番が入れ替わったのだ。したがって休憩は午後7時45分―8時05分と10分前倒しとなった。この知らせをOEKスタッフの知人から聞いて慌てた。金沢駅到着7時58分、演奏8時05分、「あと7分」と走ったはこのためだった。

   結果的に休憩時間も後にずれたので間に合った。ミンコフスキ氏のタクトを十分に楽しませてもらった。ちょっと印象的だったのは、服装だった。これまでのOEK音楽監督の故・岩城宏之氏や井上道義氏を見てきたので、指揮者はタキシ-ドというイメージだったが、ミンコフスキ氏は体にぴったりのこげ茶色のディレクターズウエアだった。年齢は55歳、丸肩で肉付きがよく幅広タイプの体格。指揮する後ろ姿は、言葉はふさわしくないかも知れないが、クマが起ち上って体を左右上下に動かし、タクトを振っているようなイメージでとても「おちゃめ」な感じがしたのは自分だけだろうか。

⇒26日(月)夜・金沢の天気    はれ

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☆能登の里山里海マイスター、人材育成の10年

2018年02月25日 | ⇒キャンパス見聞
   金沢大学が能登半島の先端で取り組んでいる人材養成事業「能登里山里海マイスター育成プログラム」の卒業課題研究の発表会が来月3日に大学の金沢能登学舎(珠洲市三崎町)で行われる。受講生30人のうち21人が発表会に向けて仕上げの段階に入っている。卒論にチャレンジする受講生は30歳代前半で、キャリアも多彩だ。日系アメリカ人の女性は里山での農業を通した国際交流をプランニング、介護福祉士の男性は介護施設における園芸福祉活動をテーマに、弁護士の男性は「比較法の観点で見る日本林業再興のための考察~能登から変える日本の林業~」と題して、所有者が判明せず、境界不明など日本の森林の課題を諸外国の法律と比較しながら解決策を探る。

   同プログラムがスタートしたのは2007年、「能登里山マイスター養成プログラム」(科学技術振興機構「地域再生人材創出拠点の形成」補助事業)として5年間、2012年からはその後継事業として「能登里山里海マイスター育成プログラム」(大学と自治体の共同出資)を実施し、現在に至っている。今年11年目、これまで144人のマイスターを輩出。ここに来て、栄誉ある賞をいただいた。全国の大学や産業支援機関でつくる「全国イノベーション推進機構ネットワーク」による表彰事業「イノベーションネットアワード2018」で最高賞の文部科学大臣賞を受賞した。先日23日に東京で表彰式があった=写真=。

   評価されたのは、人材育成や移住者の定着促進に向けた取り組みを通して、過疎高齢化などの課題解決と向き合っているという点だった。表彰式の後、記念フォーラムが開催され、演台に立った。以下、能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みの概要を説明した。

                ◇

   金沢大学が能登半島で廃校となった校舎を活用して実施している里山里海マイスター育成プログラムはとても地味な活動ですが、高い評価をいただき、このような栄えある賞をいただけたこと、感謝いたしております。このプログラムはことし11年目に入ります。その継続性についてはポイントが4つあります。

   一つ目は、地域と大学が何のために連携するか、自治体や地域のみなさんと議論を深め、能登に必要な人材養成を継続してやっていこうという明確な方向性が打ち出せたことです。昨年からは、地場の金融機関とも連携するなど、人材養成のプラットフォームとして定着してきました。

   二つめは人材養成のカリキュラムの内容です。「大学でしかできないことを、大学らしからぬ方法でやろう」とのスタンスです。受講生には卒業するための課題研究を課しています。12分間のプレゼンテーションと論文の提出が必須です。これは社会人にとって自己啓発の場でもあり、それに耳を傾ける同じ受講生にとっては相互啓発の場ともなっています。マイスターの学びのプログラムはすべてオープンで行っており、地域の潜在的なクリエーターの発掘や、「ものづくりのマインド」をもった人材を呼び込むベースになっています。

   三つめは、受講生は社会人であり、それぞれ専門性をもっていて、卒業後も情報共有や技術共有のネットワークづくりが活発です。こうした修了生たちの動きは、能登に移住してくるIターンやUターンの若者を巻き込んで、地域社会にいろいろな化学変化を起こしています。

   最後四つめは国際的な評価です。2011年6月に国連の食料農業機関(FAO)から生物多様性や持続可能社会をテーマにした人材養成のカリキュラムについて視察があり、翌11年6月にFAOが「能登の里山里海」を世界農業遺産に認定するきっかけとなりました。さらに、このことが契機となり、2014年にフィリピンの世界文化遺産であるイフガオの棚田で、JICAの支援を受け、イフガオ里山マイスター養成プログラムを実施しています。昨年からは能登とイフガオのマイスター、あるいは自治体職員が米づくりやエコツーリズム、棚田のオーナー制度などをテーマにした技術的な交流も始まっています。

                  ◇

   人材育成プログラムのカリキュラなどの詳細については同行した准教授がプレゼンを行った。うれしかったのは、会場での講演を聞き、ぜひ3日の卒業課題研究の発表を聞きに能登に行きたいとのオファーを2件もいただいたことだった。

⇒25日(日)夜・金沢の天気   くもり
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★110年「旅するワイン」

2018年02月21日 | ⇒トレンド探査
     昨夜(20日)金沢のワイン・バーに出かけた。ソムリエで店のマスターが「マデイラワインはご存知ですか」とカウンター越しに声をかけてきた。「いや、マデイラは地名ですか。どこのワインなの」と尋ねると、「ポルトガルのリスボンから1000㌔のマデイラという島なんですが、ソムリエだったら一度は行ってみたい、伝説のワインの島なんですよ」と。

     そこまで聞くと飲んでみたくなった。「10年ものでいいですか」とマスター。アルコールは濃い感じだが口当たりがいい。「この島のワインは酒精強化ワインと言うんです」。マスターの話を要約する。イベリア半島など気温が高く温度管理が難しい地域では、ワインの酸化や腐敗防止など保存性を高めるためにさまざまな工夫が歴史的になされてきた。酒精強化は、液中のアルコール分が一定量を超えると酵母が働かなくなり、アルコール発酵による糖の分解が止まる現象を利用し、ブランデーなどを混ぜる。通常のワインのアルコール度数が10-14度なのに対し、酒精強化ワインは18度前後になる。「それでこのワイン、アルコールが少々強めなんだ」と妙に納得する。

   「保存が効くマデイラワインは大航海時代に重宝され、旅するワインとも言われたようです」とマスターは歴史の話を持ち出した。15世紀ごろからポルトガル、スペイン、イギリスなどからアフリカ、アジア、そしてアメリカ大陸への航海が始まる。保存性が良い酒精強化ワインは大航海の必需品となった。マデイラワインをもっとも有名にしたのは1776年、後に大統領となるトーマス・ジェファーソンが起草したアメリカ独立宣言が大陸会議で承認され、祝った酒がマデイラワインだったとの伝説だ。

    「ところで、保存が長いと言うけど、一体どのくらい保存が効くの、20、30年くらいなの」と突っ込みを入れた。するとマスターは「それでは出しましょうか」と奥から緑色のボトルを1本持ってきて、カウンターに置いた=写真=。「D'OLIVEIRAS」(ドリヴェイラ)という1850年創業のワイナリー。「BOAL」(ブアル)というブドウ品種。そして「1908」とある。「えっ、110年もののワインなの」と驚いた。持っていた手帳で調べると明治41年。まさにオールド・ヴィンテージものだ。

    「マスター、これ一杯いただけませんか」。少し声の震えを感じながらお願いした。澄んだ琥珀色、中ぐらいの甘口だ。古民家に入ったときに感じる古木の香りと芳醇な味わい、そして時空を超えた伝説の深味を楽しんだ。「マスター、冥土の土産話ができましたよ。ありがとう」と言って店を出た。

⇒21日(水)朝・金沢の天気   くもり
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☆2年後のタイムラグ問題

2018年02月20日 | ⇒トピック往来
     平昌冬季オリンピックが韓国で開催されてよかったと思うことがある。それは時差がないことだ。17日に羽生結弦選手が金メダルを、宇野昌磨選手が銀メダルを獲得したフィギュアスケート男子シングルの生中継(NHK総合・午後0時15分‐同2時41分)の平均視聴率は関東地区33.9%、18日に小平奈緒選手が金メダルだったスピードスケート女子500㍍の生中継(TBS・午後8時00分‐同10時00分)は同地区21.4%(いずれもビデオリサーチ調べ)だったと報じられている。まともな時間に中継を視聴できている。

     2016年8月のリオデジャネイロのときは時差が11時間(サマータイム)、体操の男子個人総合で内村航平選手がロンドンに続く2連覇を果たす瞬間を見たかったが、朝6時台だったので不覚にも寝過ごした。

   「まともな時間」と冒頭で述べたが、それでもフィギャースケートのハイライトと、スピードスケートのハイライトの開始時間が8時間もあるのはなぜか。韓国が開催国なのだから同国のテレビ視聴のゴールデンタイム(午後7時‐同10時)にハイライトを中継できないのか。と言いながらも、私はかつてテレビ局で番組づくりに携わっていたので、裏事情を明かすことにする。

     フィギュアスケートの人気が高い国はアメリカだ。アメリカのゴールデンタイムに放送時間が合わせてある。同競技が始まったのは韓国の時間で17日午前10時、アメリカ・ニューヨークとの時差は14時間、つまりニューヨークで16日午後8時のゴールデンタイムなのだ。羽生選手の優勝が決まると、日本のメディアとほぼ同時にニューヨーク・タイムズなどは「Yuzuru Hanyu Writes Another Chapter in Figure Skating Legend」(電子版)と報じた。また、スピードスケート女子500㍍は韓国の李相花選手がオリンピック3連覇を目指していただけに韓国国内で注目度が高く、韓国のゴールデンタイムだった。

     実は競技時間はIOC(国際オリンピック委員会)と各国のテレビ局との駆け引きでもある。日本の新聞のテレビ欄を見て気付くように、競技開始は午後9時過ぎが多い。これは冬季オリンピックの注目度が高いヨーロッパ向けの時間設定なのだ。オリンピックは世界のテレビ局の放送権料金で成り立っていると言っても過言ではない。著作権ビジネスなのだ。そのテレビ局の最大手がアメリカNBCだろう。2014年冬のソチ、16年夏のリオデジャネイロ、18年冬の平昌、20年夏の東京の4大会のアメリカ国内での放送権料(テレビ、ラジオ、インターネットなど)を43.8億㌦(1㌦106円換算で4643億円)で契約している。

     日本でオリンピック番組を仕切るのはNHKと民放連で構成するジャパンコンソーシアム(JC)。JCは1984年夏のロサンゼルス以来この枠組みで取り仕切っているが、IOCとの契約は同じ4大会で1020億円の契約。NHK70%・民放30%の負担割合となる。日本はアメリカの4分の1程度なのだ。NBCは全放送権料の50%以上を占めているといわれる。つまり、放送時間の設定について日本がIOCと交渉しても、NBCには到底かなわない、勝てないのだ。「刑事コロンボ」や「大草原の小さな家」など名番組の数々を世に出してきた世界のテレビ業界のリーダーであり、オリンピックの大スポンサーとの自覚もあるだろう。

     ここで一つの心配がある。2年後の東京オリンピックだ。テレビ業界ではよい時間で放送し、CMスポンサーに高く売るというのが日本でもアメリカでもビジネスの鉄則だ。アメリカで人気が高い夏の競技(陸上、競泳、体操など)の決勝の開始時間をアメリカのゴールンタイム(午後8時)に持ってくるようにNBCがIOCにごり押ししたらどうなるか。日本とニューヨークの夏の時差は13時間だ。日本時間で午前9時、勤務時間帯だ。東京オリンピックなのに、「まともな時間」と国民は納得して見るのかどうか。(※写真はアメリカNBCテレビのオリンピック特集サイトから)

⇒20日(火)午後・金沢の天気   くもり
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★「松林図屏風」の心象風景

2018年02月17日 | ⇒ドキュメント回廊
   これはまるで長谷川等伯の「松林図屏風」だ。クロマツの林が朝もやに覆われ、松林がかすんで見える。等伯はこの能登の風景の印象を京都で描いたのだろうと想像をたくましくした。ここは能登半島の先端、珠洲市の鉢ヶ崎海岸。けさ(17日)ホテルの3階から見える風景だ。砂浜が広がり、クロマツが防風林の役目を担っている。ただ、この朝もやに包まれたクロマツの林を眺めていて、なんとなくもの寂しさを感じるのだ。あの世をとぼとぼと独りで歩いているような寂寥感だ。

   国宝・松林図屏風を初めて鑑賞したのは2005年5月、石川県立七尾美術館だった。等伯が生まれ育った地が七尾だ。もとともこの作品は東京国立博物館で所蔵されている。七尾美術館が会館10周年の記念イベントとして東京国立博物館側と交渉して実現した。当時、国宝が能登に来るということで長蛇の列だった。東京国立博物館は俗称「トウハク」、等伯と同じ語呂だと話題にもなっていた。

   美術館では、学芸員の解説が面白かったので記憶に残っている。能登国は718年に成立した。その国府が七尾に置かれ、以降、政治的なガバナンスの中心として経済、文化も栄えた。町衆の経済的豊かさや文化的素地が後に桃山美術の画聖と讃えられる若き等伯を育んだのだろうということだった。能登を中心に絵師として活躍した時代、その画才を見込んだ町衆が寺院に寄贈した等伯の作品が今も多く保存されている。

   1571年、等伯33歳の時、養父母が相次いで亡くなり、それを機に妻子を連れて上洛した。京都に入り、本延寺の本山・本法寺のお抱え絵師になり創作活動に磨きをかける。後に本法寺住職となった日通上人と交友を深め、そのつながりで千利休との知縁が広がる。当時の堺は商業都市で、多くの文化人たちが集った。茶の湯の拠点でもあり、茶室には中国などの優れた軸が掛けられていて、等伯も作品に直に接し学ぶことになったことは想像に難くない。

   しかし、等伯の絶頂期に長男久蔵26歳が没する。妻もすでに亡くなっており、能登から連れてきた2人が亡くなった、その寂寥感はいかばかりだったろうか。松林図屏風が描かれたのは久蔵を亡くした翌年1594年、等伯56歳のときの作品といわれる。強風に耐え細く立ちすくむ能登のクロマツ、当時の等伯が心を重ねたのはこの心象風景だったのだろうか。

⇒17日(土)朝・珠洲市の天気   くもり
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☆美女軍団の笑顔と漂着船の遺体

2018年02月13日 | ⇒メディア時評
   韓国で平昌オリンピックが始まったが、スポーツの祭典がこれでよいのかといぶかる毎日だ。きょう13日、学食に行った。隣で、サークルの学生たちがワイワイと話している。北朝鮮の美女軍団がどうのこうの、金正恩労働党委員長の実妹の金与正氏の特使派遣がどうのこうの、と。男子学生が「今回のオリンピックは見え見えの政治ショーだよな」と。すると、もう一人の男子学生が「南北会談に文在寅大統領が平壌に招待されているけど、ドル札を持って返礼に来いということですよね」と。一瞬シーンとなった。少し間を置き、「なるほど」と別の男子学生。「で、どのくら持っていくのかな」と女子学生。「5億ドルくらいかな」と口火を切った男子学生。「美女軍団って、そんなに高くつくの・・・」と盛り上がっていた。

   日本海側の各地の海岸で北朝鮮の難破船がすさまじい勢いで流れ着いている。石川県だけでも、きょう羽咋市の海岸で木造船が1隻見つかった。今月11日にも加賀市の海岸で木造船が1隻、10日にも志賀町の海岸に2隻、9日にかほく市で1隻、7日に輪島市で1隻と、今月だけでも6隻が漂着している。1月には10日に7人の遺体が見つかった木造船が金沢市の海岸に、24日と28日に志賀町と羽咋市にそれぞれ1隻、計3隻が流れ着いている。ことしに入って石川県の海岸だけで9隻も、だ。船体にハングルと番号表記があり、船底が平らな同じ型の船だ。漁網などもあり漁船と推測される。船の大きさにもよるが、1隻に8人が乗っていたと仮定すれば72人の人命が失われている。すさまじい現実だ。

   安倍総理が9日、韓国・平昌で開かれた文大統領主催のレセプション会場で、北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長と言葉を交わしたと報じられている。拉致問題と核・ミサイル問題に言及したとされるが、ついでに「日本海で無理な操業するから、多くの人民の命が失われている。漁を即中止するべき」と忠告すべきだったのではないか。

   先月17日、金沢市の安原海岸で7人の遺体が見つかった北朝鮮の漁船を見に行った=写真=。船の周囲にもう1人の遺体がみつかっていて、遺体は8人。現場にはハングル表記の菓子袋が落ちていた。漂流する船の中で8人で細々と分け合って食べたのだろうかなどと想像した。日々ニュースに流れる美女軍団の笑顔の陰で日本海に漂う大量の木造船と遺体。日本のマスメディアが世界に伝えるべきは、この北朝鮮のあからさまな現実ではないのか。

⇒13日(火)夜・金沢の天気    ゆき
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★除雪ヨイトマケ

2018年02月11日 | ⇒ドキュメント回廊

   きょう11日は朝から町内一斉の除雪活動だった。市道なので除雪車は回ってこない。道路は30㌢ほどの高さの氷のように堅くなった雪道となっている。きのうからの雨で深い轍(わだち)があちこちにでき、そこに軽四の自動車などがはまって、動けなくなるケースが町内でも続出していた。デイケアなどの福祉車両も通るため、町内会では人海戦術で一斉除雪となった=写真・上=。

   問題はその雪の堅さだ。金属スコップで突いてもびくともしない。クワでも凍った箇所は割れない。そこで登場したのがツルハシ=写真・下=だ。先端を尖らせて左右に長く張り出した頭部が特徴。形状がツルの口ばしに似ているからそう名付けられたのだろう。鉄製で4、5㌔の重さはあるだろうか、これを振り上げて下に勢いよく降ろし、堅くなった雪道を砕く。もともと、ツルハシは堅い地盤やアスファルトを砕くために使われる。

   問題提起をする人がいた。「ツルハシを使ってもよいが、そのため道路がガタガタにならないのか」と。道路に直接打ち込めば、確かに道路が破損するかもしれないが、今回は凍った雪道を砕くことが目的なので、道路への打撃は少ないのではないか、ということで話がまとまる。

   ツルハシを誰が担当するのか。これを所有しているご近所さんは70歳を過ぎており、「ワタシにはちょっと重すぎる」と言われたので、私がツルハシを引き受けた。ツルハシは見たことはあるものの、作業は初めて。とにかくやってみた。大きく頭上に振り上げて降ろすときは全身を腰ごと下げる。すると、凍った雪がパカンと割れた。ブロックのサイズだが、きれいに割れた。周囲で見ていたご近所さんも「この人こんなことができるんだ」と言わんばかりにうなずいてくれた。うしれくなって2度目、今度はブロックが3つに割れた。「ひょっとしてオレにはツルハシの仕事は向いているのかしれない」と3度目。ご近所さんたちは割れた雪をスコップで、あるいは手で道路側面に積み上げていく。除雪作業のピッチが上がってきた。

   こちらも、ここまで来たら引けないので、どんどんとツルハシを振るう。「父ちゃんのためならエンヤコラ 母ちゃんのためならエンヤコラ もひとつおまけにエンヤコラ」。なんと『ヨイトマケの唄』を自ら声を出し歌っているではないか。「父ちゃんのためなら」でツルハシを上げ、「エンヤコラ」で一気に降ろす。ヨイトマケの唄はこの3節しか知らないので、それを繰り返している。歌うという意識はまったくなかったのだが、自然と口にしていたのが不思議だ。

    労働はリズム。そう思った。1時間30分ほどで片付いた。「おつかれさま」と一斉除雪は終わった。が、これで腰痛が出ないか、だんだん不安になってきた。

⇒11日(日)午後・金沢の天気  くもりときどきゆき

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☆消雷装置のご利益か

2018年02月10日 | ⇒メディア時評

         先月(1月)10日、北陸放送と石川テレビ放送が共用する送信鉄塔施設=写真=で、落雷による火災が発生し、石川県内の一部地域を除く38万世帯で両社のテレビ放送が15時間も視聴できなくなるという事故が発生し、全国ニュースにもなった。現在も一部の世帯では 視聴できない状況が続いている。我が家でも雪が激しい降る日などはテレビ画面がブラックアウトとなる日がこれまで何度かあった。完全復旧に向けて遅くとも8月末までかかるようだ(北陸放送HPより)。

   今回の放送障害事象が放送法の重大事故に相当することから、両社は発生原因や再発防止策などを取りまとめ、きのう(9日)総務大臣あての報告書を北陸総合通信局に提出した。以下、報道各社が報告書の概要を伝えている。

       そもそも火災の原因は何だったのか。先月10日午後0時11分ごろ、鉄塔の高さ110-120㍍付近に雷が横から落ちたと推測されている。その際、鉄塔内で気中放電(スパ-ク)が発生して鉄塔内のケーブルが発火、火が徐々に上に伝わってアンテナや別のケーブルが焼け、電波が停止した。報告書はもう一つの火災の可能性があるとしている。高さ130㍍付近に落雷し、映像音声の受信装置(FPU)のケーブルに雷の電気が流れ、発火したというもの。消防署の調べでは、FPUの避雷器盤がもっとも激しく焼けていることが判明したが、火元は特定されていない。午後6時40分に石川テレビが停波、その後7時ごろに北陸放送も停波した。

   両社は再発防止策として、横からの落雷を防ぐ避雷針を設置する、監視カメラや煙感知器を設置する、ケーブルを燃えにくいものにする、などの対策を講じるとしている。

   先日(2月2日)テレビ業界の関係者から興味深い話を聞いた。落雷があった送信鉄塔と同じ金沢市観音堂町にテレビ金沢、北陸朝日放送、NHK金沢の3社が共用する送信鉄塔がある。同じ域内にあるテレビ鉄塔で被害があった、なかったの違いはどこにあるのかと。業界関係者は「それは消雷装置のおかげではないですか」と話した。初めて耳にした「消雷装置」とは何か。電気を通さない数十㌢の特殊なガラス管を避雷針に設置し、雷の原因となる大気中の電子の移動を打ち消す装置。金沢工業大学の教授が開発し、テレビ金沢の本社鉄塔で実証実験を経て、送信鉄塔に取り付けた経緯があるという。

   業界関係者は「落雷があった鉄塔に消雷装置が取り付けてあったかどうかは定かではないし、消雷装置がどこまで有効なのかは科学的には分からない。ただ、取り付けてある鉄塔にはこれまで雷の被害がなかったのは事実」と。この消雷装置は特許申請がなされている。

⇒10日(土)午後・金沢の天気   くもりのち雨

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★木戸を開ければ、そこは南極

2018年02月09日 | ⇒ドキュメント回廊

    きょう(9日)は雪降ろしのために屋根に上がった。天気予報ではあすは気温が10度まで上がり、午後からまとまった雨が降るという。雪国で生活する者の直感として不安感がよぎる。屋根に積もった大量の雪にさらに雨が降れば、どれだけの重さが家屋にのしかかってくることか、と。屋根の瓦には雪止めがしてあって、自然には落ちてこない。最近、隣人と交わす言葉も「(大雪に)家は耐えるかなと心配で」と。スコップで除雪し雪の重さの感覚を共有する者同士の会話ではある。

    1時間ほどだったが、屋根雪降ろしをして、今度は1階の土間に行く。土間の木戸がなかなか開かない。落とした雪が軒下に積み上がり、木戸を圧迫していているのだ。何とか木戸を開けると、背丈をはるか超える雪壁が迫っていた=写真・上=。2006年6月に、南極の昭和基地と金沢大学をテレビ電話で結んで、小中学生向けの「南極教室」を開催したことがある。そのときに、観測隊員が基地内の戸を開けると、雪が戸口に迫っていて、「一晩でこんなに雪が積もりました」と説明してくれたことが脳裏にあった。木戸を開けて、「南極や」と思わず声が出た。

    このままにしておくと、落雪の圧迫で木戸が壊れるかもしれない。そこで木戸と雪壁の間隔を30㌢ほど空ける除雪作業を行う。スコップで眼前の雪壁をブロック状に掘り出すのだ。木戸6枚分の幅を除雪するのにこれも1時間ほどかかった=写真・中=。除雪は楽しみや義務ではない。迫りくるダメージという、危機感との闘いなのだと改めて意識した。

    屋根に上がり、土間に降りての2時間の作業でひと休みした。昨年11月にベトナムで買い求めた「コピ・ルアク」のブレンドコーヒーを楽しんだ。コピ・ルアクはジャコウネコにコーヒーの実を食べさせ、フンからとった種子(豆)を乾燥させたものといわれる。湯気と同時にすえた動物の匂いが沸き上がる。これまで食後で楽しんでいたが、これが労働の後の休息で共感できる絶妙な風味であることに初めて気がついた。癒されるのだ。

    コーヒーを味わいながら、午後のNHKニュースを見た。政府関係省庁を集めた、記録的な大雪に関する警戒会議の模様が報じられていた。11日以降は冬型の気圧配置が強まって日本海側で再び大雪となる恐れがあり、小此木八郎防災担当大臣が「不要不急の外出を控え、やむをえず車で外出する場合にはタイヤチェーンを早めに装着するなど、改めて大雪への備えをお願いしたい」と呼びかけていた。タイヤチェーン以前に各家庭の車が雪に埋まって動かせない現実=写真・下=を直視してほしいものだと思った。この後、自宅ガレージ前の道路の除雪に1時間ほど費やした。

⇒9日(金)夜・金沢の天気   はれのちくもり

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☆ホワイトアウトの屋根雪降ろし

2018年02月07日 | ⇒ドキュメント回廊
    この強烈な寒波で交通インフラなどガタガタになった。これに連鎖してきょう7日は石川県内の公立の小中高校は232校が休校となった。3校に2校が休校となった計算だ。金沢大学も昨日は途中休講、きょうは全面休講だ。いつもなら児童・生徒の声でにぎわう自宅近くの通学路も日曜日のように静かだった。ただ、8時ごろから通勤の大人たちが通りに目立った。マイカーやバスではなく徒歩で急ぐ様子だった。

    山間地よりむしろ平地に大雪が降る降雪パターンのことを「里雪型」というらしい。初めて聞く言葉だが、テレビなどで気象予報士が使っていた。こう雪が多いと、除雪にあたるブルドーザーなど重機のオペレーターには頭が下がる。深夜、早朝関係なく出動して交通インフラの復旧に奔走しているのだ。雪国の持続可能性とは閉ざされた生活空間でいかにじっと耐えて暮らすかではなく、自然の猛威にいかに柔軟に対応して生活インフラを速やかに復旧させるかだろう。

    我が家の屋根に積もった雪は70㌢ほどになっている。雪の重みでミシリ、ミシリとかすかな音が聞こえる。けさ7時半ごろ、晴れ間がのぞいたのでスコップを持って屋根に上がって雪下ろしをした。大屋根ではなく、2階の屋根だ。2006年1月にも屋根雪降ろしをしているので実に12年ぶりだ。屋根で怖いのは予期せぬ突風。平地ではそれほどではない風も、屋根に上がるとまともに受ける。2度ほどぐらついた。

    そして、屋根から下を眺めると、視界全体が真っ白になって空間と地面との見分けがつかない=写真=。まるでホワイトアウトの世界なのだ。屋根雪降ろしは1時間ほどで切り上げた。深入りすると屋根雪ごと下に滑り落ちることもあるからだ。

    それにしても、この大雪で強さを発揮しているのが、北陸新幹線だ。きょう始発から平常運転しているのだ。JR北陸線は終日での運転見合わせ。小松空港を発着する国内線のすべての便で欠航。国道8号線の車の立往生は福井県側では420台、石川県で1.5㌔の区間で100台が動けなくなっているとテレビニュースで報じられている。北陸新幹線は別格だ。

     もう一つ強さを発揮しているのが新聞配達だ。朝刊2紙を購読しているが6時までには配達されている。雨の日、雪の日、風の日、すべての自然の猛威に柔軟に対応しながら届けてくれる。重機のオペレーター同様、社会が持続可能であることを下支えしているのはこうしたプロフェッショナルな人たちなのだと改めて感じ入る。

⇒7日(水)午後・金沢の天気   ゆき
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