最近、日本経済新聞を読むと、一瞬、日本農業新聞と錯覚しそうなくらいに農業に関する記事が多い。7月18日付もそうだった。一面トップの見出しは、「企業の農業参入加速」だった。イオンなど小売や、外食・食品、それにJRなどの交通分野の企業までもが農業参入を目指している。ある大手の外食産業は現在480㌶のファームを今後600㌶に広げる計画だと報じていた。
その日の日経新聞の別刷り面では、「夏休みに行きたい農園レストラン」のランキングが掲載されていた。1位の山形県鶴岡市の農家レストランは「農村の隠れ家」と紹介され、農業のサービス産業化を強調するような内容だった。農業参入にしても、農家レストランにしても何も珍しいことではないが、日経がこのように農業関連の記事を正面から取り上げること自体に何か新鮮さを感じる。
農業関連の記事を日経新聞が取り上げるのにはいくつか背景があるようだ。一つは、食の安全を巡る問題が連日のように報じられ、企業が生産履歴のはっきりをしていないものを扱わないようになっている。むしろ、「自社ブランド」とPRする絶好に機会になっている。二つめに、食料自給が40%を割り、耕作放棄地が増える中、国民は国の農業政策にば漠然とした不安を持っている。21世紀に生きる企業として、農業への新規参入は消費者に「たくましい企業」のように思える。三つめに、国が農地法を改正し、企業が農地を賃借する際の規制を緩和したことだろう。今後、企業の農業分野への参入はトレンドになるだろう。
そして、日経の記者にとってみれば、取材先の企業と同様に農業は新規分野であり、すべてのものが可能性に満ちている、そんな視線ではないか。メディアが新たな取材フィールドを得たという意義は大きい。というのも、日経の記事を丹念に読むと、その視点は、プロダクツ(商品・サービス)、プライス(価格・ロット)、プレイス(販路・流通)のビジネスモデルを今後、企業がいかにして農業分野で事業設計していくかという点である。
取材を受けるが側の企業も新規分野だけに真剣である。昨年、金沢大学の「地域づくり講座」で、農業参入を果たした水産物加工会社の社長に、農業参入をテーマに講義をお願いしたことがある。すると、「事業的には黒字になっていないので・・・」と謝絶された。この企業は能登半島で25㌶規模の計画に着手している。綿密な計画で3年がかりでここまで持ってきた。社長の断りの言葉に、農業参入への「本気度」を感じたものだ。
東京・丸の内の企業などが農村に本格的に目を向けるようになれば、日本の農業の風景は劇的に変わるに違いない。そんな視点で時折、日経新聞を読んでいる。
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