自在コラム

⇒ 日常で観察したことや環境問題、金沢大学での見聞、マスメディアとインターネットについての考察を紹介する宇野文夫のコラム

☆大阪の混迷

2015年11月23日 | ⇒トピック往来
  大阪維新の会が22日に行われた、市長選と府知事選の大阪ダブル選で2勝した。獲得した票も府知事選では自民推薦の候補の倍、市長選では18万票も引き離し圧勝だった。この選挙結果によって、半年前の5月に住民の審判が下った大阪都構想への再挑戦に道が開けたということになる。しかし、北陸の地からこの選挙を眺めても、民意が読めない。

  まず、選挙そのものが盛り上がっていない。前回のダブル選挙より、市長選は10.41㌽下回る50.51%、府知事選は7.41㌽下回る45.47%だった。見方によっては、大阪の有権者はさめていたということだろう。うがった見方をすれば、住民票で反対票を入れた有権者が今回は棄権したといえなくもない。「一度廃案になったものをまたぶり返すのか」というあきれた思いが多くの有権者の思いがあるだろう。かといって、今回自民党候補に投票するには抵抗感を感じるという有権者が結局、投票所に足を運ぶのをためらったということかと推測する。

  政令指定都市の大阪市を廃止して、東京23区のような特別区に分割して、大阪府と行政機能を再編する大阪都構想は東京一極集中を是正し、地域を立て直す起爆剤としたいとする思いは共鳴する。どこかの地域が東京一極集中の突破口を開く必要があるのだ。しかし、その大阪都構想は今年5月の大阪市の住民投票で反対が70万6千票と賛成を1万票上回り廃案となり、民意で決着がついた。そして橋下市長は責任を取って、「政界を引退する」とけじめをつけたのだった。

  票差が少なかったので、大阪都構想をあきらめ切れない市民から再挑戦の熱意が沸き上がったのならば話は別だが、今回の選挙の投票率の低さを読む限りでは、そうした民意が伝わってこない。ましてや、国政レベルでの維新の会の「内紛劇」が目立ったせいか、全国的には、大阪の有権者と候補者による、大阪だけの選挙という閉ざされたイメージがつきまとう。

  ダブル選挙の期間中のニュースを見ていても、候補者が「大阪都になって、中央省庁や企業を大阪に誘致する」と強調していたことが印象に残った。大阪から今の日本を変えるという志(こころざし)がどこに行ってしまったのか、と。全国の共感を得られた前回とまるで状況が異なる。

  ダブル選で圧勝したはと言え、大阪府と大阪市の双方の議会では自民など非維新勢力が過半数の議席を占めている。これまで、橋下市長の強気と強弁で乗り切ってきたが、その手法は新市長では役不足だろう。今後4年間、大阪都構想をめぐって大阪はどのように展開していくのか、変革を求める民意はどこまで高まるのか、あるいは混迷なのか。

⇒23日(祝)午前・金沢の天気      はれ
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★北の破船

2015年11月22日 | ⇒トピック往来
  ことし1月9日午前6時すぎ、能登半島の石川県志賀町安部屋の海岸で木造船が漂着した。自称北朝鮮在住の60代の男1人が船の近くにいた。男は「12月中旬、船の点検のため1人で乗船し、船体を固定していたロープをほどいたところ流された。8日夜に能登に漂着した」と。船には食料と水は底をついた状態で、男は数日間は何も食べていなかったようだ。船のエンジンは故障していた。男はイカ釣り漁船の管理点検の業務に就いていて、不法入国ではなかった。日本海側では、北朝鮮の船が国内に漂着する例は毎年数十件確認されているが、生存したまま保護されるケースは珍しい。

  今月20日、同じ能登半島の輪島市門前町の沖合で、国籍不明の漂流船2隻が見つかった。うち1隻で4人の遺体が発見された。同じ門前町の沖合で21日にも転覆船が見つかり、6人の遺体が収容された。ほかにももう一隻が漂流していた。人は乗っていなかった。2隻とも船体は長さ9㍍から10数㍍の木造で、エンジン付きだった。船底が平らで黒のタール状の塗料が塗られるなど、朝鮮半島の船に多い特徴だった。漁網や釣り針が見つかった。20日に引き揚げた船にはハングル文字で「朝鮮人民軍 第325」との表記があった。

  そして、きょう22日午前8時すぎ、福井県越前町の越前岬の沖合で、木造船が転覆し漂流していた。3人の遺体が確認された。

  北から破船はシケが続くこの時期に多い。エンジンが故障して、そのまま海流に乗って、能登半島などに漂着するのだ。遺体は男性とみられており、難民や、いわゆる脱北者ではなさそうだ。

  ここからは推測である。北朝鮮の沖合でイカ釣りなど漁をしていて、海が荒れて流される。ところが、日帰り、あるいは数泊の予定で食料や水、ガソリンも十分になく、そのまま漂流する。大陸の沖合を流れる寒流のリマン海流に、その後、対馬暖流に流され、で日本側の沖合にやってくる。エンジン付きの船なので、おそらく軍からガソリンを供給され、漁に出た者たちだろう。

  漂流してきた船は氷山の一角だと察せられる。途中で船が破損して沈没したものも多数あるだろう。今後北の政権が破たんし、今度は多くの難民が漁船で脱出した場合を想像しよう。一隻の船に何十人もの老若男女がやってくる。しかし、日本海は荒れ、漂流する。あるいは転覆する。想像を絶する阿鼻叫喚が日本海に響き渡る。考えるだけでゾッとする。

⇒22日(日)夜・金沢の天気   くもり
 
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☆「クロ現」問題のてん末

2015年11月07日 | ⇒メディア時評
  「出家詐欺」を扱ったNHK報道番組「クローズアップ現代」をめぐる問題で、今月6日、「重大な放送倫理違反があった」とする放送倫理・番組向上機構(BPO)の検証委員会の意見が公表され、新聞・テレビのニュースでも大きく報じられた。意見書はBPOのホームページで公開されていて、その内容は、「情報提供者に依存した安易な取材」「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」など厳しいコメントとなった。

  この問題は、私が大学で担当する総合科目「マスメディアと現代を読み解く」でも取り上げ、BPOのコメントには注目していた。番組は去年5月14日放送の「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」。寺で出家の儀式「得度」を受けると戸籍の下の名前を法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。ところが、番組内で多重債務者に出家を指南するブローカーとされた男性が今年3月18日付の週刊文春に「NHKのやらせ」と告発した。

   これを受けたNHKの対応は速かった。4月3日に調査委員会を立ち上げ、同9日に中間報告書を、同月28日に最終報告書を公表し、「過剰な演出」や「実際の取材過程とかけ離れた編集」があったことを認める一方で、「事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』は行っていない」と結論づけた。「やらせ」との言葉が世間で独り歩きすることを極度に恐れ、必死になって報告書をまとめたであろうことは想像に難くない。BPOの放送倫理検証委員会は5月8日、審議の対象にすることを決めた。BPOの調査目的は、果たして「過剰な演出」や「実際の取材過程とかけ離れた編集」というレベルにとどまるものなのかどうか、その一点にあったようだ。番組制作関係者11人と番組内での「ブローカー」、「多重債務者」の計13人に25時間に及ぶ聞き取り調査を行った。

   BPOの意見書を読むと、驚くことが掲載されている。番組では初対面で相談する「ブローカー」と「多重債務者」のそれぞれの男性は10年来の知り合いであり、番組をコーディネートしたNKH記者とも旧知の間柄だった。さらに、2014年4月19日に撮影が行われた、2人が相談する場所も「多重債務者」の方が事前に準備したもので、さらに撮影終了後には、記者と「ブローカー」と「多重債務者」の3人が「打ち上げ」と称して居酒屋で飲食を共にしていたのである。これが報道番組「クローズアップ現代」で隠し撮りシーンとして紹介された場面の撮影の舞台裏だった。視聴者にとって全く想定外だろう。これを一般の視聴者に問えば、十中八九「それは『やらせ』です」と答えるに違いない。

   NHK側は、「ブローカー」と「多重債務者」のそれぞれの男性が知り合いで、番組をコーディネートした記者とも知り合いだったことから、2人が記者が説明した番組の意図を忖度して、それぞれの知識や体験にオーバートークを交えて「出家の相談をするブローカーと多重債務者の相談場面」を演じた、いわゆる「過剰演出」と結論づけた。相談場面は、この意見書を読む限り、番組の狙いを強調する事実をわい曲ではないのかと思ってしまう。

   もう一点、腑に落ちないことがある。NHKが最終報告書を公表し、番組に携わった記者ら15人を処分した4月28日、その同日に総務大臣名で文書による厳重注意の行政処分がNHKに対してあった。5月8日にBPO放送倫理検証委員会が審議入りする前に行政指導に踏み切ったのである。このことについて、今月6日に公表されたBPOの意見書の「おわりに」の章で、「政府が個別番組の内容に介入することは許されない」と総務省を批判ししている。また、新聞メディアなどもきょう7日付の紙面でむしろ政府の「介入」を問題視している=写真=。

   私はもう少しうがった見方をしている。NHKの最終報告書の公表と社内処分、総務省による行政処分のタイミングがよすぎるのである。これは、BPO放送倫理検証委員会が審議入りする前にこの問題の幕引きをはかりたいというNHK側の意図があり、NHKが総務省に行政処分を出すよう働きかけたのではないか、と。放送界の第三者機関(BPO)に「やらせ」と詮索されては困るからである。一連の「クロ現」問題のニュースを読んで、そう考える人も多いのではないか。メディアの批判の矛先がNHKより、むしろ政権党や総務省に向かい、NHKサイドも今頃ホッと胸をなでおろしているのではないか。

⇒7日(土)午後・金沢の天気    くもり
  
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★観光の危機管理

2015年11月03日 | ⇒トピック往来
   JICA国際協力機構が開催した観光政策を課題とする研修会の研修成果発表会が2日、金沢市内であり、コメンテーターとして招かれた。一行は、アジアやアフリカなど11ヵ国から観光政策に携わる国・地方自治体の行政マン13人。9月26日から石川を始め、富山、東京、京都、奈良で現場を視察し、現場の担当者と意見を交してきた。

   石川では金沢のほか、能登を巡った。雨宮古墳(中能登町)、巌門(志賀町)、総持寺(輪島市)、塩田村(珠洲市)、能登ワイン(穴水町)、のとじま水族館(七尾市)など見学した。巌門では、貝の土産品店で地元で採れた貝をブローチなど工芸品や、輪島の海女が採ったアワビの殻を加工してさらに付加価値の高い装飾品など見入った。そのほか、観光施設の展示方法やツーリズムの組み立て方、エコツーリズム(生物多様性など)のノウハウなどに質問し、熱心にカメラを向けていた。

   その研修の仕上げとして、自国の観光政策として活かす「アクション・プラン」を組み立て、政策の概要、実施スケジュール、実施予算の見積もりまでを発表した。その間で、テーマとして上がったのか、「観光地の危機(リスク)管理」だった。チュニジアの観光省の事務局長はこう話した。同国には、世界遺産が多くあり、カルタゴ遺跡(1979年、文化遺産)やエル・ジェムの円形闘技場(1979年、文化遺産)、ケルクアンの古代カルタゴの町とその墓地遺跡(1985年、文化遺産)、イシュケル国立公園(1980年、自然遺産)はその代表例だ。しかし、2011年ごろから続く民衆を狙ったテロ、とくに今年に入ってから2度もテロ事件が起き、かつてヨーロッパなどから年間700万人もあった観光入り込みが半減している。これによって、観光に携わっていた3000人が職を失った。

   チュニジア政府はテロに対する危機管理政策、プラン、広報など緻密な政策を実施している。が、悩ましいのはテロは、政府を不利にするための国際世論を狙って、観光客をターゲットとする場合がある。実際、ことし3月、武装集団が首都チュニスのバルドー博物館で銃を乱射、日本人3人を含む外国人観光客ら21人が死亡している。観光客を守るための「観光警察」など配置すれば、今度はそこが狙わるという。本来ならば、大統領が「安全宣言」を行い、世界にアピールしたいところだが、それがかえってテロの標的とされる。なんとも危機的で、悩ましい事態なのだ。それでも観光を再興させたいと知恵をひねる担当者。この発表を聞いて、コメンテーターとして同席した私は言葉が出なかった。

   世界に誇る自然遺産がありながらも、アクセスなどの観光政策が伴わず焦っている国もある。ジンバブエの観光担当者の悔しさをにじませていた。世界一の瀑布はジンバブエとザンビアの国境にあるビクトリアの滝だ。滝幅は1700㍍、落差108㍍の威容を誇り、南米のイグアス、北米のナイアガラと並ぶ世界三大瀑布の一つに数えられる。ところが、ここを訪れるのは年間100万人、規模が劣るナイアガラは桁違いの1200万人だ。アクション・プランでは「2016年に200万人、2020年には500万人に観光客を増やしたい」と5倍計画を打ち上げた。国をあげての観光情報の発信をしていきたいと意欲を見せた。

   私がアドバイスしたのは。国際的な海外メディアを使うこと。たとえば、イギリスの公共放送BBCは世界の地域おこしを紹介する「ワールド・チャレンジ」コンテストを実施している。このファイナル10チームに残ると、地域を紹介する番組が繰り返し流れ、投票が呼びかけられる。PR効果は抜群だ。日本でも、2011年に能登半島の「春蘭の里」がファイナルに残り、今やここで宿泊する1割がいわゆるインバウンドの客だ。

   予算が確保できない国、テロに見舞われる国、政変が起きやすい国、いろいろな事情がそれぞれの国にある。ただ、それを理由にせず前向きに、観光と向き合う世界の人々と接することができたことが何よりの収穫だった。(※写真は、10月30日の能登ツアーで輪島・千枚田を訪れたときのショット。千枚田は大規模な土砂崩れ現場であり、今もリスク管理の一環として、ここを通る国道249号の地盤は発砲スチロールを使用し、道路の重さを軽減する工夫がなされている)

⇒3日(祝)朝・金沢の天気   はれときどき雨

      

   
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☆オートドライブの意義

2015年11月02日 | ⇒トピック往来
   高齢者と自動車運転をめぐる事故が最近多い。先月28日午後、73歳の男性が運転する軽自動車が宮崎県宮崎市内の繁華街を暴走し、2人が死亡、4人が重軽傷を負ったとの事故のニュースが報じられた。事故現場の歩道にブレーキ痕がなく、途中で加速したとの目撃談もあり、制御不能の状態に陥っていたようだ。また、男性には認知症での入院歴もあったという。老人が運転する車の暴走、そして逆走の事故が目立っている。高齢化社会の歪みの一つだ。

   高齢者(65歳以上)の4人に1人が軽度の認知症を患う社会。認知症の老人が家出して、行方不明となった人はこれまで1万人いると言われる。では、一律に老人には車は危険だからと言って、取り上げることはできるのだろうか。むしろ買い物など老人こそ車を必要しているのではないか。能登半島に出向くと、車を運転する老人たちが多くいる。まさに車がないと暮らせない。

   その能登半島の先端、珠洲(すず)市で金沢大学の研究チームによる、自動運転(オートドライブ)が実証実験プロジェクトが進んでいる。実証実験は今年2月に開始され、障害物や信号などを把握するセンサーやカメラなどを取り付けたトヨタ「プリウス」を使用して自動運転し、対向車や歩行者の複雑な動きも予測できるようデータを積み上げている。2020年をめどに高齢者の移動手段としての実用化を目指している。

   同プロジェクトの実験ルートはこれまで1コース6.6㌔だったが、先月27日から4コース延べ60㌔に拡大した。ルートの新設は、さらに学術的に自動運転の技術を総合的に加速する必要があるからだ。もはやオートドライブのシステム構築は、国際競争の段階になっているからだ。と同時に、日本では高齢化社会の課題にもなっている老人と車の課題解決への貢献が期待されるのだ。

   過日(9月11日)、プロジェクトの菅沼直樹准教授(ロボット工学)にお願いして、実際に自動運転のプリウスに実際に乗せてもらい、珠洲市の公道を走った=写真=。車道から駐車場に入るため右折する際も、対向車が来た場合は一時停止する。また、道路脇に倒木などの障害物があっても上手に避ける。なんとも快適なドライブだった。この地域はトンネルも多いため、GPSは使わず、車道の白線を自動的に読み取って走る。なので、雪道をどうドライブするか、今後の課題として残る。また、信号機の赤青黄の情報も読み取るが、晴天では逆光になって信号機などの情報は読みにくくなるといった状態にもなり、いろいろ課題もある(菅沼准教授)という。

  実際の市街地や一般道のいわゆる公道で60㌔の実証実験の取り組みは全国でも例がないかもしれない。この実証実験を通じて、オートドライブの車が完成し、老人が「病院へ行ってくれ」と声をかけると、「どちらの病院ですか」などと対話して、自動走行する社会が実現したら、老人と車事故の課題は解決する。生活動線でオートドライブを実用化する、何とも夢のある話だ。(※写真は、オートドライブで走行中。実験中は、ハンドルには触れないが、万が一のためを想定し、ハンドルに手をかざし、すぐ握れる状態にしている)

⇒2日(月)朝・金沢の天気    あめ
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