藤岡市平井地区を走っていて時代物のレンガ倉庫を見つける。 富岡製糸場の世界遺産登録で古いレンガ作りの建物は見直されている。
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我が家は神葬祭なので本来は新盆という儀式は無い。しかし日本人の多数は盆
法要を身近に感じており、私もこの時期に彼岸から現世に故人を迎え、そして送っ
ていく仏教的行事に奥ゆくかしさを感じているので、お盆行事まがいの事はやっ
た。神棚を掃除し、普段よりも賑やかに整え、心を込めて拍手を打ち、家人と酒を
酌み交わしながら、故人を偲んだ。 母親に縁のあった何人かの方が訪れ、お線香
を手向けてくれた。来客が途絶えればやることも無いので、太平洋戦争に関する
本を3冊読んで過ごす。
「尖閣喪失」 大石英司 著
「日本のいちばん長い日」 半藤一利 著
「永遠のゼロ」 百田尚樹 著
悲惨な戦争を題材にしているが体験者の心理状況まで克明に描かれていて、各
書とも興味深い内容であった。
太平洋戦争を主題にした戦後間もなく発刊された本に「連合艦隊の最後」伊藤正
徳著がある。 これは戦争自体の記録であり、それを戦った人間の心理までは触
れていない。 「戦艦大和の最後」吉田満著は壮烈なる戦闘記録であり、全文が漢
文調のきわめて格調の高い文章であり感動した。しかしこれとて戦闘そのものの
描写である。
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「尖閣喪失」→ 過去の戦争でなく現代を描く。日中間で問題になっている尖閣諸
島に中国軍が上陸する。しかし発砲は厳重に禁じられている。 これを撃退すべく
海上自衛隊が出動する。 こちらも発砲が禁止されるが隊員1名が戦死する。暫く
にらみ合いが続く。 米国は安保条約にも関わらず事態を静観するだけ。 日本の
総理(なぜか石破幹事長がモデルみたい)は問題をこじらせるのを避け、自衛隊
にたいし一旦撤収する命令を出して辞任する。 尖閣は事実上中国の占拠状態と
なる。
弱腰の日本政府の対応に国民は苛立ち、自衛隊による武力奪回を強く求める世
論が沸き上がる。本はその先に触れぬまま終る。
不法占拠されたままでいいのか。なんのために世界有数の武力を持つ自衛隊な
のだ。 岩だらけの無人島だがれっきとした日本領土を守れなくて何が自衛隊
だ。マスコミの報道がそれをあおる。尖閣の武力奪回を熱狂的に支持する国民の
姿が想像される。 太平洋戦争緒戦の勝利に沸いた70年前の日本国民の姿が
再現される。
集団的自衛権論議などとうに踏み越えた近未来の日本の姿がそこに見える。 深
刻な宗教対立もなく単一民族の日本人は一旦火がつけば世論は一つ方向に走り
出す。真珠湾攻撃が米国民に火をつけたように。 その後の展開を読者の判断に
任せている。私はその後の展開を上のように推理してみた。
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「日本のいちばん長い日」→ は終戦前夜の1日を1時間ごとに変わっていく緊迫
した状況を丁寧に描き、読む者をその時間の渦中に取り込んでいく。 天皇の終
戦の詔書を無視して徹底的抗戦を主張する厚木航空隊、その影響を強く受けた埼
玉県の陸軍児玉飛行場。
埼玉県上里町、児玉町付近。 丸で囲った部分が旧日本陸軍児玉飛行場のあっ
た場所。 工業団地に変わっているが、若干の遺構が残る。
暑い日であったがその遺構を見るために自転車を走らせる。1辺が1.6kmほど
の正方形の土地が飛行場跡地。 左から工業団地のいちばん南の角。 次は米
軍が落とした焼夷弾の破片、そしてここに飛行場ありと表示した記念碑。 さらに
地図上の中央あたりを左下に伸びる道路、ここに滑走路があった模様。
現在工業団地に変わっているが、当時の滑走路が団地の中央を貫いている。 記
念碑にも出会えた。 1.5km四方の広大な飛行場。当時の軍用機はこのくらいの
広さがあれば楽に離着陸できただろう。そしてあの日の前日まで飛行技術に未熟
な特攻隊員が南の空に向かって離陸していった。
この地をば 南へ飛び立つ若者の 生死を知らず 夏草茂る
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「永遠のゼロ」→ ご存知のベストセラー。 卓越した技量のゼロ戦パイロットだが
臆病な飛行兵を取り上げる。 無理はするな、命を大切にしろ。 命があればまた
戦闘の機会がある。 無理して死んでしまえばそれまでではないか。 当時の禁句
を堂々と述べ上官に疎まれる兵士の物語。 臆病というより当時の水準を抜く用
心深いパイロットなのだが。
この本を読むきっかけはひょんなことにあった。 今私が従事している仕事に関係
あるが、長くなるのでその説明は次回としたい。今年はいい小説にたくさんめぐり
合って幸せです。
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