地元選出の代議士が防衛政務官の要職にある。この伝手で防衛省を見学する機会
があった。東京市ヶ谷の旧陸軍士官学校やその移転後は大本営や陸軍省あった場
所に防衛省が建つ。こんなことがなければ見学することもない所だ。
親切に案内してくれたのが、3人いるという政務官付き副官のひとり。大柄で体
つきは少しいかついが我々に見せる側面は普通のお役人。まだ初々しい。気にな
っていた階級を帰り際に聞いてみた。三佐、旧軍で言えば少佐だ。何年か先には
将軍になる人材。小説で知るその階級の印象と初々しさの残った顔とが妙にちぐ
はぐ。バスに乗る我々に向かって庁内で初めて見た直立不動に敬礼で見送ってく
れた。
廊下ですれ違う制服組や背広組の一朝事あれば国を守るために命をかける逸材
(?)が妙に幼く見える。偶々お昼時だったせいもあるが。こちらが年を重ね
た紛れもない証左なのだろう。
このお誘いがあったときすぐに応じたのは、勝者である連合軍側の一方的な裁
判だととかく批判がある極東軍事法廷が開かれた大講堂を見られることだった。
その建物は一旦取り壊し、元の場所から今のところにできるだけ忠実に再現し
たとの説明。現代史で何度も触れた裁判の歴史的な場所に立っていると思うと
厳粛な気持ちになる。
絞首刑に処せらた東条英機大将他6人のA級戦犯もこの薄暗い講堂の床油のし
み込んだ木の床を歩き、木製のイスに座った。そして今に至るまですっきりし
た解決策のない靖国神社の微妙な立場の発端になったのだ。
この建物は三島事件の現場も残されている。難解な文章を駆使する作家三島由
紀夫はあまり好きではないのでちょっと覗いただけでひとり大講堂に戻る。靖
国神社の遊就館ほどではないが日露戦争から太平洋戦争を経て戦後までの資料
が展示されている。旧軍賛美は遊就館に比べればずっと控えめ。
今週はオリンピックの話題で他のニュースは隅っこに追いやられた。日本人選手の
活躍に素直に拍手を送る。女子スキージャンプをメジャー種目にした高梨沙羅選手
の銅メダル獲得から始まった。特に印象的だったのはスピードスケート女子団体パ
シュートでの金メダル獲得。個人種目の多い冬季オリンピックの中で、4人のチー
ムワークの素晴らしさで勝ち取った金メダルはもっとも価値あるものと思う。滑走
する3人の手足の動きや頭や腰の位置が見事に揃い、先頭を交代しながら流れるよ
うにコーナーを回る。そのスマート感、スピード感に酔う。正面と向う正面で集団
が反対方向にラインを通過する。その瞬間どちらがリードしているか瞬間的に判る。
長年楽しんでいるロード自転車で走るとき似た感じを私も経験する。仲間と数名で
秋間梅林の峠から後閑へ下る滑らかな舗装路を1~2mの間隔を維持しながら
繋がって走る。カーブに差し掛かる。先頭と同じ姿勢、角度、そしてスピードで後
続が通過していく。最後尾から見ると電車がカーブを少し傾きながら遠心力に抗し
て走り抜けるあの感じ。その爽快感がたまらない。もっともそんな気分を味わえる
緩やかな下りカーブであって、急な下りまして登り坂ではそんなゆとりはないのが
現実。