6月29日(月)、前夜の予報では明日は晴となっており、候補に挙げた三ケ所の山を想定して寝床に入りました。
目覚めれば素晴らしい天候。今梅雨の真っ最中だぞ、午後になるとまた猛烈な雷雨に見舞われるのは難儀。
何度も登った谷川岳を下から鑑賞するつもりで家を出る。 結果的にはこんな好条件の谷川岳ははじめて。木々の
緑とその香りに包まれた快適な散策でした。 表題に国道291号を歩くと書きましたが、車では通行不能な国道です。
特に清水峠を越えて新潟県に入ると道が春先の雪崩で殆どなくなっていると聞きます。別名謙信尾根とも言われて
いる十五里尾根が整備されたので、国道を示す破線は地図から消しても構わないのでは。
謙信尾根というからには、上杉謙信の関東攻めは雪の融けるのを待ってこの険阻な峠道を長蛇の軍勢が馬を引い
て越えていったのでしょうか? たんたんと続く平坦路というのも結構疲れるものです。
関越道で家から1時間半で土合RW駅に到着。ここから国道を行けるところまで行く。そしてこの好天を味方にして
撮影するのが今日の目的。地図でわかるように等高線に沿った道で登りは皆無。国道から帰途湯檜曽川に降りる
ところだけが唯一の急斜面でした。
左から、登山計画を提出する群馬県警の詰所、昔のメインルート西黒尾根の入口、一ノ倉沢までの電気自動車、湯
檜曽川の対岸には白毛門山が下から上まで全部そして谷川RWができる以前は頂上への最短距離の巌剛新道入口。
西黒尾根の末端を回りこむと眼前にマチガ沢の岩壁が目に飛び込んできます。正面の上の小さなドームが谷川岳頂上
です。 20代ではじめて岩登りに連れて行ってもらったシンセン尾根が右の大きな岩塊。 岩壁にへばりついた私の股の
間から下の広場が小さく見え、身震いしたことを鮮明に覚えています。
東尾根をぐるりと回りこむと、圧倒される岩壁が真正面から迫ってくる。こんなに一ノ倉沢の全貌が見られたのははじめて
です。 休憩所から双眼鏡でくまなく探して見ましたが、クライマーの姿は一組も見えませんでした。 それはそうでしょう。
周到な準備が必要な岩登りを天候が良いからといってその朝いきなり実行するわけにはいきません。まして梅雨の盛りで
す。 正面手前の縦長の三角形が有名な衝立岩です。 何人もの若きクライマーの命を奪った沢です。 こんな天候に恵ま
れる運の良いクライマーだったら快適な岩登りができたでしょうに・・・
一ノ倉沢の水が国道を洗う箇所を大きく右にカーブすると舗装が切れます。 このあたりの左の岩肌には、遭難者を悼んだ
数々のプレートが埋め込まれています。鮮明に撮影できたものを掲載して見ました。昭和40年から60年にかけてのものが
多いです。 この他にも沢山ありましたが文字がかすれていたり、光線の加減でうまく撮れませんでした。 生きていたなら私
らの年代になった若者でしょう。一枚ずつ目を通し頭を下げ若き遭難者の冥福を祈りました。
この道が国道であることを標す表示がありました。 国道にしては超貧弱、登山
道にしては立派な道です。 往時の石垣が各所に残っています。このあたりから次の幽ノ沢までは4駆車なら通行できる道幅
がありますが、今は乗り入れ禁止になっています。 マウンテンバイクの若者が私を追い越していき、20分もしないうちに戻っ
てきました。 道が崩れていて自転車では先に進めませんという。 暫く行くと湯檜曽川原まで一気に大きく崩れた箇所があり
ました。残った山側の部分を慎重に通り抜ける。
一ノ倉尾根を回りこんで暫く歩くと、はじめて見る幽ノ沢の岩壁です。一ノ倉沢のそれに比べると少し規模は小さいですが、
雪渓からいきなり立ち上がる岩壁は相当に手ごわそう。 幽ノ沢の水も国道をかなりの勢いで洗っています。
JRの送電線の巡視小屋へ降る道を確認して更に先に進む。 このあたりから多少登り勾配に変化しますが、僅かのもの。
一ヶ所だけ道幅が50cmほどと狭くなり夏草に覆われ一般的な登山道らしくなりますが、これも100mほどで元の道幅に
戻ります。 道がぬかるみ、倒木が散乱して奥にきたなと思わせます。 前方に雪渓らしきものが見えます。 国道は雪崩
れた雪に完全に埋められています。 これが芝倉沢です。滝状になった部分は本来国道なのです。ここを通過すれば更に
先に進めるのでしょうが、用意はしてきましたがアイゼンが必要になりそうです。 でも今日はここで折返しましょう。 この
天気で豪快な各沢のはるか上まで完璧に見られた幸運に感謝してここで昼食。 芝倉沢が見るものにとっては穏やかで一
番好印象でした。20年ほど前に上部に見える稜線を蓬峠から茂倉岳まで歩いた事や、その帰路ひどい雷雨にあったこと
など懐かしみながらゆっくりと時間を過ごす。 何人かの登山者も皆さんここで引き返していきました。
復路は途中から巡視小屋へ降り、湯檜曽川に沿ったブナの原生林の中をたんたんと戻る。 途中ブナの大木(豪雪地帯で
これほど真っ直ぐに伸びたブナは珍しい)や国道の説明板がありました。 幽ノ沢には橋がなく、飛び石伝いにヒザまで濡れ
て渡りましたが、あとの沢は単純な一枚板ですがそれなりの橋板があり濡れずに渡ることができました。 最後はこの山に
命を奪われた多くの若きクライマーへの鎮魂の像に頭を下げて山旅は終了する。
普段榛名山中の道なきところにルートを探して、もぞもぞ這い回っている山好きにとっては、迷う心配のないこんな山旅もま
た楽しからずや・・・