バイクの終盤から振り出した雨は、
ランに入っても
断続的に強く振るような気象状態になっていた。
着替えテントで
チャリパンをランパンに履き替えて出発。
ここでも昨年と比較してみると、
昨年のランスタートは
正直言ってあまり覚えていないのだ。
バイクラスト30キロを制限時間に追われ、
後のことは考えず
必死になって漕いだおかげで、
制限ラスト30秒でなんとかゴールできたものの、
バイクを置いたときは
気絶寸前の状態だったからだ。
それに比べて、
今年はなんと平然なんだろう。
今年の大会に臨むにあたって、
一番重視したのはバイクの練習だった。
昨年あんな状態で
最後のランをクリアできたのだから、
バイクさえ終われば
何とかなるはずだとそう考えたからだ。
毎週末にバイクを駆って、
とにかくロングに乗った。
長時間、脚を回し続けることにこだわって、
身体作りをしてきたのだ。
そのせいあってか、
余裕で145キロを終えることができ
ランスタート時の状態は
近年まれに見る余裕であった。
まるで、
42キロのマラニックに
出かけるような気持ちで
スタートすることができた。
それだけ余裕なら、
もっと頑張れ
という声が聞こえてきそうだが、
次につなげていくためにも、
そしてスーちゃんのためにも
「完走」
が最優先だった。
その完走を確信しながら、
走っていると、
突然あられのようなものが
バラバラ降り始めた。
ごろごろ雷も鳴っている。
これはやばい。
上空で寒気と暖気が喧嘩をしているぞ。
いきなりピンポン球のような
雹が降ってきたりしないやろなあ
などと思ったそのとき、
ドバア~、と大雨が降り始めた。
道にはみるみる水が溜まり、
その中をばしゃばしゃ走った。
まるで、まだスイムのような状態じゃないか。
そんな中を走り続け、
折り返しについた頃には
すっかり手までふやけていたよ。
スイムでさえふやけなかった手が
指紋も判別できないほど
ふやけていたのだから
雨の強さは推して知るべしだ。
でもここまで来ても
doironの気持ちはふやけていなかった。
ここまで昨年は3時間近くかかったが
今年は二時間半もかかっていない。
なので、あと二時間半くらいで
春からの苦労が報われるのだ。
そう思えば、
doironの気持ちは
燦燦と陽光の降り注ぐビーチを
きゃははと走り回っているほど
晴れ渡っていた。
折り返してからも
相変わらずの大雨の中
ルンルンと走っていると
一台の車が近づいてきた。
助手席の窓を開けてる
女性の姿が見える。
「え、道を聞かれるのか?
聞かれたら『私、この辺のもんじゃないんで』と
答えよう」と思っていたら、
「大会が中止になりましたよ」
だって。
ぬぁにぃ~
確かに大雨に打たれはしたし
遠くで雷もなっていたけど、
3年前の豪雨のバイクに比べれば
全然平気だったので、
不思議な感じがしたよ。
結局、あと13キロのエイドで
ストップ。
丸一時間吹きさらしのテントで
子犬のように震えながら
迎えの車を待ったよ。
結局ゴールをしたのは
821人中340人。
あとの選手はすべて
回収となったのだ。
doironの知る限り
この大会が
こんな形で
中止になったのはかつてなかった。
ボランティアや選手のことを
考えて、中止を決定したらしい。
doironの夏は
これで終わりだ。
ゴールは出来なかったけど
僕の中ではしっかり
ゴールラインを越えたレースでした。
いろんな人から
残念でしたねと
メールをくれましたが、
全然そんなことないんです。
僕はちゃんと自分のゴールを
迎えることが出来たと
そんな気持ちなんです。
もし今年が
昨年同様の苦戦を強いられたのなら
もう皆生はあきらめたかもしれない。
今の暮らしの中で、
今年のように
出来ることをやって
完走できなかったんなら
潔く、皆生を目指す他の人に
自分の枠を譲ろうと思っていたでしょう。
でも、まだまだやれば出来る。
自分との戦いにも、
皆生の自然との取っ組み合いにも
勝てる力が自分の中にあったんだ
という安心感を抱くに余りあるレース展開でした。
負け惜しみでも
強がりでもなく
全く素直に
あのままレースが続いていたら
100%完走できていたでしょう。
そういう意味で
十分な満足感を
いただいた今回のレースでした。
そしてまだしばらくは
トライアスリートでいようと
思ったdoironなのでした。
皆生劇場’09エピローグに続く