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『拾遺現藻和歌集』の撰者は誰なのか?(その10)

2022-09-16 | 唯善と後深草院二条
全部で26ページある小川論文「『拾遺現藻和歌集』の研究」は、「特色」に続いて最も分量の多い「撰者」に入りますが、「昭慶門院二条」を論ずる準備は一応整ったように思われるので、ここで私の立場から「昭慶門院二条」を少し検討した後、必要に応じて小川論文に戻りたいと思います。
さて、最初に『拾遺現藻和歌集』全体の中での女性歌人の位置づけと、女性歌人の中での「昭慶門院二条」の位置づけを見て行きます。
既に紹介したように、小川氏によれば、

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 「現藻」の語は「現存者の詠藻」の意と解され、実際現存歌人対象の集である(なお「拾遺」の意については後述する)。歌人はすべて一八二名(隠名および詞書歌の作者は除く)。内訳は俗人男子九六人、女性三〇人、僧侶五六人。十首以上入集の歌人一九名を上位から示す。

 ①後宇多院 38首 ②二条為世 32首 ③西園寺実兼 30首 ④定為 27首 ④小倉公雄27首
 ⑥後醍醐天皇26首 ⑦二条為藤 25首 ⑧三条実重 24首 ⑨鷹司冬平 22首 ⑨邦良親王 22首
 ⑨小倉実教 22首 ⑫中御門経継 21首 ⑫覚如法親王 21首 ⑭二条道平 16首 ⑮洞院実泰14首
 ⑯六条有忠 11首 ⑯冷泉為相 11首 ⑱後伏見院 10首 ⑱二条為定 10首

https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/8d2d8eddea4b8e2ffa9a4daa7821841a

とのことですが、「十首以上入集の歌人一九名」の中に女性は一人もいません。
「作者略伝・索引」で女性歌人三十人の採歌数を見ると、

6首 6人
5首 2人
4首 2人
3首 3人
2首 6人
1首 11人

ということで、合計三十人で八十六首ですね。
勅撰集と比較した場合、『拾遺現藻和歌集』での女性の採歌の割合にどのような特徴があるのかは分かりませんが、まあ、あまり多いようには思えません。
また、最高が僅か六首で、しかも六人ということは、女性歌人の採歌に意図的なリミットがあったような感じがしないでもありません。
ま、それはともかく、もう少し具体的に入集歌人の人物像を見て行くことにします。
小川氏作成の「作者略伝・索引」は五十音順ですが、これを入集数で6グループに分け、配列し直すと次のようになります。(抜粋。※は私の補足)

A 6首
昭慶門院一条 生没年未詳。北畠師親女。新後撰以下に21首。
昭訓門院春日 生没年未詳。二条為世女。西園寺実衡室、公宗母。
今出川院近衛 生没年未詳。鷹司伊平女。続古今以下に26首。
宰相典侍(後宇多院)生没年未詳。飛鳥井雅有女。二条為道室。新後撰以下に22首。
達智門院(1287-1348)後宇多院皇女。奨子内親王。(※母は談天門院忠子) 新後撰以下に24首。
万秋門院(1268-1338)一条実経女。後宇多院に出仕。新後撰以下に31首。

B 5首
少将内侍(後醍醐院)生没年未詳。法性寺為信女。後二条院・後醍醐院女房。続千載以下に7首。
為道女(藤原為道朝臣女)生没年未詳。為定・中宮宣旨の姉妹。土御門雅長室、顕実母。続千載以下に18首。

C 4首
永福門院(1271-1342)西園寺実兼女。伏見院中宮。京極派。新後撰以下に151首。
昭慶門院二条 伝未詳。

D 3首
岩倉姫君 生没年未詳。忠房親王の近親か。続千載に1首。
中宮宣旨 (?-1351)二条為道女。後醍醐後宮。法仁・懐良の母。続千載以下に8首。
永福門院内侍 生没年未詳。坊門基輔女。京極派。玉葉以下に49首。

E 2首
延政門院一条 生没年・世系未詳。兼好集に贈答あり。続千載に1首。
新兵衛督(邦良親王家か)生没年・世系未詳。邦良親王に殉じて出家した「兵衛督」(『増鏡』)か。続千載に1首。
為子(従二位為子)(1251頃?-?)京極為教女、為兼の姉。大宮院に権大納言として出仕、伏見院・永福門院にも仕える。京極派。続古今以下に127首。
長有女。(丹波長有朝臣女)丹波忠守の姉妹。
遊義門院兵衛佐 生没年・世系未詳。『とはずがたり』巻五に登場。
平宗泰女 生没年未詳。北条(大仏)宗泰女、貞直の姉妹か。 

F 1首
公顕室(今出川前右大臣室)生没年未詳。堀川具守女か。続千載以下に2首。
権大納言典侍(後醍醐院)生没年未詳。北畠師重女。堀川具親と密通、のち洞院公泰室(『増鏡』)。続千載以下に2首。
平重村女 生没年未詳。(重村は北条(常葉)政長男。1首)
章義門院(?-1336)伏見院皇女、誉子内親王。京極派。玉葉以下に12首。
伏見院新宰相 生没年未詳。藤原親忠女。伏見院に殉じて出家。京極派。玉葉以下に29首。1
後二条院新大納言 生没年未詳。法眼良珍女。皇女珉子内親王を産む。
宣子(従三位宣子)(?-1321)藤原為顕女。二条兼基妾、道平母。新後撰以下に33首。
平時夏母 伝未詳。(時夏は北条(名越)長頼男あるいは長頼息備前守宗長男。1首) 
万秋門院二条 伝未詳。
寿成門院備前 生没年・世系未詳。(※寿成門院(1302-62)は後二条天皇皇女)
藤原宗郷女 伝未詳。 
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