散 歩 B L O G

歩くことが唯一の趣味ですから。

大江戸線

2013-03-22 | Weblog
地下鉄大江戸線は東京都心の深い深いところを走っているから、ホーム階から改札階に上がって、さらに地上まで上がるためにエスカレーターをいくつも乗り継がなければいけない駅がよくある。そんな駅のひとつで「津波がきて浸水したら嫌だな」と、しなくてもいい空想をしながらエスカレーターで地上に向かう途中、踊り場で立ち止まっている女性に道をふさがれてしまった。



水玉のワンピースを着てバックパックを背負い、ショルダーのストラップを両手で握って顔を下に向けたまま、エスカレーターに乗ろうとしては後ずさりしている。最初の一歩が踏み出せなくて、泣きそうになりながら、口の中で何か言葉のようなものを発している。先を急ぐ人たちが彼女を押しのけるようにしてエスカレーターに乗っかり、大またで歩いて上にのぼっていく。



「みんなと同じように上に行きたいけど、みんなと同じようにできない」といったことを口ごもっているように聞こえた。それは「エスカレーターに乗りたいけど乗れない」という意味にもとれるし、何かもっと大きな枠組で「みんなと同じようにできない」ことを嘆いているようにも見えた。「どうして他の人たちは当たり前のように上を目指すのに、自分にはそれができないんだろう」「がんばって途中まで上がったけど、やっぱり無理かもしれない」という挫折感、無力感。



敗北感、焦燥感、虚無感。いつまでもエスカレーターに足を踏み出しては引っ込める、延々と続くその繰り返しは地獄の責め苦に近い。勇気をふりしぼって上にのぼっても、何も特別なことは起こらないのだから、そうまで悩んだり苦しんだり努力しなくていいかも。一瞬そんなことを思いながら、ぼくも彼女の脇をすり抜けてエスカレーターで上に運ばれていくことを選んだ。
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