散 歩 B L O G

歩くことが唯一の趣味ですから。

カサブランカ

2013-03-15 | Weblog
まだ独身で暇さえあれば海外をぶらぶらしていたころ、カサブランカのホテルの受付で声をかけられた。「アンアンのSさんですよね?」……名前だけならパスポートを見ればわかることだから、さほど恐怖を感じることもない。しかし、アンアンの編集を(当時)やっていることを異国のホテルで言い当てられるのは普通のようでも相当おかしい。危険なことに巻き込まれるのではないだろうか?



見れば、声をかけてきたのはへヴィメタルを絵に描いたようなルックスの男で、長い髪を金色に染めているわりにアゴのヒゲは黒い。日本人か? ずんぐりむっくりしていて愛嬌があるので警戒心ゆるむ。「そうですが……?」返事すると、向こうもホッとした顔で「ぼくブルータスのTです」と自己紹介した。先に言ってくれよ、同じ会社の仲間なら。しかし、Tという名で思い出すのは黒髪を七三に分けた新入社員当時の姿。たしか、宣伝部に配属されたような……? そのあたりのこと尋ねると、異動でブルータスに移ってから髪を伸ばしてゴールドに染めたらしい。そういうことも、あるだろうさ。



せっかくだから一緒にカサブランカを歩こうということになった。Tと名乗るへヴィメタル(当時)は、世界のマクドナルドのトレーに敷かれたペーパーを趣味で集めているとかで、カサブランカのも手に入れたと熱く語ってくれた。じゃあ、もうマクドナルドはいいよね。どこかで何か食べようか? でもラマダン(イスラム教の断食月)だから、お店どこも開いてないね。なんて話していると、親切そうな地元男性が近づいてきた。「大丈夫だよ。この国はホスピタリティ溢れているから、ラマダンでも営業しているレストランに案内しよう。心配ないさ!」……ちょっと怪しい。



一人だったら絶対ついてかないけど、二人いるから大丈夫かも。怪しい男が案内してくれたレストランは、ごく普通に営業していて、ごく普通にランチをとることができた。怪しい男にも勧めてみると、「ラマダンなので自分は日が沈むまで何も食べないし、何も飲まない。タバコも吸わない気にするな」と愛想よく、最初のうちは受け答えしてくれた。しかし、食べ終わる頃になると急に不機嫌になり、怒鳴り散らすようになった。「自分は食べてもいないし飲んでもいないのに、目の前でうまそうにメシを食って見せるとは一体なんのつもりだ! どうしてくれる! 金を寄こせ!」……なんだその言いがかり。刃物を出されたり仲間を呼ばれたら困るけど、そんな手口でもないようなので、レストランの支払いを普通にすませて店を出た。男がいつまでも食い下がるので、日頃からタバコを吸うというへヴィメタルの会社仲間がマルボロかなにか一箱あげたら、やっと立ち去った。たいしたホスピタリティもあるもんだと笑って、それからまた散歩したような気がする。
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