特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

女もつらいよ

2015-11-30 08:47:33 | 特殊清掃
「ウァッ!!!!!!!」
衝撃的な光景に思わず悲鳴を上げた私。
その背中には悪寒が走り、同時に、その身体には裸のまま寒風に吹かれたかのような鳥肌が立った。

私の目に飛び込んできたのは猫の腹部。
しかも、フツーの状態ではなく、薄い腹の皮と内臓はとっくにウジが喰い尽くし、そこに無数のウジがひしめき合っている状態のもの。
その気持ち悪さといったら言葉にならないくらい。
あえて言うと、「イカ飯状態」というか、「いなり寿司風」というか・・・・肋骨の丼に大盛のウジライスが盛られたような感じ。
それは、実際に音は発していなかったもののグツグツといったような異音が聞えているような錯覚を覚えるくらい迫力のある光景。
これには、さすがの特掃隊長も仰天!し、彼らが飛び掛ってくるわけでもないのに、思わず後ずさり。
ただ、私が驚いたのと同じように、ウジ達も突然の環境変異に仰天したのだろう、身体を寄せ合って球状に固まっていたところから蜘蛛の子を散らすように(蜘蛛よりはるかにノロマだが)一匹一匹が離脱。
「捕まってたまるか!」と思ったがどうか知る由もないが、何千匹?何万匹?すべてのウジが一斉に逃走をはじめた。

私に驚いているヒマはなかった。
目の前のウジは次々と逃亡を図っている。
もう「触りたくない」「気持ち悪い」などと甘えたことを言ってられる状況ではない。
一刻も早く対処しないと、多くのウジを逃してしまう。
それがわかっていても、あまりのグロテスクさに、頭は混乱し、なかなかすべきことが決断できず。
私は、肝心なことが何もできず、右往左往するばかりだった。

いくら相手がノロマでも、時間を与えれば逃げきってしまう。
しかも、地面は砂利と雑草。
彼らが隠れる場所はいくらでもあった。
更に、私一人に対してウジは無数。
追いかけるにも限界があり、この勝負、どこからどうみても私の分の方が悪かった。

完勝を諦めた私は、とりあえずウジ城の本丸である猫死骸を攻略することに。
しかし、もう、道具を使うほどの時間的余裕はない。
「マジかよぉ・・・トホホ・・・」
状況的に手作業は免れないことを覚悟した私は、脳の思考を緊急停止。
自分の手を機械に変えて猫死骸を持ち上げ、猫腹に篭城していたウジ団もろとも袋に放り込んだ。


ここで、豆知識を二つ・・・

①「知って得しない豆知識」
ウジって、結構な筋肉質。
指でつまんだウジは強く抵抗するため、固い弾力を感じる。
これが、何とも気持ち悪い。
また、もともと体温をもっているのか、仲間と身体が擦れることで熱が生じるのか、数がまとまると熱を感じる。
そして、それ手に伝わってくると、何ともあたたかい気持ちになる・・・わけはなく、不気味さが倍増して背筋に悪寒が走るのである。

②「知って損する豆知識」
その昔、遺体処置をしていたときのこと。
しっかり閉じられた遺体の瞼がムズムズと動いていた。
イヤ~な予感がした私は、ゆっくり瞼を開けてみた。
すると、まるでホラー映画のように、そこにはウジがビッシリ・・・
「図々しい」というか「遠慮がない」というか・・・ウジって、すこぶるたくましいヤツなのである。


話を戻そう・・・
結局、私は、多くのウジを捕獲したが、同時に多くのウジの逃亡もゆるしてしまった。
砂利の隙間や雑草の陰に隠れたウジは、もう、追いようがなかった。
ただ、幸いなことに、そこは屋外。
屋内だと、数日後にハエが大量発生して大騒ぎになる可能性が高いのだが、屋外ならその心配はない。
ハエになればどこかへ飛んでいってくれるだろうし、そのまま死んでも土に還ってくれるはずだから。

とても「無事に」とは言えなかったが、何とか作業を終えた私はホッと一息。
そして、作業中のことを思いだし一笑い。
また、こんな珍作業が自分の仕事であることにもう一笑い。
悲鳴を上げながらでも仕事をやり遂げる自分というヤツに、何だか愛着が湧いてきて、クスクスと笑ったのだった。


この仕事がそうだったように、
「男はつらいよな・・・」
と、時々、思うことがある。
だけど、男であることがイヤになることはない。
男と女、選べるとしても、私は、やはり男のほうがいい。
男にも女にも、それぞれ敵した役割というものがあるのだろうけど、女性のほうが面倒臭い役割を背負っているように見え、何かと大変そうだから。

例えば、出産。
一年近くも子供をお腹に抱えて大変な思いをした挙句、出産時は命がけだったりする。
その後の育児もまた一苦労。
人間を育てるという難題は試行錯誤の連続で、幸せも大きければストレスも大きそう。
日常の家事も重労働。
毎日毎日同じことの繰り返しで、褒めてくれる人も感謝してくれる人もおらず、報酬らしい報酬が得られるわけでもない。
化粧、美容、服飾だって相当の金と手間(時間)がかかるはず(楽しい部分もあると思うけど)。
生理やトイレ等、身体にも男にはない難しさがあるし。
また、社会においては男性と公平・平等に扱われないことも少なくないだろうし、外見や年齢で差別的な扱いをされるケースは男性よりはるかに多そう。
その上で、男と同じように外で働かなければならない状況に置かれることもフツーにある。
育児や家事をこなすだけでも大仕事なのに、外の仕事と両立させるなんて、
「女もつらいよな・・・」
と、私は、尊敬に近い同情心を抱くのである。

とにもかくにも、「働く」ということは、男性にとっても女性にとってもツラいことが多い。
好きなことをやって食べていける人は、ごく一握りで、多くの人は、日々、仕事にツラさを感じながらも、それに耐えている。
少しでも豊かな暮しを手に入れるため、少しでも快適な生活を手に入れるため、自分や家族の幸せを手に入れるため、皆が頑張って働いている。

至っていない点もたくさんあると思うけど、私も、自分なりに頑張って働いているつもり。
今日も、これから現場作業に出かけるところ。
作業内容は、老人介護施設での遺品処理。
風呂もキッチンもない一室だけだから、一般の住宅に比べたら家財の量も少ない。
だから、作業は、それほどツラいものにはならないはず。
また、明日は、高齢者住宅のトイレ掃除。
その便器は、一般の人が見れば「清掃不可能」と思われるようなモノ凄い汚れ方をしているのだが、私にとってはミドル級。
だから、たいしてツラい作業にならないはずで、ちょっと根性をだせばきれいにできると思っている。
私の仕事は、季節的に、また一時的にスペシャルハードな局面に晒されることはあるけど、自己裁量で調節できることも多いし、私は、もう熟練工みたいになっているから、全体を均すと世間が思うほどハードではない。
でも、ツラいときは凄くツラいし、全体を通じたツラさもある。

私は、私服以外では、いつも作業服を着ている。
くたびれた中年男がくたびれた作業服を着ている姿は、あまりパッとしない・・・というか、かなり貧相。
洗練された知識と最新のIT機器を使いこなし、流行のスーツに身を包んでオフィス街をスマートに歩いている同年代の人を目にすると、あまりの差がありすぎて、惨めな気分になるときがある。
「自業自得」「他人は他人、自分は自分」「自分には自分の道がある」と割り切ればいいのに、そうできないときがある。

自分をツラくさせるのは自分の心・・・くだらない自己顕示欲、つまらない虚栄心、無益な怠け心などの悪性邪心。
「避けたい!逃げたい!楽したい!」
心のどこかで、常に、もう一人の自分がそう叫んでいる。
これに対抗するには理性良心を駆使するしかないのだが、これが、なかなか簡単ではない。
自分のためにならないことがわかっていても、どうしても人と比べてしまうし、人の目が気になるし、楽したがる自分を始末することもできない。

私は、弱い人間。
残念ながら、私が私である以上、これらを完全に消し去ることはできないだろう。
だから、逃げることもある、負けることもある、落ちることもある、倒れることもある、怠けることもある・・・それも仕方がない。
ただ、少しでも耐えること、少しでも戦うこと・・・立ちかえることはできる。
そう・・・その都度、理性良心に従う自分に立ちかえることができれば、それでいいのだ。

まずは、自分に意味をなさない回りに目をやらないこと。
また、ツラいことばかりに焦点を当てないこと。
そして、今に集中し、自分が手にしている幸福に目を向け、自分を磨くことに注力すること。

試練に耐えることによって人間は練られる。
自分の弱さと戦うことによって人間は鍛えられる。
そして、何度も立ちかえることによって人間が磨かれていく。
そうして養われた品性が、自分に与えられている“Lucky&Happy”をうまく心に取り込むのである。 


例によって辛気クサイ話になってしまったけど、この“二人三脚ブログ”を書くことによって、私は、今日も一日、目の前の仕事を頑張ろうという気になれている。
そして、これからもツラい仕事はたくさんあるだろうけど、汗しても汚れても、それを忘れるくらい懸命にやろうという思いが与えられているのである。




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