市の星月夜日記

織江市の短歌、エッセイ

陽だまりに身を委ねつつただあるを良しと眺めてふくらむ春辺

2022-03-11 14:10:00 | Weblog

 母の書架に「古事記及び日本書紀の研究」を見つけてびっくりし、ボチボチと読み始めて2週間。2回通読。
 それにしてもこのような高邁な学術書を、いくら長年の歴史、文学好きとはいえ、アマチュアリーダーの母が読みこなせたのだろうか。
 とはいえ、私より早く山﨑豊子に賛同し、あの多作と社会派長編小説の数々を熟読していたのも母だった。

 


 津田左右吉氏の名著は達意緻密で、皇室古代史素材の複雑さはもちろんだが、意図は全て平易に説かれ、わかりやすかった。当時こうした意見を公にするのは大変な勇気だったろう。実際に発禁処分の事件となった。

 古事記及び日本書紀の一定の記述は、歴史でなく物語であり、物語は歴史よりもかえってよく国民の思想を語る、と氏は掉尾で断言する。
 私は津田氏のこの言葉に、「源氏物語」蛍巻の、光源氏による物語論を思い浮かべた。

 骨なくも聞こえ落としてけるかな。神代より世にあることを記しおきけるななり。。。。。これら(物語)にこそ道々しくきはしきことはあらめ

 光源氏も正史よりも物語文学の方がリアルで詳細な人間性が現れると言う。もっとも、この場面の彼の台詞は、目の前にいる物語好きな若い玉鬘の機嫌をとるニュアンスもあるが、光源氏に託した、物語作者紫式部の真意を読むことができるくだりでもある。

 物語は絵空事だが、その自由さとリアリティの狭間で、優れた作品は人間性を過不足なく彫り上げる。読者が物語に求めるのは奇想天外や現実には得られない刺激だけではない。

 良い読書体験をしたと思う。

 愛と感謝。

 

 


 

 

 
 
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