海に。
竜胆の花。
笹竜胆は源氏ゆかりで、こちら鎌倉の花。紫陽花とならんで街をいろどる。
秋の花だけれど、夏からもう、あちこちにみかける。
夏の酷暑につかれた視界に、この濃い青紫は涼しさを呼ぶ。
竜胆は青紫と白、どちらも清楚。切花にして室内に活けると、つぼみのままゆっくりと褪せてゆく。
日にあたらないとはなびらが開かない。窓越しの光りでも無理みたいだ。
ものいいたげな……言葉閉ざしてという印象の。
目を伏せて、あるいは言いよどんで……そんな間合いのニュアンスで言わず語らず気配を伝えた、のは源氏物語の女性たちなのだけれど、竜胆によそへられた女君はいなかった。
秋深い山路で、目の醒めるような竜胆に出会う……そんな季節はまだ先のこと。