いつしか、夜明けは、むかいの山を覆う森からたちのぼるひぐらしの声と、ひとつふたつの烏の声ではじまるようになった。
置きぬけのころ、周囲はまだ夜の名残の紺青深く、それでもぽつんぽつんといくつかの家の窓明かりもみえる。
自分のことはさておいて、こんな早暁から起き出すひともいるのかと思う。それともこれからねむるのかしら。
ときには西の空に明けの月がのこるくらさも、目に見えるはやさでうすらいでゆき、水色、浅葱、薄萌黄からしののめにと変幻してゆく。
やがてひぐらしも消えて、ジー…という地を這うような虫の声にかわる。あれも蝉なのかな?
今朝、窓をあけて風を迎え、いつもの朝の本をひらいたら、はらはら、というのか、ふつふつ、ぽたぽた……というのか、形容のむつかしい音が聞こえ、小雨でも振り出したのかと思った。
雨音みたいだったから。外は不透明な湿度こもる灰色にあかるんでいた。
でも、それは雨音ではなくって、ドラセナの葉っぱが、触れ合う気配だった。
すこし乾いた葉ずれの響き。風が吹いても、こんな音はあんまり聴かないなあ、と思って近寄ると、向かいの山辺にほの白く朝霧がたちこめていた。
ああ、このせいか……。
こまかな水の粒子が大気のそよぎにまぎれて、この音粒になったのかも。
ねむかった耳が、ほんのかすかな、普段と違う音の違和で眼が覚めた、という印象。
音のしずくが鼓膜にしたたって。
葉っぱも大気を呼吸しているのね……。
霧の音。たぶん、海霧が這い上がってきたんだろう。
今日も、できるだけのことをしましょう。
淡々とすぎてゆく休日。