蜂屋柿
あんぽ柿とは、この地方の特産品で干し柿のことです。
鮮やかなオレンジ色で、中身はトロリと甘く、天然の和菓子といったところです。
現在は1個250円~300円で求めることができます。
チエちゃん家には、このあんぽ柿にする「蜂屋柿」という渋柿の木が何本かありました。そして、干し柿を作り、出荷していました。
まず、柿の実を枝の部分がT字型になるようにもぎ取ります。これはあとで、実を縄に挟み込むためです。
次に、柿の皮をむきます。へたの部分の周りをぐるりと1まわり包丁でむきます。そのあと、皮むき器(ピーラー)を使い、へたの方から実の先へ向かって、シュッ、シュッとむいていきます。おばあちゃんとお母さんのその作業の速さといったら、数秒のうちに1個をむいてしまいます。
むきおわった柿の実を縄紐の縄目に挟んでいきます。1本に15個~20個ぐらいつけます。最後に縄紐を縛って輪にし、それを軒下などに吊るして天日干しにします。
ただし、天日干しにする前にもう一手間をかけます。
それは、柿の実を硫黄で薫蒸するのです。チエちゃん家ではテント状の幌のような物でこの作業をしていました。こうすると、鮮やかなオレンジ色が保たれ、黒茶色に変色しません。自家用にする時はこの手間を省きます。チエちゃんは、この黒茶色の干し柿の方が噛みごたえがあって好きでした。
ところで、この地方では、たまたま収穫し忘れた柿の実がそのまま枝の先で完熟したものを〝あんぽんたん〟と呼んでいます。これはこれで、渋が抜け、トロトロとして美味(おばあちゃんの大好物だった)なのですが、どうしてこの名が付いたのでしょうか。あんぽんたんとは、「阿呆」「ばか」という意味です。
お友達同士、どういうわけか言い争いのケンカになったときなど、「あっかんべ~」や「おまえの母さん、出ベソ!」と同様に、「あんぽんたんのつるし柿~!」と相手に侮辱の言葉を投げつけていました。
おまえは阿呆だということを、ただの語呂合わせで言ったものなのかどうなのか謎です。