朝から霧雨に包まれている。
谷沿いを尾根に向かって、水蒸気の集まりがゆっくりと昇っている。重力に縛られない羽衣の如く。
山の緑を半透過させながら移り行く濃淡は、いつまでも見飽きない。
雨の密度が濃い稜線は、水墨画のような二階調のグラデーションに包まれている。
モノトーンな世界は、やがてこちらにも降りてくるのだろうか。
雨の朝の感傷は、湿潤の国……日本人の感覚か、単なる個人的なメランコリックな感情か。
今日は七夕。
思い返せば、七夕にはよく雨が降っている気がする。
天帝も一年に一度しか会わさない娘夫婦の逢瀬の日を、雨の多い季節に設定するとは惨い仕打ち。
しかも今年は台風まで来ている。お二方とも憂鬱なのでは。
小生の七夕といえば……、マーラーの日。
霧雨の山の中、静かにかの人の誕生日を祝おう。
今日の仕事場はチクルスで決定。
愛と死へのアンビバレンスな音楽。
嵐の前の静けさには似つかわしいだろう。