掛井酒店

純米酒(日本酒)の話題を中心に、ドイツビールやワインなどの入荷情報、日々の出来事を発信します。

竹鶴蔵見学19BY・もと編

2008-02-16 15:40:38 | 出来事
杜氏の洗い物も終わり早速、「生もと」巣窟の「もと場(もと室)」に案内して頂きました。
前回のブログでご紹介した通り、もと場には3本の「生もと」と、もう3本の「速醸もと」(酒母)が在りました。19BY(今年度醸造)の「生もと」仕込みは合計9本と言う事で、その打明けは、3本はすでに上槽されお酒になっていまして、もう3本は仕込み中で(醪の段階)、そして、この「もと室」に在る(酒母)状態のものが3本(下写真:ブルーのシートで包んであるもの)です。

その「生もと」(精米歩合:70% 原料米:雄町)の3本はそれぞれ、状態が違っています。
一番奥(向かって右)タンクは、酵母が涌いて数日経ったもの(酵母添加をしない自然に涌きいた無添加酵母)
一番手前(向かって左)は、まさに昨日酵母が涌き付いたばかり。乳酸が登場し、受入れ態勢が整った所に、(酵母添加もしていないのに)自然に酵母が涌くこの瞬間、これが石川杜氏が仰るところのエロスの瞬間・・・
真ん中のタンクは、温味取り(ぬくみとり)という聞くも無残な・・語るにおどろおどろしい・・・タイガーマスクで言えば「虎の穴」のような恐ろしい作業の最中なのでした
平たく言えば、酵母を鍛えるというか、大量虐殺をする作業です。涌き付いた「生もと」のタンクの中に暖気樽(だきだる)という、湯たんぽの親分のようなものを入れ、品温を30℃位まで上げたところで、暖気樽を抜き、その温度態でしばらく(7~8時間位)保温し、酵母を鍛えます。(温味取りの最中、本当は温度が下がるので、酒母タンクの中は見せていただけないのですが、特別に一瞬お顔を拝見できました。:下写真)この温度の中で耐え切れない酵母は淘汰され、残った酵母もこの温度態で鍛え上げられ、強固な酵母に成って行きます。酵母の数は激減しますが、元気なパワフルある意味凶暴な生命力のある酵母だけが、残ります。まさに、少数精鋭部隊・・これを達也氏は「グリーンベレー」と表現されました。中東の何処かの民間人を即席で入隊させた数合わせの部隊とは、対極にある強固部隊なのです。
また興味深い話の中に、酵母を余り鍛へずに「酒母(もと)」を造ると、(中東の何処かの部隊)酵母は淘汰されず数だけは多いものの、パワーのない生命力に乏しい為、醪に成った時に死滅してしまうものが多くなるという事です。そこで起こる障害として先ずは、発酵か活発に起こらない(切れない)という事・もう一つは醪の中で死滅した酵母により変なアミノ酸が出たり、もったりした酒に成ったりという事があるそうなのです。(お酒のデーターでアミノ酸が高いからといって必ずしもそういったことが原因とは限らず、寧ろ好いアミノ酸も当然存在し、それは違う原因で高くなり歓迎すべき部分です。)
という事は、弱い酵母(兵隊)ならいない方が、酒の為ということでしょう・・・。ですから少数精鋭というのは理にかなっています。
達也氏が造る酒は、活発にアルコール発酵をし、米を溶かしているにも拘らず味にもたつきもなく、それどころか酒質にキレがあり、米の旨味が十分感じられ、後口もとても爽やかです。これは「生もと」は勿論「速醸」もこうして酒母を鍛え上げているのも大きな要因の一つだと思います。
続けて彼は、言いました。「生もと」が酒造りの基本であり、「生もと」の原理から「速醸」をの考える方が道理は解り易い。逆に「速醸」を中心に「生もと」を考えると、「この数値だと危険だ・これはしてはいけない・この作業は無駄だ・・・」などといわれてしまう。そういう数値だの酒造りではなく、もっと違うものがそこに在る「生もと」それほど確立された、自然の理にかなった素晴らしい醸造技術なんです。と・・・・。

次は、仕込み蔵の方にご案内を・・・・・。
仕込み蔵には、さっき申し上げた通り3本のタンクが在りました・・・・。醪編は次回また報告いたします。