「オーディオショップ・グレン」に一時的に滞留しているEnsembleのスピーカー、プリアンプそしてパワーアンプにより構成されたオーディオシステムの音を1時間ほど聴かせてもらった。
送り出しは、常設機器であるNAGRA CDCである。メカごと前にせり出してくるCDCにセットされて、Ensemble PA-1から穏やかに放たれた曲はショパンのノクターン(夜想曲)であった。アルトゥール・ルービンシュタインのピアノ演奏である。
ショパンのノクターンは全部で21曲ある。ショパンはノクターンを20歳から晩年に至るまでほぼ均等に作曲している。
最も有名なのが第2番であるが、私は好きなのは第1番である。第1番と第2番そして第20番の3曲を聴かせてもらった。ノクターンの語源はラテン語で夜をさす「NOX」のようである。
実に理にかなった選曲のような気がした。マーラーの交響曲を最初に聴くべきシステムではない。もちろんブルックナーも・・・
このシステムで聴くノクターンは、じわじわと心の襞に染み込んでくる。印象的な映画「戦場のピアニスト」でもテーマ曲として使われていたノクターンの第20番を聴いている時には、映画の幾つかのシーンが脳内スクリーンに映し出された。
次にかかったのはシューベルトであった。シューベルトは「歌曲王」と称されるように歌曲が有名であるが、ヴァイオリンのための曲にも隠れた名曲が多い。
その一つである「ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 ハ長調 D938」がかかった。ヴァイオリンはイザベル・ファウスト、ピアノ伴奏はアレクサンドル・メルニコフ。
欧米各国で目覚しい活躍ぶりを見せ、現代において最も注目されるヴァイオリニストの一人であるイザベル・ファウストの演奏は、きりりと冴えた持ち味を活かしながらも流麗にして華麗なものである。
我が家ではヨハンナ・マルツィの演奏によるレコードで聴くことが圧倒的に多い曲である。1955年の11月に録音されたレコードであるので当然モノラルであるが、何度聴いても聴き飽きることのない名演である。
Ensemble PA-1はどちらかというとクラシック向きのスピーカーかもしれない。ヨーロッパ的な、端正で陰影感のある音色である。
そして「少しへ編成の大きなものも聴いてみますか・・・」と最後に選択されたのが、ドヴォルザークのチェロ協奏曲であった。
チェロはジャクリーヌ・デュ・プレ。ダニエル・バレンボイムの指揮によるシカゴ交響楽団との協演である。1970年11月の録音である。
デュ・プレの演奏は、壮大なスケール感と伸びやかな歌いまわしが聴くものを否応なく惹きつける。
そのジャケットには、この数年後に訪れる悲運を予期していなかったはずの彼女の屈託ない微笑が印象的な写真が使われている。
その第1楽章を聴き終えた。この演奏を聴くと、その悲劇性を帯びた曲調ゆえか、デュ・プレをその後襲った悲劇のことがついつい頭に浮かぶ。「もしかして、彼女は悪魔と契約し、天才的な演奏能力を得ることの代償に不治の病を引き受けたのかもしれないと・・・」と考えてしまう。
「どれも素晴らしいですね・・・このシステム、我が家に欲しいくらいです・・・もちろんスペースがないので置きようがありませんが・・・それに売却先はもう決まっているんですよね・・・ところでスピーカーとプリアンプ、そしてパワーアンプの一式・・・幾らで売れたんですか・・・?」
「220万円・・・」小暮さんはにこやかな表情で言い放った。ついさっきまで夢の世界にいたが、その値段を聞いて、現実世界に否応なく引き戻されたような気がした。
送り出しは、常設機器であるNAGRA CDCである。メカごと前にせり出してくるCDCにセットされて、Ensemble PA-1から穏やかに放たれた曲はショパンのノクターン(夜想曲)であった。アルトゥール・ルービンシュタインのピアノ演奏である。
ショパンのノクターンは全部で21曲ある。ショパンはノクターンを20歳から晩年に至るまでほぼ均等に作曲している。
最も有名なのが第2番であるが、私は好きなのは第1番である。第1番と第2番そして第20番の3曲を聴かせてもらった。ノクターンの語源はラテン語で夜をさす「NOX」のようである。
実に理にかなった選曲のような気がした。マーラーの交響曲を最初に聴くべきシステムではない。もちろんブルックナーも・・・
このシステムで聴くノクターンは、じわじわと心の襞に染み込んでくる。印象的な映画「戦場のピアニスト」でもテーマ曲として使われていたノクターンの第20番を聴いている時には、映画の幾つかのシーンが脳内スクリーンに映し出された。
次にかかったのはシューベルトであった。シューベルトは「歌曲王」と称されるように歌曲が有名であるが、ヴァイオリンのための曲にも隠れた名曲が多い。
その一つである「ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 ハ長調 D938」がかかった。ヴァイオリンはイザベル・ファウスト、ピアノ伴奏はアレクサンドル・メルニコフ。
欧米各国で目覚しい活躍ぶりを見せ、現代において最も注目されるヴァイオリニストの一人であるイザベル・ファウストの演奏は、きりりと冴えた持ち味を活かしながらも流麗にして華麗なものである。
我が家ではヨハンナ・マルツィの演奏によるレコードで聴くことが圧倒的に多い曲である。1955年の11月に録音されたレコードであるので当然モノラルであるが、何度聴いても聴き飽きることのない名演である。
Ensemble PA-1はどちらかというとクラシック向きのスピーカーかもしれない。ヨーロッパ的な、端正で陰影感のある音色である。
そして「少しへ編成の大きなものも聴いてみますか・・・」と最後に選択されたのが、ドヴォルザークのチェロ協奏曲であった。
チェロはジャクリーヌ・デュ・プレ。ダニエル・バレンボイムの指揮によるシカゴ交響楽団との協演である。1970年11月の録音である。
デュ・プレの演奏は、壮大なスケール感と伸びやかな歌いまわしが聴くものを否応なく惹きつける。
そのジャケットには、この数年後に訪れる悲運を予期していなかったはずの彼女の屈託ない微笑が印象的な写真が使われている。
その第1楽章を聴き終えた。この演奏を聴くと、その悲劇性を帯びた曲調ゆえか、デュ・プレをその後襲った悲劇のことがついつい頭に浮かぶ。「もしかして、彼女は悪魔と契約し、天才的な演奏能力を得ることの代償に不治の病を引き受けたのかもしれないと・・・」と考えてしまう。
「どれも素晴らしいですね・・・このシステム、我が家に欲しいくらいです・・・もちろんスペースがないので置きようがありませんが・・・それに売却先はもう決まっているんですよね・・・ところでスピーカーとプリアンプ、そしてパワーアンプの一式・・・幾らで売れたんですか・・・?」
「220万円・・・」小暮さんはにこやかな表情で言い放った。ついさっきまで夢の世界にいたが、その値段を聞いて、現実世界に否応なく引き戻されたような気がした。