最初に食肉独占の有り様を書いて、次の医療がこれで4回目の最終回です。前回に引き続いて「医療貧困の構造」の2回目。
【 凄まじい米医療制度 その4 医療貧困の構造② 文科系
はじめに、この本(堤未果著作「貧困大国アメリカ」)この章の冒頭と、終わりに近いある部分とを抜粋する。ここに、こういう独占(価格など)の構造がまとめられているからだ。重ねて強調するが、TPPは医薬品を含む医療の比重がとても大きい。人を破産させるまで、人生に文字通り必要な物は必要だからである。穀物、食肉も同じ理屈だ。そういうもので今や、金融独占が進んでいくのだ。
『80年代以降、新自由主義の流れが主流になるにつれて、アメリカの公的医療も徐々に縮小されていった。・・・そのため政府は「自己責任」という言葉の下に国民の自己負担率を拡大させ、「自由診療」という保険外診療を増やしていった。自己負担が増えて医療費が家計を圧迫し始めると、民間の医療保険に入る国民が増えていき、保険会社の市場は拡大して利益は上昇していく。保険外診療範囲が拡大したことで製薬会社や医療機器の会社も儲かり始め、医療改革は大企業を潤わせ経済を活性化するという政府の目的にそっていたかのようにみえた』(64頁)
『アメリカ医療制度の最大の問題点は、これまでも見てきたように増加する無保険者の存在だ。医療保険未加入者の数は2007年の時点で4,700万人、この数は毎年増え続け、2010年までには5,200万人を超えると予想されている。無保険者が増え続ける最も大きな理由は、市場原理導入の結果、医療保険が低リスク者用低額保険と病人用高額保険に二分されてしまったことだ。ウォールストリートの投資分析家たちは、医療損失が85%を超えると配当が期待できないとし、投資対象としての保険会社に対して医療損失が80%以下であることを期待する。投資家たちから見離され株価が低下することを最も恐れる保険会社は、医療損失を減らすためになるべく病人を保険に加入させないようにする』(90~91頁)
これまで見た通りに、すべての病院が医療保険会社にその死命を握られて、世界一巨大な病院系列は自身も医療保険部門を持ち、その保険部門とともに栄えてきたのだが、その医療保険会社が実はニューヨークの投資家たちに支配されているに等しいのである。世界的不景気のため日本の4大銀行でさえ「国債以外には、良い投資先がない」と嘆く今、独占的産業は投資家にとっておんぶに抱っこしてでも育て上げたい部門だろう。それが人々の生活必需品産業ならば、なおさらのことである。こうしてちょっと前までは、低所得者住宅(サブプライム対象住宅)バブルが、その証券化商品販売含みで、ギリシャスペインなどでもと世界的に無理矢理創出されていったのだったが、昔から今でも、穀物、畜産、石油、そして医療。ここで、前回までにこう述べてきたことを思い出していただきたい。
『全米294市中166市それぞれに、50%以上のシェアを誇る(民間)医療保険会社が存在する』
世界の人々の生活必需品産業を世界独占的に握る。そうすれば、その品質(低所得者用の安い粗悪品生産も含む。昔の20数倍も重い鶏とか)も値段も自由自在である。それがニューヨーク投資家たちの夢の世界なのである。TPPのようにそんな活動をいったん許したら、これを制御できる国家など多分存在しない。丁度アメリカ大統領でさえがこれに対して何も出来ず、膨大かつ極貧の無保険被扶助者だけを押しつけられたように。これを規制することが可能なのはおそらく、将来の国連だけだろう。まともな穀物や医療の世界から貧者を追い出すような動きは、戦争違法化の流れを国連の前身が創り出したように、いつかどこかで必ず阻止出来る日が来ると確信する。
『しかし、(アメリカの)製薬、保険など産業界は「十分な成果が得られないのに妥結を急ぐべきではない」などと主張。・・・フロマン代表は交渉で強硬姿勢をとり続けるしかなくなった』
これは、TPP交渉越年をめぐる本日(13年12月11日)の中日新聞3面の半分を使った報道の重要な一節である。世界中の命が、アメリカのように扱われようになるか否かという問題である。病気をギリギリまで我慢してから、救急車で病院に担ぎ込まれる無保険貧者たちの群れ! 】