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随筆  セイちゃん  文科系

2023年07月25日 00時08分50秒 | 文芸作品
 夜中の二時ごろだったか、目覚めた彼がベッド右手の下を見ると、やはり……。小学三年生になった男孫・セイちゃんが背中を丸めて寝息を立てている。急に長くなった脚を夏布団から大きくはみ出して。彼が寝る時に敷いておいた薄くて小っちゃな夏布団に予想通りセイちゃんが移って来ている。彼の家に来て「今日は泊まる」とママに電話をしてから、下のリビングに連れあいが敷いた布団で「ゲゲゲの鬼太郎」のDVDをみながら寝ていたはずが、この二階に上がって来て、彼の隣で寝入っているというわけだ。
〈背が急に伸びたんだなー。顔もちょっと大人びてきて、この子は六年生ころには大人の身体になるだろう、そんなタイプだ………〉

 孫なるものについて、昔の彼はこう豪語していた。「よくテレビなどにあるように、孫が我が子よりも可愛いなどと、俺はけっしてならんだろう」。男と女の二人の我が子とは、それだけ懸命に付き合ってきた彼だった。自転車や竹馬、水泳、キャッチボールに走り方まで、そして得意な音楽を活かしたピアノ練習にも長く付き合ってきたのである。それが今度は女と男の二人の孫には、母である娘の要請も多くなって、ほとんどをやってきた。今の彼には子育ての昔よりもずっと時間があるし、娘が彼の特技を知り抜いているから、注文も多くなる。やれ、運動会前の走り方訓練。水泳教室の昇級試験前調整。保育園や学童保育のキャンプにも付いて来いなどなどと。これらがさらに、二年ほど前に娘夫婦が離婚してからは急に増えてきた。このごろ特に付き合わされるのが、キャッチボール。つい先日も玄関のベルが鳴るので出てみたら、微笑みいっぱいのセイちゃんがグローブを持って立っている。最近よくあることだが、何か用事があると新居から一・五キロ程のこの暑い中を歩いてやって来るのだ。こんな熱意には、彼が応えない訳はない。今のセイちゃんが捕れる範囲で緩急高低二百球を投げ、それを投げ返させることになった。数字に強いセイちゃんは、球数にも時間などにも、厳しいのである。これで、今度の学校有志の休日ソフトの会練習日には、急に上手くなった姿を見せられることになった。

 また別の日、彼の家でビー玉転がし落とし用のロゴのお城を二人で作っていた時のこと。姉の中一女子が脇から「そんなの、どこが面白いの?」、野次を入れて来た。対してセイちゃん、「姉ちゃん、僕みたいに上手くできないんだよね! それに、男は男同士だもんねー」。この一瞬彼は緩やかに思い出した。先日セイちゃんがこう言った時のことを。「爺ちゃんは僕の父さんだよね」。その時の彼はちょっと考えて、こう応えたものだ。「セイちゃんの父さんは、ちゃんと居るんだよ。土曜日にはよく、一時間かけて父さんの実家に泊まりに行ってるでしょ?」。セイちゃんはきっと、母を姉にとられたように感じる時が多いのかも知れない。そしてそれは、女同士だから仕方ないとよく思って来た……?  
 そして先の日曜日、彼のギター教室発表会に連れあいと娘家族の四人が凄く少ない聴衆の中で目立っていたその夕方、彼の家に突然の電話、セイちゃんから初めての注文が入った。
「今日、僕の家に泊まってくれる? 明日は休日だからいいでしょ?」
 と、またこの夜も、彼のベッドの下に小っちゃな布団を持ってきて、身体を丸めて寝るのだろう。セイちゃんに大事な友だちができる年頃までしばしのこの幸せ、大事にしたい。
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