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ある書評、「日本貧困化、ある結末」  文科系 

2022年08月05日 17時32分10秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
 

 団塊世代(1947~49年生まれを中心とした世代)は、ちょっと周り同世代を見回せば、孫がいない家が多いと分かる。理由はそれぞれ色々だろうが、共通して流れる特大理由が一つ、団塊2世が同時に就職氷河世代に当たるのだ。この就職氷河時代とは、1990~1年から尾を引いた日本住宅バブル破裂、1997年のアジア通貨危機から生み出されたものである。住宅バブル破裂は、ここまでの狂乱地価をあおった政策の結末。アジア通貨危機はグローバル金融資本が人為的に起こした国際的搾取。後にサブプライムバブル破裂を総括した国連委員会総括書の長だったノーベル賞経済学者スティグリッツがそう述べている。ちなみに、サブプライムバブル破裂・リーマンショックの国連総括書については、その委員会出発から最後まで、これにアメリカが猛烈に反対してきたという事実を付け加えておく。今のアメリカは、国連無視がとても多いのだ。

 孫なし世代の急増は、こんな事実とも呼応する。50歳まで一度も結婚できなかった、あるいはしなかった男性が4人に1人に近づき、日本政府は、この原因論議を妨げてきた分かるのだ。この少子化の背景を描いた著作「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか」を以下要約する。

 

 山田昌弘・中央大学文学部教授(家族社会学)の光文社2020年刊行著作の問題意識は、こういうものだ。合計特殊出生率1・6以下の状況が30年、1・5以下が25年続いているその原因を考えようと。そして、少子化の初期10年の段階において政府が採った欧米風対策が全くピント外れだったうえに、今はもう取り返しがつかなくなっていると証明した。

 ちなみに、合計特殊出生率とは、女性1人当たりが一生に産む平均子ども数。2・07人を上回れば人口が増加し、下回れば減る数字。1・5とか1・6とかが長く続いては・・というわけである。

 71~74年の第2次ベビーブームでちょっと持ち直したかという以外は戦後一貫して下がり続けてきたのがこの数字と示されている。90年代に入って「1・57ショック」とか「少子化社会の到来」とかの標語で国家の重大問題としてきた議論が何の役にも立たなかったという現状なのである。政府対策がどうピントが狂っていたのか。

 この少子化の最大原因として、何よりも若者の大変な貧困化から来た「未婚化」等の経済問題があるという正しい見方を、国家が少子化対策の審議会などでタブー視してきたと、この本は語っている。政府が代わりに鳴り物入りで対策を出した若者の西欧風現状分析が、①若者は1人で暮らし、②愛情があれば結婚するはずで、③相手を見つけるのは簡単であるというもの。この三つが全く現状に合っていなかったという説明が、以下である。
①日本の若者は西欧と違って、親元で暮らすパラサイトシングルが多い。地方などは特にそうだ。
②③については、何よりもこんなことを言う。男女とも、育った家庭並みの生活を望むのだが、1人の収入で子どもを大学にやれるような男性は非常に少なくなった。次いで、仕事による自己実現を求める西欧女性と違って「日本女性は仕事よりも(育った親の家庭並みの)消費生活を求めている」という現実があるなどなどと、この本は現状分析するのである。

 僕、文科系は、このブログでこう述べてきたが、それを肯定してくれるのがこの本であった。日本では今、50歳まで一度も結婚したことがない男性が4人に1人に近づいている。それは、結婚相手に選んでもらえない低収入男性が増えたからだ。
 こうなった原因はこの30年近くの日本の貧困化にあって、国民1人当たりの購買力平価GDPがわずか25年ほどで世界5位あたりから21年度世界銀行ランキングでは38位(お隣の韓国は31位である)にまで落ちたことによってもたらされた。そして、このことを原因と見ないような少子化対策ばかりを政府がやって来たとこの本も述べているのである。該当箇所に、こんな文章があった。長い引用になるが・・・・。

『私は1996年に出版した「結婚の社会学」(丸善ライブラリー)の中で「収入の低い男性は結婚相手として選ばれにくい」という現実を指摘している。・・・・・
 当時、これほど評判の悪かった指摘はなかった・・・1990年代後半のマスメディアや政府は、この事実への言及を避けていた。
 政府関係の研究会で、私がこの指摘をしたところ、政府のある高官から、「私の立場で、山田君が言ったことを言ったら、首が飛んでしまう」と言われたことがある。
 当時、大手の新聞では、私の発言の該当部分は記事にならなかった。
 ある地方公共団体に依頼され執筆したエッセーに関しては、担当課長が、削除を依頼しにわざわざ大学までやって来て、頭を下げられたこともある。
 その理由は、「収入の低い男性は結婚相手として選ばれにくい」という指摘は事実であっても差別的発言だから(たとえ報告書であっても)公で発表することはできない、それだけではなく、それを前提とした政策をとることはできない、というものである』(48~49ページ)

 少子化対策がこのようにピントがずれていては、どれだけ年月をかけても何の効果もなかったということなのである。真実の原因を国民から隠している間は、無策は当たり前だろう。

コメント
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